アースバウンド
『アースバウンド』 | ||||
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キング・クリムゾン の ライブ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 | 1972年2月11日 | 、2月26日、2月27日、3月10日|||
ジャンル | プログレッシブ・ロック | |||
時間 | ||||
レーベル | アイランド・レコード (HELP) | |||
プロデュース | ロバート・フリップ | |||
専門評論家によるレビュー | ||||
キング・クリムゾン アルバム 年表 | ||||
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『アースバウンド』(英語: Earthbound)は、1972年6月9日に発表されたキング・クリムゾンの初のライブ・アルバム。通算5作目のアルバムに相当する。
解説
[編集]背景
[編集]キング・クリムゾンは、デビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年 )を発表して一躍注目の的となったものの、発表後のアメリカ・ツアー中に脱退を決意するメンバーが続出。5名いたオリジナル・メンバーは、ロバート・フリップ(ギター、メロトロン)とピート・シンフィールド(作詞、コンセプト作り)の2名だけという状況に陥った。
フリップとシンフィールドは、既に脱退を表明したメンバーやゲストの助けを借りてセカンド・アルバム『ポセイドンのめざめ』(1970年 )を完成させた後、メル・コリンズ(サックス、フルート)、ゴードン・ハスケル(リード・ボーカル、ベース・ギター)、アンドリュー・マカロック(ドラムス)を新メンバーに迎えた[注釈 1]。さらにキース・ティペット[注釈 2]やジョン・アンダーソンらのゲストの協力も仰いで、同年12月、サード・アルバム『リザード』を発表した。ライブによって産み出される力や想像力を尊重するフリップは、1969年のアメリカ・ツアー以来となるライブ活動を行うために、アルバム発表直後にリハーサルを開始するが、その初日にハスケル、引き続いてマカロックが相次いで脱退してしまった。
フリップ、シンフィールド、コリンズは、新メンバーにイアン・ウォーレス(ドラムス)、ボズ・バレル[注釈 3](リード・ボーカル)、スティーライ・スパンのリック・ケンプ(ベース・ギター)を迎えたが、リハーサルの開始直前にケンプから加入を断る連絡が入った。またもやライブ活動を延期しなければならない状況に陥ったフリップ達は、ギターを弾けるバレルがベーシストを兼任する策を思いつき、フリップとウォーレスとが協力して彼にベース・ギターを教えることにした。その結果、フリップ(ギター、メロトロン)、バレル(リード・ボーカル、ベース・ギター)、コリンズ(サックス、フルート、メロトロン)、ウォーレス(ドラムス、バック・ボーカル)、シンフィールド(FOH・サウンド・エンジニアリング、VCS3・シンセサイザー、照明)の顔ぶれでライブ活動を開始。1971年4月 にフランクフルトのズーム・クラブで4回のコンサート[1]、5月から10月末までイギリス・ツアー[2]、11月から約1か月間のアメリカ・カナダ・ツアー[3]を行い、7月からはライブ活動と並行して新作アルバム『アイランズ』を制作した。しかし『アイランズ』のリリースから間もない12月、シンフィールドがフリップと対立して解雇された。
残った4名のうち、フリップと、ロック・ミュージシャンらしく根底に感情を解放していく音作りへの指向があったコリンズ、ウォーレス、バレルとでは、ミュージシャンとしての資質や求める方向性が大きく異なった。バンドとしての一体感は最初からかなり希薄であったが、ライブ活動を重ねるうちに両者の溝はますます深まっていった。シンフィールドが去った後、1972年[4]、解散が決まった。このラインナップは2月から契約履行の為にアメリカ・ツアーを始め、4月1日のアラバマ州バーミングハムでのコンサートをもって解散した。3人はアレクシス・コーナーと意気投合して、アメリカに残って新しいバンド『スネイプ』を結成。フリップはイギリスに帰国してキング・クリムゾンの新メンバーを集めると同時に、契約履行の為に本作を編集した。
の年明けに新作のためのリハーサルが行われた際、コリンズが持参した自作をフリップが演奏してみようとさえしなかったことで彼と3人との対立は決定的となり内容
[編集]本作は、解散決定後の1972年のアメリカ・ツアーをカセット・レコーダーで録音した音源を用いており、劣悪な音質で知られる。ここで鮮明になるのはフリップとウォーレスやバレルとの資質の根本的な違いであろう。構築性とインプロヴィゼーションが複雑な絡まり合いを繰り返しながら変幻多様な音空間を創出する、というフリップの音楽には、このリズム・セクションは明らかに合わなかった[5]。フリップは、R&Bの即興演奏を繰り広げる3人と自分との間の亀裂があからさまに見える[注釈 4]本作を、彼等との険悪な人間関係を思い出させる記録としてずっと嫌っていたであろうと思われるが、本作を編集して3人の反対を押し切ってリリースさせたのは彼だった[6]。
イギリスのアイランド・レコードは本作を廉価盤シリーズであるHELP[注釈 5]に入れ、このシリーズの第6番目のアルバムを意味する”HELP 6”の商品番号を付けて1972年6月に発売した。一方、アメリカのアトランティック・レコードは音質を理由に本作の発売を拒否した[7]。
フリップは長年、本作のCD化を許可しなかったが、2002年 に”30th Anniversary Edition”と銘打ったCDの発売に同意した[注釈 6]。
2017年11月[8]。CDには3曲が追加され、DVDには7曲が追加されたハイレゾ音源の他、コロラド州のサミット・スタジオでのレコーディング[注釈 7]や、2002年に発表された『レディース・オブ・ザ・ロード』に収録された'Schizoid Men 1-11'などのボーナス音源が収録されている[注釈 8]。相前後して、同じアメリカ・ツアーの音源を大量に収録したCDボックス"Sailors' Tales (1970–1972)"も発売された。
に"40th Anniversary Edition"としてCDとDVDのセットが発売された収録曲
[編集]サイド1
[編集]- 21世紀のスキッツォイド・マン – "21st Century Schizoid Man" (including "Mirrors") - Fripp, Michael Giles, Greg Lake, Ian McDonald, Peter Sinfield - 11:45
- ピオリア – "Peoria" - Boz Burrell, Mel Collins, Fripp, Ian Wallace - 7:30
- 船乗りの話 – "Sailor's Tale" (instrumental) - Fripp - 4:45
サイド2
[編集]- アースバウンド – "Earthbound" (instrumental) - Burrell, Collins, Fripp, Wallace - 6:08
- グルーン – "Groon" (instrumental) - Fripp - 15:30
レコーディング・データ
[編集]- 「21世紀のスキッツォイド・マン」「グルーン」 – 1972年2月11日デラウェア州ウィルミントン :
- 「ピオリア」 – 1972年3月10日イリノイ州ピオリア :
- 「船乗りの話」 – 1972年2月26日フロリダ州ジャクソンビル :
- 「アースバウンド」 – 1972年2月27日オーランド :フロリダ州
メンバー
[編集]- ロバート・フリップ – エレクトリック・ギター
- メル・コリンズ – サックス、メロトロン
- ボズ – ベース、リード・ヴォーカル
- イアン・ウォーレス – ドラム
- ハンター・マクドナルド – VCS3、エンジニアリング
クレジット
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Personel; | |
Robert Fripp | Electric Guitar |
Mel Collins | Alto, Tenor & Baritone Saxes; Mellotron |
Boz | Bass Guitar & Vocals |
Ian Wallace | Drums |
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40th Anniversary Edition
[編集]CD
[編集]Personnel
[編集]- Robert Fripp - Electric Guitar; Mellotron
- Mel Collins - Alto, Tenor & Baritone Saxes; Mellotron
- Boz Burrell - Bass Guitar & Vocals
- Ian Wallace - Drums
DVD
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ コリンズとハスケルは既に前作の制作に参加していた。
- ^ 前作にもゲスト参加した。
- ^ 当時のクレジットは、『ボズ』(Boz)。
- ^ 収録曲のうち、3人が作曲者に名を連ねる「ピオリア」「アースバウンド」で顕著である。
- ^ このシリーズの作品としては、エマーソン・レイク・アンド・パーマー『展覧会の絵』(1971年、HELP 1)、フリップ&イーノ『ノー・プッシーフッティング』(1973年、HELP 16)、同『イヴニング・スター』(1975年、HELP 22)などがある。
- ^ 元の音源がカセット・テープに録音されたので、音質の大幅な向上は望むべくもなかった。
- ^ 1972年のアメリカ・ツアーの途中、3月12日にラジオの公開番組の為にコロラド州デンバーのサミット・スタジオで行われた演奏を録音したもの。フリップが主宰するディシプリン・グローバル・モービルから『キング・クリムゾン・コレクターズ・クラブ CLUB9』として2000年に発売された。このCDには、解散後30年近く経ってフリップとの交流を再開したウォーレスが、フリップに依頼されて当時を回想して綴った興味深いライナーノーツが添付されていた。
- ^ オリジナルLPの「船乗りの話」は5分弱の中間部分の抜粋であったが、DVDにはドラム・ソロを含めた全編が追加で収録された。また、DVDには1972年3月10日にPeoriaで録音された「グルーン」が追加で収録されており、同じ日に録音されたオリジナルLPの「ピオリア」は、実は「グルーン」の即興演奏の前半部分であったことが明らかになった。
出典
[編集]- ^ Smith (2019), p. 113.
- ^ Smith (2019), pp. 114–119.
- ^ Smith (2019), pp. 122–124.
- ^ Smith (2019), p. 125.
- ^ 大鷹俊一「特集 キング・クリムゾン『太陽と戦慄』 今も再生産され続ける“メタル・クリムゾン”を築き上げた2年間」『レコード・コレクターズ』第31巻第12号、株式会社ミュージック・マガジン、2012年12月1日、49-54頁、JANコード 4910196371227。
- ^ 松山晋也「特集 キング・クリムゾン『レッド』 トリオ編成での限界に挑戦し、ついにたどり着いた“鋼鉄の塊”」『レコード・コレクターズ』第32巻第11号、株式会社ミュージック・マガジン、2013年11月1日、45-48頁、JANコード 4910196371135。
- ^ Smith (2019), pp. 128–129.
- ^ “DGM Live”. 2023年1月7日閲覧。
引用文献
[編集]- Smith, Sid (2019). In the Court of King Crimson: An Observation over Fifty Years. Panegyric. ISBN 978-1916153004