だいち3号
先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3) | |
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所属 | JAXA |
主製造業者 | 三菱電機株式会社 |
公式ページ | だいち3号(ALOS-3) |
国 | 日本 |
状態 | 軌道投入失敗 |
目的 | 地球観測 |
設計寿命 | 7年 |
打上げ場所 | 種子島宇宙センター |
打上げ機 | H3ロケット 試験機 |
打上げ日時 |
2023年3月7日 午前10時37分(JST) |
消滅日時 | 2023年3月7日 |
衛星バス | DS2000[1] |
本体寸法 | 5 m x 16.5 m x 3.6 m (太陽光パネル展開時) |
質量 | 約3t |
姿勢制御方式 | TDI適合型三軸駆動制御方式(TPC) [1] |
軌道要素 | |
周回対象 | 地球 |
軌道 | 太陽同期準回帰軌道 |
高度 (h) | 669km |
回帰日数 | 35日 |
サブサイクル | 3日 |
降交点通過 地方時 | 10:30 (JST) |
搭載機器 | |
広域・高分解能センサ | パンクロマチック(白黒)・マルチスペクトル(カラー) |
衛星搭載型 2波長赤外線センサ | 防衛省相乗りミッション |
光衛星間通信機器 | 通信速度: 1.8Gbps |
だいち3号(先進光学衛星、ALOS-3, Advanced Land Observing Satellite-3、エイロス3)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した地球観測衛星(光学衛星)。だいちの後継機として地図作成、地域観測、災害状況把握、資源調査などへの貢献を目的とした。
2023年(令和5年)3月7日にH3ロケット試験1号機で打ち上げられたが、ロケット2段目のエンジンに点火せず、ロケットは指令破壊され打ち上げは失敗、ペイロードのだいち3号は軌道投入されなかった[2][3][4]。計画名は先進光学衛星[5][6]。総開発費は282億円[7][8]。
概要
[編集]2011年(平成23年)4月に観測停止した先代の光学・レーダー衛星だいちの光学観測の後継機として、2015年(平成27年)5月にプロジェクト準備審査を、2016年(平成28年)3月にプロジェクト移行審査を通過した[5]。
従来の地球観測衛星より高性能化した搭載機器により、高分解能と広域観測幅と連続撮像可能時間の両立を狙って開発された。地球1周回当たりの観測面積は70km × 4,000kmとなり、既存の高分解能地球観測衛星の6機から30機分、デジタルグローブの分解能45cmの地球観測衛星「WorldView-2」の20倍の撮像面積となる。設計寿命は7年で、3年のだいち、5年のだいち2号より長寿命化される。だいち2号、だいち4号、光データ中継衛星と組み合わせて運用することで運用の効果の最大化を目指す。地上システム開発、衛星運営、データ販売はパスコが担当する[9]。
搭載機器
[編集]広域・高分解能センサ(OPS)
[編集]- パンクロマチックセンサ(白黒)
- 観測波長帯:0.52μm - 0.76μm
- 分解能:80cm(衛星直下)
- 観測幅:70km
- マルチスペクトル(カラー)
- 観測波長帯
- バンド1:0.40μm - 0.45μm、コースタル
- バンド2:0.45μm - 0.50μm、青
- バンド3:0.52μm - 0.60μm、緑
- バンド4:0.61μm - 0.69μm、赤
- バンド5:0.69μm - 0.74μm、レッドエッジ
- バンド6:0.76μm - 0.89μm、近赤外
- 分解能:3.2m(衛星直下)
- 観測波長帯
- ミッションデータ発生レート:約4Gbps
観測モード
[編集]- ストリップマップ観測モード(Strip map)
- 1周回あたり連続10分(70km幅×4,000km)観測する通常のモード
- 立体視観測モード(Stereoscopic)
- 同じ地点を2回観測し、視差により高さ情報、数値地表モデル(DSM)を得る観測モード
- 地点観測モード(Pointing)
- 衛星の姿勢を最大60°操作し、災害時などに直下以外を観測するモード
- 広域観測モード(Wide-area)
- 1回のパスで特定のエリアを複数回観測して200km(衛星進行方向)×100km(直交方向)を撮影するモード
- 方向変更観測モード(Changing direction)
- 衛星の進行方向とは異なる、沿岸地形などを連続的に観測するモード
データ伝送
[編集]- 直接伝送
- Kaバンド:1.8Gbps
- Xバンド:0.8Gbps
- 光衛星間通信(OLLCT、光データ中継衛星との光通信によるデータ中継)
データレコーダ
[編集]- レコーダ方式:半導体メモリ(NANDフラッシュメモリ)
- 容量:950Gバイト以上
出典[1]
衛星搭載型2波長赤外線センサ(IRS)
[編集]防衛装備庁が開発した赤外線センサ機器を防衛省の相乗りミッションとして搭載し、装備庁側からはQDIP(量子ドット型赤外線検知素子、Quantum Dot Infrared Photodetector)と呼ばれ、弾道ミサイルの発射探知・情報収集・警戒監視機能への適用検討を目的としている[13]。赤外線センサ部は遠赤外と中赤外の検知層を垂直に積層し、1つのセンサで同時に検出することで、放射率・反射率の違いを利用した物体の識別能力の向上が期待される[14]。性能比較のため、従来方式の赤外線センサであるMCT(水銀カドミウムテルル合金)光学センサを同時に搭載する[13]。
かつての計画
[編集]先代の陸域観測技術衛星だいちが2011年(平成23年)4月に観測停止した当時、後継機となるだいち2号(SAR衛星)が2013年度(平成25年度)打上げ予定で開発中、だいち3号(光学衛星)が2014年度(平成26年度)打上げ予定で研究中のフェーズであった[15]。しかし、2011年8月、他の宇宙政策プロジェクトと比較して緊急性等の優先度が低いとの考えから「陸域観測技術衛星だいち3号」の開発中止が決定した[16]。
当時のだいち3号の計画では、経済産業省が所管する宇宙システム開発利用推進機構(JSS)が開発した、可視マルチスペクトルセンサと、185バンドを連続的に光学観測できるハイパースペクトルセンサを搭載する予定であった。これらのセンサにより石油資源などの鉱物資源探査、植生の分布の観測や農作物収穫量予想などのバイオマス観測、工業排水観測、積雪状態等をより詳細に観測できる見込みであった。2つのセンサは同期が可能で、合わせて「HISUI(Hyperspectral Imager SUIte)」と命名されていた。このハイパースペクトルセンサが搭載されれば、NASAの地球観測衛星テラに搭載されたセンサASTER(JSS統合前の前身であるJAROSとERSDACが開発)の13倍のスペクトル分解能となり高い精度のデータを取得できる予定であった[16][17][18]。
HISUIセンサはハイパースペクトルセンサ単独の計画として国際宇宙ステーション(ISS)への搭載に計画変更されて開発が続けられ[16]、2019年(令和元年)12月6日にファルコン9・ドラゴン宇宙船 CRS-19で打ち上げられた。ISSのきぼう船外実験プラットフォームに設置し、2021年度から定常運用している[19][20]。
- パンクロマチックセンサー
- パン(直下視):分解能:80cm 、観測幅:50km
- ステレオ(後方視):分解能:125cm、観測幅:検討中
- ハイパー・マルチセンサー (HISUI)
- マルチスペクトルセンサー
- 分解能:5m、観測幅:90km
- 観測波長:4ch
- 0.45μm - 0.52μm
- 0.52μm - 0.60μm
- 0.63μm - 0.69μm
- 0.76μm - 0.90μm
- ポインティング機能:有
- ハイパースペクトルセンサー
- 分解能:30m、観測幅:30km
- 観測波長:185ch
- VNIR:0.4μm - 0.97μm(可視近赤外、57ch、バンド幅10nm以下)
- SWIR:0.9μm - 2.5μm(短波長赤外、128ch、バンド幅12.5nm以下)
- ポインティング機能:有
- マルチスペクトルセンサー
- 伝送速度
- Xバンド:800/400Mbps
- Kaバンド:800/400Mbps
- 設計寿命:5年、エクストラサクセス7年
次期光学ミッション
[編集]2024年(令和6年)3月、文部科学省及びJAXAはだいち3号の打ち上げ失敗を踏まえた今後の光学観測の計画として、小型衛星コンステレーションによる実現を軸としてミッションの検討していることを発表した[24]。従来のJAXA主体であっただいちシリーズのプロジェクトとの比較を含め、次のような特徴が見られる[24]。
- 官民共同プロジェクトとし、民間事業者主体へシフトしながら技術移転の支援や公的投資を含めて政府機関が一定の関与をする
- 段階的な成果と逐次新しいニーズに対応するアジャイル型のプロジェクト
- 衛星搭載ライダ高度計(JAXA主体事業、2030年頃予定)と小型光学衛星群を組み合わせた三次元地形情報生成技術の開発実証
- 2020年代後半までに分解能40cm級・観測幅50km相当の小型光学衛星による観測システムを実証する
脚注
[編集]- ^ a b c 阿波祐二 ほか『先進光学衛星の目的と技術 三菱電機技報 91(2),』三菱電機、2017年2月 。
- ^ “宇宙基本計画工程表(令和元年度改訂案)” (PDF). 宇宙開発戦略本部. 内閣府 (2019年12月13日). 2019年12月13日閲覧。
- ^ “宇宙基本計画工程表(令和元年度改訂案)その2” (PDF). 宇宙開発戦略本部. 内閣府 (2019年12月13日). 2019年12月13日閲覧。
- ^ “H3ロケット初号機失敗 打ち上げ後に指令破壊”. 日本経済新聞 (2023年3月7日). 2023年3月7日閲覧。
- ^ a b 先進光学衛星プロジェクト移行審査の結果について JAXA 2016年5月10日
- ^ 文部科学省における衛星開発の取組について (PDF) 文部科学省
- ^ “文部科学省における令和2年度概算要求の状況について(宇宙安全保障部会関係)|令和元年10月9日 文部科学省研究開発局 宇宙開発利用課”. 内閣府. 2024年10月18日閲覧。
- ^ “先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)プロジェクト終了審査の結果について|2023年7月24日 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門”. 文部科学省. 2024年10月18日閲覧。
- ^ “【キャンペーンのお知らせ】ALOS-3(だいち3号)のミッションマーク投票募集中!(終了)|お知らせ|ALOS-3/ALOS-2/ALOS 陸域観測技術衛星だいち2号 衛星画像販売|株式会社パスコ”. ALOS-3/ALOS-2/ALOS 陸域観測技術衛星だいち2号 衛星画像販売|株式会社パスコ. 2021年10月3日閲覧。
- ^ “先進光学衛星「だいち3号」概要説明書”. JAXA. 2024年10月10日閲覧。
- ^ “先進光学衛星だいち3号 Solution Book 2nd edition”. JAXA. 2024年10月10日閲覧。
- ^ “先進光学衛星「だいち3号」(ALOS-3)搭載「広域・高分解能センサ」の概要と周辺技術”. 国立天文台. 2024年10月10日閲覧。
- ^ a b “衛星搭載型2波長赤外線センサ概要説明資料 令和5年2月1日 防衛装備庁技術戦略部技術戦略課”. JAXA. 2024年10月10日閲覧。
- ^ “令和2年版科学技術白書 第3章 経済・社会的課題への対応”. 文部科学省. 2024年10月10日閲覧。
- ^ “「だいち3」(ALOS-3)について|文部科学省研究開発局宇宙開発利用課宇宙利用推進室”. 文部科学省. 2024年10月18日閲覧。
- ^ a b c “次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発”. 経済産業省. 2024年10月18日閲覧。
- ^ “ハイパースペクトルデータ等の高度利用に係る研究開発プロジェクト(次世代地球観測衛星利用基盤技術の研究開発)|ALOS-3利用ワークショップ ERSDAC 財団法人資源・環境観測解析センター”. JAXA. 2024年10月18日閲覧。
- ^ a b 宇宙システム開発利用推進機構, 日本電気株式会社『ハイパースペクトルセンサ等の研究開発(センサシステム等の研究開発)成果報告書 : 平成23年度石油資源遠隔探知技術研究開発 (経済産業省委託調査報告書)』経済産業省、2012年3月 。
- ^ 宇宙実証用ハイパースペクトルセンサ(HISUI(ヒスイ))が打ち上げられました 経済産業省 2019年12月6日
- ^ “宇宙基本計画工程表(令和2年度改訂)” (PDF). 宇宙開発戦略本部 (2020年12月15日). 2021年3月3日閲覧。
- ^ 五十嵐, 保 (2012). “次期地球観測衛星システムのjaxaにおける動向”. 日本リモートセンシング学会誌 32 (2): 88–96. doi:10.11440/rssj.32.88 .
- ^ “地球観測衛星による防災利用実証活動と東日本大震災への対応|平成23年12月16日 宇宙航空研究開発機構 衛星利用推進センター 防災利用システム室”. 内閣府. 2024年10月18日閲覧。
- ^ “ハイパースペクトルセンサ等の研究開発(HISUIセンサ)開発状況について|(ALOS-3 ワークショップ)平成23年11月18日 (財)資源探査用観測システム・宇宙環境利用研究開発機構(JAROS)”. JAXA. 2024年10月18日閲覧。
- ^ a b “官民連携による光学観測事業構想について 令和6年3月25日 文部科学省 研究開発局”. 文部科学省|宇宙開発利用部会(第84回). 2024年10月9日閲覧。
関連項目
[編集]外部サイト
[編集]- 先進光学衛星 (JAXA)