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JR西日本283系電車

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
JR西日本283系電車
283系の特急「くろしお」
(2017年)
基本情報
運用者 西日本旅客鉄道
製造所 川崎重工業近畿車輛日立製作所
製造年 1996年
製造数 18両
運用開始 1996年7月31日[1]
投入先 くろしお
主要諸元
編成 基本編成:6両 (2M4T)
付属編成:3両 (1M2T)
軌間 1,067 mm
電気方式 直流1,500V
最高運転速度 120 km/h
設計最高速度 130(曲線通過+35km/h)km/h
起動加速度 2.1 km/h/s
減速度(常用) 4.3 km/h/s
減速度(非常) 5.2 km/h/s
編成定員 310人(普)+32人(グ)=342人
編成重量 218.5 t
全長 21,300 mm(クロ282,283)[2]
20,850 mm(クハ282, 283)[2]
20,800 mm(モハ283, サハ283)[2]
全幅 2,850 mm
全高 3,390 mm
車体 普通鋼
台車 円筒案内式制御振子ボルスタレス台車(ヨーダンパ付
WDT57・WTR241
主電動機 かご形三相誘導電動機 WMT104[2]
主電動機出力 220 kW
駆動方式 WNドライブ
歯車比 5.57[2]
編成出力 1,760 kW (2M4T)
880 kW (1M2T)
制御方式 PWMIGBT-VVVFインバータ
制御装置 WPC8 (1C1M 静止形インバータ一体型)
制動装置 電力回生併用電気指令式空気ブレーキ抑速付)
保安装置 ATS-P, ATS-SW
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283系電車(283けいでんしゃ)は、西日本旅客鉄道(JR西日本)の直流特急形車両である。

1996年平成8年)7月31日に営業運転を開始した[1]

概要

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京都大阪から南紀方面への特急くろしお」「スーパーくろしお」には国鉄から引き継いだ381系が使用されていたが、高速道路の整備が進められその対抗上、質の高いサービスの提供とさらなるスピードアップなどにより競争力の増強のために開発された。製造は川崎重工業近畿車輛日立製作所が担当した。

南紀地方は、関西でも有数のリゾートエリアで観光資源も多くあるため、「リゾート」と「スピード感」を反映させ、JR西日本の車両のグランドコンセプトである「明るく、静かで快適な車両」を基本コンセプトに、以下のデザインコンセプトが取れ入れられた。

  1. わくわくするような車両とすること
  2. 洗練されたおしゃれな、品のあるリゾートとすること
  3. 「スピード感」を感じさせる形状として表現すること

オーシャンアロー (Ocean Arrow) の車両愛称があり、当時は「海と太陽が大好きな列車」のキャッチフレーズがあった。

構造

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車体

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本系列は振り子式を採用しているため、曲線通過時の振子角度5度を考慮して車体高および車体幅が若干縮小され、丸みを帯びた形状となっている。車体は普通鋼を使用しているが、海岸を長く走行する為腐食を考慮して屋根と床板にはステンレスが使用されている。また、車体および機器は伯備線への投入を見越した耐寒・耐雪構造となっているが、18両のみで製造が打ち切られたため伯備線へは投入されず、入線実績もない。

基本編成の新宮方先頭車と付属編成のうち1本(HB631編成)の京都方先頭車は非貫通のパノラマ型グリーン車で、そのほかの先頭車両については貫通型となっており、幌は収納式としている。パノラマグリーン車は太平洋沿岸を走る紀勢本線(きのくに線)の特急として相応しいように、イルカをイメージしたデザインの車体となっている[3]

車体塗装は南紀の海の色をイメージしたオーシャングリーンと、砂浜を連想させるビーチホワイト[4]、側面にはイルカをイメージしたシンボルマークがある。

最高速度は130 km/hで、曲線通過性能についてはJR東海383系電車と並び国内最高の許容カント不足量123 mmを実現しており、半径600 m以上では本則[注 1]+35 km/hも可能な設計となっているが、営業運転では半径300m以上で本則+25 km/h、半径500 m以上で本則+30 km/hとなっている[5][6]。紀勢本線の半径400 mのカーブが連続する区間を100 km/hで走行することが可能である。2016年(平成28年)3月改正までは東海道本線JR京都線、外側線)で、2021年(令和3年)3月改正までは紀勢本線(きのくに線)の一部区間で130 km/h運転が実施されていた。

種別・行先表示器は221系以来の標準である、種別(列車名)は幕式、行先はLED式となっている。

681系と同じ旋律ミュージックホーンが引き続き採用された。

機器類

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振り子式による車両の低重心化、左右の重量均等化および床下機器艤装スペースの関係から、電動車両に車両制御装置[注 2]と補助電源装置、隣接する付随車に空気圧縮機を搭載するM+Tユニットを構成している[7]

車両制御装置は、223系1000番台 (WPC7)をベースとした、IGBT素子を使用した3レベル電圧形PWMインバータ WPC8 (2000 V / 400 A)である。1基の装置中にインバータを5基(主回路部4基+補助電源部1基)搭載し、主回路部はインバータ1基で1台の主電動機を制御する1C1M制御方式を採用している。補助電源部は三相交流440 V 60 Hz、130 kVA の容量を有し、主回路部と同じくIGBTを用いた3レベル電圧形PWMインバータをCVCF制御している。補助電源部が故障した際には主回路用インバータ第4群をCVCF制御することで補助電源のバックアップとしている。

空気圧縮機は、車両制御装置補助電源部出力の三相交流440 V 60 Hzを電源とする往復単動式 WMH3093-WTC2000D をサハ283形・クハ282形に搭載するが、すべての付随車両に空気圧縮機と除湿装置が搭載できるように考慮されている。

WTR241
(クハ283-501)

集電装置にはJR西日本の在来線電車では初めてシングルアーム式パンタグラフ WPS28 が採用され、モハ283形後位寄りの屋根上に1基搭載される。すでに381系が運転されている線区[注 3]に投入されることもあり、JR四国8000系電車のように車体傾斜に合わせてパンタグラフの位置や角度を補正する機構は持たない。

台車は振子機能を搭載しており、電動車両は WDT57 を、付随車両は WTR241 を装着している。乗り心地の改善を図るために、381系に倣って振り子式車両として設計されているが、制御式自然振り子機構により曲線形状や曲線通過速度に応じた振子機能の制御が行われているため、乗り心地は381系より改善されている。コロよりも転がり抵抗が半分程度となるベアリングをガイドに使用し、動作をスムーズに行えるようにしている。

軸ばね支持は、円筒積層ゴムとコイルばねの併用、基礎ブレーキは、WDT57がユニットブレーキ、WTR241が1軸あたり2枚のディスクブレーキとした[8]。保守の容易化の観点から、けん引装置は1本リンク方式を採用している[8]。乗り心地改善のため、ヨーダンパおよびアンチローリング装置を備えている[8]

空調設備は WAU305。

車内

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座席2列あたり窓1枚のレイアウトを採用している。各車両の両端にはLED式の車内案内表示装置が設置されている。

普通車座席配列は2列+2列でシートピッチは970 mmとなっている。回転式リクライニングシートを装備し、座席モケットはパープル系統とブルー系統の2種類がある。

基本編成の3号車には、太平洋の景色が見渡せるよう、座席が西側向きに固定されたフリースペースの展望ラウンジが設置されており、海側には1人掛けの座席が4席、山側には2人掛けのソファーが2つ設置され、自動販売機もある。このため、3号車の4号車寄りには乗降用ドアがない。

グリーン車は座席配列は1列+2列としているが、振り子式であり車体重心のバランスをとる目的で、座席配列は中央で入れ替えている[注 4]。シートピッチは1,160 mmで、これは681系281系と同等である。ブラウン系統でまとめられており、普通車と同じく回転式リクライニングシートを装備しているほか、も装備している。また、肘掛部分にはテーブルが収納されており、引き出して使用することが可能である。床の絨毯には「OCEAN ARROW」と記された模様がある。

製造当初は、グリーン車には座席配置が入れ替わる中間の部分に喫煙席と禁煙席を分離する仕切りがあり、乗務員室側を喫煙席、デッキ側を禁煙席として使用する予定であったが、「禁煙席に煙草の煙が流れ込む」と苦情があったため、グリーン車はのち全席禁煙とした[9]。これにより1998年(平成10年)10月から12月にかけて仕切りは撤去された[注 5][10]

形式・編成

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モハ283形(M)
普通席を備える中間電動車。車両制御装置、集電装置(新宮方)などを搭載する。
0番台
乗降扉が2か所設置されている。定員72名。席の色は基本編成がブルー、付属編成がパープル。
200番台
車販準備室が設置されている。定員68名。席の色はパープル。
300番台
ラウンジ・自動販売機(ラウンジ内)が設置されている。定員64名。席の色はブルー(ラウンジはパープル)。
クロ283形(Tsc)
0番台
グリーン席を備える奇数向き(新大阪・京都方)非貫通型制御付随車。運転台、便所・洗面所、自動販売機が設置されている。定員32名。
クロ282形(Tsc')
0番台
グリーン席を備える偶数向き(新宮方)の非貫通型制御付随車。運転台、便所・洗面所、公衆電話が設置されている。定員32名。
クハ283形(Tc)
500番台
普通席を備える奇数向き(新大阪・京都方)の貫通型制御付随車。運転台、便所・洗面所・自動販売機が設置されている。定員60名。席の色は基本編成がパープル、付属編成がブルー。
クハ282形(Tc')
普通席を備える偶数向き(新宮方)の貫通型制御付随車。電動空気圧縮機などを搭載する。
500番台
運転台、便所・洗面所・公衆電話が設置されている。定員60名。席の色はブルー。
700番台
運転台、便所・洗面所・公衆電話・多目的室・車椅子対応設備が設置されている。定員50名。席の色はブルー。
サハ283形(T)
普通席を備える中間付随車。空気圧縮機などを搭載する。
0番台
便所・洗面所・荷物スペースが設置されている。定員68名。席の色はパープル。
200番台
便所・洗面所・車掌室・業務用室・公衆電話・多目的室・車椅子対応設備が設置されている。定員46名。席の色はパープル。
2024年4月1日現在の編成表[11]
京都
新宮

クハ
283-500
(Tc)
   >
モハ
283-0
(M)

サハ
283-200
(T)
   >
モハ
283-300
(M)

サハ
283-0
(T)

クロ
282-0
(Tsc')

クロ
283-0
(Tsc)
   >
モハ
283-200
(M)

クハ
282-700
(Tc')

クハ
283-500
(Tc)
   >
モハ
283-0
(M)

クハ
282-500
(Tc')

編成表

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2024年4月1日現在[11]
編成
番号
← 京都
新宮 →
落成日 備考
クハ
283
モハ
283
サハ
283
モハ
283
サハ
283
クロ
282
HB601 501 1 201 301 1 1 1996/07/10
(近車)
HB602 502 2 202 302 2 2 1996/07/17
(日立)
編成
番号
クロ
283
モハ
283
クハ
282
クハ
283
モハ
283
クハ
282
落成日 備考
HB631 1 201 701   1996/07/15
(近車)
HB632   503 3 501 1996/07/14
(川重)

運用

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日置川橋梁を渡る283系特急「くろしお」 (2016年3月22日) 付属編成を2本連結した運用。 貫通型先頭車が新宮方を向く。
日置川橋梁を渡る283系特急「くろしお」
(2016年3月22日)
付属編成を2本連結した運用。
貫通型先頭車が新宮方を向く。

1996年(平成8年)7月31日に特急「スーパーくろしお(オーシャンアロー)」として営業運転を開始し[1]1997年3月8日のダイヤ改正から「オーシャンアロー」として、京都駅新大阪駅 - 新宮駅間で運用された。通常は基本編成の6両で、多客期にはこれに付属編成を1本連結した9両編成での運転となっている。また検査時などまれに付属編成を2本連結した6両編成で運転する場合がある。また、各線のダイヤ乱れの影響により、急遽「くろしお」「スーパーくろしお」として本系列が運用される場合があり、「オーシャンアロー」に381系を充当し運用する場合があった。

2012年(平成24年)3月17日のダイヤ改正で「くろしお」「スーパーくろしお」「オーシャンアロー」はすべて「くろしお」に統一され、同日より「くろしお」として運用されている[12][注 6]。9両編成で運転する場合貫通型先頭車同士が向き合うが、6号車と7号車の通り抜けはできない。

2024年(令和6年)4月1日現在、6両編成×2本(計12両)と3両編成×2本(計6両)の計18両が吹田総合車両所日根野支所(旧:日根野電車区)に所属している[11]

脚注

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注釈

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  1. ^ 本則とは、国鉄の運転取扱基準規程第121条2項の線路の分岐に接続しない曲線における曲線半径別制限速度を指す。JRの運転規則においては、曲線における電車・気動車の基本の速度、あるいは基本の速度イに相当する。
  2. ^ 主回路用インバータ(VVVF 制御装置)と補助電源用インバータ(SIV)を一体化したもの。
  3. ^ 電化の際に振り子式車両による車体傾斜を想定して、パンタグラフと大きくずれないように架線の位置を予め計算した上で架線を張っている。
  4. ^ JR西日本所属の381系ものちに1列+2列に変更されたが、こちらは座席配列の入れ替えはなされていない。
  5. ^ 撤去日時は、クロ283-1が1998年(平成10年)10月6日、クロ282-1が1998年(平成10年)12月9日、クロ282-2が1998年(平成10年)11月7日。
  6. ^ ただし、「オーシャンアロー」の名は時刻表などで車両を区別する上で、現在も残っており、車体に貼られているシンボルマークもそのままとなっている。

出典

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  1. ^ a b c 「紀州路に“新しい顔」『交通新聞交通新聞社、1996年7月12日、3面。
  2. ^ a b c d e 鉄道ファンvol.427, p. 66.
  3. ^ 特急くろしお号「オーシャンアロー車両」、おかげさまで誕生20周年!”. トレナビ. 西日本旅客鉄道 (2016年7月28日). 2016年8月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月28日閲覧。
  4. ^ 『JR西日本会社案内1996』西日本旅客鉄道、1996年。 
  5. ^ JR西日本和歌山支社「紀勢線のスピードアップ工事」『新線路』第51巻第4号、鉄道現業社、1997年、10 - 12頁。 
  6. ^ 『新世紀へ走る JR西日本10年のあゆみ』西日本旅客鉄道、1997年8月25日、258頁。 
  7. ^ 鉄道ファンvol.427, p. 64.
  8. ^ a b c 鉄道ファンvol.427, p. 65.
  9. ^ 「紀勢線の新型特急"喫煙特等席" 一転、禁煙にします」『読売新聞読売新聞社、1996年6月25日。
  10. ^ JR電車編成表2010冬, p. 153.
  11. ^ a b c JR電車編成表2024夏, p. 151.
  12. ^ 平成24年 春ダイヤ改正について』(PDF)(プレスリリース)西日本旅客鉄道和歌山支社、2011年12月16日http://www.westjr.co.jp/press/article/items/20111216_wakayama.pdf 

参考文献

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  • 西日本旅客鉄道鉄道本部車両部「283系特急形直流電車」『鉄道ファン』第427巻、交友社、1996年11月、59 - 66頁。 
  • ジェー・アール・アール『JR電車編成表』 2010冬、交通新聞社、2009年11月1日、153頁。ISBN 978-4-330-11609-9 
  • ジェー・アール・アール『JR電車編成表』 2024夏、交通新聞社、2024年5月24日、153頁。ISBN 978-4-330-11609-9 

外部リンク

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