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自衛隊体育学校

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自衛隊体育学校

自衛隊体育学校(じえいたいたいいくがっこう、JSDF Physical Training School)は、陸上自衛隊朝霞駐屯地内に設置されている、陸上自衛隊海上自衛隊航空自衛隊共同の機関の一つである。自衛隊員体育指導に必要な知識及び技能を習得させるための教育訓練を行うとともに、体育に関する調査研究を行うことを任務とする[1]

概要

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1964年東京オリンピックの開催を控え、江﨑真澄防衛庁長官の発案により戦前の陸軍戸山学校をモデルにして計画され、「部隊等における体育指導者の育成」「オリンピック等国際級選手の育成」「体育に関する調査研究」の三つを目標に掲げて1961年(昭和36年)に設立された[2][3]下記に示すように、現在までにオリンピック金メダリストを含む多くの選手を輩出している。

専用のグラウンド・体育館・屋内プール・射撃場など充実した設備を保有している。また、自衛隊で唯一、を飼育しているため、馬術が必須である近代五種競技の訓練も可能である。

体育学校に対する指揮監督は、陸上幕僚長を通じて行われる。

沿革

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  • 1961年(昭和36年)8月17日:東京都練馬区大泉学園町の陸上自衛隊朝霞駐屯地内に設置[4]
  • 2007年(平成19年)3月:スポーツ科学科を新設。
  • 2016年(平成28年)3月28日:冬季戦技教育隊隷下の特別体育課程教育室を冬季特別体育教育室として隷下に編合[5]
  • 2017年(平成29年)4月12日:カヌーおよび女子ラグビーが基幹要員集合訓練から特別体育教育課程に変更され、第2教育課に女子ラグビー、カヌー両班を編成[6][7]

組織及び設置されている課程

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  • 企画室
  • 総務課
  • 第1教育課: 部隊の体育指導者を育成する課程[8]
    • 幹部)体育課程:体育指導官として必要な知識・技能を修得させる。
    • 幹部(曹)格闘課程:自衛隊格闘術指導官として必要な知識・技能を修得させる。
  • 第2教育課(特別体育課程):オリンピックをはじめとする国際大会の選手要員として自衛官を育成する課程。略称「特体」。特体生は一般の自衛官の任務である災害派遣演習訓練などは免除されており[8]、競技だけに専念できる体育特殊技能者として扱われる。一方で日常生活において厳正な自己管理が求められ、食堂も一般隊員とは別個のものが設けられている。1年単位で入れ替えが行われており[注釈 1]、成果を出せない隊員は退校(一般部隊への異動)を命ぜられる。2022年4月現在、155名在籍している[10]
    • 体育特殊技能者:大学または高等学校で優秀な競技成績[注釈 2]を収めた者の中から、主にスカウトによって採用される。採用時に大学卒業者には2(等陸・海・空)曹、大学院修了者には1曹、それ以外で20歳以上の者には3曹の階級が指定される[11]。2022年の入校者数は14名[10]
    • 一般曹候補生自衛官候補生:一般隊員として入隊し、半年間の新隊員教育期間を経て一般部隊に配属された後、約5か月間の特別体育課程学生候補者集合訓練を受けて訓練中の選考に残った者が採用される。2022年の入校者数は17名[10]
  • スポーツ科学
  • 管理科
  • 冬季特別体育教育室[12]真駒内駐屯地

主要設備

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主な訓練設備は次のとおりである[8][13]

  • 総合体育館
  • 球技体育館
  • 陸上競技場(陸連公認 全天候型)
  • ラグビー・サッカー場
  • 屋内水泳訓練場(水連公認 50メートル)
  • アーチェリー訓練場
  • 屋内射撃場
  • 馬術訓練場

対象競技種目

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主要幹部

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官職名 階級 氏名 補職発令日 前職
自衛隊体育学校長 陸将補 七嶋剛士 2023年12月22日 富士教導団
副校長
兼 企画室長
1等陸佐 関口景 2023年12月22日 防衛大学校教授
第2教育課長 1等陸佐 長岡睦 2021年03月18日 陸上幕僚監部防衛部施設課環境保全班長
歴代の自衛隊体育学校長
(特記ない限り陸将補)
氏名 在職期間 出身校・期 前職 後職
01 佐野常光 1961.8.17 - 1963.7.31 陸士42期・
陸大54期
西部方面総監部幕僚長
→1961.7.17 東部方面総監部
陸上幕僚監部
→1963.8.5 死去(自殺)[14]
02 吉井武繁 1963.8.1 - 1965.3.15 東京帝国大学
昭和10年卒
陸上自衛隊業務学校
兼 小平駐とん地司令
→1965.1.1 陸将昇任
第5師団
03 吉池重朝 1965.3.16 - 1967.3.15 東京商科大学
昭和12年卒
東京オリンピック支援集団司令部総務部長
→1964.11.20 自衛隊体育学校付
陸上幕僚監部付
→1967.7.1 退職
04 森川竹雄 1967.3.16 - 1970.3.15 陸士50期 自衛隊体育学校副校長
→1968.1.1 陸将補昇任
陸上自衛隊富士学校副校長
05 梶原守光 1970.3.16 - 1973.3.16 陸士53期 自衛隊京都地方連絡部 退職
06 西田秀男 1972.3.16 - 1973.3.15 陸経1期 札幌オリンピック支援集団長
→1973.1.1 陸将昇任
陸上自衛隊関西地区補給処
兼 宇治駐とん地司令
07 八木正忠 1973.3.16 - 1974.3.15 陸士54期 第1空挺団
兼 習志野駐とん地司令
陸上幕僚監部付
→1974.4.1 退職
08 森肇雄 1974.3.16 - 1976.8.1 陸士54期 陸上自衛隊幹部学校研究部長 陸上幕僚監部付
→1977.1.1 退職
09 宮田朋幸 1976.8.2 - 1978.3.31 陸士58期 陸上幕僚監部第3部副部長 陸上幕僚監部付
→1978.7.1 退職
10 柴田繁 1978.4.1 - 1980.3.16 陸士59期 防衛大学校訓練部訓練課長 陸上幕僚監部付
→1980.8.1 退職
11 三上博康 1980.3.17 - 1981.3.15 海兵74期 第3教育団
→1980.7.1 陸将昇任
陸上自衛隊東北地区補給処
12 湯野正雄 1981.3.16 - 1983.3.15 中央大学
昭和28年卒
陸上自衛隊幹部候補生学校副校長 陸上幕僚監部付
→1983.4.1 退職
13 三井貞男 1983.3.16 - 1985.3.15 中央大学
昭和31年卒
第10師団司令部幕僚長 自衛隊宮城地方連絡部
14 高木重男 1985.3.16 - 1987.3.16 法政大学
昭和31年卒
第10師団副師団長
守山駐屯地司令
退職
15 秦政美 1987.3.16 - 1989.3.16 防大1期 陸上自衛隊幹部候補生学校副校長
兼 企画室長
退職
16 樫山貢 1989.3.16 - 1993.3.23 防大3期 第7師団副師団長
東千歳駐屯地司令
北部方面総監部
→1993.4.1 退職
17 三宅義信 1993.3.24 - 1997.3.25 法政大学
昭和37年卒
自衛隊体育学校副校長
兼 第2教育課長
→1993.4.1 陸将補昇任
陸上幕僚監部付
→1997.4.1 退職
18 小林正勝 1997.3.26 - 1998.7.1 防大8期 富士教導団 退職
19 髙橋佳嗣 1998.7.1 - 2001.1.10 防大11期 第1空挺団長
習志野駐屯地司令
陸上自衛隊九州補給処
目達原駐屯地司令
20 水口勇 2001.1.11 - 2002.3.22 防大12期 第3師団副師団長
千僧駐屯地司令
退職
21 那須誠 2002.3.22 - 2005.1.12 防大15期 陸上自衛隊小平学校副校長 退職
22 増田憲二 2005.1.12 - 2006.8.4 防大16期 第2施設団 退職
23 鈴木義長 2006.8.4 - 2008.11.30 防大20期 第3施設団
南恵庭駐屯地司令
第14旅団
24 渥美晴久 2008.12.1 - 2010.12.1 防大20期 陸上自衛隊需品学校
松戸駐屯地司令
退職
25 畑中誠 2010.12.1 - 2012.8.28 防大22期 北部方面後方支援隊
26 福田築 2012.8.28 - 2013.12.18 防大24期 第4師団副師団長
福岡駐屯地司令
27 保坂一彦 2013.12.18 - 2015.8.4 防大25期 第8師団副師団長
北熊本駐屯地司令
28 山中洋二 2015.8.4 - 2016.12.19 防大26期 富士教導団長
29 山中敏弘 2016.12.20 - 2018.3.27 防大28期 第2師団副師団長
旭川駐屯地司令
30 谷村博志 2018.3.27 - 2020.12.21 防大31期 自衛隊宮城地方協力本部
31 豊田真 2020.12.22 - 2022.12.22 防大33期 第1施設団
古河駐屯地司令
陸上自衛隊北海道補給処
島松駐屯地司令
32 髙木勝也 2022.12.23 - 2023.12.21 防大33期 第9師団副師団長
青森駐屯地司令
退職
33 七嶋剛士 2023.12.22 - 防大34期 富士教導団

著名な出身者

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2012年ロンドン五輪レスリング競技・男子フリースタイル66kg級決勝戦で相手を持ち上げ、投げつけた瞬間の米満達弘(当時、3等陸尉[15])。この勝利で獲得した金メダルは日本にとって夏季大会通算400個目となった他、一大会で最多の38個目(当時)となるなど記録づくしであった[16]
自衛隊体育学校の著名な出身者・在籍者
競技種目 氏名 入校年 獲得五輪メダル 主な後職
マラソン 円谷幸吉 1962
競歩 山崎勇喜 2011 一般自衛官
荒井広宙 2013 競歩選手(富士通所属)
谷井孝行 2014 体育学校教官
勝木隼人 2015
河添香織 2018
中距離走 西村美樹 2007
柔道 酒井英幸 1990 全日本コーチ
和泉強志
池田ひとみ 全日本女子ジュニアコーチ
小松崎弘子 2003
平井希
國原頼子 2008 高校柔道部コーチ
広村麻衣 2009 柔道選手(日本エースサポート所属)
春山友紀 2013
上野巴恵 2013 一般自衛官
濵田尚里 2013
十田美里 2013
金子瑛美 2014
太田晴奈 2015
山崎珠美 2016
新添左季 2019
ウェイト
リフティング
三宅義信 1962 体育学校長
三宅義行 体育学校教官
高橋百合子
今鉾一恵 2005
岡林裕二 プロレスラー
レスリング 金子正明 1968
中田茂男
平山紘一郎 体育学校教官
江藤正基 体育学校教官
工藤政志 プロボクサー
森山泰年
宮原厚次 全日本コーチ
入江隆
森巧
川崎明美
片山貴光 一般自衛官
井上謙二 日本レスリング協会 男子FS強化委員長
加藤賢三
斉藤貴子
米満達弘 日本レスリング協会 男子FSコーチ
清水博之 2004
小原日登美 2005 体育学校教官
坂本真喜子
佐野明日香 2005
湯元進一 2007
高塚紀行 2010
堀内優 2012
馬場菜津美 2014
入江ゆき 2015 レスリング選手(佐賀県スポーツ協会所属)
谷口周平 プロレスラー
本田多聞
青木篤志
杉浦貴
中尾芳広 1994 総合格闘家実業家
高谷大地 2017
乙黒圭祐 2019
乙黒拓斗 2021
石黒隼士ポーランド語版
射撃 蒲池猛夫 1962 体育学校教官
木場良平 体育学校射撃班総監督
山下敏和 1999
小西ゆかり 2000 射撃選手(飛鳥交通所属)
谷島緑
清水綾乃
ボクシング 小林和男 1972 プロボクサーロイヤル小林
本博国 1988 オリンピック日本代表監督
佐藤幸治 2003 プロボクサー
須佐勝明 2007 日本ボクシング連盟理事
川内将嗣 2008
清水聡 2009 プロボクサー
鈴木康弘 2010
成松大介 2012 日本ボクシング連盟理事
柏崎刀翔 2013
藤田大和 2015 総合格闘家
伊藤沙月 2015 プロボクサー
小村つばさ 2015 体育学校教官
晝田瑞希 2015 プロボクサー
並木月海 2017
坪井智也 2018
馬場龍成 2018 プロボクサー
森脇唯人 2019
丸山忠行 プロボクサー
瀬川幸雄
串木野純也
石井幸喜
近代五種 平田栄史
村上佳宏
岩元勝平 2009
山中詩乃
島津玲奈
佐藤大宗 2013
内田美咲ドイツ語版
水泳 高桑健
江原騎士 2016 水泳選手(山本光学所属)
高橋航太郎英語版 2016
蝦名愛梨 2024
アーチェリー 脇野智和
フェンシング 山田優 2017 フェンシング選手(山一商事所属)
7人制ラグビー 梶木真凜
坂田信弘 1969 ゴルフ指導者、劇画原作者

脚注

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注釈

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  1. ^ 2021年に入校した60期生163名[9]のうち、翌2022年に引き続き61期生として入校した者は124名[10]
  2. ^ 原則的に、全日本選手権や国体で3位以内[3]

出典

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  1. ^ 自衛隊法施行令第33条及び自衛隊年鑑(2009)146ページより
  2. ^ オリンピックチャンネル編集部 (2020年8月20日). “国内トップのアスリート育成機関、自衛隊体育学校|重量挙げの三宅義信が金メダル第1号【スポーツの国家的取り組み】”. Olympic Channel. 2021年9月8日閲覧。
  3. ^ a b 菊池雅之 (2021年8月13日). “東京五輪で金メダル3個獲得 自衛隊体育学校 狭き門も日本屈指の「恵まれた環境」”. zakzak. 2021年9月8日閲覧。
  4. ^ 自衛隊法施行令の一部を改正する政令(昭和36年政令第260号)”. 国立公文書館デジタルアーカイブ (1961年7月15日). 2022年3月31日閲覧。
  5. ^ 特別体育課程教育室、自衛隊体育学校隷下で新たなスタート(朝雲新聞社、2016/4/11閲覧)
  6. ^ 体育学校とは”. 体育学校. 2017年9月17日閲覧。
  7. ^ 五輪へ新たに始動 女子ラグビー、カヌー両班加わる 自衛隊体育学校(2017年5月11日付『朝雲』)
  8. ^ a b c 鈴木恵美「エミが行く! 第11回 自衛隊体育学校見学」『月刊Jウィング 2015年1月号』、イカロス出版、2015年1月、50-53頁。 
  9. ^ 体育学校ニュース 3.4.21”. 自衛隊体育学校 (2021年4月21日). 2022年5月12日閲覧。
  10. ^ a b c d 体育学校ニュース 4.4.19”. 自衛隊体育学校 (2022年4月19日). 2022年5月12日閲覧。
  11. ^ 体育学校について”. 体育学校. 2016年9月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月12日閲覧。
  12. ^ 体育学校改編 冬季特体室が隷下に”. 体育学校 (2016年3月31日). 2016年9月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月12日閲覧。
  13. ^ 山下輝男 (2012年7月8日). “迷彩服を着たアスリート達 2 自衛隊体育学校とは”. 特定非営利活動法人 平和と安全ネットワーク. 2015年8月11日閲覧。
  14. ^ 朝日新聞(1963年8月6日朝刊)
  15. ^ “五輪金・小原&米満、防衛記念章・第1級賞詞受章…レスリング”. スポーツ報知. (2012年8月28日). https://web.archive.org/web/20120827222443/http://hochi.yomiuri.co.jp/sports/etc/news/20120827-OHT1T00229.htm 2012年8月28日閲覧。 
  16. ^ “米満「金」最後に男がやった! 日本初毎日メダル! 最多38個…レスリング”. スポーツ報知. (2012年8月13日). https://web.archive.org/web/20120813004529/http://hochi.yomiuri.co.jp/sports/wrestling/news/20120813-OHT1T00051.htm 2012年8月27日閲覧。 

関連項目

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外部リンク

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