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素数の間隔

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
16億までの素数の間隔の度数分布。ピークは6の倍数で生じている[1]

素数の間隔(そすうのかんかく、prime gap)は、連続する2つの素数の差。gn もしくは g(pn) で表される n 番目の素数の間隔は、n + 1 番目の素数と n 番目の素数の差である。すなわち

g1 = 1, g2 = g3 = 2, g4 = 4 である。素数の間隔のは広く研究されてきたが、多くの疑問や仮説が残っている。

初めから60個の素数の間隔は

1, 2, 2, 4, 2, 4, 2, 4, 6, 2, 6, 4, 2, 4, 6, 6, 2, 6, 4, 2, 6, 4, 6, 8, 4, 2, 4, 2, 4, 14, 4, 6, 2, 10, 2, 6, 6, 4, 6, 6, 2, 10, 2, 4, 2, 12, 12, 4, 2, 4, 6, 2, 10, 6, 6, 6, 2, 6, 4, 2, …[2]

gn の定義により、全ての素数は次のように書ける。

簡単な観察

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最初の間隔は1 (=3-2) であり、2を除く素数がすべて奇数であることから、1は唯一かつ最小の間隔である。以降の間隔はすべて2以上の偶数となるが、値 2 の間隔が連続しているのは素数 3, 5, 7 の間の間隔である g2g3 の1組だけである。

任意の整数 n に対して、n階乗n を含む n までの全ての正の整数の)を用いると、数列

において1番目の項は2で割り切れ、2番目の項は3で割り切れ、これが続く。よって、これはn − 1個の連続した合成数の数列であり、長さがn以上の間隔を与える隣り合う素数の間の連続した整数の列(の全体あるいは一部)になる。このことから隣り合う素数の間隔にはいくらでも大きいものが常に存在すること、すなわち、任意に与えた整数Nに対して gmN となる添字mが常に存在することが分かる。

しかし、n個の数の素数の間隔は、n!よりもずっと小さい数で生じることがある。例えば、素数の間隔が14よりも大きい最初の場所は523と541の間であるが、その一方で15!は1 307 674 368 000という非常に大きな数である。

素数の平均間隔は整数の自然対数が大きくなるにつれて長くなり、したがって関係する整数と、これに対する素数の間隔との比は小さくなる(漸近的に0になる)。これは素数定理の結果であるヒューリスティックな観点から見ると、自然対数に対する間隔の長さの比が固定の正数k以上である確率はekであると予想される。結果として比は任意に大きくなる。実際、整数の桁数に対する間隔の比は際限なく増加する。これはエリック・ウェストジンティウスによる結果の帰結である[3]

逆に、双子素数の推論は、無限に多い整数nに対してgn = 2を仮定している。

数値結果

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通常gn / ln(pn)の値のことを、間隔gnmerit値という。2017年9月現在、分かっている確率的素数の間隔の端の、最大の既知の素数の間隔は長さ6 582 144で、マーティン・ラーブにより発見された216,841桁の確率的素数においてであった[4]。この間隔のmerit値は13.1829である。最大の既知の素数の間隔は長さ1 113 106であり、merit値は25.90であり、ピエール・カミミシェル・ヤンセンイェンス・K・アンデルセンにより発見された18,662桁の素数においてである[5][6]

2017年12月現在、知られている中で最大のmerit値で、かつ最初に40を超えるものは、41.938 783 73であり、87桁の素数293 703 234 068 022 590 158 723 766 104 419 463 425 709 075 574 811 762 098 588 798 217 895 728 858 676 728 143 227においてであった。この素数と次の素数の間の素数の間隔は8350である[7]

最も大きいmerit値 (2018年1月現在)[7][8][9]
Merit gn 桁数 pn 発見者
41.938 784 8350 87 上参照 2017 Gapcoin
39.620 154 15900 175 3 483 347 771 × 409#/30 − 7016 2017 Dana Jacobsen
38.066 960 18306 209 650 094 367 × 491#/2310 − 8936 2017 Dana Jacobsen
37.824 126 8382 97 512 950 801 × 229#/5610 − 4138 2018 Dana Jacobsen
37.005 294 26054 306 1 780 005 161 × 719#/30 − 17768 2017 Dana Jacobsen

gn / (ln(pn))2の値のことをクラメル・シャンクス・グランヴィル比という[7]。素数2, 3, 7の場合の異常に高い値を無視する場合、この値の知られている最大値は素数1 693 182 318 746 371のときの0.920 638 6である[10]

全てのm < nに対してgm < gnの場合、gnのことを、極大の間隔(maximal gap)、または「極大の素数の間隔」という。2018年8月 (2018-08)現在、知られている最大の極大の間隔は1550であり、バーティル・ニーマンにより発見された。これは80番目の極大の間隔であり、素数18 361 375 334 787 046 697の後に生じる[11][12]

80個の既知の極大の素数の間隔
1から27
# gn pn n
1 1 2 1
2 2 3 2
3 4 7 4
4 6 23 9
5 8 89 24
6 14 113 30
7 18 523 99
8 20 887 154
9 22 1,129 189
10 34 1,327 217
11 36 9,551 1,183
12 44 15,683 1,831
13 52 19,609 2,225
14 72 31,397 3,385
15 86 155,921 14,357
16 96 360,653 30,802
17 112 370,261 31,545
18 114 492,113 40,933
19 118 1,349,533 103,520
20 132 1,357,201 104,071
21 148 2,010,733 149,689
22 154 4,652,353 325,852
23 180 17,051,707 1,094,421
24 210 20,831,323 1,319,945
25 220 47,326,693 2,850,174
26 222 122,164,747 6,957,876
27 234 189,695,659 10,539,432
28から54
# gn pn n
28 248 191,912,783 10,655,462
29 250 387,096,133 20,684,332
30 282 436,273,009 23,163,298
31 288 1,294,268,491 64,955,634
32 292 1,453,168,141 72,507,380
33 320 2,300,942,549 112,228,683
34 336 3,842,610,773 182,837,804
35 354 4,302,407,359 203,615,628
36 382 10,726,904,659 486,570,087
37 384 20,678,048,297 910,774,004
38 394 22,367,084,959 981,765,347
39 456 25,056,082,087 1,094,330,259
40 464 42,652,618,343 1,820,471,368
41 468 127,976,334,671 5,217,031,687
42 474 182,226,896,239 7,322,882,472
43 486 241,160,624,143 9,583,057,667
44 490 297,501,075,799 11,723,859,927
45 500 303,371,455,241 11,945,986,786
46 514 304,599,508,537 11,992,433,550
47 516 416,608,695,821 16,202,238,656
48 532 461,690,510,011 17,883,926,781
49 534 614,487,453,523 23,541,455,083
50 540 738,832,927,927 28,106,444,830
51 582 1,346,294,310,749 50,070,452,577
52 588 1,408,695,493,609 52,302,956,123
53 602 1,968,188,556,461 72,178,455,400
54 652 2,614,941,710,599 94,906,079,600
55から80
# gn pn n
55 674 7,177,162,611,713 251,265,078,335
56 716 13,829,048,559,701 473,258,870,471
57 766 19,581,334,192,423 662,221,289,043
58 778 42,842,283,925,351 1,411,461,642,343
59 804 90,874,329,411,493 2,921,439,731,020
60 806 171,231,342,420,521 5,394,763,455,325
61 906 218,209,405,436,543 6,822,667,965,940
62 916 1,189,459,969,825,483 35,315,870,460,455
63 924 1,686,994,940,955,803 49,573,167,413,483
64 1,132 1,693,182,318,746,371 49,749,629,143,526
65 1,184 43,841,547,845,541,059 1,175,661,926,421,598
66 1,198 55,350,776,431,903,243 1,475,067,052,906,945
67 1,220 80,873,624,627,234,849 2,133,658,100,875,638
68 1,224 203,986,478,517,455,989 5,253,374,014,230,870
69 1,248 218,034,721,194,214,273 5,605,544,222,945,291
70 1,272 305,405,826,521,087,869 7,784,313,111,002,702
71 1,328 352,521,223,451,364,323 8,952,449,214,971,382
72 1,356 401,429,925,999,153,707 10,160,960,128,667,332
73 1,370 418,032,645,936,712,127 10,570,355,884,548,334
74 1,442 804,212,830,686,677,669 20,004,097,201,301,079
75 1,476 1,425,172,824,437,699,411 34,952,141,021,660,495
76 1,488 5,733,241,593,241,196,731 135,962,332,505,694,894
77 1,510 6,787,988,999,657,777,797 160,332,893,561,542,066
78 1,526 15,570,628,755,536,096,243 360,701,908,268,316,580
79 1,530 17,678,654,157,568,189,057 408,333,670,434,942,092
80 1,550 18,361,375,334,787,046,697 423,731,791,997,205,041
 

さらなる結果

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上限

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1852年に証明されたベルトランの仮説は、kと2kの間には必ず素数があり、よって特にpn+1 < 2pnであることは、gn < pnを意味するという内容である。

1896年に証明された素数定理は、十分大きい素数では素数pと次の素数との間の間隔の平均長は漸近的にln(p)に近づくという内容である。実際の間隔の長さはこれよりもずっと大きいことや小さいことがあるが、素数定理から素数の間隔の長さの上限を推論することができる。

すべてのに対して、すべての

であるような数がある。 また、素数に比例して間隔が任意に小さくなることも推論できる。比

となる。 グイド・ホハイゼル英語版 (1930年) は

であるような定数θ < 1が存在することを初めて示し[13]、それゆえ十分大きいnに対して

であることを示した。

ホハイゼルはθで可能な値32999/33000を得た。これはハンス・ハイルブロン英語版により249/250と改善され[14]ニコライ・チュダコフ英語版により任意のε > 0に対してθ = 3/4 + εとした[15]

主な進歩はアルバート・イングハムによる[16]。彼はいくつかの正の定数cに対して

であるとき、任意のに対して

と示した。ここでOランダウの記号、ζはリーマンゼータ関数、πは素数計数関数である。任意のc > 1/6が許容されることが分かっていれば、θが5/8より大きい任意の数値であることが分かる。

イングハムの結果の直接の結果は、nが十分大きい場合、n3と(n + 1)3の間に必ず素数が存在するということである[17]アーンスト・リンデレフ英語版の仮説はイングハムの式がcの任意の正の数に対しても成り立つことを暗に示すが、十分大きいnに対してn2と(n + 1)2の間に素数が存在することを暗示するには十分ではないであろう(ルジャンドル予想参照)。

マーティン・ハクスリー英語版は1972年にθ = 7/12 = 0.58(3)を選択してもよいことを示した[18]

2001年のR.C.ベイカーグリン・ハーマンヤノス・ピンツ英語版による結果では、θは0.525ととられる可能性があることを示した[19]

2005年、ダニエル・ゴールドストン英語版,ヤノス・ピンツ英語版, ジェム・ユルドゥルム英語版

を証明し、2年後これを改良し[20]

とした。 2013年、張益唐

を証明した。これは70 000 000を超えない間隔が無限にあるという意味である[21]。張の境界を最適化するPolymathプロジェクトの共同作業により、2013年7月20日に境界を4680まで下げることに成功した[22]。2013年11月、ジェームズ・メイナードはGPYふるいを新たに改善したものを導入し、境界を600まで下げ、任意のmについて、それぞれがm個の素数を含む解釈が無限である境界間隔が存在することを示した[23]。メイナードの考えを用いて、Polymathプロジェクトは境界を246に改良した[22][24]エリオット・ハルバースタム予想英語版とその一般形を仮定すると、Nはそれぞれ12と6に減少される[22]

下限

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1931年、エリック・ウェストジンティウスは極大の素数の間隔は対数的よりも大きくなることを証明した[3]

である。1938年、ロバート・ランキン英語版は、無限に大きいnに対して

が成り立つ定数c > 0が存在することを示し、ウェストジンティウスとポール・エルデシュの結果を改良した。彼はのちに任意の定数c < eγ(γはオイラーの定数)を取ることができることを示した。1997年に定数cの値は2eγ以下の任意の値に改良された[25]

ポール・エルデシュは、上記の不等式の定数cが任意に大きく取れることの証明および反証に対して1万ドルの賞金を提供した[26]。これは2014年にケビン・フォード英語版ベン・グリーンセルゲイ・コンヤギン英語版テレンス・タオとジェームズ・メイナードにより独立に正しいことが証明された[27][28]

この結果はさらにフォード、グリーン、コンヤギン、テレンス・タオにより、無限に大きいnに対して

と改良された[29]

エルデシュの最初の賞の精神でテレンス・タオはこの不等式でcが任意に大きくとられる可能性があるという証明に対して1万ドルを提供した[30]

素数の連鎖の下限も決定されている[31]

素数の間隔の予想

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素数の間隔関数

リーマン予想のもとではさらに良い結果が得られる。ハラルド・クラメールはリーマン予想が、間隔gnランダウの記号を用いて

であることを暗示していることを証明した[32]。のちに、この間隔はさらに小さいと予想した。おおまかに言うと、クラメールの予想

という内容である。Firoozbakhtの予想はn番目の素数)はnの厳密に減少する関数である。すなわち、

である。この予想が真である場合、関数を満たす[33]。これはクラメールの予想の強い形を暗示しているが、GranvilleとPintzのヒューリスティックとは矛盾している[34][35][36]。これは任意のに対してが無限回起こる(オイラーの定数

その一方、Oppermannの予想はクラメールの予想より弱い。Oppermannの予想で予想される間隔は

のオーダーである。結果としてOppermannの予想の元では、全ての自然数に対してを満たす(おそらく)が存在する。

Oppermannの予想よりも弱いAndricaの予想

という内容である[37]。これは連続する平方数の間には素数が必ずあるというルジャンドル予想よりは少し強い。

Polignacの予想は、全ての正の偶数kが無限の頻度で素数の間隔として生じるという内容である。k = 2の場合は双子素数予想である。この予想は特定のkの値についてはまだ証明されておらず、反証もされていないが、張益唐の結果は少なくとも1つ(現在のところ未知)の7千万より小さいkの値については真であることが証明されている。上で議論されたように、この上限は246に改良された。

数論的関数として

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n番目の素数と(n+1)番目の素数の間の間隔gn数論的関数の1例である。この文脈では通常dnで表され、素数差分関数(prime difference function)と呼ばれる[37]。この関数は乗法的関数でも加法的関数でもない。

関連項目

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脚注

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  1. ^ "Hidden structure in the randomness of the prime number sequence?", S. Ares & M. Castro, 2005
  2. ^ オンライン整数列大辞典の数列 A001223
  3. ^ a b Westzynthius, E. (1931), “Über die Verteilung der Zahlen die zu den n ersten Primzahlen teilerfremd sind” (ドイツ語), Commentationes Physico-Mathematicae Helsingsfors 5: 1-37, JFM 57.0186.02, Zbl 0003.24601 .
  4. ^ Some Results of Research in Computational Number Theory (NEW LARGEST KNOWN PRIME GAP)”. 2021年10月27日閲覧。
  5. ^ The Top-20 Prime Gaps”. 2014年6月13日閲覧。
  6. ^ A proven prime gap of 1113106”. 2021年10月27日閲覧。
  7. ^ a b c NEW PRIME GAP OF MAXIMUM KNOWN MERIT
  8. ^ Dynamic prime gap statistics
  9. ^ TABLES OF PRIME GAPS
  10. ^ 他の記録はA111943で見ることができる。
  11. ^ NEW MAXIMAL PRIME GAPS OF 1530 AND 1550
  12. ^ 他の記録はA005250にあり、A002386の対応する素数pnA005669nの値とともに見ることができる。
  13. ^ Hoheisel, G. (1930). “Primzahlprobleme in der Analysis”. Sitzunsberichte der Königlich Preussischen Akademie der Wissenschaften zu Berlin 33: 3–11. JFM 56.0172.02. 
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関連文献

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外部リンク

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