代表なき国家民族機構
代表なき国家民族機構[1][2][3][4][5][6][7](だいひょうなきこっかみんぞくきこう)、又は、代表権をもたない国民・民族機構[8](だいひょうけんをもたないこくみん・みんぞくきこう)、代表のない民族と人々の機構[9](だいひょうのないみんぞくとひとびとのきこう)、代表権のない国家と民族の組織[10](だいひょうけんのないこっかとみんぞくのそしき)(英語: Unrepresented Nations and Peoples Organization、UNPO)は、代表権を持たずに取り残されている世界中の諸国民・諸人民・諸民族の声を促進し、彼らの基本的人権を擁護するために設立された国際的・非暴力・民主的な会員制の組織[注 1]である[14]。
概要
[編集]UNPOは、自分達の政治的・社会的・文化的な権利を防衛し、環境を保全し、自己決定権を促進するために結集した先住民族、少数民族、非承認国家、被占領領域をその会員とする[14]。UNPO内において代表される全ての諸人民・諸民族は、国内的・国際的な統治制度における平等な代表権を認められていない、という共通の境遇の下で一致している[14]。その結果、彼らは、国内的・国際的な舞台に参加する機会を制限されており、市民的・政治的な参加の権利を完全に実感するために、そして、経済的・社会的・文化的な発展を自治するために、苦闘している[14]。多くのケースにおいて彼らは、暴力や抑圧の最悪の形態の支配下にある[14]。
UNPOは、全ての会員が署名・締約する定款において以下などを掲げている[15]。
- 民族自決権をその最も広範かつ総合的な理解に基づいて解釈すること、例えば、オートノミー[注 2]、権限委譲[注 3]、パワー・シェアリング[注 4]、連邦主義が含まれ、それゆえ、いずれの形態においても分離主義 (secessionism) に対する狭量な関心や訴追を拒否すること[15]。
- 世界人権宣言、国際人権規約、先住民族の権利に関する国際連合宣言、その他の諸条約に定められた人権を堅持すること[15]。
- 個人の権利が、集団アイデンティティ[注 5]、信仰 (religious beliefs) 、意見 (opinions) 、尊厳 (Dignity) などについての表現の自由 (free expression) を含む、集団の権利の承認・保護に、密接に結び付いていることを意識・理解する (aware) こと[15]。
- 民主的な多元主義の原則を順守し、全体主義や宗教的不寛容を拒否すること[15]。
- 非暴力を促進し、テロリズムや暴力を政策の手段として使用することを拒否すること[15]。
- 環境を保全すること[15]。
沿革
[編集]1980年代の終わり、共産主義者による弾圧の下にあった人々の亡命指導者である、エストニア会議のレナルト・マル、世界ウイグル会議のエルキン・アルプテキン、チベットのための国際キャンペーンのロディ・ギャリらにより、ダライ・ラマ14世の国際法アドバイザーとして知られるマイケル・ヴァン・ウォルト・ヴァン・プラーグと共に、構想された[14]。
1991年2月11日、オランダ・ハーグの平和宮にて、オーストラリアン・アボリジナル、アルメニア人、クリミア・タタール人、コルディリェラ人、東トルキスタン(ウイグル)人、エストニア人、ジョージア(旧・グルジア)人、アルバニアにおけるギリシャ人、クルド人、ラトビア人、パラオ人、チベット人、台湾人、タタール人、パプア人(西パプア)の各々に属する運動の代表者たちによって設立され、その数ヶ月後に、アブハズ人、アチェ人(アチェ)、アッシリア人、ジュマ人 (Jumma people) (チッタゴン丘陵地帯)、南モルッカ人、ブーゲンビル人、チェチェン人、コソボ人、ザンジバル人、イラクにおけるトルクメン人らからの代表者たちが合流した[14]。
2022年3月よりはエドナ・アダン・イスマイルが組織の代表を務めている。
会員
[編集]本節の出典は[13]。
アジア
[編集]- アチェ人(アチェ / アチェ・スマトラ民族解放戦線として)
- アワジ・アラブ人(フーゼスターン州 / アワズ民主連帯党として)
- アッシリア人(アッシリア人世界同盟として)
- バローチスターン(バローチ人)
- バローチスターン州(パキスタン領バローチスターン)(バローチスターン民族党として)
- 西バローチスターン(イラン領バローチスターン)(バローチスターン人民党(Balochistan People's Party)として)
- チッタゴン丘陵地帯(ジュマ人 (Jumma people) / チッタゴン丘陵地帯統一人民党として)
- 東トルキスタン(ウイグル / 世界ウイグル会議として)
- ギルギット・バルティスタン(ギルギット管区・バルティスターン管区・ディアマー管区 / ギルギット・バルティスターン / ギルギット・バルティスタン民主同盟として)
- モン族 (Hmong)(世界モン族会議として)
- イランのクルド人(イラン・クルディスタン民主党として)
- クメール・クロム(クメール・カンプチア・クロム連盟として)
- レズギ人(連合レズギ民族・文化自治(Federal Lezghin National and Cultural Autonomy)として)
- マデシ(独立マデシ同盟として)
- ナガ族(ナガランド州 / ナガリム民族社会主義会議として)
- シンド州(シンド人 / 世界シンド人会議として)
- 南アゼルバイジャン(イラン領アゼルバイジャン)(南アゼルバイジャン民族覚醒運動として)
- 南モンゴル(内蒙古)(南モンゴル人権情報センター(Southern Mongolian Human Rights Information Center)として)
- スールー (スールー九民族部族財団として)
- 台湾(台湾民主基金会として)[16]
- チベット(チベット民族 / ガンデンポタンとして)
オセアニア
[編集]アフリカ
[編集]- アフリカーナー(自由戦線プラスとして)
- アンバゾニア (Ambazonia)
- ベラ族 (Ikelan) (マラ文化保存のためのマリ協会として)
- ビアフラ(ビアフラの主権国家の実現のための運動)
- バロッツェランド(バロッツェ民族自由同盟(Barotse National Freedom Alliance)として)
- ハラティン(奴隷制度廃止運動再生イニシアティヴとして)
- カビール人(カビリア / カビリア自己決定運動として)
- オガデン(オガデン部族 / オガデン民族解放戦線として)
- オゴニ(オゴニ民族生存運動として)
- オロモ人(オロミア州 / オロモ解放戦線として)
- レホボス・バスター
- ソマリランド(ソマリランド政府として)
- 西トーゴランド(Homeland Study Group Foundationとして)
- ヨルバ人(ヨルバ世界会議として)
- ザンベジア(ザンベジア川の民族生存運動として)
アメリカ大陸
[編集]- コロンビア特別区(コロンビア特別区における州昇格運動 / D.C.州昇格議会代表団 (D.C. Statehood Congressional Delegation) として)
ヨーロッパ
[編集]- アブハジア(アブハズ人 / アブハジア共和国外務省として)
- クリミア・タタール人(クリミア・タタール民族議会として)
- ブルターニュ(ブルターニュ地域圏)
- カタルーニャ州(カタルーニャ人 / カタルーニャ国民会議として)
- サヴォワ
かつての会員
[編集]本節の出典は[13]。
独立国家として国際連合に加盟
[編集]アジア
[編集]- ビルマ
- チン
- コルディリェラ
- デガ・モンタニャール
- イラクにおけるクルド人(クルド人 / クルディスタン / クルディスタン地域)
- イラクにおけるトルクメン人
- カレン族
- ハリスタン
- モン州
- モロ
- シャン族
- 南アラビア
- タリシュ人
オセアニア
[編集]アフリカ
[編集]- アマーズィーグ(アマジグ人)
- バトゥワ (en:Batwa) (トゥワ (en:Twa) (en:Great Lakes Twa) / ピグミー (en:Pygmy peoples) (en:African Pygmies) )
- カビンダ
- マサイ族
- 南カメルーン
- ヴァヴェンダ(ヴェンダ)
- ザンジバル
アメリカ大陸
[編集]- バッファロー川・ディネ・ネイション(ディネ)
- ラコタ(ラコタ共和国 / スー族)
- ラテンアメリカ先住民族
- マプチェ族
- アリドアメリカとバルサのナワ人
- ヌハルク・ネイション(ヌハルク族)
- ツィムシアン族(ツィムシアン語)
ヨーロッパ
[編集]- アルバニア人(大アルバニア)
- ガガウズ自治区
- アルバニアにおけるギリシャ人
- ルーマニアにおけるハンガリー人
- ルシン人
- サンジャク (en:Sanjak) (サンジャク (地名))
- スコーネ地方
- トリエステ自由地域
現在のロシア領
[編集]- バシコルトスタン共和国(バシキール人)
- ブリヤート共和国(ブリヤート人)
- チェチェン・イチケリア共和国(チェチェン人)
- チュヴァシ共和国(チュヴァシ人)
- チェルケシア(チェルケス人 / アディゲ人 / カバルド人)
- 北コーカサスの西半分にあたり、現在の(西から) クラスノダール地方の南半分、 アディゲ共和国、 カラチャイ・チェルケス共和国、 スタヴロポリ地方の南西部、 カバルダ・バルカル共和国、 北オセチア共和国などにまたがる地域。
- イングーシ共和国
- イングリア
- コミ共和国
- マリ・エル共和国(マリ人)
- サハ共和国
- タタールスタン共和国(タタール人)
- トゥヴァ共和国
- ウドムルト共和国
- クミク人
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 一般に「国際組織(国際機関)」と呼ぶと、一義的に国際連合(UN)や東南アジア諸国連合(ASEAN)などのような政府間組織(複数の国家・各国の政府の連合体)を指す[11]一方、場合・文脈により、国際非政府組織(国際NGO)や国際非営利組織(国際NPO)、すなわち、国際オリンピック委員会や赤十字国際委員会、国境なき医師団や世界自然保護基金、アムネスティ・インターナショナルやグリーンピースなどのような個人がメンバーとして参加する国際的に活動する非政府組織(NGO)・非営利団体(NPO)、或いは、国際赤十字赤新月社連盟、国際人権連盟、国際学術会議などのような(国際的ないし各国内で活動する)複数のNGO・NPOの国際的な連合体[12]の意味で使用されることもある。
が、UNPOは、- ガンデンポタンのような、自国領を脱出した亡命政府。
- 世界ウイグル会議のような、ディアスポラ状態にある民族のグローバルな代表団体(Category:ディアスポラ代表団体も参照)。
- アチェ・スマトラ民族解放戦線、オガデン民族解放戦線、オゴニ民族生存運動のような、かつて武装闘争も経験した武装勢力だった組織も含む、民族解放運動や先住民族権団体(先住民族権)。
- ソマリランド共和国政府やアブハジア共和国政府のような、事実上の独立を達成しているものの、国際的な国家の承認が不十分で、国際連合にも未加盟の政府。
- 台湾民主基金会のような、上述と同様の政府(中華民国・台湾)が設立した、非党派・非営利団体・財団法人・シンクタンク。
- アメリカ合衆国議会に投票権のある議員の選出を認められていないアメリカ合衆国の首都(アメリカ合衆国下院の投票権のないメンバーも参照)である、ワシントンD.C.市政府も後援する、州昇格運動。
- ^ 自主(自主性)・自律(自律性)・自立(自立性)・自治そのもの、或いは、その権利である自主権・自律権・自治権・自己決定権などを指す、広範かつ多義的な概念であることから、出典の英文に従う。
- ^ 典型的な事例として、イギリスにおける権限委譲を参照。
- ^ 「権力共有」、「権力分有」、「権力分掌」、「権力分担」、「権限分割」などの日本語訳がある。
- ^ アイデンティティ政治も参照。
出典
[編集]- ^ “国際会議:596実験から50年:「東トルキスタンにおける中国の核計画とその今日への衝撃」”. 世界ウイグル会議 (2012年2月22日). 2019年10月7日閲覧。
- ^ マルコ・レスピンティ (2019年8月3日). “中国が国連の人権機構を脅し、妨害する手法”. BITTER WINTER. 2019年10月7日閲覧。
- ^ “「番外編」世界旗章図鑑”. 彩流社. 2019年10月7日閲覧。
- ^ 英国内務省(法務省入国管理局訳) (2017年11月). “国別方針及び指針書 エチオピア:オロモ人、「オロモの抗議」など”. p. 17. 2019年10月7日閲覧。
- ^ “国家なき民族”. TBSラジオ (2019年10月31日). 2020年5月11日閲覧。
- ^ トーチョグ・エンフバト (2015年7月). “南モンゴルに関する決議案 UNPO総会で提案”. SMHRIC. 2020年5月11日閲覧。
- ^ 大林一広、飯田連太郎、ルイス ジョナサン「政治的暴力と語り : 内戦、議会、自動内容分析」『一橋法学』第14巻第2号、一橋大学大学院法学研究科、2015年7月、845-869頁、doi:10.15057/27408、ISSN 1347-0388、NAID 120005646665。
- ^ Lucy Westcott「民族消滅に近づくイラクの少数派」『ニューズウィーク』ニューズウィーク・CCCメディアハウス、2016年7月6日。2020年5月25日閲覧。
- ^ 酒井啓子「論文 イラクにおけるトルコマン民族 -- 民族性に基づく政党化か,政党の脱民族化か」『アジア経済』第48巻第5号、日本貿易振興機構アジア経済研究所、2007年5月、21-48頁、ISSN 00022942、NAID 120006225904。
- ^ 荒川麻里「カメルーン共和国の教育制度と開発援助の現状」『教育制度研究紀要』第8号、筑波大学教育制度研究室、2013年2月、1-12頁、NAID 120005246607。
- ^ Appel, Benjamin J. (January 2018). “Intergovernmental Organizations and Democratic Victory in International Crises”. The Journal of Politics 80 (1): 274-287. doi:10.1086/694256.
- ^ Ahmed, Shamima; Potter, David M. (2006). NGOs in international politics. Bloomfield, CT: Kumarian Press. ISBN 9781565493469. OCLC 732955747
- ^ a b c "Members". Unrepresented Nations and Peoples Organization (英語). 2020年5月11日閲覧。
- ^ a b c d e f g “unpo About UNPO”. UNPO. 2020年5月24日閲覧。
- ^ a b c d e f g “unpo UNPO Covenant”. UNPO. 2020年5月24日閲覧。
- ^ “unpo Taiwan”. UNPO (2018年7月19日). 2020年6月1日閲覧。