三十六貝歌合
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三十六貝歌合(さんじゅうろくかいうたあわせ)は、貝類を題材とした歌合形式の秀歌選である。
概要
[編集]「潜蜑子」と署名された1690年(元禄3年)の序を持つこと以外、編者や成立年代については明らかでない。古今和歌集仮名序を模した序に続き、三十六番歌合形式による72首、及び貝に関するその他の歌41首を掲載する。序も含めた歌数は重複を除き85首、題材とされた貝類の名称は重複を除き51種である[1]。出典となる歌集は、勅撰集・私撰集・私家集・歌合・定数歌と広い範囲にわたり、出典不明の歌も含まれる。写本は上下二巻に分かれており、上巻には序と歌合の前半18番36首、下巻には歌合の後半18番36首と残りの歌を収める。歌合の後半部には重複歌が多く、下巻全体の構成も雑然としていることから、上巻の序と18番のみが、本来の『三十六貝歌合』だった可能性もある。
歌題と歌人
[編集]貝 | 作者 | 貝 | 作者 | 貝 | 作者 | 貝 | 作者 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | あこやの貝 | 西行法師[@ 1] | 2 | しほ貝[* 1] | 紀貫之[@ 2] | 3 | まてかた | 家隆[@ 3] | 4 | ほたる貝[* 2] | [@ 4] |
5 | あま貝 | 6 | したゝミ[* 3] | [@ 5] | 7 | したゝミ[* 3] | 西行法師[@ 6] | 8 | 身なし貝 | ||
9 | 身なし貝 | [@ 7] | 10 | にしき貝[* 4] | 11 | にしき貝[* 4] | [@ 8] |
斜体 は重複歌を示す。
貝 | 作者 | 貝 | 作者 | 貝 | 作者 | 貝 | 作者 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
忘貝[* 6] | (定家)[@ 52] 中納言定頼[@ 53] 順徳院 讀人しらす[@ 54] |
櫻貝 | 西行法師[@ 55] 前中納言定家 |
まて | (源英明)[@ 56] 家隆卿 |
物あら貝 | |
片貝[* 21] | (二品法親王聖尊)[@ 57] (後花園院) 知家卿[@ 58] |
法螺 | 行圓 | 鮑 | (牡丹花) 慈鎮和尚[@ 59] 六条院宣旨[@ 60] 讀人しらす[@ 61] |
空瀬貝[* 22] | 讀人不知 讀人不知[@ 62] 俊頼朝臣[@ 63] |
文蛤 | [@ 64] | 蜆 | 讀人不知[@ 65] | 蛤 | 西行法師 | 白貝[* 11] | [@ 66] |
舌鄙[* 3] | 西行法師 | 海水貝[* 1] | (紀貫之) 師兼 |
枕貝[* 15] | 大江廣重 | 濱つゝら[* 33] | |
かき貝 | 西行法師[@ 67] | きす貝[* 34] | われ貝[* 35] | 信実[@ 68] | 小貝[* 27] | 西行法師[@ 69] [@ 70] (源師光) | |
烏貝[* 30]の かくし題 |
隆信朝臣[@ 71] | 海松 | 惠慶法師[@ 72] [@ 73] [@ 74] (伊勢)[@ 75] |
蝉貝[* 36] | [@ 76] |
斜体 は重複歌を示す。
伝本
[編集]類書
[編集]1748年(延享5年)に京都と江戸で出版された『教訓注解 繪本貝歌仙』(東北大学狩野文庫)には、36種の貝が和歌・挿絵と共に掲載されている。
1 | すだれ貝[* 5] | 2 | わすれ貝[* 6] | 3 | 梅の花貝[* 7] | 4 | 桜貝 | 5 | 花貝[* 8] | 6 | ますう貝[* 9] |
7 | むらさき貝[* 10] | 8 | 白貝[* 11] | 9 | なでしこ貝[* 12] | 10 | なミまがしわ[* 13] | 11 | きぬた貝[* 14] | 12 | まくら貝[* 15] |
13 | にしき貝[* 4] | 14 | いろ貝[* 16] | 15 | ほらの貝 | 16 | ミやこ貝[* 17] | 17 | うらうつ貝[* 18] | 18 | さたへ貝 |
19 | 千鳥貝[* 19] | 20 | すゞめ貝[* 20] | 21 | いたや貝 | 22 | あこや貝 | 23 | あわび | 24 | かたし貝[* 21] |
25 | うつせ貝[* 22] | 26 | 身なし貝 | 27 | あさり | 28 | しほ貝[* 1] | 29 | 物あら貝 | 30 | かたつ貝[* 24] |
31 | あし貝[* 25] | 32 | みぞ貝[* 26] | 33 | はまぐり | 34 | しゞみ貝 | 35 | こがい[* 27] | 36 | ちくさ貝[* 28] |
桜貝と花貝が入れ替わっていることを除けば、配列も含め、貝も和歌も本書の上巻の18番歌合と一致している。貝を三十六歌仙に擬したものとして、この36首が定型化していたことがわかる。
脚注
[編集]和歌出典
[編集]- ^ 『山家集』 下 8383
- ^ 『古今和歌集』 巻第十九 短歌(実際は長歌)01002 の一部。
- ^ 『新勅撰和歌集』 巻第十九 雑歌四 01290
- ^ 『壬二集』 中 13631
- ^ 『拾遺和歌集』 巻第七 物名 したゝみ 00413
- ^ 『山家集』 下 8376
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十五 雑部七 11401 光台院入道二品のみこ
- ^ 長久元年五月六日斎宮良子内親王貝合 29
- ^ 『山家集』 下 8188
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13080
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13092
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13099
- ^ 『建保名所百首』
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13103
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13107
- ^ 『歌枕名寄』 第十八 4849
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13102
- ^ 『藻塩草』 第十三
- ^ 『倭訓栞』「まくらがひ」
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十五 雑部七 11750
- ^ 『夫木和歌抄』 第三十五 雑部十七 16550
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13097
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13101
- ^ 『山家集』 下 8372
- ^ 『新古今和歌集』 巻第十八 雑歌下 御返し 後白川院御歌 01726
- ^ 『山家集』 下 8190
- ^ 『新撰和歌六帖』 第三 1159
- ^ 『後花園院集』 478
- ^ 『続後撰和歌集』 巻第十八 雑歌下 題しらす 好忠 01232
- ^ 『新撰和歌六帖』 第三 1160
- ^ 『師兼卿千首』
- ^ 『海道記』
- ^ 『新千載和歌集』 巻第二十 慶賀歌 02357
- ^ 『夫木和歌抄』 第三十五 雑部十七 俊頼朝臣 16750
- ^ 『山家集』 下 8382
- ^ 『為尹卿千首』
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十三 雑部五 10298(『御室五十首』旅3首の1首 801)
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13096
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13078
- ^ 『拾遺愚草員外』 雑歌上 11418
- ^ 『新後撰和歌集』 巻第十二 恋歌二 弘長元年百首歌奉りける時、不逢恋 00937
- ^ 『後撰和歌集』 巻第十三 恋歌五 せうそこかよはしけれともまたあはさりける男を、これかれあひにけりといひさはくを、あらかはさなりとうらみつかはしけれは 00904
- ^ 『万葉集』 第十一 2796
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十五 雑部七 11592
- ^ 『山家集』 下 8191
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13105
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13084
- ^ 『新後撰和歌集』 巻第十二 恋歌二 堀川院に、百首歌たてまつりける時 00929
- ^ 『夫木和歌抄』 第六 春部六 2087
- ^ 『山家集』 下 8187
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13100
- ^ 『拾遺愚草』 上 9719
- ^ 『後拾遺和歌集』 第八 別 さぬきへまかりける人につかはしける 00486
- ^ 『万葉集』 第七 1147
- ^ 『山家集』 下 8186
- ^ 『後撰和歌集』 巻第十三 恋歌五 心にもあらてひさしくとはさりける人のもとにつかはしける 00917
- ^ 『新葉集』 第十二 恋歌二 730
- ^ 『新撰和歌六帖』 第五 1463
- ^ 『拾玉集』 第二 3243
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十六 雑部八 12052
- ^ 『新勅撰和歌集』 巻第十四 恋歌四 00874
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十五 雑部七 11397 従三位範宗卿
- ^ 『続後撰和歌集』 巻第十七 雑歌中 01167
- ^ 『新撰和歌六帖』 第三 1156
- ^ 『万葉集』 第六 997
- ^ 長久元年五月六日斎宮良子内親王貝合
- ^ 『山家集』 下 8371
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十七 雑部九 13095
- ^ 『山家集』 下 8185
- ^ 『山家集』 下 8184
- ^ 『続後拾遺和歌集』 巻第七 物名 からすかひ 00520
- ^ 『恵慶法師集』 23982
- ^ 『恵慶法師集』 24048
- ^ 『夫木和歌抄』 第二十五 雑部七 11516
- ^ 『伊勢集』 18607
- ^ 長久元年五月六日斎宮良子内親王貝合
注釈
[編集]- ^ a b c d 潮貝。海に住む貝類の総称。
- ^ “Olivellidae”. Olivella japonica(ホタルガイ). Natural History Museum Rotterdam. 2012年1月4日閲覧。
- ^ a b c 「シタダミ」は、海産の貝(キサゴやイシダタミに類する)を指す場合と、淡水の貝(カワニナ等)を指す場合がある。
- ^ a b c d e “収蔵資料”. Chlamys squamata ニシキガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c “貝の写真ギャラリー”. マルスダレガイの仲間. 鳥羽水族館. 2012年1月4日閲覧。
- ^ a b c d “収蔵資料”. Cyclosunetta menstrualis ワスレガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月4日閲覧。
- ^ a b c “収蔵資料”. Pillucina pisidium ウメノハナガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c “収蔵資料”. Placamen tiara ハナガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月6日閲覧。
- ^ a b c “動植物標本”. マスオガイ マルスダレガイ目 Veneroida シオサザナミ科 Psammobiidae 学名: Psammotaea elongata (Lamarck, 1818). 風樹館:琉球大学資料館. 2012年1月4日閲覧。
- ^ a b c “レッドデータブックあいち2009”. ムラサキガイ Soletellina diphos (Linnaeus). 愛知県. 2012年1月4日閲覧。
- ^ a b c d “臼尻水産実験所”. 軟体動物門 腹足綱 前鰓亜綱 カサガイ目 ユキノカサガイ科 シロガイLottia cassis (Eschscholtz, 1833) ※引用者注:関東等で「シロガイ」と呼ばれて食用にされている二枚貝は、マルスダレガイ目ニッコウガイ科のサラガイ、アラスジサラガイ、ベニザラガイの総称である。『教訓注解 繪本貝歌仙』は、二枚貝として挿図を描いている。. 北海道大学. 2012年1月4日閲覧。
- ^ a b c “収蔵資料”. Chlamys irregularis ナデシコガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c “収蔵資料”. Anomia chinensis ナミマガシワ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c タカラガイの仲間。チャイロキヌタ(茶色砧)Cypraea artuffeli Jousseaume, 1872、クチグロキヌタ(口黒砧)en:Erronea onyx、ホシキヌタ(星砧)en:Lyncina vitellus 等。一方、『教訓注解 繪本貝歌仙』は、二枚貝として挿図を描いている。Soletellina atrata Reeve アケボノキヌタ を意図しているか。
- ^ a b c “収蔵資料”. Oliva mustelina マクラガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c 色貝は、螺鈿の技法の一つで、金箔や彩色により薄貝に色彩を持たせるもの。歌は単に「色々な貝」として詠まれている。
- ^ a b c “デジタル大辞泉”. みやこ‐がい 〔‐がひ〕 【都貝】 ニシキガイの別名。 ※引用者注:『教訓注解 繪本貝歌仙』は、巻貝として挿図を描いている。. 小学館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c “収蔵資料”. Astralium haematragum ウラウズガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b 「チドリ」と名の付く貝は、マルスダレガイ目チドリマスオ科の二枚貝 Donacilla picta、盤足目スズメガイ科の巻貝フウリンチドリ Cheilea equestris、タカラガイの仲間チドリダカラ(千鳥宝)Pustularia cicercula lienardi がある。『教訓注解 繪本貝歌仙』の挿図からは判然としない。
- ^ a b c “収蔵資料”. Pilosabia trigona スズメガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c d “デジタル大辞泉”. かたし‐がい 〔‐がひ〕 【片し貝】 二枚貝の貝殻が離れて1枚になったもの。かたつがい。. 小学館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c d “デジタル大辞泉”. うつせ‐がい 〔‐がひ〕 【▽空貝/▽虚貝】 1 海岸に打ち寄せられた、からになった貝。貝殻。和歌では「実なし」「むなし」「あはず」や同音の反復で「うつし心」などを導く序詞に用いられる。2 ツメタガイ・ウズラガイの別名。 ※引用者注:『教訓注解 繪本貝歌仙』は、ウズラガイにやや似た巻貝として挿図を描いている。. 小学館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ 光台院御室 入道二品 道助法親王。
- ^ a b c 「津貝」は不詳。「かたつがい」は、「かたしがい」「かたせがい」と同じ。歌は単に「片貝」として詠まれている。
- ^ a b c “収蔵資料”. Gari maculosa アシガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c “収蔵資料”. Siliqua pulchella ミゾガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ a b c 小さな貝。『教訓注解 繪本貝歌仙』の挿図も雑多な貝を示す。
- ^ a b c “収蔵資料”. Cantharidus japonicus チグサガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月5日閲覧。
- ^ 磯貝。磯に住む貝類の総称。
- ^ a b “収蔵資料”. Cristaria plicata カラスガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月6日閲覧。
- ^ “日本大百科全書”. ソデガイ(そでがい)【袖貝】 軟体動物門の腹足綱と二枚貝綱に属する、それぞれ一部の貝類の総称。異なった類を同名でよぶので混乱しやすいが、名はいずれも貝殻の形に由来する。. 小学館. 2012年1月6日閲覧。
- ^ “収蔵資料”. Arca avellana フネガイ. 京都大学総合博物館. 2012年1月6日閲覧。
- ^ “デジタル大辞泉”. はま‐つづら 【浜▽葛】 浜辺に生えるつる草。. 小学館. 2012年1月6日閲覧。
- ^ “収蔵資料”. Actaeopyramis eximia ヒメゴウナ. 京都大学総合博物館. 2012年1月6日閲覧。
- ^ 破貝。割れた貝殻。
- ^ 蝉貝。歌からは鳴く貝と認識されていたようだが、不詳。
出典
[編集]- ^ 富山(参考文献)
参考文献
[編集]- 富山高至 『恩頼堂文庫旧蔵 伝霊元天皇宸筆 三十六貝歌合』 影印叢書 1985年1月 和泉書院 ISBN 978-4870881761
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 東北大学デジタルコレクション 狩野文庫データベース 教訓注解 繪本貝歌仙 三卷 三册 / 西川祐信畫