ポリュイードス
ポリュイードス(古希: Πολύιδος, Polyīdos)、あるいはポリュエイドス(古希: Πολύειδος, Polyeidos)は、ギリシア神話の占い師、予言者である。長母音を省略してポリュイドスとも表記される。
コリントス、アルゴス、あるいはビュザンティオンの出身[1]とされる。レーロスのペレキューデースによると、暁の女神エーオースに愛されたクレイトスの子コイラノスの子[2]。パウサニアスによるとアバースの子コイラノスの子[3]。いずれの説でも予言者メラムプースの子孫にあたる。ピューレウスの娘エウリュダメイアとの間に、クレイトス[2]、エウケーノール[4]、アステュクラテイア、マントーをもうけた[3]。
ポリュイードスに関する神話では、クレータ王ミーノースの子グラウコスを蘇生させたこと、ベレロポーンに天馬ペーガソスを捕らえる助言をしたこと[5]、ミューシア王テウトラースの狂気を癒したこと[6][7]、また我が子エウケーノールの死を予言したこと[8]などが知られるが、特にグラウコスの蘇生が有名で[9][1]、これとほぼ同じ話が『グリム童話』にも収録されている[10]。
神話
[編集]グラウコスの捜索
[編集]クレータ王ミーノースの子グラウコスは、幼いときにネズミを追いかけて、蜂蜜を入れた大甕に落ち、溺れ死んだ。ミーノースはグラウコスの姿が見当たらないので大捜索を行ったが発見できず、神託に頼った。するとクーレースたち(あるいはアポローン神[1])は、ミーノースが持っている牛の群の中に不思議な牝牛が生まれており、その牛の色をうまく表現できた者がグラウコスを生きて返すだろう、と告げた。調べてみると確かに不思議な牝牛がおり、その牝牛の色は1日のうちに3回、白色から、赤色、黒色に変化した。そこでミーノースは予言者たちを集めたが、その中にポリュイードスがおり、ポリュイドースは牝牛の色を桑の木にたとえた。というのは色の変化が桑の実が熟す様子に似ていたためである。
その答えに納得したミーノースは、ポリュイードスにグラウコスの捜索を命じた。ポリュイードスは酒蔵の屋根にフクロウが止まり、ミツバチの群を追い払っているのを見て前兆と受け取り[注釈 1]、ハチミツを入れた大甕の中にグラウコスの遺体を発見した[9]。
グラウコスの蘇生
[編集]しかしミーノースはポリュイードスをグラウコスの遺体とともに墓に閉じ込め、グラウコスを生き返らせることができたら解放すると言った。ポリュイードスは困り果てたが、しばらくすると蛇が現れ、グラウコスの遺体に近づいていった。それを見たポリュイードスは遺体が損なわれたときの王の怒りを恐れ、蛇を殺した。すると今度は別の蛇が現れて、先ほどの蛇が死んでいるのを見つけると1度どこかに行き、再び戻ってきて、口にくわえた葉を蛇の遺体にのせた。すると不思議なことに死んだはずの蛇が生き返った。ポリュイードスは大いに驚き、人間にも効くかもしれないと考え、同じ葉をグラウコスの遺体にのせてみるとグラウコスもまた生き返った。
ミーノースはすっかり感心し、グラウコスに予言の術を教えてほしいと頼み込んだ。ポリュイードスは断ったが、ミーノースは教えるまで島を出ることを許さなかったので、ポリュイードスは仕方なく予言の術を教えた。その後ポリュイードスは島を去るとき、グラウコスに自分の口にめがけて唾を吐くように命じた。グラウコスがそのようにすると、グラウコスは教わったことをみな忘れてしまったという[11]。
系図
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脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ フクロウは不吉な兆候とされた。
脚注
[編集]参考文献
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍溪書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ピンダロス『祝勝歌集/断片集』内田次信訳、京都大学学術出版会(2001年)
- ホメロス『イリアス(下)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)