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蛙と牛

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
蛙と牛(1918年)

蛙と牛」(かえるとうし)はイソップ寓話の一篇。ペリー・インデックスの376番。蛙が牛をまねようとして腹をふくらませる話で、身の程を知らぬ慢心を戒める内容になっている。

出典

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蛙と牛の話はアウグスブルク校訂本・ウィーン写本・アックルシウス版などの散文のギリシア語イソップ寓話集には見えていない[1]。しかし紀元前1世紀のホラティウス『諷刺詩』に見え、また1世紀のパエドルスによるラテン語韻文およびバブリオスのギリシア語韻文による『イソップ風寓話集』には見えている[2]

あらすじ

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ホラティウスとバブリオスのものは大体同内容で、それによれば牛が子蛙を踏みつぶしてしまう。生きのこった子蛙が母蛙に大きな獣につぶされたことを伝えると、母蛙はその獣がどのくらい大きかったかを知るために自分の腹をふくらませて見せるが、子蛙は実際の大きさに近づく前に腹が破裂してしまうと言って止める[3][4]

パエドルス版では、牛を見てその大きさに嫉妬した母蛙が自分の腹をふくらませ、子蛙に自分が牛より大きくなったか尋ねるが、子蛙たちは否定する。母蛙はさらに腹をふくらませようとする。これをくり返すうちに母蛙は体が破裂して死んでしまう[4]

教訓

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パエドルス版には「力のない者が力のある者をまねようと望むと滅んでしまう」という教訓がつけられている[4]

伝承

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ラ・フォンテーヌ版の挿絵

パエドルス版は中世の散文によるロムルス集を経て15世紀にハインリヒ・シュタインヘーヴェル (de:Heinrich Steinhöwelによって編集出版された[5]。シュタインヘーヴェル版は1483年ごろにジュール・マショーによってフランス語に翻訳され、ウィリアム・カクストンは1484年にマショーの本を英語に重訳した[6]。マショーおよびカクストン版の「蛙と牛」では最後の部分が母蛙を牛が踏みつけて破裂させるように改変されている[7]

17世紀のラ・フォンテーヌの寓話詩において「牛なみの大きさになろうとする蛙」 (fr:La Grenouille qui se veut faire aussi grosse que le bœufは3番目に置かれ、貴族の真似をしたがるブルジョワ(現代の意味ではなく平民の意)などはこの話の蛙のようなものだと説く。

日本では江戸初期の『伊曽保物語』下巻に「蛙と牛の事」という題で載せられている[8]。近代では慶応4年(1868年)の『遠近新聞(おちこちしんぶん)』15号に見えている[9][10]渡部温通俗伊蘇普物語』に収録されて以来、教科書にたびたび採用されて広く知られた[11]。なお『通俗伊蘇普物語』の原書であるトーマス・ジェームズ版の「蛙と牛」(The Frog and the Ox)の話は基本的にパエドルスによっているが、ホラティウスやバブリオスの要素も混用されている[12]

脚注

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  1. ^ 吉川 2020, p. 207.
  2. ^ 吉川 2020, p. 204.
  3. ^ 中務 1999, p. 277-278.
  4. ^ a b c 吉川 2020, pp. 209–210.
  5. ^ 小堀 2001, p. 153.
  6. ^ 小堀 2001, pp. 160–161.
  7. ^ 吉川 2020, pp. 213–214.
  8. ^ 小堀 2001, pp. 13–14.
  9. ^ 吉川 2020, p. 269.
  10. ^ 遠近新聞. 第1-20号』遠近新聞社、1868年https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/i08/i08_00017/index.html (早稲田大学古典籍総合データベース。79葉「喩言(たとへ)二則」に見える)
  11. ^ 小堀 2001, pp. 14–15.
  12. ^ 吉川 2020, p. 211.

参考文献

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  • 小堀桂一郎『イソップ寓話―その伝承と変容』講談社現代新書、2001年(原著1978年)。ISBN 4061594958 
  • 中務哲郎 訳『イソップ寓話集』岩波文庫、1999年。ISBN 400321031X 
  • 吉川斉『「イソップ寓話」の形成と展開』知泉書館、2020年。ISBN 9784862853103 

関連項目

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  • 猿猴捉月 - 猿猴(テナガザル)を題材にした仏教の説話。身の程知らずの行動が失敗や破滅を招くという、類似した戒めを説く。

外部リンク

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