箱男 (映画)
箱男 | |
---|---|
The Box Man | |
監督 | 石井岳龍 |
脚本 |
いながききよたか 石井岳龍 |
原作 |
安部公房『箱男』 (新潮文庫、1973年) |
製作 |
小西啓介 関友彦 |
出演者 |
永瀬正敏 浅野忠信 白本彩奈 佐藤浩市 渋川清彦 中村優子 川瀬陽太 |
音楽 | 勝本道哲 |
撮影 | 浦田秀穂 |
編集 | 長瀬万里 |
制作会社 | コギトワークス |
製作会社 | 映画『箱男』製作委員会 |
配給 | ハピネットファントム・スタジオ |
公開 | 2024年8月23日 |
上映時間 | 120分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
『箱男』(はこおとこ)は、2024年(令和6年)に公開された日本映画。監督は石井岳龍、主演は永瀬正敏と浅野忠信。段ボール箱を被って生活する男を描いた奇妙な物語であり、1973年(昭和48年)に安部公房が著した長編小説『箱男』を原作としている[1]。PG12指定[2]。
ストーリー
[編集]カメラマンの“わたし”はたまたま目にした「箱男」に魅せられ、自身も段ボール箱を被って「箱男」となる[3]。しかし“わたし”の前には、箱を乗っ取ろうとするニセ医者、箱を完全犯罪に利用しようとする軍医、謎めいた言動を見せる葉子らが現れる[3]。
キャスト・スタッフ
[編集]キャスト
[編集]スタッフ
[編集]- 原作:安部公房『箱男』(新潮文庫刊)
- 監督:石井岳龍[4][2]
- 脚本:いながききよたか、石井岳龍[4][2]
- プロデューサー:小西啓介、関友彦[4][2]
- ラインプロデューサー:稲垣隆治[2]
- 撮影:浦田秀穂[2]
- 照明:常谷良男[2]
- 録音:古谷正志[2]
- 美術:林田裕至[2]
- 編集:長瀬万里[2]
- VFX:井上浩正、山田彩友美[2]
- カラリスト:カロル・カチョロフスキ[2]
- 音楽:勝本道哲[2]
- 音響効果:勝俣まさとし[2]
- スタイリスト:小笠原吉恵[2]
- キャラクタースーパーバイザー(ヘアメイク):橋本申二[2]
- 助監督:佐藤匡太郎[2]
- 制作担当:飯塚香織[2]
- アシスタントプロデューサー:安斎みき子[2]
- 助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
- 制作プロダクション:コギトワークス[4]
- 製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ[4]
- 製作:映画『箱男』製作委員会[4]
製作
[編集]安部公房は現代日本文学を代表する作家の一人である。1973年(昭和48年)に著した長編小説『箱男』は、20数か国で翻訳・出版されており、熱狂的な読者を持つ作品とされるが、テーマの難解さが理由で映像化は困難とされていた[5]。
1997年の映画化決定と中止
[編集]1992年(平成4年)、映画監督の石井聰亙(後に石井岳龍に改名)は安部と初めて対面した[3]。安部は石井の『逆噴射家族』や『ノイバウテン 半分人間』などの作品を観ており、石井は「娯楽にしてくれ」の言葉とともに映画化の承諾を得た[3]。安部が急逝したのは1993年(平成5年)1月のことである[3]。
1997年(平成9年)には製作が開始され、日本とドイツの合作映画となる予定だった[3]。後に石井作品の常連となる永瀬正敏にとって石井との初仕事であり、クランクインの1か月前からハンブルクに滞在し、ホテルの部屋で段ボール箱を被って役作りを行った[6]。しかし、日本側の製作資金の問題が原因で[7]、クランクイン直前に製作が頓挫した[3]。永瀬の他には佐藤浩市の出演も決定していたが、永瀬と佐藤は19年後の2016年(平成28年)公開の映画『64(ロクヨン)』で初共演を果たしている[8]。
安部公房の死去後には娘の安部ねりが著作権を引き継いでいる[3]。1997年(平成9年)版の脚本はアクション要素が強く、安部ねりからは製作を再開する場合の原作への忠実さを要望された[3]。石井は様々な場所で製作の再開を持ちかけたが、なかなか良い返事が得られなかった[8]。
2024年の映画化
[編集]2013年(平成25年)、コギトワークスの関友彦が石井の企画に興味を示し、 2015年(平成27年)には映画の初稿が完成した[8]。関は8年間にわたって出資者探しに奔走し、2022年(令和4年)にはハピネットファントム・スタジオの参画が決定した[8]。ハピネットファントム・スタジオは日本における配給も担当している。
製作中止から27年の時を経て、安部公房生誕100年の2024年(令和6年)の公開を前提に製作が再開された[9]。監督は27年前同様に石井岳龍、主演は27年前同様に永瀬正敏である[7][10][11]。1997年(平成9年)版には出演しなかった浅野忠信がニセ医者役に配されている。永瀬と浅野は石井監督作品の常連であり、『五条霊戦記 GOJOE』、『ELECTRIC DRAGON 80000V』、『DEAD END RUN』、『パンク侍、斬られて候』などでも共演している[8]。葉子役はオーディションによって白本彩奈に決定した[8]。原作が書かれた約50年前との時代の変化もあり、葉子の人物描写は現代に即した形に変更されている[8]。
脚本はいながききよたかと石井が担当しているが、いながきは10代の頃から安部公房に耽溺していた人物である[12]。美術は1997年(平成9年)版でも担当するはずだった林田裕至である[8]。2023年(令和5年)夏に日本での撮影が開始され[13]、茨城県笠間市にある旧茨城県立友部病院(旧筑波海軍航空隊司令部庁舎)が医院のロケ地となった[8]。
公開・評価
[編集]2024年(令和6年)2月、ドイツ・ベルリンで開催された第74回ベルリン国際映画祭の「ベルリナーレ・スペシャル」部門に正式招待され[14][15][16][17]、ベルリン国際映画祭がワールドプレミアとなった[18]。石井岳龍監督、出演した永瀬正敏、浅野忠信、佐藤浩市がベルリン国際映画祭に参加し、上映終了後には拍手で迎えられた[18]。
2024年(令和6年)8月23日に公開された[4]。映画評論家の大高宏雄は、公開3日目の8月25日に新宿ピカデリーで本作品を鑑賞しているが、客席はほぼ満席であり、観客は年配者が多かったという[19]。大高は本作品を鑑賞して、1960年代から1970年代前半頃の作家性・芸術性が際立っていた日本アート・シアター・ギルド(ATG)作品を想起したと語っている。8月23日から8月25日までの3日間(公開週末の金・土・日)には全国57館で上映され、動員1万2143人、興行収入1796万6570円を記録した。
石井岳龍監督の「映画表現と文学表現を横断する」一連の試みの集大成とも言うべき力作。前衛的文芸作でありながら「ELECTRIC DRAGON 80000V」顔負けのアクション娯楽作にもなっていて、確かにこれは石井監督にしか作れない。 — 岡本敦史(ライター、編集) - 「REVIEW」『キネマ旬報』2024年9月号
安部公房の原作は遥か昔、背伸びをして読み、リアルな観念小説という記憶以外、ほとんど忘れていたのだが、石井監督がその観念を人物たちの言動と挑発的な映像で具象化しようとしていることに敬服する。 — 北川れい子(映画評論家) - 「REVIEW」『キネマ旬報』2024年9月号
90年代日本映画にどっぷり浸かった身としては「暴走機関車」「連合赤軍」より実現を夢見た幻の企画だけに感無量。意外や緻密に原作を解体再構築しており、箱男たちが全力疾走し、過剰なまでのアクションを見せる野放図な石井の世界と接合させる荒業が成立してしまう。 — 吉田伊知郎(映画評論家) - 「REVIEW」『キネマ旬報』2024年9月号
脚注
[編集]- ^ “『箱男』第74回ベルリン国際映画祭Berlinale Special部門正式招待決定!”. Cinema Factory (2024年1月16日). 2024年10月29日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z “箱男”. 映画.com. 2024年10月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 石井岳龍、佐々木敦「爆裂内省メタアクション 映画『箱男』公開!! 対談 石井岳龍×佐々木敦」『芸術新潮』、新潮社、2024年9月、106-110頁。
- ^ a b c d e f g “永瀬正敏主演×石井岳龍監督『箱男』ポスタービジュアル&予告編 公開日は8月23日に決定”. リアルサウンド映画部 (2024年6月6日). 2024年10月4日閲覧。
- ^ “映画『箱男』安部公房の同名小説を実写化、主演・永瀬正敏が“ダンボールを被った箱男”に”. ファッションプレス (2024年8月19日). 2024年10月29日閲覧。
- ^ 「私の記念碑 俳優 永瀬正敏さん 下 27年の悲願『箱男』さらに攻める」『毎日新聞』2024年8月25日。
- ^ a b “「箱男」企画頓挫の悲劇から27年、沈黙の期間に何があった? 当時の貴重写真&映画化までの軌跡が初公開”. 映画.com (2024年8月5日). 2024年10月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i 金澤誠「『箱男』撮影現場ルポ 石井岳龍監督 27年前の幻の企画、ついに実現」『キネマ旬報』、キネマ旬報社、2024年8月、94-98頁。
- ^ “「箱男」企画頓挫の悲劇から27年、沈黙の期間に何があった? 当時の貴重写真&映画化までの軌跡が初公開”. 映画.com (2024年8月5日). 2024年10月4日閲覧。
- ^ “映画『箱男』安部公房の同名小説を実写化、主演・永瀬正敏が"ダンボールを被った箱男"に”. ファッションプレス (2024年2月9日). 2024年10月29日閲覧。
- ^ “永瀬正敏「20数年の思いこめて」安部公房さん原作映画「箱男」主演 共演は浅野忠信、佐藤浩市”. ニッカンスポーツ (2023年5月17日). 2024年10月29日閲覧。
- ^ いながききよたか「脚本ノート 『箱男』について」『シナリオ』、日本シナリオ作家協会、2024年10月、14-15頁。
- ^ Rosser, Michael (2023年5月17日). “Gakuryu Ishii to direct adaptation of 'The Box Man', cast revealed (exclusive)”. ScreenDaily. 2024年10月29日閲覧。
- ^ “ベルリンで世界に注目「箱男」主演・永瀬正敏、石井岳龍監督が掴んだ手応え”. Forbes JAPAN. 2024年4月5日閲覧。
- ^ Abbatescianni, Davide (2024年1月16日). “Berlin announces a raft of new titles for its Berlinale Special and Shorts”. Cineuropa. 2024年10月29日閲覧。
- ^ Dalton, Ben (2024年1月15日). “Berlinale adds Korean action film 'The Roundup: Punishment', 'Love Lies Bleeding' with Kristen Stewart to Special strand”. ScreenDaily. 2024年10月29日閲覧。
- ^ “The Box Man”. ベルリン国際映画祭 (2024年2月6日). 2024年10月29日閲覧。
- ^ a b “石井岳龍監督、27年越しの企画「箱男」ベルリンでお披露目に万感 永瀬正敏×佐藤浩市×浅野忠信にも感謝”. 映画.com (2024年2月19日). 2024年10月29日閲覧。
- ^ 大高宏雄「大高宏雄のファイト・シネクラブ 『箱男』、安部公房、ATG」『キネマ旬報』、キネマ旬報社、2024年10月、114頁。
参考文献
[編集]- 金澤誠「『箱男』撮影現場ルポ 石井岳龍監督 27年前の幻の企画、ついに実現」『キネマ旬報』、キネマ旬報社、2024年8月、94-98頁。
- 永瀬正敏、浅野忠信、岡本敦史「箱男 永瀬正敏 CROSS TALK 浅野忠信 ニセ箱男」『キネマ旬報』、キネマ旬報社、2024年9月、64-73頁。
- 石井岳龍、佐々木敦「爆裂内省メタアクション 映画『箱男』公開!! 対談 石井岳龍×佐々木敦」『芸術新潮』、新潮社、2024年9月、106-110頁。
- いながききよたか、石井岳龍「箱男」『シナリオ』、日本シナリオ作家協会、2024年10月、18-41頁。