第一書房 (第1期)
種類 | 個人商店 |
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本社所在地 |
日本 〒102-0075 東京市麹町区三番町1番地 (現在の東京都千代田区三番町1番地) 北緯35度41分22秒 東経139度44分42秒 / 北緯35.68944度 東経139.74500度 |
設立 | 1923年 |
業種 | 出版業 |
事業内容 | 書籍、雑誌の編集発行 |
代表者 | 長谷川巳之吉 |
主要株主 |
長谷川巳之吉 大田黒元雄 |
関係する人物 |
堀口九萬一 堀口大學 田部重治 |
特記事項:1944年3月末 廃業 |
第一書房(だいいちしょぼう、1923年 創業 - 1944年3月31日 廃業)は、かつて存在した日本の出版社である。大正末年から戦前の昭和期に長谷川巳之吉が創業し、書物の美にフェティッシュにこだわり、絢爛とした造本の豪華本を刊行、「第一書房文化」と讃えられたことで知られる。
現在文京区本郷にある出版社・古書店の「株式会社第一書房」とは無関係である。
略歴・概要
[編集]1923年(大正12年)、29歳の編集者・長谷川巳之吉が、東京市麹町区三番町1番地(現在の東京都千代田区三番町1番地)に設立した[1]。
1929年(昭和4年)には福田清人が入社している。社員編集者に野田宇太郎、十返肇、斎藤春雄、伊藤濤一(伊藤文學の父)、春山行夫(モダニズム詩人・編集者)、上田保(英文学者)、佐川英三(詩人)らがいた。冨士原清一(シュルレアリスム詩人・翻訳家)も一時在籍していた。堀口九萬一・堀口大學父子、大田黒元雄、田部重治らの翻訳や著作を多く出版した。「音楽と文学社」として自費出版していた大田黒は、第一書房を資金的にも大いに支援した。
1944年(昭和19年)3月末、同社が編集・出版する雑誌『新文化』の昭和19年3月号(通巻158号)に「第一書房 廃業御挨拶」を掲載、「出版一代論」を唱え、50歳にして「第一書房」を廃業[1]、一切の権利を大日本雄辯會講談社(現在の講談社)に譲渡した。同社は、21年の間に単行本759点、全集叢書22点、雑誌13種を出版した。長谷川は戦後から1973年に没するまで、神奈川県藤沢市大字鵠沼に在住した。新たな出版事業は行わなかった。
社員の斎藤春雄、伊藤禱一は八雲書店に移籍した[2]。戦後、詩人の田中冬二、元社員の伊藤祷一らが、「第一書房」を再興しようと長谷川にかけあったが断られ、「第二書房」を設立している。
おもなビブリオグラフィ
[編集]雑誌
[編集]- 『汎天苑』、編集・発行長谷川巳之吉、1928年4月3日 創刊
- 『パンテオン』、全6号、編集・発行長谷川巳之吉、1928年
- 『セルパン』、編集・発行長谷川巳之吉(のち春山行夫が編集長)、1931年5月1日 創刊
- 『リベルテ』、1932年11月1日 創刊
- 『北支』、編集加藤新吉、発行、1939年6月1日 創刊
- 『新文化』、編集・発行長谷川巳之吉(十返肇が編集長)、1944年3月1日 廃刊
書籍
[編集]1920年代
[編集]- 松岡譲『法城を護る人々』(1923年)、新版・法蔵館、1982年
- 堀口大學訳詩集『月下の一群』(1925年)、のち新潮文庫、岩波文庫ほか
- フイオナ・マクラオド『かなしき女王』 (松村みね子訳、1925年)。新編・沖積舎、新版1999年 ISBN 4806030252
- 上田敏『上田敏詩集』(1925年)。新編・岩波文庫
- 野口米次郎『野口米次郎ブックレット』(全35編、1925年 - 1927年6月)
- 矢野峰人『詩学雑考』(1926年)
- 堀口大學『砂の枕』(1926年)
- 『佐藤春夫詩集』(1926年)
- 佐藤春夫『女誡扇綺譚』(1926年)、のち新編・中公文庫、2020年
- 蒲松齢『聊斎志異』(柴田天馬訳、1926年、新編1933年) - 発禁処分で1巻目のみ
- R・M・リルケ『リルケ詩抄』(茅野蕭々訳、1927年)。岩波文庫 2008年 ISBN 4003117913
- 日夏耿之介『黄眠帖』(1927年)
- 『堀口大學詩集』(1928年)
- 辰野隆『ボオドレエル研究序説』(1929年) - 初期の研究
- 松岡譲『漱石写真帖』(1929年)
1930年代
[編集]- 三好達治『測量船』(1930年)、のち講談社文芸文庫、1996年9月 ISBN 4061963872
- 堀口九萬一『游心録』 (1930年)
- 『木下杢太郎詩集』 (1930年)
- ルイス・フロイス『ルイス・フロイス日本書翰』 (木下杢太郎訳、1931年)
- 青柳瑞穂詩集『睡眠』 (1931年)
- 大島正健『国語の語根とその分類』 (1931年)
- 大島正健『漢音呉音の研究』 (1931年)
- パウル・ベッカー『ベエトオヴェン』(大田黒元雄訳、1931年、『ベートーヴェン』上下、音楽之友社音楽文庫、1953年)
- ジェイムズ・ジョイス『ユリシイズ』 (伊藤整・辻野久憲・永松定訳、1931年 - 1933年)
- 田部重治『中世欧洲文学史』 (1932年)、のち『中世ヨーロッパ文学史』、法政大学出版局、1966年
- 茅野蕭々『ゲョエテ研究』 (ゲーテの研究書、1932年)
- 丸山薫『帆・ランプ・鴎』 (1932年)
- アンリ・ベルグソン『精神力』 (小林太市郎訳、1932年)
- 田部重治『心の行方を追ふて』 (1933年、角川文庫、1951年)
- 友松円諦『現代人の仏教概論』 (1933年)
- 平田禿木『英文学散策』 (1933年)
- 『佛蘭西新作家集』 (青柳瑞穂訳、1933年) - フィリップ・スーポー『戀の酒場』ほか
- ジョン・ラスキン『近代画家論』 (第1巻、石井正雄・沢村寅二郎訳、1933年)
- 西脇順三郎『ヨーロッパ文学』 (1933年)
- ジェイムズ・ジョイス『ヂオイス詩集』 (西脇順三郎訳、1933年)
- 金素雲『朝鮮口伝民謡集』 (1933年)
- 中川一政『美術方寸』 (1933年)
- 友松円諦『法句経講義』 (1934年)
- 後藤末雄『仏蘭西精神史の一側面』 (1934年)
- 新関良三『現代独逸文学の展望』 (1934年)
- 坂本万七『山中常盤』、全12巻 (1934年)
- 成瀬無極『文芸百話』 (1934年)
- パール・バック『大地』(新居格訳、1935年)
- 堀口大學随筆集『季節と詩心』(1935年)、のち講談社文芸文庫 2007年3月 ISBN 4061984721
- 丸山薫『鶴の葬式』 (1935年)
- 宍戸左行『スピード太郎』 (1935年)、のち『少年小説大系 資料篇1 スピード太郎』所収、三一書房、1988年 ISBN 4380885496
- ツェルバツキー『仏教哲学概論』(市川白弦訳、1935年)
- 大田黒元雄『歌劇大観』(1917年)。音楽と文学社版を増訂
- 阿部知二『冬の宿』 (1936年、岩波文庫、1956年)、のち講談社文芸文庫、2010年1月 ISBN 4062900726
- ジャック・シャルドンヌ『結婚』 (佐藤朔訳、1936年)
- 宇野千代『別れも愉し』 (1936年)、のち集英社文庫、1991年9月 ISBN 4087497445
- ジュリアン・グリーン『閉された庭』 (新庄嘉章訳、1936年)
- ウジェエヌ・ダビ『北ホテル』 (獅子文六訳、1936年)
- パール・バック『母』(深沢正策訳、1936年)
- アースキン・コールドウエル『タバコ・ロード』(北村小松訳、1937年)
- 川田順自選歌文『晩来抄』(1937年)
- 富士川游『医術と宗教』(1937年)
- アンドレ・ジイド『ソヴェト紀行修正』 (堀口大學訳、1937年)
- パール・バック『戦へる使徒』(深沢正策訳、1937年)
- 林房雄『壮年』 (全2部、1936年 - 1940年)
- 田部重治『山と渓谷』 (1938年)、のち新編・岩波文庫、1993年8月 ISBN 4003114213
- 阿部知二『北京』 (1938年、角川文庫、1955年)
- パール・バック『東の風西の風(代表選集)』(深沢正策訳、1938年)
- パール・バック『母の肖像』(深沢正策訳、1938年)
- マーガレット・ミッチェル『風と共に去る』(深沢正策訳、1938-39年)
- 伊藤整『街と村』(1939年)、のち新編『街と村・生物祭・イカルス失墜』講談社文芸文庫、1993年2月 ISBN 4061962116
- 山岸外史『人間キリスト記』(1939年) - 第3回北村透谷文学賞受賞
- アンドレ・ジイド『芸術論』(河上徹太郎訳、1939年)
1940年代
[編集]- アドルフ・ヒトラー『我が闘争』(室伏高信訳、日本初訳、1940年6月15日)
- 奥野信太郎『随筆北京』 (1940年)、のち新編・平凡社東洋文庫、1990年9月 ISBN 4582805221
- 与田凖一『山羊とお皿』 (1940年)
- 真渓涙骨『自己を省みる』 (1940年)
- 木村毅『支那紀行』 (1940年)
- ヴィリエ・ド・リラダン『ルノワアル夫人の神』 (齋藤磯雄訳、1940年)
- パール・バック『母の生活』 (村岡花子訳、1940年)
- 香椎浩平『英雄日本民族の自覚』 (1940年)
- イグナツィ・パデレフスキ『パデレフスキー自伝 - 愛国の音楽者』(原田光子訳、1940年)
- フェリックス・ワインガルトナー『闘争の一生 ワインガルトナア自伝』 (大田黒元雄訳、1940年)
- スタインベツク『怒りの葡萄』 (1941年)
- 板垣直子『事変下の文学』 (1941年)
- シャルル・ボードレール『悪の華』(佐藤朔訳、1941年)
- 大川周明『米英東亜侵略史』 (1941年)
- 五島茂『新しき短歌論』(1942年)
- 池田亀鑑『古典文学論』(1943年)
- ダントルコール『中国陶瓷見聞録』 (小林太市郎訳、1943年)、のち新編・平凡社東洋文庫、1979年1月 ISBN 4582803636
- 下村湖人『若き建設者』(1943年)
- 金子大栄『親鸞教の研究』 (1943年)
- 斎藤茂吉『小歌論』(1943年11月)
- 笹野堅『幸若舞曲集』(1943年12月)
全集
[編集]- 小泉八雲『小泉八雲全集』、全17巻、田部隆次・大谷正信ら訳 (1926年 - 1928年)
- 『俳句文学全集』、全15巻 - 富安風生ほか
- 『近代劇全集』、全43巻 (1927年6月 - 1930年、円本)
- 第14巻 ミユッセ『戸を開けさらずば閉ぢよ』、アントワーヌ・ド・ベック『堅気な女』 (内藤濯訳)
- 第15巻 仏蘭西篇 ブリュー『ブランシェット』 (内藤濯訳)
- 第18巻 仏蘭西篇 ロジェ・マルタン・デュ・ガール『ルリュ爺さんの遺言』 (堀口大学訳)、シャルル・ヴィルドラック『商船テナシチィ』(山田珠樹訳、1927年
- 第19巻 仏蘭西篇 ミルボオ『事業は事業』 (内藤濯訳)
- 第20巻 仏蘭西篇 ジャック・コポー『家』 (内藤濯訳)
- 第36巻 ベナベンテ『伯爵夫人の驚き』、セーカ『日盛り』、シエルラ『かはいさうなフアン』、キンテイロ兄弟『太鼓と小鈴』 (永田寛定訳、1930年)
- 土田杏村『土田杏村全集』全15巻(恒藤恭編、1935年 - 1936年)
- 『短歌文学全集』 (1936年 - 1937年)
- 『世界文豪読本全集』、全12巻 - 佐藤正彰訳「ヴァレリイ篇」(1938年) - 復刻・クレス出版、2001年 ISBN 4877331239
- 『世界大思想家選集』、全10巻 (1940年 - 1941年)
関連書籍
[編集]- 林達夫ほか『第一書房 長谷川巳之吉』 日本エディタースクール出版部、1984年9月
- 長谷川郁夫『美酒と革嚢 第一書房・長谷川巳之吉』 河出書房新社、2006年8月 ISBN 4309017738