交響曲第1番 (ポポーフ)
《交響曲 第1番》作品7は、ガヴリイル・ポポーフが作曲した最初の交響曲。斬新な表現と内容をもつロシア・アヴァンギャルド音楽のひとつの典型であり、その特徴ゆえに旧ソ連において長らく上演禁止とされてきた。
成立と受容
[編集]1927年から1929年8月までに第1楽章の下書きが完成され、1930年2月までに終楽章(第3楽章)が準備された。1932年9月に、まだ草稿だった段階で、ボリショイ劇場とプラウダ紙によって提供された賞金を獲得し、1934年に全曲を完成し終えた。初演は1935年3月22日に、フリッツ・シュティードリーの指揮の下にレニングラード・フィルハーモニー管弦楽団によって行われた。[1][2]。初演の翌日、レニングラードの検閲委員会は、本作を「我々に敵対する階級のイデオロギー」を反映するものと決め付けて、上演禁止とした。その後ソヴィエト当局は解禁したものの、1936年にポポーフを、ドミートリイ・ショスタコーヴィチとの交流を理由に、「形式主義者」であると宣言した。《交響曲 第1番》はその後もソ連で上演禁止の憂き目に遭い、結果的に1972年に作曲者が歿するまでまったく演奏されなかった[3][4]。
ポポーフは、1936年の災難を受けて、その後のソヴィエト政府からの呪詛を恐れるあまり、作曲様式を切り替えた。内面での葛藤やアルコール依存症の悪化に苦しみながらも5つの交響曲を書き上げたが、これらは初期の独創性を喪った妥協の産物と見なされている。
《交響曲 第1番》は、1989年にゲンナジー・プロヴァトロフがモスクワ交響楽団を指揮した録音によって名誉回復を遂げたが、国際的にそこそこ知られるようになったのは、テラーク・レーベルによる録音がきっかけとなっている。しかしながら依然として標準的なレパートリーとして定着するには至らず、珍曲や秘曲として扱われたままである[5][6]。
楽曲構成
[編集]《交響曲 第1番》は、3楽章ながらも40分から50分の長さに及ぶ大作で、大編成のオーケストラが起用されている。
- アレグロ・エネルジコ Allegro energico (21分~23分)
- ラルゴ・コン・モト・エ・モルト・カンタービレ Largo con moto e molto cantabile (13分半~16分)
- 終楽章「スケルツォとコーダ」。プレスティッシモ Finale: Scherzo e Coda. Prestissimo (7分半~9分)
無名の作品ではありながらも、ポポーフの《交響曲 第1番》はソヴェト音楽の歴史において独自の地位を占めており、ドミートリイ・ショスタコーヴィチやアルフレート・シュニトケのような作曲家に影響を及ぼしている。ソヴェトの芸術が格段に自由だった時期に作曲されており、当時の前衛作曲家であるイーゴリ・ストラヴィンスキーやベラ・バルトーク、パウル・ヒンデミットや新ウィーン楽派に啓発されている。後期ロマン派の交響曲では、グスタフ・マーラーからの影響も見逃せない[7][8]。 《交響曲 第1番》は、極めてダイナミックな作品であり、当時の西欧で流行した、表現主義音楽や自由な作曲様式を採用している。同じく3楽章を採るショスタコーヴィチの《交響曲 第4番》は、主にポポーフの《交響曲 第1番》に触発されている。皮肉なことにショスタコーヴィチは、芸術の抑圧が長期化する中、自作の《第4番》を初演前に回収しており、ショスタコーヴィチの《第4番》もポポーフの《第1番》に同じく、数十年もの間、演奏会場で取り上げられなかった[9]。
註
[編集]- ^ Fanning, David. 'Gavril Popov: Symphony No. 1.' Liner notes for Popov: Symphony No. 1, Op. 7; Shostakovich: Theme & Variations, Op. 3. Telarc CD-80642, 2004.
- ^ Fay, Laurel E. 'Found: Shostakovich's Long-Lost Twin Brother'. New York Times. 6 April 2003.
- ^ Fanning, D. ibid.
- ^ Fay, L.E. ibid.
- ^ Fay, L.E. ibid.
- ^ Horton, Andrew J. 'The Forgotten Avant Garde: Soviet Composers Crushed by Stalin'. Telford, Shropshire, UK: Central Europe Review. 1(1), 28 June 1999.
- ^ Clark, Bruce A. Thesis: 'Dmitri Shostakovich, Politics, and Modern Music' Providence, RI: Brown University, 1986.
- ^ Ross, Alex. 'The Popov Discontinuity'. 9 September 2004.
- ^ Fay, L.E. ibid.