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ヤマアラシ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤマアラシ属
生息年代: 1,600万年前現在[1]
アフリカタテガミヤマアラシ(学名:ヒストリクス・クリスタータ)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 齧歯目 Rodentia[2][3]
亜目 : ヤマアラシ形亜目 Hystricomorpha[4][3]
下目 : ヤマアラシ顎下目 Hystricognathi[4][3]
: ヤマアラシ科 Hystricidae[4][3]
: ヤマアラシ属 Hystrix[4][3]
学名
Hystrix Linnaeus, 1758[3]
タイプ種
Hystrix cristata Linnaeus, 1758[3]
現生種
化石種

ヤマアラシ属(ヤマアラシぞく、Hystrix〈ヒストリクス〉)は、旧世界アフリカ大陸ユーラシア大陸)で独自に進化したげっ歯類で編成される、いわゆる旧世界ヤマアラシの仲間1758年分類学の父ともよばれるカール・フォン・リンネが設立。ヤマアラシ科の下位に位置する階級

ヤマアラシ属を編成する種[編集]

現生種[編集]

ヤマアラシ属の現生種は、下記に示す3つの亜属に分類された8つので編成されている。

亜属:Hystrix[編集]

学名:Hystrix Linnaeus, 1758
Hystrix (Hystrix) は、ヤマアラシ属のタイプ種を含む原名亜属[14]。およそアフリカ大陸の大部分と西アジア南アジア中央アジアイタリア中国に分布。
ケープタテガミヤマアラシ
学名:Hystrix (Hystrix) africaeaustralis Peters, 1852
ケープタテガミヤマアラシ
H. africaeaustralis Peters, 1852
ケープタテガミヤマアラシは、ウガンダエスワティニケニアコンゴ共和国コンゴ民主共和国ザンビアジンバブエタンザニアナミビアブルンジボツワナマラウイ南アフリカモザンビークルワンダレソトの在来種[15]。種小名の africaeaustralis(アフリカエアウストラリス)は、1852年ヴィルヘルム・ペータースによる命名[5]
海抜から標高2,000メートル超までに見つかる[15]南部アフリカにみられる植生タイプのほとんどの環境で見つかる[15]。一般に森林にはおらず、わずかに見つかるだけである[15]ナミブ砂漠(ナミビア)の沿岸部にいた記録がある[15]。日中の隠れ家は、岩の裂け目、洞穴、放棄されたツチブタの巣穴、もしくは地面に空いた穴など[15]。しばしば穴は必要に応じて作り直されるが、東アフリカでは自分たちの巣穴を掘ることもある[15]。夜行性で縄張り意識が強く、大半は単独で採餌するが、折々2〜3匹で採餌しているのを見つけられる[15]つがいは一夫一婦制であり、成体のペアか、成体のペアとその子供たちによる群れか、成体のオスと生まれて間もない子供からなる群れのいずれかで生活する[15]。93〜94日の妊娠期間を経て、1〜3匹の子供が生まれる[15]。出産は年に1回である[15]
タテガミヤマアラシ
学名:Hystrix (Hystrix) cristata Linnaeus, 1758
タテガミヤマアラシ
H. cristata Linnaeus, 1758
タテガミヤマアラシは、ヤマアラシ属のタイプ種。アルジェリアアンゴラ、イタリア、ウガンダ、エチオピアエリトリアガーナカメルーンガンビアギニアビサウ、ケニア、コートジボワールシエラレオネスーダンセネガルソマリア、タンザニア、チャドチュニジアトーゴナイジェリアニジェールブルキナファソベナンマリモロッコモーリタニアリビアリベリアルワンダの在来種[16]。おそらくエジプトでは絶滅[16]。種小名の cristata(クリスタタ)は、1758年のカール・フォン・リンネによる命名[8]
モロッコのアンティアトラス山脈では海抜から最大標高2,550メートルを記録して見つかっている[16]地中海沿岸では、乾燥した低木地帯、マッキア低木地帯、放棄された農地、ステップ、森林、乾燥した岩場に生息する[16]。西アフリカでは、サバンナの木立や森林の両方で見つかる[16]棲みかすみかは深い巣穴か洞穴である[16]。食餌は根菜塊茎(栽培された作物を含む)、樹皮落果からなる[16]。おもに夜行性の動物であり、棲みかの中で生活し繁殖する[16]。単独で採餌を行い、食物を求めて長距離移動することが知られている[16]
インドタテガミヤマアラシ
学名:Hystrix (Hystrix) indica Kerr, 1792
インドタテガミヤマアラシ
H. indica Kerr, 1792
インドタテガミヤマアラシは、アゼルバイジャンアフガニスタンアルメニアイエメンイスラエルイラクイランインドカザフスタンサウジアラビアジョージアシリアスリランカ、中国、トルクメニスタントルコネパールパキスタンヨルダンの在来種[17]。種小名の indica(インディカ)は、1792年ロバート・カーによる命名[9]
ヒマラヤ山脈では標高2,400メートルまでに生息する[17]。寛容性があり、岩だらけの丘腹や熱帯温帯の低木地帯、草原、森林、耕作放棄地プランテーション庭園と、幅広い生息地をもつ[17]

亜属:Acanthion[編集]

学名:Acanthion F. Cuvier, 1823
Hystrix (Acanthion) は、アジアに分布するヤマアラシ属。亜属名の Acanthion(アカンティオン)は、1823年フレデリック・キュヴィエによる命名[18]
マレーヤマアラシ
学名:Hystrix (Acanthion) brachyura (Linnaeus, 1758)
マレーヤマアラシ
H. brachyura (Linnaeus, 1758)
マレーヤマアラシは、インド、インドネシアタイ、中国、ネパール、バングラデシュベトナムマレーシアミャンマーラオスの在来種[19]。種小名の brachyura(ブラキウラ)は、1758年のカール・フォン・リンネによる命名[6]
海抜から標高1,300メートルまでに見つけられる[19]。様々な森林の生息地と、森林に近く低木の茂る視界の開けた区域で見つけられる[19]。農耕区域でも見つけられるが、岩石の露頭か、または棲みかを作ったり巣穴を掘ったりできる別の区域が必要である[19]。巣穴は一般に家族のものである[19]。約110日間の妊娠期間を経て、2〜3匹の子供が生まれる。毎年2匹の同腹子数で生まれることが見込まれている[19]
ジャワヤマアラシ
学名:Hystrix (Acanthion) javanica (F. Cuvier, 1823)
ジャワヤマアラシ
H. javanica (F. Cuvier, 1823)
ジャワヤマアラシは、インドネシアの固有種[20]。種小名の javanica(ヤワニカ)は、1823年のフレデリック・キュヴィエによる命名[11]
おもに低地、次いで荒廃した生息地で見つかる[20]

亜属:Thecurus[編集]

学名:Thecurus Lyon, 1907
Hystrix (Thecurus) は、東南アジアに分布するヤマアラシ属。亜属名の Thecurus(テクルス)は、1907年マーカス・ウォード・リヨン2世による命名[21]
ボルネオヤマアラシ
学名:Hystrix (Thecurus) crassispinis (Günther, 1877)
ボルネオヤマアラシは、ボルネオ島(インドネシア、ブルネイ、マレーシア)の固有種[22]。種小名の crassispinis(クラッシスピニス)は、1877年アルベルト・ギュンターによる命名[7]
天然林から耕作された区域まで、海抜から標高1,200メートルまでを範囲とする幅広く多様な生息地で見つかる[22]
パラワンヤマアラシ
学名:Hystrix (Thecurus) pumila (Günther, 1879)
パラワンヤマアラシ
H. pumila (Günther, 1879)
パラワンヤマアラシは、フィリピンパラワン島ブスアンガ島)の固有種[23]。種小名の pumila(プミラ)は、1879年のアルベルト・ギュンターによる命名[12]
大きく攪乱かくらんされた二次林と草原のモザイク地帯、そして二次林と原始林の低地で見つかる。夜行性であり、おもに地上の植物を採餌する[23]
スマトラヤマアラシ
学名:Hystrix (Thecurus) sumatrae (Lyon, 1907)
スマトラヤマアラシは、スマトラ島(インドネシア)の固有種[24]。種小名の sumatrae(スマトラエ)は、1907年のマーカス・ウォード・リヨン2世による命名[13]
海抜から標高300メートルまでの島の大半で見つかる[24]。低地林や低木林、攪乱された地帯で見つかる[24]

化石種[編集]

化石が発掘されているヤマアラシ属の絶滅種を下記に示す。

学名:Hystrix arayanensis sen, 2001
Hystrix arayanensis(ヒストリクス・アラヤネンシス)は、約870万年〜約533万3,000年前、現在のアフガニスタン付近に生息したヤマアラシ属の一種[25]。タイプ産地はアフガニスタンのカブール[26]。種小名の arayanensis は、2001年セブケット・センによる命名[26]タイプ標本の MNHN MOL-51(ホロタイプ)を含むすべての資料は、フランス国立自然史博物館に収蔵されている[27]
学名:Hystrix depereti Sen, 2001
Hystrix depereti(ヒストリクス・デペレティ)は、約724万6,000年〜約258万8,000年前、現在のフランスやイタリア付近に生息したヤマアラシ属の一種[28]。タイプ産地はフランスのペルピニャン[29]。種小名の depereti は、このタイプ産地における地質動物相を研究したシャルル・デペレに敬意を表した 2001年のセブケット・センによる命名[29]。タイプ標本の MNHN PR-25(ホロタイプ)などは、フランスの国立自然史博物館に収蔵されている[29]
2003年のデース・ファン・ヴェールスとロレンツォ・ルークの論文は、アルジェリア、イタリア、ギリシャサモス島)、スペイン、トルコ、ブルガリアポーランドから産出され、これまで H. primigenia と記載されてきた後述の化石種は、本来であれば本種に分類されるべきであるとの見解を示した[30]
学名:Hystrix paukensis Nishioka & al., 2011
Hystrix paukensis(ヒストリクス・パウケンシス)は、約1,163万年(中新世・後期)〜約360万年前(鮮新世・初期)、現在のミャンマー付近に生息したヤマアラシ属の一種[31]。種小名の paukensis は、2011年西岡佑一郎らによる命名[31]。タイプ標本の NMMP-KU-IR 0822(ホロタイプ)などは、ミャンマー国立博物館に収蔵されている[31]
学名:Hystrix primigenia (Wagner, 1848)
Hystrix primigenia(ヒストリクス・プリミゲニア)は、約775万年(MN 11/12)〜約320万年前(MN 15)、現在のアルジェリア、アルバニア、イタリア、インド、北マケドニア、ギリシャ、スペイン、トルコ、ブルガリア、ポーランド、モルドバヨーロッパロシア付近に生息したヤマアラシ属の一種[32]1848年ヨハン・ワグナーにより Lamprodon primigenius(ラムプロドン・プリミゲニウス)と命名されたが、1867年アルベール・ゴードリー1992年ルイ・ドゥ・ボニらによって Hystrix primigenia に再命名された[33]。タイプ産地はギリシャのアッティカピケルミ[33]
2012年ディミダル・ゴヴァチェヴによる論文は、 後述の H. suevica を本種のシノニム(同種)とした[32]
学名:Hystrix refossa (Gervais, 1852)
Hystrix refossa(ヒストリクス・レフォッサ)は、更新世(約258万8,000年~約1万1,700年前)、現在のヨーロッパ中東、アフリカに生息したヤマアラシ属の一種[34]。種小名の refossa は、1852年ポール・ジェルベーによる命名[34]。現生のヤマアラシよりも大きく、体長は約120センチメートル、体重は最大で約25〜40キログラムと推定される[34][35]。寿命は最大12年[34]
学名:Hystrix suevica Schlosser, 1884
Hystrix suevica(ヒストリクス・スエウィカ)は、約1,600万年(MN 5)〜約750万年前(MN 11)、ユーラシア大陸(現在のスペイン、ドイツオーストリア付近)に生息したヤマアラシ属の一種[36]。種小名の suevica は、1884年マックス・シュロッサーによる命名[36]
1993年プリニョ・モントヤ・ベヨは、本種が H. primigenia の先祖であるという説を提唱した[36]
  • Hystrix primigenia の化石—国立自然史博物館 (フランス)
    Hystrix primigenia の化石—国立自然史博物館 (フランス)
  • Hystrix refossa の化石—モンテヴァルキ古生物学博物館(イタリア)
  • 出典[編集]

    1. ^ Hystrix (porcupine)” (英語). The Paleobiology Database. 2024年6月3日閲覧。
    2. ^ 川田ほか, 2018, p. 12.
    3. ^ a b c d e f g GENUS Hystrix” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    4. ^ a b c d e f g h i 川田ほか, 2018, p. 29.
    5. ^ a b SPECIES Hystrix (Hystrix) africaeaustralis” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    6. ^ a b SPECIES Hystrix (Acanthion) brachyura” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    7. ^ a b SPECIES Hystrix (Thecurus) crassispinis” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    8. ^ a b SPECIES Hystrix (Hystrix) cristata” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    9. ^ a b SPECIES Hystrix (Hystrix) indica” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    10. ^ a b c 川田ほか, 2018, p. 30.
    11. ^ a b SPECIES Hystrix (Acanthion) javanica” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
    12. ^ a b SPECIES Hystrix (Thecurus) pumila” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月3日閲覧。
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    14. ^ SUBGENUS Hystrix” (英語). Mammal Species of the World. 2024年6月6日閲覧。
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    34. ^ a b c d Hystrix refossa – istrice” (英語). Paleocarta del Valdarno. 2024年6月4日閲覧。
    35. ^ Giant European porcupine”. Prehistoric Fauna. 2023年4月3日閲覧。
    36. ^ a b c P. Montoya, 1993.

    参考資料[編集]

    参考文献[編集]

    関連項目[編集]

    外部リンク[編集]