バルサルタン
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
| |
臨床データ | |
胎児危険度分類 |
|
法的規制 |
|
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 25% (valsartan) |
半減期 | 6 hours |
排泄 | 腎臓 30%, 胆汁 70% |
識別 | |
CAS番号 | 137862-53-4 |
ATCコード | C09CA03 (WHO) |
PubChem | CID: 60846 |
DrugBank | DB00177 |
ChemSpider | 54833 |
KEGG | D00400 |
化学的データ | |
化学式 | C24H29N5O3 |
分子量 | 435.519 g/mol |
バルサルタン(英: valsartan)とは主に高血圧の治療に使用されるアンジオテンシンII受容体拮抗薬の一つ。1989年に合成され、2000年に日本国内で認可され、ノバルティスからディオバン(Diovan)の商品名で市販されている[1]。
薬理
[編集]ヒトの血圧に対しては、昇圧物質としてアンジオテンシンが最も影響を与える。アンジオテンシンIは、アンジオテンシン変換酵素により、アンジオテンシンIIへと変換され、アンジオテンシンIIが受容体に結合し、心臓・血管や副腎へと作用する。バルサルタンは、アンジオテンシンII受容体に、競争的阻害剤として結合し、血圧を降下させる。
重大な副作用
[編集]添付文書には重大な副作用として、
- 血管浮腫、肝炎、腎不全(0.1%未満)、高カリウム血症(0.1%未満)、
- ショック、失神、意識消失(0.1%未満)、
- 無顆粒球症、白血球減少、血小板減少(0.1%未満)、
- 間質性肺炎、低血糖、横紋筋融解症(0.1%未満)、
- 中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群(スティーブンス・ジョンソン症候群)、多形紅斑、天疱瘡、類天疱瘡
が挙げられている[2]。
臨床研究での不正
[編集]日本で実施された臨床研究において、降圧効果や臓器保護効果に関するデータの不正操作が明らかとなり、関連する一連の論文が撤回された[3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16]。さらに、ノバルティスの社員がその身分を隠蔽して、臨床研究に統計解析者として関与していたことが明らかとなった[17]。この件で、東京地方検察庁は2014年6月11日までに、ノバルティス元社員の男(63)を薬事法の誇大広告違反に抵触するとして逮捕した[18]。2017年3月16日、東京地方裁判所は元社員に対して無罪とする判決をした[19]。
リコール
[編集]2018年7月6日 - あすか製薬が製造していた(-2017年)「バルサルタン錠AA」の原材料に、発癌性があるとされるニトロソ化合物、N-ニトロソジメチルアミンが混入しているとしてリコールを開始。混入原因は、中華人民共和国の浙江華海薬業が製造した原材料にあり[20]、同原料を使用して製薬を行っていた22か国のメーカーも、7月中にリコールを実施した[21]。
2019年2月8日 - 上記を受けて各製薬会社で調査していたところ、ファイザーが製造しているアムバロ配合錠「ファイザー」の特定製造ロットにおいて、インドにある原薬製造所で製造された当該製品の原薬バルサルタンから、N-ニトロソジメチルアミンが混入していたとして自主回収することになった[22]。
関連項目
[編集]出典
[編集]- ^ Diovan prescribing informationNovartis
- ^ “ディオバン錠20mg/ディオバン錠40mg/ディオバン錠80mg/ディオバン錠160mg 添付文書” (2015年3月). 2016年4月26日閲覧。
- ^ Urgent Announcement From the Editor-in-Chief Concerning Article RetractionsCirculation Journal
- ^ Two Retractions For Embattled Chief Investigator Of Kyoto Heart StudyForbes(2013年1月8日)
- ^ Retraction of: Effects of valsartan on morbidity and mortality in uncontrolled hypertensive patients with high cardiovascular risks: KYOTO HEART Study "Eur Heart J (2009) 30:2461–2469, doi: 10.1093/eurheartj/ehp363"Eur Heart J (2013) 34 (14): 1023. doi: 10.1093/eurheartj/eht030
- ^ Important Study Of High Blood Pressure Medicine RetractedForbes(2013年2月2日)
- ^ Study of blood pressure drug valsartan retractedRetraction Watch(2013年2月4日)
- ^ WITHDRAWN: Cardio‐cerebrovascular protective effects of valsartan in high-risk hypertensive patients with overweight/obesity: A post-hoc analysis of the KYOTO HEART StudyInternational Journal of Cardiology
- ^ WITHDRAWN: Enhanced cardio-renal protective effects of valsartan in high-risk hypertensive patients with chronic kidney disease: A sub-analysis of KYOTO HEART StudyInternational Journal of Cardiology
- ^ <京都府立医大>毎日新聞(2013年4月20日):降圧剤の全論文を撤回…松原元教授チーム
- ^ Retraction—Valsartan in a Japanese population with hypertension and other cardiovascular disease (Jikei Heart Study): a randomised, open-label, blinded endpoint morbidity-mortality studyThe Lancet, Volume 382, Issue 9895, Page 843, 7 September 2013 <Previous Article|Next Article> doi:10.1016/S0140-6736(13)61847-4
- ^ 同学会は、「論文のデータは信頼できない」と判断し、独自に論文を撤回したディオバン問題 SMART研究論文Diabetes Careが撤回へ 柏木病院長は辞意ミクスOnline(2014年1月20日)
- ^ 毎日新聞(2014年01月20日): バルサルタン:米糖尿病学会誌、滋賀医大の論文取り消し
- ^ 降圧剤論文、米学会が独自に撤回、滋賀医大主任研究者、副学長辞任も、再投稿の意向 2014年1月21日 池田宏之(m3.com編集部)
- ^ 産経新聞(2014年01月20日):ノ社の研究論文撤回、滋賀医大発表 責任者辞意
- ^ SMART論文撤回、柏木病院長は辞任へ- ディオバン問題で滋賀医大医療介護CBnews(キャリアブレイン)(2014年1月20日)
- ^ 毎日新聞(2013年3月28日): クローズアップ2013:降圧剤 京都府立医大の論文撤回騒動 製薬社員も名連ね
- ^ ノバルティス元社員を逮捕=高血圧薬データ不正―薬事法違反容疑・東京地検 Archived 2014年6月14日, at the Wayback Machine.(時事通信2014年6月11日 同日閲覧)
- ^ ノバルティス元社員に無罪、臨床データ改ざん 東京地裁 - 日本経済新聞 2017年3月16日
- ^ “バルサルタン錠に発がん性物質 あすか製薬が自主回収”. 朝日新聞社 (2018年7月6日). 2018年8月4日閲覧。
- ^ “中国製薬会社、心臓病の薬を全世界でリコール 原料に発がん物質”. 2018-07-31. 2018年8月4日閲覧。
- ^ “医薬品自主回収のお知らせ(クラスI)(販売名:アムバロ配合錠「ファイザー」)プレスリリース” (PDF). 厚生労働省 (2019年2月8日). 2019年4月5日閲覧。