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ハスノハギリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハスノハギリ
1. 果実をつけた木
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
Status iucn3.1 LC.svg
Status iucn3.1 LC.svg
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: クスノキ目 Laurales
: ハスノハギリ科 Hernandiaceae
: ハスノハギリ属 Hernandia
: ハスノハギリ H. nymphaeifolia
学名
Hernandia nymphaeifolia (C.Presl) Kubitzki (1970)[2]
シノニム
和名
ハスノハギリ(蓮葉桐[3])、ハマギリ(浜桐)[4]
英名
sea hearse[5], lantern tree[6]

ハスノハギリ(蓮葉桐、学名: Hernandia nymphaeifolia)は、ハスノハギリ科ハスノハギリ属に分類される常緑高木の1種である(図1)。互生し、葉身はやや革質で広卵形、葉柄は葉身の裏側につく。この葉の形と柄のつき方から、「蓮の葉桐(ハスノハギリ)」の名がついた[4]。花は白色で小さく、散房花序につく。果実は、多肉質に発達した苞に包まれる(図1)。マダガスカルからセイロン島東南アジアオーストラリア北部、太平洋諸島に広く分布しており、日本では南西諸島小笠原諸島に自生している。海岸近くに生育し、果実は海に浮かんで海流散布される。

特徴

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常緑高木であり、高さ2–20メートル (m)、樹冠は広がる[7][8][4](図2a)。若枝は緑色[7]は亜球形から楕円形、長さ3–5ミリメートル (mm)、当初は短毛が密生するが、やがて無毛になる[7][8]互生し、葉柄は長さ5–15センチメートル (cm)、葉身の基部裏面(背軸面)につき(盾状)、葉身は革質で表面(向軸面)には光沢があり、両面とも無毛、卵円形、7–40 × 6–30 cm、葉脈は掌状で3–9本、全縁、基部は浅心形、先端は尖る[7][8][3][9][10](図2b, 3)。

2a. 樹形
2b. 葉

花期は周年(日本では5–8月)、雌雄異花で雌雄同株[7][8][4]。白からクリーム色、直径 3–5 mmで強い匂いをもつ花からなる散房花序が枝先または葉腋につく[7][8][4][11](図3)。ふつう3個の花からなるセットの基部には4枚の総苞片があり、各総苞片は楕円形から倒卵形、長さ 2–6 × 1–3.5 mm[7][8]。3個の花のうち、中央の1個は雌花、両側の2個は雄花である[7]。雄花は長さ約 3 mm、花被片は3枚ずつ2輪、雄しべは3個、花糸には微軟毛があり、各花糸の基部には2個ずつ仮雄しべがある[7][8][4]。雌花の基部には長さ 1 mm ほどの杯状のがあり、花被片は4枚ずつ2輪、雌しべは1個、花柱は長さ約 3 mm、柱頭は盤状、子房下位、赤橙色の4個の腺体(約 1 mm)で囲まれる[7]。果期は周年(日本では10–11月)[7][8]果実は楕円状球形、核果状で黒色、長さ約 2 cm、苞が多肉質に発達して果実を包み(頂端が開口している)、直径約 3 cm、黄色から赤色になる[7][4][3](図3)。種子は1個、種皮は厚く、無胚乳種子[7]染色体数は 2n = 40[8]

3. 花と果実: 白から赤色の部分は発達した苞であり、その頂端の穴から見える黒い部分が果実。

分布と生態

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マダガスカル島セーシェルセイロン島南西諸島沖永良部島以南[12])から台湾海南島東南アジアインドシナ半島フィリピンマレーシアインドネシア)、メラネシアニューギニア島フィジーニューカレドニアなど)、オーストラリア北部、小笠原諸島ミクロネシアマリアナ諸島カロリン諸島マーシャル諸島)、ポリネシアツバルサモアクック諸島ソシエテ諸島トンガトゥアモトゥ諸島など)に分布する[7][9][2]

海岸林の内陸側に生え、しばしば群落を作る[3][9]

集団内において、午前中に開花する雌花と午後に開花する雄花をもつ個体と、逆に午前中に開花する雄花と午後に開花する雌花をもつ個体がいることが報告されている[11]。これによって他家受粉が行われるが、同一個体内でも雌花・雄花の開花は昼ごろに重なるため、同家受粉も起こりうる[11]ハエ目ハチ目の昆虫によって花粉媒介されると考えられている[11]

総苞に包まれた果実は海面を漂流して海流散布され、3ヶ月以上浮き続けることができる[9]。一方で、マリアナ諸島において果実がオオコウモリによって被食されて散布されることが報告されている[6][13]

保全状況評価

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ハスノハギリは、IUCNレッドリストカテゴリーでは低危険種 (LC) に指定されている[1]鹿児島県レッドデータブックでは、準絶滅危惧種とされている[14]

人間との関わり

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公園樹、観葉植物とされ、また防風林、防潮用に植栽されることもある[3]は腐食しやすいが軽軟であり、家具や箸、釣竿、浮き、サンダルなどに利用され、キリの代用とされることがある[6][15][16]。ただし材に有毒な精油を含むため、製材時に皮膚炎を起こすことがある[16]。葉などは、薬用に用いられることもある[6]。果実頂端の穴を吹くと音がするため子供のおもちゃとなるが、有毒であり食べられない[16]。また、種子は厚い種皮をもち、これを磨いて装飾品にすることがある[6]。種子から得られる油は有毒だが、薬用・工芸用に用いられることがある[15]

脚注

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出典

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  1. ^ a b Oldfield, S. (2020年). “Hernandia nymphaeifolia”. The IUCN Red List of Threatened Species 2020. IUCN. 2024年2月1日閲覧。
  2. ^ a b Hernandia nymphaeifolia”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2025年2月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e 大川智史 & 林将之『琉球の樹木』文一総合出版、2016年、40頁。ISBN 9784829984024 
  4. ^ a b c d e f g 小野幹雄 (1997). “ハスノハギリ科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. p. 61. ISBN 9784023800106 
  5. ^ GBIF Secretariat (2021年). “Hernandia nymphaeifolia (C.Presl) Kubitzki”. GBIF Backbone Taxonomy. 2025年2月1日閲覧。
  6. ^ a b c d e Bats and the Lantern Tree”. 2014年9月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年2月1日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n 大橋広好 (2015). “ハスノハギリ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 76–77. ISBN 978-4582535310 
  8. ^ a b c d e f g h i WFO (2025年). “Hernandia nymphaeifolia (C.Presl) Kubitzki”. The World Flora Online. 2025年2月1日閲覧。
  9. ^ a b c d 中西弘樹『フィールド版日本の海岸植物図鑑』トンボ出版、2020年、209頁。ISBN 9784887162266 
  10. ^ 片野田逸朗『琉球弧・植物図鑑 from AMAMI』南方新社、2019年、6頁。ISBN 9784861244056 
  11. ^ a b c d Gottsberger, G. (2016). “Generalist and specialist pollination in basal angiosperms (ANITA grade, basal monocots, magnoliids, Chloranthaceae and Ceratophyllaceae): what we know now”. Plant Diversity and Evolution 131: 263-362. doi:10.1127/pde/2015/0131-0085. 
  12. ^ ハスノハギリ”. 琉球の植物. 国立科学博物館. 2025年2月1日閲覧。
  13. ^ Fujita, M. S. & Tuttle, M. D. (1991). “Flying foxes (Chiroptera: Pteropodidae): threatened animals of key ecological and economic importance”. Conservation Biology 5 (4): 455-463. doi:10.1111/j.1523-1739.1991.tb00352.x. 
  14. ^ ハスノハギリ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2025年2月1日閲覧。
  15. ^ a b 天野鉄夫『図鑑 琉球列島有用樹木誌』沖縄出版、沖縄県浦添市、1989年。 
  16. ^ a b c ハスノハギリ」『改訂新版 世界大百科事典』https://kotobank.jp/word/%E3%83%8F%E3%82%B9%E3%83%8E%E3%83%8F%E3%82%AE%E3%83%AAコトバンクより2025年2月5日閲覧 

外部リンク

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