トリアシルグリセロール
トリアシルグリセロール(英語: triacylglycerol、TAG)とは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールで、単純脂質に属する中性脂肪の1つである。トリグリセリド(英語: triglyceride、TG)またはトリアシルグリセリド(英語: triacylglyceride)ともいう。
中性脂肪は動物の体内脂肪組織に蓄えられる脂肪や、食品中の油脂、植物油(種子)などを構成する脂質の8から9割を占めるが、その中ではトリアシルグリセロールが圧倒的に多く、特に動物の脂肪組織では95%を超える。このことから、単に「トリアシルグリセロール」というときは油脂のことを指し、グリセロールと3分子の脂肪酸が結合したひとつの分子を示すときは「トリアシルグリセロール分子種」ともいう。
構造と物理化学的性質
[編集]グリセロール(グリセリン)に結合する脂肪酸の部分は、置換基としてはアシル基である。したがって、トリ・アシル・グリセロール=3分子・脂肪酸・グリセロールという意味となる。アシル基となる脂肪酸の種類は極めて多いが、それらアシル基の組み合わせ、グリセロールへの結合位置によってさまざまなトリアシルグリセロール分子種が生ずる。脂肪酸が n 種あるとすれば、理論的にはおよそ n3/2 種類(グリセロールの1位と3位は対称だから)のトリアシルグリセロール分子種が存在すると考えてよい。個々のトリアシルグリセロール分子種は以下の例のように呼ばれて区別される。
- パルミチン酸が3分子結合した分子種
- トリパルミチン、CAS登録番号は555-44-2。パルミチン酸(Palmitic acid)は、略してPと表示できるので、簡単にPPPとも書く。
- パルミチン酸が1分子、オレイン酸が2分子結合した分子種
- グリセロールへの結合位置によって、1-パルミトイル-2,3-ジオレオイルグリセロール (POO)、1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセロール (OPO) などと表示する。オレイン酸 (Oleic acid) は略してOと示す。
- パルミトレイン酸、ステアリン酸、リノール酸がそれぞれ1分子ずつ結合した分子種
- 前述と同様に、1-パルミトオレオイル-2-ステアロイル-3-リノレオイルグリセロール (PoSL)、1-リノレオイル-2-パルミトオレオイル-3-ステアロイルグリセロールなどと表示する。パルミトレイン酸 (Palmitoleic acid)、ステアリン酸 (Stearic acid)、リノール酸 (Linoleic acid) はそれぞれPo、S、Lと略される。
トリアシルグリセロール分子種には立体位置異性体が存在し、2 や 3 の例のように、同じ脂肪酸で構成される分子種であっても POO - OPO - OOP、PoSL - PoLS - SPoL - SLPo - LPoS - LSPo はそれぞれ異なる分子種となる。結合位置が不明な場合(どの異性体か不明な場合)は、POO、PoSL というように脂肪酸の炭素数が小さい順に、二重結合の少ない順に表示することが多い。LPoS というようにアルファベット順に示す場合もある。
個々の脂肪酸は二重結合の有無(不飽和度)によって融点が異なるが、この不飽和度によってトリアシルグリセロールの性質が大きく異なる。不飽和脂肪酸の多いトリアシルグリセロールは室温 (25 °C) で油状の液体だが、飽和脂肪酸の多いトリアシルグリセロールは固体となる。オリーブ油やサフラワー油などは前者に、ココナッツ油やパーム核油は後者に当たる。またトリアシルグリセロールは一般に有機溶媒によく溶けるが、ステアリン酸のような長鎖の飽和脂肪酸が多くなると、アルコール、石油エーテル、ジエチルエーテルなどにも難溶になる。
健康への影響
[編集]トリアシルグリセロールが高値になると動脈硬化・膵臓炎になる。肝臓にトリアシルグリセロールが過剰に沈着すると、脂肪肝になる。
血液検査の参考基準値
[編集]トリアシルグリセロールについての血液検査の参考基準値は以下のとおりである。
項目 | 年齢 | 下限値 | 上限値 | 単位 | 最適範囲 |
---|---|---|---|---|---|
トリアシルグリセロール | 10–39 歳 | 54[1] | 110[1] | mg/dL | < 100 mg/dL[2] or 1.1[2] mmol/L |
0.61[3] | 1.2 [3] | mmol/L | |||
40–59 歳 | 70[1] | 150[1] | mg/dL | ||
0.77[3] | 1.7[3] | mmol/L | |||
>60歳 | 80[1] | 150[1] | mg/dL | ||
0.9[3] | 1.7[3] | mmol/L |
脚注
[編集]- ^ a b c d e f Blood Test Results - Normal Ranges Bloodbook.Com
- ^ a b Adëeva Nutritionals Canada > Optimal blood test values Archived 2009年5月29日, at the Wayback Machine. Retrieved on July 9, 2009
- ^ a b c d e f Derived from values in mg/dl to mmol/l, by dividing by 89, according to faqs.org: What are mg/dl and mmol/l? How to convert? Glucose? Cholesterol? Last Update July 21, 2009. Retrieved on July 21, 2009