コンテンツにスキップ

ダーシー・トムソン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
D'Arcy Wentworth Thompson
Tダーシー・トムソン(1886)
生誕 (1860-05-02) 1860年5月2日
スコットランドの旗 スコットランド エディンバラ
死没 1948年6月21日(1948-06-21)(88歳没)
スコットランドの旗 スコットランド セント・アンドルーズ
研究機関 セント・アンドリューズ大学
出身校 トリニティ・カレッジ
プロジェクト:人物伝
テンプレートを表示
ダーシー・トムソンは後列右から3人目のひげの人物

ダーシー・トムソン または ダーシー・トンプソン(Sir D'Arcy Wentworth Thompson CB FRS FRSE、1860年5月2日 - 1948年6月21日)は、スコットランドの生物学者である。著作、"On Growth and Form"(邦題、『生物のかたち』)の著者として知られる。

略歴

[編集]

エディンバラに生まれた。同名の父親(D'Arcy Wentworth Thompson :1829–1902)インデペンデント・スクールのエディンバラ・アカデミーの古典の教師、アイルランド国立大学ゴールウェイ校のギリシャ語の教授を務めた人物である[1][2]。母親はダーシーが生まれた9日後に没し、獣医の母方の祖父の家で育った[3][4]。おじには有名な外科医、サンプソン・ギャムジー(Sampson Gamgee)がいる。

エディンバラ・アカデミーで学んだ後[5]、1878年からエディンバラ大学で医学を学んだ。2年後、ケンブリッジ大学トリニティカレッジに移り、動物学を学んだ[6]。苦しい学生生活をおくるが、後に奨学金を受けた[3]。学資を得るためもあって、ヘルマン・ミューラーの植物の受精に関する著作を翻訳し[7]チャールズ・ダーウィンの紹介で1883年に出版された。後にこの時、フォッケ(Wilhelm Olbers Focke)の花の交配に関する著書を翻訳していれば、(まだ知られていなかった)メンデルの遺伝の法則を20年早く見つけていただろうと回想している[4]。1883年に自然科学の学位(BS)を取得した[1]

1884年まで、ケンブリッジ大学で助手(Junior Demonstrator)を務めた後[1]ダンディー大学の生物学の教授となった[8]。ダンディー大学では研究・教育のために動物学博物館を作り、これは現在D'Arcy Thompson Zoology Museumという名前になっている。

1896年と1897年にアシカ類の捕獲による資源減少の国際的調査のイギリス代表となり、ベーリング海峡を調査しウミガメやクジラの絶滅をも警告する報告書を書き、種保護の法律作成の実現に貢献した[9]。スコットランド漁業委員会の科学顧問となり、後に海洋探査国際評議会のイギリス代表も務めた。

同時に、北極圏の動物の貴重な標本を収集し、ダンディー大学の動物学博物館を充実させた[10]

1917年にセント・アンドルーズ大学の博物学の教授となり、その後没するまでその地位にあった[1]。1918年に伝統のある王立研究所のクリスマス・レクチャーの講師に選ばれ海洋の魚類について講演した[11]

1916年に王立協会フェローに選ばれ[12]、1937年にSirの称号を得た。1938年にロンドン・リンネ協会リンネ・メダル、1946年にダーウィン・メダルを受賞した[1]。"On Growth and Form"の出版により1942年にアメリカ国立科学アカデミーのDaniel Giraud Elliot Medalを受賞した[13]。1885年にエジンバラ王立協会のフェローに選ばれ、1934年から1939年まで会長も務めた[14]

著作について

[編集]
魚の形態
爬虫類の頭部形状

アリストテレスの『動物誌』

[編集]

1910年にアリストテレスの『動物誌』の翻訳を出版した。『動物誌』の英訳本はテイラー(Thomas Taylor:1809)やクロスウエル(Richard Cresswell:1862)によるものがあったが、ギリシャ語の知識と動物学の知識の不足から不完全なものであった[15]。トムソンの『動物誌』の翻訳はArmand Leroiらによって賞賛された[16]

On Growth and Form(『生物のかたち』)

[編集]

最も有名な著作、"On Growth and Form"は植物や動物の構造や形が形成される過程を科学的に解明する道を開いたとされる書籍である。1915年に執筆され、第一次世界大戦による遅れや、見直しが行われ1917年に出版された[17]。数多くの実例をひいて、生物学的形態と機械的な現象との間の関連を指摘した。たとえば、クラゲの形態と粘性流体に落ちた液滴の形態の類似性や、鳥の中空骨の内部支持構造と構造力学のトラスの設計との類似性、生物の構造とフィボナッチ数列との関係が論じられた[18]

著作

[編集]
(邦訳)『生物のかたち』 (UP選書 (121))ダーシー・トムソン (著), 柳田 友道 他 (翻訳)、東京大学出版会 (1973/01)ISBN 978-4130060219

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e "Thompson, D'Arcy Wentworth (THM880DW)". A Cambridge Alumni Database (英語). University of Cambridge.
  2. ^ grave of Fanny Gamgee, Dean Cemetery
  3. ^ a b J J O'Connor and E F Robertson D'Arcy Wentworth Thompson Biography School of Mathematics and Statistics, University of St Andrews, Scotland, October 2003, retrieved 30 March 2016
  4. ^ a b David Raitt Robertson Burt Obituary in James B Salmond (ed.), Veterum Laudes (Oliver and Boyd, Edinburgh, 1950), 108-119
  5. ^ The Edinburgh Academy Register 1824-1914, printed by T & A Constable for the Edinburgh Academical Club, 1914. Page 328.
  6. ^ PROF SIR D'ARCY THOMPSON DEAD, The Scotman, 22 June 1948
  7. ^ Müller H. 1883. The fertilisation of flowers. Macmillan, London. Translated by D'Arcy Wentworth Thompson.
  8. ^ D'Arcy's Museum”. University of Dundee. 7 March 2017閲覧。
  9. ^ Lecture Theatre renamed in honour of D'arcy Thompson University of Dundee, External Relations, Press Office, 14 March 2006
  10. ^ D'Arcy Thompson Zoology Museum - Some Highlights from the Collections”. University of Dundee (2012年). 14 October 2016閲覧。
  11. ^ Complete list of CHRISTMAS LECTURES”. The Royal Institution. 14 October 2016閲覧。
  12. ^ Dobell, Clifford (1949). “D'Arcy Wentworth Thompson. 1860-1948”. Obituary Notices of Fellows of the Royal Society 6 (18): 599–617. doi:10.1098/rsbm.1949.0015. JSTOR 768942. 
  13. ^ Daniel Giraud Elliot Medal”. National Academy of Sciences. 29 December 2010時点のオリジナルよりアーカイブ。16 February 2011閲覧。
  14. ^ Waterston, Charles D; Macmillan Shearer, A (2006). Biographical Index of Former Fellows of the Royal Society of Edinburgh 1783-2002. The Royal Society of Edinburgh 
  15. ^ Gill, Theo (12 May 1911). “A New Translation of Aristotle's 'History of Animals'”. Science 33 (854): 730–738. https://www.jstor.org/stable/pdf/1637603.pdf. 
  16. ^ Leroi, Armand Marie (2014). The Lagoon: How Aristotle Invented Science. Bloomsbury. pp. 13–14. ISBN 978-1-4088-3622-4 
  17. ^ Jarron, Matthew (2013). “Editorial”. Interdisciplinary Science Reviews (Taylor and Francis) 38 (1): 1–11. doi:10.1179/0308018813Z.00000000037. http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1179/0308018813Z.00000000037. 
  18. ^ Richards, Oscar W. (1955). “D'Arcy W. Thompson's mathematical transformation and the analysis of growth”. Annals of the New York Academy of Sciences 63 (4): 456–473. doi:10.1111/j.1749-6632.1955.tb32103.x.