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オリンポスの果実

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

オリンポスの果実』(オリンポスのかじつ)は、1940年に発表された田中英光の中編小説である。

概要

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作者の田中英光自身が、青春期の1932年ロサンゼルス・オリンピックボート競技選手として参加した際の経験に基づく創作で、主人公がある女子選手に淡い想いを抱くが、結局2人の間にほとんど何も起こらない純然たる片思い小説で、私小説の形式で物語が展開する。

初出は『文學界』1940年9月号で、同年11月に高山書院より刊行され、第7回池谷信三郎賞受賞作品となった。没後の1951年新潮文庫に収録されたこともあり、時代の推移とともに田中の他の作品が次第に忘れ去られていく中で、青春小説として読み継がれている。

なお、主人公の「ぼく」こと「坂本重道」は田中自身、ヒロインの女子選手「秋ちゃん」こと「熊本秋子」は、同じくロサンゼルス五輪に陸上競技(女子走高跳)代表選手として出場した相良八重がモデルとされている[1]。モデルとなった相良の夫は小説を読んで怒り、友人で同じく代表選手の中西みち(登場人物「内田」のモデルの一人とされる)は小説の内容が嘘で「大した小説ではない」と評し、真保正子も相良が「男の人なんか見向きもしなかった」と語っている[1]。相良にとってモデルにされたことは不名誉で、はた迷惑なことだった[2]

梗概

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主人公の「ぼく」坂本重道が、ロサンゼルス・オリンピックにボートの選手として参加するために搭乗する、太平洋を渡る船の上が主たる舞台である。「秋ちゃん」という呼びかけで始まり、「ぼく」は陸上の選手として同船している熊本秋子に淡い恋心を抱いているが、仲間の男たちの冷やかしを受け、秋子も坂本の思いに気づく。しかし遂に「ぼく」は彼女に恋心を伝えるには至らない。その後、召集され戦地に赴いた「ぼく」は、当時のことを思い出しつつ、連絡が途絶えてしまった秋子に次のように呼びかけて物語は終わる。「あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか」。

テレビドラマ

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1977年版

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NHKの『銀河テレビ小説』の「昭和の青春シリーズ」第一作として、1977年1月10日から21日まで10回にわたって放送された[3]。原作とは異なって、戦後まで生き延びた作家「坂本重道」が、破滅的な生活を重ね自ら命を絶つまでの間に、青春時代を回想する形で進行する。坂本が自死を遂げる最終回のラスト近く、挿入歌として長谷川きよしの「黒の舟唄」が流された。

キャスト
スタッフ

1994年版(『文學ト云フ事』版)

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フジテレビの番組『文學ト云フ事』の第8回(1994年6月7日放送)で、「日本文学史上、究極の告白日記小説!!」として紹介され、断片的なシーンがドラマ化された。

脚注

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  1. ^ a b 勝場・村山 2013, p. 125.
  2. ^ 勝場・村山 2013, p. 126.
  3. ^ 『劇と評論』第18巻第2号、「劇と評論」の会、1976年11月15日、47頁、NDLJP:2223253/28 
  4. ^ 萩尾みどり - NHK人物録
  5. ^ 梶芽衣子 - NHK人物録

参考文献

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  • 『日本近代文学大事典』講談社、1984年
  • 『国文学解釈と鑑賞 現代作品の造形とモデル』1984年11月(島田昭男執筆)
  • 勝場勝子・村山茂代『二階堂を巣立った娘たち―戦前オリンピック選手編―』不昧堂出版、2013年4月18日、171頁。ISBN 978-4-8293-0498-3 

外部リンク

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