コンテンツにスキップ

C/2024 G3 (ATLAS)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ATLAS彗星
C/2024 G3 (ATLAS)
2025年1月25日にチリのアントファガスタで撮影された C/2024 G3 (ATLAS)
2025年1月25日チリアントファガスタで撮影された C/2024 G3 (ATLAS)
見かけの等級 (mv) 19.2(発見時)[1][2]
分類 長周期彗星(計算上)[3]
サングレーザー
発見
発見日 2024年4月5日[1]
発見者 ATLAS-CHL[1]
発見場所 Río Hurtado
チリの旗 チリコキンボ州
軌道要素と性質
元期:TDB 2,460,477.5 = 2024年6月16.0日[4]
注釈: 特記が無い軌道要素はこの元期に従い、特記している元期の月日は全てその年の1月1.0日となっている。
軌道の種類 楕円軌道(計算上)[3]
軌道長半径 (a) 3,196 au(元期1800年)[3]
7,117 au(元期2200年)[3]
(元期に応じて大きく変動)
近日点距離 (q) 0.0935 au[4]
(約1399万 km
遠日点距離 (Q) 6,391 au(元期1800年)[3]
14,234 au(元期2200年)[3]
(元期に応じて大きく変動)
離心率 (e) 0.999970(元期1800年)[3]
0.999987(元期2200年)[3]
公転周期 (P) 約 18 万年(元期1800年)[3][注 1]
約 60 万年(元期2200年)[3][注 2]
(元期に応じて大きく変動)
軌道傾斜角 (i) 116.851°[4]
近日点引数 (ω) 108.125°[4]
昇交点黄経 (Ω) 220.331°[4]
平均近点角 (M) 359.551°(元期1800年)[3]
-0.105°(元期2200年)[3]
前回近日点通過 TDB 2,460,688.924[4]
2025年1月13日
最小交差距離 0.483 au(地球軌道に対して)[4]
物理的性質
絶対等級 (H) 7.6 ± 0.5(全光度)[4]
Template (ノート 解説) ■Project

C/2024 G3 (ATLAS) は、2024年に発見された長周期彗星の一つである。近日点では太陽から約 0.09 au(約1400万 km)にまで接近することからサングレーザーに属する彗星の一つであり、2025年初頭に地球から観測される明るさが眼視等級に達した[2][5]。メディアでは 2025年の大彗星 (Great comet of 2025) や[6]、年明けから明るく観測されるようになったことに因んで New Year Comet という表現も用いられている[7][8]

発見

[編集]

C/2024 G3 (ATLAS) は、2024年4月5日チリコキンボ州で行われた、口径 0.5 m の反射望遠鏡を用いた小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS-CHL) によるサーベイ観測から発見された[1]。発見時は木星軌道のやや内側である、太陽から約 4.6 au(約6億9000万 km)離れた場所に位置しており、19等級程度の明るさで観測された[1][9]。初めて観測された際にはすでに5秒角の大きさで見えるコマが発生していることが認められ、11日後の4月16日には南アフリカ共和国ケープ州で行われた観測で長さ7.5秒角のも確認された。彗星活動の確認を受けて、同年4月18日小惑星センター (MPC) より発行された小惑星電子回報 (Minor Planet Electronic Circular) にて、正式に C/2024 G3 (ATLAS) と命名された[1]

軌道

[編集]

C/2024 G3 (ATLAS) は、オールトの雲から飛来したと考えられている長周期彗星であるとされている。発見当初は絶対等級 (H) が9等級程度と非常に暗かったため、軌道計算の結果では、2025年1月13日近日点である太陽から約 0.09 au(約1400万 km)の距離にまで接近するサングレーザーとされるも、彗星核の崩壊を起こさずに無事に近日点を通過することができない可能性があると考えられていた[5][10]。しかしその後の軌道の精査により、この彗星が以前にも近日点を通過して太陽へ接近した可能性が指摘されており、力学的に古い彗星であることが示されている[11][12]。また、更なる観測により絶対等級 (H) が以前考えられていた推定よりも明るい7等級程度と見積もられるようになり、絶対等級 (H) が明るい彗星ほど近日点を通過できる可能性が高くなるという経験則であるボートルの限界[注 3]に基いて、C/2024 G3 (ATLAS) が彗星核の崩壊を起こさずに近日点を通過できる可能性が見込めるようになった[5]

一部のメディアでは、太陽へ接近する前の軌道計算の結果から C/2024 G3 (ATLAS) を16万年に1度ごとに太陽へ接近する彗星と報じているが[14][15]、これは長期的に見れば誤りであり、JPL Horizons On-Line Ephemeris System による2025年1月14日時点の長期的な軌道計算に基づくと、太陽への接近から十分な時間が経過したころには太陽からの遠日点距離が接近前の2倍以上、公転周期が約60万年となる軌道へ変化することが示されている[3]。太陽に接近している頃の時期を元期とした軌道要素に基づくと、軌道の離心率が1を超える双曲線軌道を持つ非周期彗星となっているが[4]、これも一時的なものであり、太陽への接近の遥か前と遥か未来における軌道離心率はわずかに1を下回る楕円軌道となっており、太陽からの重力に緩く束縛された長周期彗星であると求められている[3]

JPL Horizons による C/2024 G3 (ATLAS) の公転周期と遠日点距離の変化[3][16]
(2025年1月14日時点の計算結果)
元期
(時刻はいずれもUTCにおける0時0分)
軌道の種類 軌道離心率 公転周期
(年)
遠日点距離
(au)
1800年1月1日 (TDB 2378496.5) 楕円軌道 0.999970 180,535 6391.25
2022年1月13日 (TDB 2459592.5) 楕円軌道 0.999967 153,913 5746.39
2023年1月13日 (TDB 2459957.5) 楕円軌道 0.999964 137,700 5335.39
2024年1月13日 (TDB 2460322.5) 楕円軌道 0.999963 131,926 5185.18
2025年1月13日
(TDB 2460688.5、近日点通過日)
双曲線軌道 1.011155 定義不能 定義不能
2026年1月13日 (TDB 2461053.5) 楕円軌道 0.999976 241,670 7762.98
2027年1月13日 (TDB 2461418.5) 楕円軌道 0.999983 392,115 10719.07
2028年1月13日 (TDB 2461783.5) 楕円軌道 0.999985 464,573 12001.94
2200年1月1日 (TDB 2524593.5) 楕円軌道 0.999987 599,998 14233.63

観測

[編集]
太陽観測衛星STEREO-Aの観測視野に映る C/2024 G3 (ATLAS) の画像

彗星観測データベース (Comet Observation Database, COBS) に報告された観測結果では、2024年12月末頃には眼視等級(6等級)に達した[17]。その後も C/2024 G3 (ATLAS) は増光を続け、年が明けた2025年1月2日には天体観測家のテリー・ラヴジョイによって彗星の急激な増光(アウトバースト)が発生したと報告され、このときに肉眼での明るさは3.2等級に達したとされる[18]。翌1月3日オーストラリアで行われた観測では2.4等級にまで明るくなったことが天文電報中央局 (CBAT) に報告されており[19]1月7日頃には見かけの明るさは1等級となり、約20分角の長さの尾が観測されるようになった[17]1月10日には宇宙飛行士イヴァン・ヴァグナー英語版、その翌日には同じく宇宙飛行士であるドナルド・ペティによって国際宇宙ステーション (ISS) から大きな尾を伸ばしている C/2024 G3 (ATLAS) の様子が撮影されている[20][21]

1月11日から1月15日にかけて、C/2024 G3 (ATLAS) は太陽観測衛星SOHOコロナグラフ観測機器である「LASCO C3」の視野内に映るようになった[5][22]。この観測視野内に映っている間に C/2024 G3 (ATLAS) は近日点を通過したが、その際の明るさは-4等級に達した[23]。近日点通過前後の期間は昼間でも写真に収めることができるほど明るくなり[24][25]、肉眼でも見えると報告された[26]。これにより、C/2024 G3 (ATLAS) は1927年シェレルプ・マリスタニー彗星 (C/1927 X1)1965年池谷・関彗星 (C/1965 S1)1976年ウェスト彗星 (C/1975 V1)2007年マックノート彗星 (C/2006 P1) に続き、過去100年間で昼間に肉眼で観測された5番目の彗星となった[6]南半球側から太陽へ接近する軌道であったため、近日点通過の前後でも北半球の中緯度から観測した際の高度は非常に低く、市民薄明終了時の地平線からの高度はわずか2度であった[11]

近日点通過後、彗星は再び南半球で良く観測できるようになった。肉眼でも明確に観測できるようになり、2025年1月18日には尾の長さが4度と報告され、見かけの明るさは-0.9等級と推定された[17]。しかし、その翌日の1月19日ハンガリーの天体写真家である Lionel Majzik は、尾の中に明るい流れが現れて彗星の先端部が目立たなくなったことを報告し、先端部にある核が崩壊した可能性があることを示した[27][28]。これ以前にも1月12日に核が分裂したとみられる様子が鳥取市さじアストロパークでの観測から記録されており[29]、核が崩壊した正確な原因ははっきりしていないが、近日点付近を通過中に受けた太陽からの熱による強烈な加熱によって核から物質とガスの激しい放出が起こり、最終的に核が分裂して断片化につながった可能性が高いとみられている[27]。それにもかかわらず、C/2024 G3 (ATLAS) は尾の形を維持し続け、2011年に同様の事例が観測されたサングレーザーであるラヴジョイ彗星 (C/2011 W3) と似た「頭のない」彗星となった[27]。その後は次第に暗くなっていき、2025年1月末時点で肉眼での見かけの明るさは4.5等級程度となった[17]

彗星核の崩壊が発生しない場合においてどこまで明るくなるかの予測には差があり、彗星観測家の吉田誠一は-2等級程度[2]天文学者の Gideon van Buitenen は、彗星が太陽と地球の間に入り込むことによる前方散乱英語版の影響も考慮して-4等級程度にまで明るくなると予測した[23]。楽観的な予測では-4.5等級まで明るくなり、近日点を通過した1月末になっても5等級程度と、双眼鏡などを用いれば容易に観測できる明るさを維持しているとも予測されている[11]。近日点通過時は C/2024 G3 (ATLAS) は非常に太陽に接近しているため、この時の地球から観測した際の太陽からの離角はわずか5度しかなかった[5]

画像

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ PR(公転周期)がおよそ 6.594E+07 となっており[3]、これは日単位なので年に変換すると約 180,535 年となる。
  2. ^ PR(公転周期)がおよそ 2.191E+08 となっており[3]、これは日単位なので年に変換すると約 599,998 年となる。
  3. ^ 太陽に非常に接近する彗星においては、近日点を通過するには少なくとも7等級よりも明るい絶対等級 (H) が必要となるとこの経験則では示されている[13]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f MPEC 2024-H22 : COMET C/2024 G3 (ATLAS)”. Minor Planet Electronic Circular (MPEC). Minor Planet Center (2024年4月18日). 2025年1月8日閲覧。
  2. ^ a b c 吉田誠一 (2025年1月2日). “アトラス彗星 C/2024 G3 (ATLAS)”. aerith.net. 吉田誠一のホームページ. 2025年1月8日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Barycentric Osculating Orbital Elements for Comet C/2024 G3 (ATLAS) in epoch 1800 and 2200”. JPL Horizons On-Line Ephemeris System. Jet Propulsion Laboratory. 2025年1月7日閲覧。 太陽と木星の影響を考慮した太陽系重心 (Barycenter) を用いて解を算出。「Elements and Center: @0」に設定。
  4. ^ a b c d e f g h i Small-Body Database Lookup: C/2024 G3 (ATLAS)”. JPL Small-Body Database. Jet Propulsion Laboratory (2024-12-28 last obs.). 2025年1月8日閲覧。
  5. ^ a b c d e 消え去ることを拒む「ゴースト彗星」C/2024 G3 (ATLAS)”. StarWalk (2025年2月3日). 2025年2月9日閲覧。
  6. ^ a b J. Rao (2025年1月27日). “Why Comet G3 (ATLAS) will be 'remembered as the Great Comet of 2025' (photos)”. Space.com. 2025年2月9日閲覧。
  7. ^ Jamie Carter (2025年1月8日). “The Truth About The ‘New Year Comet’ ATLAS G3”. Forbes. https://www.forbes.com/sites/jamiecartereurope/2025/01/08/the-truth-about-the-new-year-comet-atlas-g3/ 2025年1月18日閲覧。 
  8. ^ Sam Walters (2025年1月11日). “The New Year Comet C/2024 G3 May Be 2025’s Brightest — Here’s What to Know”. Discover Magazine. https://www.discovermagazine.com/the-sciences/the-new-year-comet-c-2024-g3-may-be-2025s-brightest-heres-what-to-know 2025年1月18日閲覧。 
  9. ^ C/2024 G3 (ATLAS)”. Minor Planet Center. International Astronomical Union. 2025年1月8日閲覧。
  10. ^ M. Mattiazzo. “2024G3”. Southern Comets Homepage. 2025年1月8日閲覧。
  11. ^ a b c Bob King (2024年12月18日). “Comet ATLAS (C/2024 G3) Kicks off the New Year — What to Expect”. Sky and Telescope. 2025年1月8日閲覧。
  12. ^ ALPO Comet News for NOV 2024” (PDF). www.alpo-astronomy.org. Association of Lunar and Planetary Observers (2024年). 2025年1月8日閲覧。
  13. ^ 7月までのアイソン彗星動向と今後の予測”. AstroArts (2013年8月8日). 2025年1月8日閲覧。
  14. ^ 「16万年に一度」の彗星、肉眼で見える可能性 太陽に最接近”. BBC News JAPAN (2025年1月14日). 2025年1月14日閲覧。
  15. ^ Brooke Steinberg (2025年1月13日). “This once-in-a-lifetime comet is passing Earth today — it won’t be visible for another 160,000 years”. New York Times. https://nypost.com/2025/01/13/science/how-to-watch-the-brightest-comet-of-2025-today-it-wont-be-visible-for-another-160000-years/ 2025年1月14日閲覧。 
  16. ^ Barycentric Osculating Orbital Elements for Comet C/2024 G3 (ATLAS) in epoch 2022 - 2028”. JPL Horizons On-Line Ephemeris System. Jet Propulsion Laboratory. 2025年1月14日閲覧。 太陽と木星の影響を考慮した太陽系重心 (Barycenter) を用いて解を算出。「Elements and Center: @0」に設定。
  17. ^ a b c d Observation list for C/2024 G3”. COBS – Comet OBServation database. 2025年1月8日閲覧。
  18. ^ T. Lovejoy (2025年1月3日). “C/2024 G3 in outburst? - Jan 2.76, 2025 UT”. Groups.io. 2025年1月8日閲覧。
  19. ^ Green, Daniel (2025年1月4日). “Electronic Telegram No. 5488 | COMET C/2024 G3 (ATLAS)” (txt). Central Bureau for Astronomical Telegrams. 2025年1月8日閲覧。
  20. ^ “Космонавт Вагнер сфотографировал комету C/2024 G3 (ATLAS)” (ロシア語). TACC. (2025年1月10日). https://tass.ru/kosmos/22846529 2025年1月14日閲覧。 
  21. ^ S. K. Tripathi (2025年1月13日). “Once-in-a-lifetime Comet visible tonight. It won't return for 160,000 years”. India Today. https://www.indiatoday.in/science/story/once-in-a-lifetime-comet-g3-atlas-c2024-visible-tonight-it-will-not-return-for-160000-years-2663880-2025-01-13 2025年1月14日閲覧。 
  22. ^ J. Rao (2025年1月9日). “Once-in-a-160000-year comet G3 ATLAS could shine as bright as Venus next week. Here's what to expect.”. Space.com. 2025年1月18日閲覧。
  23. ^ a b G. van Buitenen. “C/2024 G3 (ATLAS)”. astro.vanbuitenen.nl. 2025年1月8日閲覧。
  24. ^ Spaceweather Time Machine: Tuesday, Jan. 13, 2025”. www.spaceweather.com (2025年1月13日). 2025年2月9日閲覧。
  25. ^ Spaceweather Time Machine: Tuesday, Jan. 14, 2025”. www.spaceweather.com (2025年1月14日). 2025年2月9日閲覧。
  26. ^ B. King (2025年1月15日). “Grab Your Binoculars for Comet ATLAS's Brief Sunset Show”. Sky and Telescope. 2025年2月9日閲覧。
  27. ^ a b c B. King (2025年1月20日). “Comet ATLAS caught in the Act of Disintegration”. Sky and Telescope. 2025年2月9日閲覧。
  28. ^ Spaceweather Time Machine: Monday, Jan. 20, 2025”. www.spaceweather.com (2025年1月20日). 2025年2月9日閲覧。
  29. ^ 鳥取市さじアストロパーク [@SajiAstropark] (2025年1月12日). "先ほど10時22分、103cm望遠鏡で昼間のアトラス彗星C/2024 G3(ATLAS)を撮影したところ、彗星核の南4.5秒に分裂核と思われるものをとらえました !". X(旧Twitter)より2025年2月9日閲覧

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]