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BMW・N52エンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
E87 130iに搭載されたN52

BMW・N52エンジンとは、BMW直列6気筒自然吸気ガソリンエンジンの系列である。

本機は、直列6気筒・自然吸気・ポート噴射を全て採用したエンジンであり、2024年現在のBMW社製自動車用エンジンにおいて「シルキー6」と言われるフィーリングを堪能できる最後のエンジンである。

解説

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2004年に6シリーズのE63 630iおよびE90 330iに搭載され、1990年代初頭に開発されたM54エンジンを順次置き換えた。2007年には世界のベストエンジンのベスト10に選出されている。M54と比較して重量は10kg軽減され、燃料消費は12%削減され、出力は20kW増加している。最大回転数は7000回転。

軽量化のために革新的なマグネシウムアルミニウムとの複合材料のクランクケースが採用された[1]。マグネシウム合金がクランクケースに使用されたのは量産車初であった。この合金は水に対する耐腐食性が低く、高温下での使用にも適さない。このため、クランクケースは内張にアルミニウムを使用してこの欠点を補っている。これらおよび他の処置(軽量マニホールド・軽量中空カムシャフト・マグネシウム製ヘッドカバー・アルミ製ヘッド・アルミ製オイルパンなど)により、M54エンジンより10kg軽量化された。161kgの総重量は6気筒エンジンのなかで世界最軽量であった[1]

第二世代のバルブトロニックが採用された[1]。バルブのリフト量はDCモーター制御により0.25 mm から 9.8 mm の間で連続的に調整された。吸気量は吸気バルブだけで調節され、スロットルバルブは装備されるものの通常は動作せず、故障時などの非常に限定される状況のみで動作する。バルブの開閉時換もダブルVANOSで連続的にコントロールされた。共鳴吸気システムは3段階の切り替えにより低速域から高速域まで幅広いトルクバンドを担保した。また世界初の電動ウォーターポンプが採用され、エンジンの冷却需要に応じた回転数に制御された。ウォーターポンプの電動化で、機械式と比較して2割のエネルギーロスが実現し、エンジン前面のベルトの数も1本削減された。エンジンの温度管理も精密に行えるようになり燃料消費が2%削減された。しかし、この電動ウォーターポンプが故障してオーバーヒートするという症状も頻発した。オイルポンプも可変容量式となり、駆動エネルギー損失が削減された。水冷式のオイルクーラーを備え、能動的なオイル温度管理が実施されている。排ガス管理もM54より進化し、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、ベンゼンなどの排出量が削減されている。排気触媒も小型化・軽量化され、二次エアの注入も不要になっている。軽量深絞りフランジを使用することで、エキゾーストマニホールドの大幅な軽量化を実現し、従来比で800g軽くなっている。

搭載車種

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N52エンジンは、1シリーズ(E87)、3シリーズE90)、5シリーズ(E60、初期のF10)、6シリーズ(E63)、Z4(E85、E89)、X1(E84)、X3(E83、初期のF25)、X5(E70)などに搭載された。また、日本には正規輸入されなかったが、N52エンジンを搭載する7シリーズ(E65、F01)も存在する。

N53との関係

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N52の後継は2007年から製造が開始されたBMW・N53エンジン(直列6気筒自然吸気エンジン・リーンバーン直噴・バルブトロニック非採用・排気量はN52と同じく2,497ccまたは2,996cc)ということになる。しかしN53は直噴化されたものの、エンジン内部のスペース不足によりバルブトロニックが搭載されておらず、出力もN52に対してアドバンテージを持っていない。そのため両エンジンは平行して製造され、生産時期は重複している。また北米とオーストラリア、マレーシアでは燃料中の硫黄成分が多いことから直噴のN53の投入は見送られ、N52が継続使用されたり、4気筒ターボエンジンのN20エンジンが後継となった。N53エンジンは長らく日本導入が見送られてきたが、2010年7月より325i(E90、E91、E92)に搭載され、正規輸入が開始された。N53はN52より早く2013年に製造が打ち切られている(N52は2015年)。

データ

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エンジン型式 総排気量 ボア×ストローク 最高出力 最大トルク レブリミット 販売期間
N52B25 2,5L (2,497 cc) 82 × 78,8 mm 130 kW (177 PS) / 5,800 rpm 230 Nm / 3,500–5,000 rpm 7,000 rpm 2005年-2008年
150 kW (204 PS) / 6,400 rpm 250 Nm / 2,750–4,250 rpm 7,000 rpm 2009年9月-
160 kW (218 PS) / 6,500 rpm 250 Nm / 2,750–4,250 rpm 7,000 rpm 2005年-
N52B30 3,0L (2,996 cc) 85 × 88 mm 160 kW (218 PS) / 6,100 rpm 270 Nm / 2,400−4,200 rpm 7,000 rpm 2007年-
190 kW (258 PS) / 6,600 rpm 300 Nm / 2,500−4,000 rpm 7,000 rpm 2004年-2007年
190 kW (258 PS) / 6,600 rpm 310 Nm / 2,600–3,000 rpm 7,000 rpm 2009年9月-
195 kW (265 PS) / 6,600 rpm 315 Nm / 2,750 rpm 7,000 rpm 2005年-2009年9月
200 kW (272 PS) / 6,700 rpm 315 Nm / 2,750 rpm 7,000 rpm 2006年-
エンジン正面

搭載車種

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N52B25

  • 130 kW
    • BMW 523i(E60/E61)
    • BMW Z4 2.5i(E85)
  • 150 kW
    • BMW Z4 sDrive23i (E89)
    • BMW 523i (F10/F11) (2010年9月-2011年9月)
  • 160 kW
    • BMW 325i (E90/E91/E92)
    • BMW 525i (E60/E61)
    • BMW X3 2.5si (E83)
    • BMW Z4 2.5si (E85)

N52B30

  • 160 kW
    • BMW 125i (E82/E88)
    • BMW 325i (E90/E91/E92)
    • BMW X1 xDrive25i (E84)
  • 190 kW
    • BMW 130i (E81/E87) (2009年9月-)
    • BMW 330i (E90/E91)
    • BMW 530i (E60/E61)
    • BMW 630i (E63/E64)
    • BMW 730i (E65/E66)
    • BMW Z4 sDrive30i (E89)
    • BMW 528i (F10/F11) (2010年-2011年)
  • 195 kW
    • BMW 130i (E81/E87) (2009年9月-2011年)
    • BMW Z4 3.0si (E85/E86)
  • 200 kW
    • BMW 330i (E92)
    • BMW X3 3.0si (E83)
    • BMW X5 3.0si (E70)
  1. ^ a b c コンパクトセグメントに新しいドライビングの愉しみを提供するBMW 1シリーズのトップモデル、ニューBMW 130i M-Sportを発売、合わせてBMW 1シリーズ全車にM-Sportパッケージを設定 PressClub Japan BMW 2005年4月10日