2015年天津浜海新区倉庫爆発事故
2015年天津浜海新区倉庫爆発事故 | |
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最初の爆発の様子 | |
場所 | 中国・天津市浜海新区の港湾地区の倉庫 |
座標 | 北緯39度02分19秒 東経117度44分13秒 / 北緯39.03861度 東経117.73694度座標: 北緯39度02分19秒 東経117度44分13秒 / 北緯39.03861度 東経117.73694度 |
日付 |
2015年8月12日 23時30分 – (中国標準時) |
原因 | ニトロセルロースが局所的に乾燥後、自然発火し、近隣に保管してあった他の危険物へ引火した[1] |
死亡者 | 165人(消防隊員・警察官110人、周辺住民他55人)[2] |
負傷者 | 798人(重傷58人)[2] |
行方不明者 | 8人(公安消防隊員5人、消防隊員の家族他3人)[2] |
2015年天津浜海新区倉庫爆発事故(2015ねん てんしんひんかいしんく そうこばくはつじこ)は、2015年8月12日午後11時半(UTC+8)ごろ、中華人民共和国・天津市浜海新区天津港7号卡子門にある「天津東疆保税港区瑞海国際物流有限公司」の危険物倉庫で発生した大規模な爆発事故である[3][4]。
この事故により、天津港は港湾機能が麻痺する状態に陥った[5]。
事故概要
[編集]経緯と主な被害状況
[編集]事故現場は、天津市浜海新区の港湾地区にある国際物流センター内にある危険物倉庫である。
8月12日午後11時(UTC+8)ごろ、一帯に火災が発生し、11時半ごろに2回の爆発が連続して起こり[6][7][8]、周辺住民も含めて死者165人、行方不明者8人、負傷者798人の惨事となった[2]。
爆発現場から半径2km圏内にある建物の窓ガラスが割れ、現場近くの住民は「昼間のような明るさだった」と語った[9]。
消火活動後に撮影された航空写真では、爆発現場周辺の地形がクレーター状に変形しており、事故の影響の大きさを伝えている[10]。
また、津浜軽軌の東海路駅駅舎とコントロールセンターが爆発で大きく損傷したため、8月13日から全線で運行停止となった[11]。トヨタ自動車の現地従業員50人以上が負傷し[12]、港口付近で保管されていたルノー、フォルクスワーゲン、トヨタ自動車、富士重工業(スバル)、マツダなどの新車も激しく損傷した[13]。日系ブランドの他、ヒュンダイ、キア、フォルクスワーゲン、ルノーなどを含む保管されていた自動車1万台は激しく破損[14]。付近にあるディア、キャタピラーなどの生産拠点が業務を一時停止した[15]。
復旧状況
[編集]トヨタは天津市内の2つの完成車工場をいち早く再開し、泰達工場(2ライン)を8月28日から、西青工場(1ライン)は27日から生産を始めた[16]。
ニイタカは中国福建省で生産する飲食店向け固形燃料を日本に輸入できず、国内他社に当面生産を委託することとなった[17]。
原因物質と危険性
[編集]8月15日、爆発により危険物専用の倉庫に保管された700トンのシアン化ナトリウム(NaCN)の一部が流出したため、当局は現場の半径3km以内の住民に緊急避難するように命じた[18][19]。
シアン化ナトリウムは常温で固体だが、水や酸などと反応すると有毒で引火しやすい青酸ガス(シアン化水素ガス)を発生させる[20]。口に入れたりガスを吸い込んだりすると、呼吸困難やめまいを引き起こし、数秒で死亡することもある[20]。
今回、まず23の消防中隊および93輛の消防車両、総勢600人が出動し、消火作業にあたったという[21]。
本件では、危険情報の教育を十分に受けていない消防隊員が、発火したコンテナに放水作業を行ったことが二次被害に繋がっているとみられる。なお中国の公安消防部隊は、中央軍事委員会および公安部の傘下にあり、中国人民武装警察部隊を通じて徴用される「消防新兵」と呼ばれる兵士たちであり、危険物処理に関する十分な専門知識と経験に基づいた訓練を受けていないことが実態とみられる[21]。
現場では、この対応により「バリバリという音がして光り出し、爆発した」ことで消防隊も多数の死亡者を出している[22]。
大気に拡散した有害な煙は渤海の方向へと拡散し[23]、朝鮮半島付近に達している[24]。シアン化ナトリウムは固体であり、雨に溶けたり、重力で落下する[25]。一方、シアン化水素は分解速度が遅く、摂氏26度以上の温度で空気よりも比重の軽い気体のため、対流圏に長く留まる[25]。 山形大学理学部の柳沢文孝教授の話によると、「大気で薄まるため、健康被害が出るような汚染物質が日本に到達するとは考えにくい。ただ、正確な汚染物質がわからず観察していく必要がある」としている[24]。その他硝酸アンモニウム、硝酸カリウムなど全40種類3000トンもの危険物が規定量を大幅に超えて保管されていた。人民解放軍のNBC部隊による調査では、近隣の土壌からナトリウムを検出しており土壌汚染の恐れがあると言われる[26]。
中国当局の反応
[編集]発表内容
[編集]中共中央総書記(中国共産党総書記)、中国国家主席、中共中央軍委(中国共産党中央軍事委員会)主席の習近平は「『全力を挙げて』負傷者を救助する」と指示[27]。
中華人民共和国国務院総理の李克強は、爆発原因の徹底的調査及び信息の公開を指示した。
中華人民共和国公安部の郭声琨を長とする国務院の対策チームが現地に派遣され、現場で救助活動を指揮した[27]。
情報統制
[編集]事態を重視する中国政府は、報道規制の動きも強めている。中国国家インターネット情報弁公室(Cyberspace Administration of China、CAC)により、16日までに計50のウェブサイトを閉鎖し、ソーシャルネットワークサイトは360個のアカウントを凍結した[28]。
政府のネット管理部門は13日、地方紙「鄭州晩報」のインスタントメッセンジャー「微信」のアカウントが今回の事故に関して事実と異なる情報を発信したとして、微信の発信を1週間停止させる措置をとったことを明らかにした[22]。
事故の翌日に、現場近くの市民がのどの痛みや目のかゆみを訴えたが[29]、これに対する市民のインターネット上のコメントなどは当局に摘発された[30]。
現場から6km離れた場所で魚が大量死した写真がミニブログなどに発信された。天津港に繋がる海河という浜海新区の大規模河川の防潮水門付近で、浮いた魚の腹で真っ白になっている。国営中央テレビ(CCTV)や英字紙グローバルタイムズは「現場水域でシアン化合物は検出されず、別の酸素欠乏などが原因である」と人民の不安を打ち消すよう報じた。
政治責任問題
[編集]8月18日、中国共産党の中央規律検査委員会は、国家安全生産監督管理総局局長の楊棟梁を、重大な規律違反と法律違反の疑いで調査していると発表。楊局長は2012年5月上旬まで天津市副市長で、ペトロチャイナなどと組んで天津の石油化学プロジェクトを推進したと言われている。一部では習近平総書記の政敵で、すでに失脚した石油閥の周永康の一派の排除に繋げたのではないかとされている[31]。
また当局は、天津市の爆発が起きた倉庫を所有する中国企業「瑞海国際物流公司」会長の于学偉ら10人を拘束した。中国政府により組織された「天津港8月12日瑞海公司危険物倉庫特別重大火災爆発事故調査チーム」は、2016年2月に調査報告書を発表し、その中で瑞海公司が事故発生についての主たる責任を持つと認定した[1]。2016年11月には、瑞海公司の関係者らに一審判決が下された[1]。
その他の被害状況
[編集]貨物への影響
[編集]2015年8月17日の時点では、天津新港は危険品の取扱いが中止となっている。
- A.P. モラー・マースク - 施設に軽微の被害あり[32]
- Damco - 二つの倉庫に軽微な被害、別の二つの倉庫に深刻な被害[32]
- YCH - 倉庫に被害あり[33]
- SITC Japan - 特に損傷は確認されていない[34]
- シノトランスジャパン - 影響無し[35]
- 中海コンテナジャパン (Shanghai Puhai Shippingの日本総代理店) - 影響無し[36]
- 神原汽船 - 情報収集中[37]
- 日新 - ガラスの一部が破損[38]
- PSAインターナショナル - 影響無し[39]
- SINGAMAS - 影響有り[40]
農作物、畜産物、海産物、その他への影響
[編集]この節の加筆が望まれています。 |
爆発地点から6km離れた川で魚の大量死が起きており、現在その原因が調査されている[41]。
香港では天津からの農作物、畜産物及び海産物の輸入制限について議論が行われている[42][43]。
また土壌への影響も懸念される。人民解放軍のNBC(核・生物兵器・化学兵器)部隊が投入され、現場の土壌サンプルを検査したところ、ナトリウムが検出された。水と接触すると発火する性質があるため、雨が降ると火災につながるリスクが懸念される[26]。
医薬品への影響
[編集]関連項目
[編集]- 人によって引き起こされた核爆発以外の大爆発一覧
- 山東省化学工場爆発事件 - 本件と同じ2015年8月に中国沿岸部にて発生。
- 品川勝島倉庫爆発火災 - 一部報道で本件との類似性を指摘する意見がある[45]。
- ベイルート港爆発事故 - 危険物倉庫での火災が原因の爆発事故
- ボパール化学工場事故 - インドでの化学物質の流出による大規模災害
出典
[編集]- ^ a b c 驚くほど刑罰が軽かった天津爆発事故の一審判決 日経ビジネスオンライン (2016年11月18日) 2016年11月20日閲覧.
- ^ a b c d “天津港“8·12”瑞海公司危险品仓库特别重大火灾爆炸事故调查报告公布”. 新華網 (新華社). (2016年2月5日)
- ^ “天津で巨大爆発、17人死亡=危険物に引火、400人負傷か―中国”. Yahoo!ニュース. 時事通信. (2015年8月13日). オリジナルの2015年8月12日時点におけるアーカイブ。
- ^ “中国・天津市で大規模爆発 300人以上が病院で手当て受ける”. FNN. (2015年8月13日). オリジナルの2015年8月13日時点におけるアーカイブ。
- ^ “世界4位の港まひ 天津爆発、被害広がる”. 日本経済新聞. (2015年8月16日)
- ^ “天津爆発、危険化学物質の種類と量が公表 約40種類・2500トン”. 人民網日本語版. 人民日報 (2015年8月20日). 2020年10月14日閲覧。
- ^ “天津滨海新区爆炸系危化品堆垛发生火灾引起” (中国語). 新浪網 2015年8月13日閲覧。
- ^ “中国・天津の工業地帯で爆発、17人死亡 30人重体”. 朝日新聞. (2015年8月13日)
- ^ “中国・天津の港湾で爆発、13人死亡 300人負傷か”. 日本経済新聞. (2015年8月13日)
- ^ 安藤健二 (2015年8月20日). “天津爆発で直径100mの巨大クレーターが出現(画像集)”. ハフィントン・ポスト
- ^ “天津津濱輕軌受損 東海路站被震毀” (中国語). 中時電子報 2015年8月13日閲覧。
- ^ “トヨタ、天津爆発で50人以上負傷 工場にも被害”. 日本経済新聞 2015年8月16日閲覧。
- ^ “天津爆発でトヨタ・富士重・マツダに被害、完成車損傷も”. ロイター 2015年8月16日閲覧。
- ^ “中国・天津の大爆発 自動車1万台が破損、ヒュンダイ、VW、ルノー、日系に及ぶ”. 新華ニュース. (2015年8月16日)
- ^ “天津での爆発:死者50人、企業幹部拘束-ルノーなど企業に被害”. Bloomberg 2015年8月16日閲覧。
- ^ “【中国】トヨタの天津工場、きょうから生産再開へ”. Yahoo!ニュース. NNA. (2015年8月27日)
- ^ “ニイタカ、天津爆発で日本製に転換 料理用の固形燃料”. 日本経済新聞. (2015年9月26日)
- ^ “中国爆発、化学物質流出の恐れを調査 現場に有害物質700トンか”. AFPBB News. (2015年8月15日)
- ^ “青酸ガス出す猛毒の化学物質流出…半径3キロに緊急避難命令 現地メディア報道”. 産経新聞. (2015年8月15日)
- ^ a b 国際化学物質安全性カード 2015年天津浜海新区倉庫爆発事故 ICSC番号:1118 (日本語版), 国立医薬品食品衛生研究所
- ^ a b 福島, 香織 (2015年8月19日). “プロの消防士がいない中国 : 天津化学薬品倉庫爆発事故、悲劇の必然”. 日経ビジネスオンライン. 2015年8月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月23日閲覧。
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- ^ “中国・天津の大爆発 爆発で発生した煙が渤海へ拡散”. 新華ニュース. (2015年8月15日)
- ^ a b “汚染物質、日本到達の可能性も 研究チームが画像分析”. 産経新聞. (2015年8月18日)
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- ^ a b 天津爆発事故の現場土壌からナトリウムを検出、雨で発火のリスク―中国メディア レコードチャイナ
- ^ a b “中国・天津港の倉庫で大爆発、400人以上が死傷”. 産経新聞. (2015年8月13日)
- ^ “中国・爆発で「父死亡」とうそ、175万円寄付集めた19歳を拘束”. AFPBB. (2015年8月17日). オリジナルの2015年8月時点におけるアーカイブ。
- ^ “当局が情報隠し?「国営通信以外の記事使ってはならぬ」と通達 いらだつ市民”. 産経新聞. (2015年8月14日)
- ^ “天津爆発、死者85人…220人分の解毒剤搬入”. 読売新聞. (2015年8月15日)
- ^ “天津大爆発 習近平政権が隠蔽する「5つの疑惑」”. 現代ビジネス (2015年8月23日). 2015年8月23日閲覧。
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- ^ Singapore firm evacuates warehouse The Straits Times 2015年8月15日
- ^ 天津市濱海新区の危険品倉庫爆発事故について(8) SITC Japan 2015年8月14日
- ^ 天津市爆発事故の影響による規制に関するご案内 シノトランスジャパン 2015年8月13日
- ^ 天津における爆発事故について-2 中海コンテナジャパン 2015年8月14日
- ^ 天津爆発事故に関し 神原汽船 2015年8月13日
- ^ “山九など日系物流企業に被害、出荷に影響も-天津港の爆発事故で”. Bloomberg. (2015年8月14日)
- ^ 50 known to have died after massive Tianjin Port explosion Container Management 2015年8月13日
- ^ ANNOUNCEMENT IN RESPECT OF THE EXPLOSIONS IN TIANJIN SINGAMAS CONTAINER HOLDINGS LIMITED 2015年8月17日
- ^ “近くの川で魚が大量死 倉庫に7種の国際危険物約2500トン、許可なく管理か”. 産経新聞. (2015年8月20日)
- ^ “香港入口多少天津蔬果?”. 香港經濟日報. (2015年8月17日)
- ^ “【天津大爆炸】當地7菜場供港 果欄有賣天津鴨梨”. 蘋果日報. (2015年8月15日)
- ^ GSK 天津工場被災に伴う B 型慢性肝疾患治療薬「テノゼットⓇ錠 300mg」出荷調整のお知らせ グラクソ・スミスクライン 2015年8月31日
- ^ “「天津爆発」でよみがえる史上最悪の消防犠牲”. 東京スポーツ. (2015年8月18日)