香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定
香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定 | |
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全国人民代表大会 | |
適用地域 | 中華人民共和国 香港 |
成立日 | 2020年5月28日 |
起草者 | 全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会 |
概要 | |
香港特別行政区を適用範囲とする「国家安全法」を整備する権限を全国人民代表大会常務委員会に付与する | |
現況: 施行中 |
香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定(ホンコンとくべつぎょうせいくがこっかあんぜんをまもるためのほうりつせいどとしっこうメカニズムのかくりつ・けんぜんかにかんするぜんこくじんみんだいひょうたいかいのけってい、中: 全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定[1])は、香港特別行政区を適用範囲とする『国家安全法』を整備する権限を付与した中華人民共和国全国人民代表大会の決定。
2020年5月28日の第13期全国人民代表大会第3回会議で可決され、『香港国家安全維持法』制定の法的根拠となった。
決定採択までの経緯
[編集]第十九期四中全会
[編集]2019年10月31日、中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議(四中全会)において『中国の特色ある社会主義制度の堅持と整備、国家ガバナンスのシステムと能力の現代化の推進における若干の重大な問題に関する中共中央の決定』(中: 中共中央关于坚持和完善中国特色社会主义制度、推进国家治理体系和治理能力现代化若干重大问题的决定)[2]が審議・採択された。同決定には「特別行政区が国家安全を守るための法制度と執行メカニズムを確立・健全化し、特別行政区の法執行力の強化を支援する」と記されるなど、特別行政区の国家安全維持に関する中国共産党の活動方針が定められた[3]。
第13期全人代第3回会議での決定採択
[編集]2020年5月18日、第13期全国人民代表大会常務委員会(全人代常務委員会)第18回会議は国務院が提出した『香港特別行政区が国家安全を守るための状況に関する国務院の報告』の説明を聴取し、審議を行った[4]。
同日、全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会は『香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定[1](通称:香港国家安全法[5][6][7][8][9]、香港版国家安全法[10][11])』の起草を完了し、全人代常務委員会の審議に付した。全人代常務委員会会議は草案の審議を行い、5月22日開幕の第13期全国人民代表大会第3回会議に提出することを決定した[4]。
提出された草案は5月22日の全人代会議で全人代常務委員会副委員長の王晨による趣旨説明が行われた後、全人代会議の3回の審議を経て修正され、5月28日の全人代会議で採決が行われ、賛成2,878票、反対1票、棄権6票で採択された(後述)。
採決結果
[編集]本決定案は5月28日午後3時(日本時間午後4時)からの全人代会議で『全国人民代表大会常務委員会提出議案「香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定(草案)の採択について」(《全国人民代表大会常务委员会关于提请审议〈全國人民代表大會關於建立健全香港特別行政區維護國家安全的法律制度和執行機制的決定(草案)〉的议案》)』として採決にかけられ、以下の結果で採択された[12]。
採決議案 | 賛成 | 反対 | 棄権 | 未按表决器 | 欠席 | 出席代表通過率[注 1] | 法定投票率[注 1] |
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全国人民代表大会常務委員会提出議案「『香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定(草案)』の採択について」 | 2,878票 | 1票 | 6票 | 1人 | 70人 | 99.76% | 96.58% |
決定の内容
[編集]この決定は香港国家安全維持法制に対する立法方針と、全人代から全人代常務委員会へ同法制を整備する権限を付与すること[13]、関係する法律の制定後に香港政府が公布し、即日施行することなどを定めている[13][14][注 2]。
なお、香港国家安全維持法制を香港立法会が審議する機会はない[14][注 3]。
決定採択後
[編集]『決定』採択によって香港特別行政区を適用範囲とする『国家安全法』を整備する権限を付与された全国人民代表大会常務委員会は『香港版国家安全法』の制定に着手し、2020年6月30日の全国人民代表大会常務委員会で『中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法』と同法を香港特別行政区基本法の付属文書に追加する決定を全会一致(162票)で可決、習近平国家主席(党総書記・最高指導者)と林鄭月娥行政長官の公布により、現地時間同日夜11時(日本時間7月1日午前0時)より施行された[13][15][16][17][注 4]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b 出席した代表の投票率は法定投票率とは一致しない。また、全国人民代表大会に提出される議案に投票する場合、法定投票率は出席した代表2,885人ではなく、第13期全国人民代表大会代表の定数2,980人から計算されるため、総議員数に対する賛成票数を計算する方法とする。この方式は中華人民共和国憲法第64条第2項および中華人民共和国全国人民代表大会議事規則第52条第1項に基づくものである。ただし、中国メディアの報道では長年にわたり投票数と出席者数を比較して投票率を算出するアルゴリズムを採用しているため、読者の疑念を避けるため、本項では法定投票率を表示するとともに、中国メディアの慣習に従って代表者の出席率を記載している。
- ^ この決定では憲法31条・62条2号・62条14号・62条16号に規定する全人代の権限の全人代常務委員会への授権(憲法67条22号)を定めている[13]。
- ^ 香港では2003年に香港特別行政区基本法第23条の規定に基づく国家安全条例の施行が試みられた際には50万人が参加する大規模な抗議デモが発生し、法制化断念に追い込まれた経緯がある。
- ^ 法令番号は国家主席令第49号並びに2020年第136号法律。
出典(ニュース)
[編集]- ^ a b “各国各界の関係者、全人代による香港の国家安全立法の推進を支持”. 中国網日本語版. (2020年6月8日) 2020年6月26日閲覧。
- ^ “第19期四中全会が28~31日に北京で開催”. 人民網日本語版. (2019年10月25日) 2020年6月26日閲覧。
- ^ “(受权发布)中共中央关于坚持和完善中国特色社会主义制度推进国家治理体系和治理能力现代化若干重大问题的决定”. 新华社. 新华网. (2019年11月5日) 2020年6月26日閲覧。
- ^ a b “关于《全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定(草案)》的说明”. 新华社. 中国政府网. (2020年5月28日) 2020年6月26日閲覧。
- ^ “「国家安全法で香港はどうなるのか?」”. 公益社団法人 日本経済研究センター (2020年5月29日). 2020年6月1日閲覧。
- ^ “香港国家安全法、6月末にも制定 行政長官、市民に支持要請|全国のニュース|京都新聞”. 京都新聞. 2020年6月1日閲覧。
- ^ “香港国家安全法 一国二制度を踏みにじるのか : 社説”. 読売新聞オンライン (2020年5月29日). 2020年6月1日閲覧。
- ^ “香港国家安全法 米中対立の激化が心配だ:山陽新聞デジタル|さんデジ”. 山陽新聞デジタル|さんデジ. 2020年6月1日閲覧。
- ^ “香港国家安全法、6月末にも制定”. 西日本新聞ニュース. 2020年6月1日閲覧。
- ^ “香港版「国家安全法」でこれから何が起きるか コロナ戦争を読み解く”. 東洋経済オンライン (2020年5月29日). 2020年6月1日閲覧。
- ^ “香港版国家安全法の草案内容を発表|香港ポスト”. 香港ポスト. 2020年6月1日閲覧。
- ^ “十三届全国人大三次会议闭幕会(第13期全国人民代表大会第3回会議閉会式)” (中国語). 中国经济网 (2020年05月28日 15:00). 2021年3月15日閲覧。
- ^ a b c d “全国人民代表大会关于建立健全香港特别行政区维护国家安全的法律制度和执行机制的决定”. 新华社. 中国人大网. (2020年5月28日) 2020年6月26日閲覧。
- ^ a b “中国、香港治安法の導入方針を採択 一国二制度が岐路に:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2020年5月31日閲覧。
- ^ 共同通信 (2020年6月30日). “中国が香港国家安全維持法案可決 香港メディア | 共同通信”. 共同通信. 2020年6月30日閲覧。
- ^ 香港国家安全法案を可決 「一国二制度」形骸化決定的に―中国 時事通信社 2020年6月30日 2020年6月30日閲覧]
- ^ 《2020年全國性法律公布》 - 2020年第136號法律公告 - 林鄭月娥, 2020年6月30日.