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陰茎絞扼症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(A)陰茎根部での結束バンドによる陰茎絞扼の症例。静脈も動脈も圧迫されていた。(B)陰茎根部の潰瘍は、包囲物を除去してから1週間後のものである。この絞扼によって陰茎の感覚は永久に失われた。

陰茎絞扼症(いんけいこうやくしょう、: Penile strangulation)とは、外的要因により陰茎全周が圧迫、絞扼された状態を指す。循環障害を生じ、絞扼部より末端側に陰茎浮腫腫脹疼痛を来し、時に亀頭・陰茎などの壊死を招く。

絞扼は輪ゴム、紐、糸などの軟性絞扼物によるものと、指輪やナット等のリング状金属片やペットボトルなどの硬性絞扼物によるものに分けられる[1]。軟性絞扼物の方が絞扼面積が狭く陰茎に埋没しやすく絞扼力も強いので、損傷度合いが大きく[2]、合併症が多いことが判っている[3]。自慰や悪戯目的の他、夜尿・尿失禁の予防などが目的とされる[4]

徴候・症状

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絞扼に伴う症状により、5段階に分類される。

Bhat の分類[1]
グレード
1 陰茎浮腫あり

皮膚潰瘍・尿道損傷なし

2 尿道海綿体まで損傷・皮膚感覚低下

尿道損傷なし

3 尿道損傷あり・感覚障害

尿道瘻なし

4 尿道瘻あり・感覚消失
5 陰茎壊死

毛髪や輪ゴムによる絞扼は、絞扼物が腫脹している陰茎や冠状溝の下に隠れており、診断が難しい場合がある[5][6]

陰茎の血管系が圧迫されるため、静脈、動脈、またはその両方が圧迫されたかどうかに応じて、軽度の可逆的血管閉塞、虚血壊死、壊疽および腎障害リンパ浮腫潰瘍形成、尿道皮膚瘻、感覚喪失、尿道損傷、敗血症自然落脱などの様々な合併症が生じる可能性がある[7]。絞扼時間が12時間以内であれば合併症が起こりにくいとされる[8]

原因

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様々なものが絞扼の原因となる:

治療

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医学的治療を必要とする陰茎絞扼損傷は少なく、1755年に初めて記述されて以来、約60~120例が報告されている。通常は急性だが、慢性絞扼症例や1ヵ月に及ぶ急性症例も報告されている[7][17]

治療では絞扼物を切断し、絞扼を解除して腫脹を減圧する[18][7]。硬性絞扼物の切断には特殊な切断器具が必要となる場合もある[1]。絞扼解除後は治癒する場合もあるが[19]、潰瘍形成するものや[5]、絞扼持続時間によっては組織の壊死が進行し、陰茎切断術[20]デブリードマン[21]が実施される場合がある。

出典

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  1. ^ a b c 松本吉隆, 遠藤慶祐, 大森洋平, 小峯学, 菊池孝治「陰茎陰嚢絞扼症の2例」『泌尿器科紀要』第66巻第4号、泌尿器科紀要刊行会、2020年4月、131-135頁、doi:10.14989/actauroljap_66_4_131ISSN 0018-1994 
  2. ^ 久末伸一, 堀江重郎「特集 泌尿器科救急疾患-あなたの対処は間違っていませんか? 陰茎絞扼症,嵌頓包茎」『臨床泌尿器科』第67巻第10号、株式会社医学書院、2013年9月、793-796頁、doi:10.11477/mf.1413103321ISSN 03852393 
  3. ^ 岡田栄子, 篠原敏, 石内裕人, 佐藤聡, 中山哲規, 友政宏, 飯泉達夫, 矢崎恒忠, 梅田隆, 雨宮裕, 村松弘志 (1992). “陰茎絞扼症の2例”. 西日本泌尿器科 54 (10): 1770-1773. 
  4. ^ 関井洋輔, 片山欽三, 林拓自, 嘉元章人, 角田洋一, 森直樹, 吉岡俊昭「敗血症をきたし陰茎部分切除術を施行した陰茎絞扼症の1例」『泌尿器科紀要』第59巻第6号、泌尿器科紀要刊行会、2013年6月、385-387頁、hdl:2433/175707ISSN 0018-1994 
  5. ^ a b 伊與木貴也, 阿部純也, 加藤隆一「嵌頓包茎との鑑別に苦慮した陰茎絞扼症の1例」『市立室蘭総合病院医誌』第45巻第1号、市立室蘭総合病院、2020年9月、9-11頁、ISSN 0289-2774 
  6. ^ Dubin, Jeffrey; Davis, Jonathan E. (2011). “Penile Emergencies”. Emergency Medicine Clinics of North America 29 (3): 485–499. doi:10.1016/j.emc.2011.04.006. PMID 21782070. 
  7. ^ a b c Ivanovski, Ognen; Stankov, Oliver; Kuzmanoski, Marjan; Saidi, Skender; Banev, Saso; Filipovski, Vanja; Lekovski, Ljupco; Popov, Zivko (2007-11-01). “Penile strangulation: two case reports and review of the literature”. The Journal of Sexual Medicine 4 (6): 1775–1780. doi:10.1111/j.1743-6109.2007.00601.x. ISSN 1743-6095. PMID 17888068. 
  8. ^ 柴田祐達,山田直人 (1999). “陰茎絞扼症の治療経験”. 日本災害医学会会誌 47: 521-525. 
  9. ^ Osborne, Hannah (2016年11月16日). “Doctors report rare case of penile strangulation after man puts wedding ring on penis”. International Business Times UK. オリジナルの2017年2月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170202031632/http://www.ibtimes.co.uk/doctors-report-rare-case-penile-strangulation-after-man-puts-wedding-ring-penis-warning-1591830 2017年1月28日閲覧。 
  10. ^ Man with penis stuck in ring suffered three days of pain”. TheStar.com.my. 2017年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ2017年1月28日閲覧。
  11. ^ Haines, Lester (10 February 2016). “Firemen free chap's todger from four-ring chokehold”. The Register. 2017年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ2017年1月28日閲覧。
  12. ^ “Inhaled Condoms And Vacuum Cleaner Hose Mishaps: The Wackiest Sex Injuries In Medical Literature” (英語). オリジナルの2017年2月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170202083756/https://www.yahoo.com/beauty/inhaled-condoms-and-vacuum-cleaner-hose-mishaps-110667660442.html 2017年1月28日閲覧。 
  13. ^ Nuzzo, Regina. “Good Vibrations: U.S. Consumer Web Site Aims to Enhance Sex Toy Safety” (英語). Scientific American. オリジナルの2014年3月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140304073633/https://www.scientificamerican.com/article/good-vibrations-us-consumer-web-site-aims-to-enhance-sex-toy-safety/ 2017年1月28日閲覧。 
  14. ^ Mirror.co.uk (2016年10月16日). “Man tries pleasuring himself with a bottle - things go horrifically wrong”. mirror. オリジナルの2017年2月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170203064511/http://www.mirror.co.uk/news/weird-news/man-penis-amputated-after-getting-9056884 2017年1月28日閲覧。 
  15. ^ 佐々木雄太郎、小田眞平、藤方史朗、谷本修二、菅政治「陰茎壊死, 敗血症をきたした輪ゴムによる陰茎絞扼症の1例」『泌尿器科紀要』第60巻第3号、泌尿器科紀要刊行会、2014年3月、155-157頁、hdl:2433/186169ISSN 0018-1994 
  16. ^ Baarimah, Alhareth; Dar, Latif; Dashnan, Rayan; Alshahrani, Saeed; Beaiti, Mohammed; ALDhabaan, Khaled (2022-08-09). Chen, Tun-Chieh. ed. “Penile Hair Tourniquet Syndrome (PHTS): A Case Report of a Two-Year-Old Boy” (英語). Case Reports in Urology 2022: 1–3. doi:10.1155/2022/8030934. ISSN 2090-6978. https://www.hindawi.com/journals/criu/2022/8030934/. 
  17. ^ Li, Chao; Xu, Yue-Min; Chen, Rong; Deng, Chen-Liang (2013-07-01). “An effective treatment for penile strangulation”. Molecular Medicine Reports 8 (1): 201–204. doi:10.3892/mmr.2013.1456. ISSN 1791-3004. PMID 23652299. 
  18. ^ Kim, Jae Heon; Park, Jae Young; Song, Yun Seob (2014-01-01). “Traumatic penile injury: from circumcision injury to penile amputation”. BioMed Research International 2014: 375285. doi:10.1155/2014/375285. ISSN 2314-6141. PMC 4164514. PMID 25250318. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4164514/. 
  19. ^ 小林裕章, 金子剛, 西本紘嗣郎, 内田厚「ペットボトルによる陰茎絞扼症の1例」『泌尿器科紀要』第56巻第1号、泌尿器科紀要刊行会、2010年1月、63-65頁、hdl:2433/92985ISSN 0018-1994 
  20. ^ 平野恭弘, 北川元昭, 鈴木和雄, 藤田公生「症例 陰茎絞扼による陰茎壊死」『臨床泌尿器科』第48巻第12号、株式会社医学書院、1994年11月、964-966頁、doi:10.11477/mf.1413901336ISSN 0385-2393 
  21. ^ 柴﨑幹生, 赤塚純, 遠藤勇気, 上田貴之, 長谷川裕也, 三神晃, 大林康太郎, 林達郎, 土肥輝之, 近藤幸尋「高齢者の陰茎絞扼症の1例」『日本医科大学医学会雑誌』第17巻第1号、日本医科大学医学会、2021年2月、21-24頁、doi:10.1272/manms.17.21ISSN 13498975