著作権法 (フランス)
この記事は特に記述がない限り、フランスの法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。 |
フランスの著作権法 (フランスのちょさくけんほう) は、文芸・音楽・美術・ソフトウェアといった著作物に関する権利を保護するフランス国内の法律であり、その条文は知的財産法典 (略称: CPI) の第1部に収録されている[1][注 1]。同法が対象とする権利者は、著作物を創作した著作者本人、本人から権利を移譲された著作権者 (相続人を含む)、著作物の伝達・流通に寄与する著作隣接権者 (歌手、放送事業者、新聞社など)、および著作物の利用料を代行徴収する著作権管理団体 (集中管理機関) などである。
フランスが他国の著作権法に与えた歴史的影響はきわめて大きく[4][5]、「著作権先進国」や「著作権の母国」と称されることもある[6]。文化・芸術大国のフランスは他国からの海賊版被害を受けやすかった背景もあり[7][8]、今日の著作権法の世界的基盤となっているベルヌ条約[注 2]の起草をフランスが主導して国際的な権利保護水準を高めた[10]。その後、欧州大陸の諸国 (いわゆる大陸法の国々) はフランス著作権法の概念を部分的に取り込んでいる[11]。他国と比較し、とりわけ著作者人格権 (著作者の「心」が守られる権利) を包括的かつ手厚く保護している点がフランス著作権法の特徴として挙げられ、保護範囲の狭い (換言すると著作物の第三者利用に寛容的な) 英米法のアメリカ合衆国著作権法やイギリス著作権法との対比で語られることもある[12][13][14]。
現代のフランスは、著作権に関する主要国際条約に加盟しており[5]、他国の著作権法と同等またはそれ以上の著作権保護水準を達成している。また欧州連合 (EU) 加盟国として、各種著作権指令に基づき社会・技術変化に合わせた著作権法の整備 (国内法化) をほかのEU加盟国とともに進めている。特に21世紀に入ってからはインターネット経由での著作権侵害が急増し[15]、フランスをはじめとしたEU諸国では度重なる法改正を行っているものの、著作権者の権利保護と著作物を利用するユーザとの間で利害バランスの調整に難航する局面もある。
本項では、他国との相違点や著作権法に関連した判例も取り上げながら、フランス著作権法の条文や法改正の歴史を解説していく。
現行法
[編集]※本節における「現行」とは、特記のない限り2024年10月現在の知的財産法典 第1部 (文学的および美術的著作権) のフランス語原文に基づき記述している。条文番号や判決番号をクリックすると政府公式サイト「レジフランス」にページ遷移し、最新の公式条文や訴訟事件の判決文が確認できる[注 3]。
- フランスにおける著作権の分類方法
- 著作者本人の権利 (狭義の著作権、droits d'auteur)
- 著作者人格権 (著作者の「心」を守る権利、droits moraux)[18][1]
- 「公表権」(droit de divulgation) -- 無断で著作物を公表されない権利 (L121-2条)[19]
- 「氏名表示権」(droit à la paternité) -- 著作物を公表する際に表示する名前を選べる権利。変名や無名 (匿名) を含む (L121-1条)[20]
- 「尊重権」(droit au respect de l'intégrité de l'œuvre) -- 無断で著作物の内容を改変されず (いわゆる同一性保持権)、かつ著作物が正しく伝達される権利[注 4]
- 「修正・撤回権」(droit de retrait et de repentir) -- 公表済の著作物の修正を求めたり、市場から著作物の回収を求める権利 (L121-4条)[26]
- 著作財産権 (著作者の「財布」を守る権利、droits patrimoniaux)[27]
- 「複製権」(droit de reproduction) -- 印刷・写真現像・鋳造・映画フィルム・その他デジタル媒体など、何らかの記録媒体に固定する権利 (L122-3条)。また、翻訳や編曲などの二次的著作物の創作 (翻案権) も、フランスでは部分的な複製と見なされる[28][29][注 5]
- 「演奏・上演権」(droit de représentation) -- 朗読・生の演奏・展示・上映・テレビ放送・衛星配信・通信などの手段で公衆に伝える権利 (いわゆる公衆伝達権を含む)(L122-2条)[31]
- 「追及権」(droit de suite) -- 美術品が転売されるたびに売買価格の一定割合を著作者が受け取れる権利 (L122-8条)[32]
- 著作者人格権 (著作者の「心」を守る権利、droits moraux)[18][1]
- 著作隣接権者の権利 (著作物を直接創作はしていないが著作物を社会に伝達する者の権利、droits voisins)[33]
- スイ・ジェネリス権 -- 狭義の著作権や著作隣接権に根拠を持たない特別な権利[36][注 6]
- 著作者本人の権利 (狭義の著作権、droits d'auteur)
一般的に大陸法系の国々は、著作者本人の権利を著作者人格権と著作財産権に分ける二元論を採用している[注 9]。
特徴まとめ
[編集]現代のフランス著作権法は、著作者人格権を著作財産権に優先させている点が特徴的である[45][注 10]。知的財産法典は「精神の著作物の著作者」という条文表現から始まっており (L111-1条)、著作者の人格を尊重するフランスの立法精神がうかがえる[48]。またフランスでは、著作権は「一般的な所有権」の一部であると考えられている[49][注 11]。フランスを含む大陸法の国々では、著作物とは著作者の人格を投映した成果物であることから、ほかの誰でもない著作者の所有物であり (人格理論)[48]、著作物の創作にかかる労力に見合った利益を享受する権利がある (労働理論) という考えに基づいている[注 12]。
これらの考え方は、英米法諸国とは対極的である。たとえば英国のアン法を模倣して発展してきた米国著作権法は、あくまで産業・文化の振興という目的を達するため、その手段として著作権保護があると捉える「産業政策理論」や「功利主義」に立脚している[56][57][51]。その結果、著作権は英語でCopyright (コピーする権利) と表現されるように、英米法における著作権は、著作者以外に無断で複製させず、著作者の財産を守る権利だと狭義にとらえられてきた[58]。
米国などで採用されているフェアユース (公正利用) の法理は、フランスを含むEU加盟国では否定されている。米国のフェアユースは、著作物を第三者が無断で利用しても著作権侵害にあたらないとする抽象的な一般基準を条文で定めたもので、具体的にどこまでを合法とするかは、もっぱら司法判断に任されている。EU加盟国ではこのような一般基準は採用せず、著作権法の条文上で個別具体的な基準を設けており、それ以外は原則禁止としている[59]。これは、功利主義的な米国では、著作物の利用がどこまで社会的・文化的に価値があるのか線引きするのは著作者ではなく裁判所だととらえるのに対し、フランスなど著作者の権利 (droits d'auteur) 意識が強い国では、あくまで他者による著作物の利用は「例外」でしかないためである[60]。
著作者の人格を守ることを重視し、権利の範囲を広くとらえるフランスでは、著作物が著作者の元から離れたあとでも人格は投映されたままであることから、著作権法で保護を与え続けている。著作者人格権を例にとると、著作者本人の死亡により消滅すると考える国もあるが[注 13]、フランスでは死後も永続するとされる (L121-1条-3)[61][1]。また、追及権を世界で初めて認めたのがフランスである[62]。この追及権とは、絵画や彫刻などの美術品を創作した美術家が、その作品を売却して手元を離れたのちも、オークションなどで転売されるたびに売買価格の一定割合を得ることができる権利である[63][注 14]。
著作者の人格が投映されていれば、その表現形態がいかなるものであれ、著作物として認められる[1]。著作物というと書籍や絵画、音楽、映像などの作品をイメージしやすいが、フランスではさらにエッフェル塔のライトアップ演出にまで著作物性を認めた判例が存在する[69][注 15][注 16]。また、美術作品については純粋美術のみ認め、実用品のデザインといった応用美術に対する著作権保護を否定する国もあるが[注 17]、フランスでは応用美術も保護対象としている[77]。
職務著作についても、フランス著作権法は創作した個人を尊重する態度をとっている。一般的に職務著作とは、職務の一環で雇用主の命で創作された著作物は、創作した個人ではなく、雇用主に著作権が帰属するという考え方である[78]。しかしフランスでは、単に雇用契約や発注契約を締結していたからといって、自動的に雇用主や発注主である企業・団体に著作権が認められるわけではない[79][80][注 18]。
インターネット経由の著作権侵害に対しては、2006年にDADVSI (情報社会における著作権・著作隣接権法) を、2009年にはHADOPI法[注 19]を成立させてフランス著作権法を改正し、Peer-to-peer (P2P) の違法ファイルシェアに対する刑事罰を科すなど、対策を強化している[82][注 20]。
フランスは下記の通り、著作権の主要な国際条約に加盟している。
条約名 | 概要 | 条約の効力状況 | 加盟国数 | フランスの対応状況 |
---|---|---|---|---|
狭義の著作権 (著作者本人の権利) を対象とした国際条約 | ||||
ベルヌ条約 | 著作権の基本条約 | 1886年採択、1887年発効[88][注 21] | 世界176か国[注 22] | フランスが起草を主導し、原加盟[90] |
TRIPS協定 | 偽ブランドや海賊版の取締強化を目的とする「ベルヌ・プラス方式[91]」。違反時には世界貿易機関 (WTO) に提訴可能 | 1994年採択、1995年発効[92] | 世界166か国 (WTOの全加盟国)[93][注 23] | 1995年1月1日から施行[93] |
WIPO著作権条約 | デジタル著作物への対応強化を目的とし、「ベルヌ条約の2階部分[95]」と呼ばれる | 1996年採択、2002年発効[96] | 世界117か国[97] | 1997年署名、1999年批准、2010年3月4日から施行[97][注 24] |
著作隣接権を対象とした国際条約 | ||||
ローマ条約 | 著作隣接権の基本条約で、実演家、レコード製作者及び放送機関を保護[98] | 1961年採択、1964年発効[98] | 世界97か国[99] | 1961年署名、1987年批准、1987年7月3日から施行[99] |
レコード保護条約 | 著作隣接権の一つである原盤権に関する条約 | 1971年採択、1973年発効[100] | 世界80か国[101] | 1971年署名、1972年批准、1973年4月18日から施行[101] |
WIPO実演・レコード条約 | デジタル著作物への対応強化を目的とするが、加盟にあたってローマ条約の遵守はもとめられない[102] | 1996年採択、2002年発効[103] | 世界113か国[104] | 1997年署名、2009年批准、2010年3月14日より施行[104] |
視聴覚的実演に関する北京条約 | 視聴覚著作物に限定し、実演家に著作財産権の一部および人格権を認める[注 25] | 2012年採択、2020年発効[106] | 世界48か国[107] | 2012年原署名、批准未済[107] |
権利の内訳
[編集]フランス著作権法ではどのような権利を定義しているのか、内訳を見ていく。
著作者人格権
[編集]フランス著作権法では、以下の諸権利が著作者人格権として認められている (L121条以下)[108]。著作物そのものが転売されたり、著作財産権を第三者に譲渡したとしても、著作者人格権は「一身専属性」の原則により、著作者本人を死後も永続的に守り続ける (L121-1条-2、L121-1条-3)[61][1]。
- 公表権
- ベルヌ条約は第6条で著作者人格権を全般的に規定しているが、公表権については規定がないことから[注 26]、各国の著作権法で保護状況にバラつきがある。フランス国内では判例で認められてきた公表権を、1957年3月11日の法改正時 (法令番号: 57-298) に明文化している[108]。フランスにおける公表権とは単に無断で公表されない権利だけでなく、公表する手段についても著作者の意思が尊重され、手厚い保護がなされている。たとえば、書籍の出版契約上でハードカバーの装丁が規定されていたにもかかわらず、出版者が著作者に無断でポケット文庫の装丁に変更して出版すると、フランスでは公表権侵害にあたる[19]。
- 公表権に関する代表的な判例として、1900年の破毀院 (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」(William Eden c. Whistler, Cour de Cassation, 14 mars 1900; D.1900.1.497) や[110][19][111]、1931年のパリ控訴院「カモワン判決」(Carco et autres c. Camoin et Syndicat de la propriété artistique, Cour D'Appel de Paris 6 mars 1931; DP.1931.2.88) が知られている[112][113][114](#判例にて詳細後述)。
- 氏名表示権
- 氏名表示権とは、著作者が実名で公表している場合は、その作品に著作者名と肩書を表示しなければならない権利である。したがって、著作者名を削除する行為だけでなく、著作者以外の第三者の名前を表示する行為 (盗作を含む) も、氏名表示権の侵害に当たる。しかし、先述のとおりフランスでは応用美術の作品にも著作権を認めていることから、たとえば自動車のデザインにまで逐次デザイナーの氏名を表示するのは現実的ではない。このようなケースでは氏名の非表示が免責される判例も存在する[19]。
- また、変名や無名 (匿名) を選択することも氏名表示権の範疇である。いわゆるゴーストライターを起用して著作物を発表する場合は、ゴーストライター本人に著作者人格権が発生するため、一身専属性の原則に基づき、ゴーストライターの起用主に著作者人格権を譲渡することはできない。仮にこのような譲渡契約を結んだとしても、フランスでは契約自体が無効になる。ただし、ゴーストライターは本人の名前を表示しない意思であることから、ゴーストライターの起用主の名前を著作物に表示する行為そのものは、氏名表示権の侵害にはあたらない[20]。
- 尊重権
- フランスの尊重権は、著作物の内容を他者に無断で削除、付加、改変されないよう守り、著作者の個性を尊重する権利であり[20][24]、他国の著作権法で一般的な「同一性保持権」よりも保護範囲の広い概念である[注 4]。尊重権の概念が初めて判決で認められたのは1814年と歴史は古く[115]、その後も多数の訴訟で尊重権を扱われてきた[20]。1842年には出版社が著者の許諾なく著作物に加筆・修正を加えることを禁じ、また1858年には出版社が無断で著作物の第2版のタイトルを初版から変更することを禁じている[116]。
- ただし、他者の創作した著作物を元ネタにしたパロディの創作については、例外が認められている。パロディは元来、元ネタの面白おかしい改変こそが醍醐味であり、必然的に尊重権 (同一性保持権) 保護との両立に法的矛盾を抱えることになる。しかしフランスでは、元ネタの著作者の名誉羨望を害するほどでなければ、パロディは合法的な利用と判例上でも解されている[117]。これは18世紀後半のフランス革命以前から絶対王政を茶化すパロディ文芸が存在していた伝統を踏まえてのことである。パロディ化によって茶化されるのを嫌う元ネタの著作者が、著作権を盾にしてパロディ作家の自由な表現を阻んではならないとの思想に基づく[118]。
- フランスの尊重権と他国の同一性保持権で保護水準に違いが見られた判例としては、サミュエル・ベケット (1906-1989年) 著『ゴドーを待ちながら』を巡る1992年のパリ大審裁判決[119][120][121]や、米国出身の映画監督ジョン・ヒューストン作『アスファルト・ジャングル』(原題: "The Asphalt Jungle") に係る事件が知られている (Turner Entertainment Company c. Huston または Huston c. la Cinq, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 28 mai 1991, 89-19.522 89-19.725)[14][122](#判例にて詳細後述)。
- また、美術作品の尊重権侵害に関する判例も多く、画家ベルナール・ビュッフェが冷蔵庫に描いた絵画作品を巡る1965年の破毀院判決 (Bernard Buffet c. Fersing, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1965 1965.2.126.)[123][124][125]や、自動車メーカー大手ルノーが彫刻家・画家ジャン・デュビュッフェのモニュメントを破壊した事件に関する1983年の破毀院判決 (Régie Renault c. J.-Philippe Dubuffet, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 mars 1983, 81-14.454; 117 RIDA July 1983, p.80)[126]などがある (#判例にて詳細後述)。このように、フランスの尊重権は条文上だけでなく、実質的にも広く適用されている[124]。
- 修正・撤回権
- 修正・撤回権であるが、公表済みの著作物に対する考えを著作者本人が改めた結果、他者に利用しないよう求める権利である[127]。しかし、著作者が修正・撤回権を実際に行使すると出版者などに実損害が発生するため、権利行使の際には損害賠償が伴うことから、尊重権と比較して実際の権利行使はきわめて限定的である[26][128]。
- 修正・撤回権関連の判例としては、画家ジョルジュ・ルオーと美術商アンブロワーズ・ヴォラールの遺族間で作品の所有権を巡って争った事件が知られている (Cons. Vollard c. Rouault, Cour de Paris, 19 mars 1947; D.1949.20. Appeal from Roualt c. Cons. Vollard, Trib.Civ.de la Seine, 10 juillet 1946; D.1947.2.98; S.1947.2.3.)[129](#判例にて詳細後述)。
- 著作者人格権の制限・例外
- なお、一部の著作物ジャンルでは、これら著作者人格権の例外が存在する。映画などの視聴覚著作物の場合、プロデューサーや主たるディレクター、あるいは法定上の共同著作者が最終版を確定した場合、無断で改変や転写は不可とされる (L121-5条)。したがって、製作実務者として参加していても、後述する「共同著作者」として認定されない者は、著作者人格権の修正・撤回権や尊重権を主張できない。また、視聴覚著作物の共同著作者が製作過程で途中離脱しても、完成版からその離脱者の寄与分を取り除いたり、公表を阻止することはできない (L121-6条)。
- ソフトウェアに関しても、名誉棄損に該当しない限りにおいて、著作者は同一性保持権および修正・撤回権を行使できない (L121-7条、L122-6-1条)[130]。これは、感情を表現した芸術的な著作物とは異なり、実用的なソフトウェアの場合は、中身を修正・改変しても、著作者であるプログラマーが精神的に傷つく可能性が低いためである[131]。
著作財産権
[編集]一般的な著作権法では、著作財産権の支分権を細かく用語定義する傾向にあるが、フランス著作権法ではシンプルに「複製権」(L122-3条)、「演奏・上演権」(L122-2条)、「追及権」(L122-8条) の3つに分類している[26]。このうち、複製権と演奏・上演権は「利用権」であるととらえられている (L122-1条)[31]。著作財産権における利用権とは、著作者以外が無断で利用できない権利、すなわち著作者のみに排他性を認める権利であり[31]、使用権とは異なる[注 27]。したがって、無断で第三者が著作物の複製や演奏・上演を行えば、著作権侵害にあたる。ただしこの利用権には、後述する著作権の保護期間が定められていることから、永久に利用権を独占することはできない[31]。
- 複製権
- フランス著作権法では複製権 (droit de reproduction) を「著作物を間接的な仕方で公衆に伝達することができるいずれかの方法によって著作物を有形的に固定する」権利と定めている (L122-3条)[28][133]。したがって、デジタル媒体への複製も権利保護の対象に含まれるほか、将来的に出現しうる新たな媒体固定技術も当該条文で柔軟にカバーできると解されている[28]。「公衆への伝達」という観点では演奏・上演権にも共通するが、演奏・上演が「直接的」に伝達しているのに対し、複製はいったん媒体に固定した後に「間接的」に伝達していることから、定義が区別されている[133]。例えば、複製された映画フィルムを映画館で観客 (公衆) 向けに上映する状況は演奏・上演権の範疇である。一方、映画作品を製作する際に録音を行うが、これは媒体に固定する複製行為である。公衆たる映画館の観客が録音段階に直接参加しているわけではないため、演奏・上演権の範疇外である[134]。
- フランスにおける複製は著作物をそのままの形でコピーするに留まらず、いわゆる翻案権も包含する[28][注 5]。たとえば絵画を元に壁掛けを二次的に創作する、彫刻を写真撮影するといった行為も複製と見なされるため、原著作物の著作権者に無断でこれを行ってはならない[135]。
- また、従来の複製権を拡大する形で、「複写複製権」が導入されている (L122-10条以降)。ここでの複写とはコピー機を想定しており、RAMへの書き込み・保存は対象外である。複写複製権は、国が認可した著作権管理団体 (集中管理機関) に著作権者から譲渡される[136]。
- 演奏・上演権
- 演奏・上演権 (droit de représentation) は公衆への直接的な伝達を独占的に行う権利である。特に条文上では「朗読、歌の演奏、演劇の上演、展示、上映、テレビ放送」などが具体例として列記されているが、伝達手段は問わないことから (L122-2条)、インターネットや将来的な新技術も柔軟にカバーできると解されている[31]。ライブ実演といった直接的な伝達だけでなく、レコードや映画、テレビ映像など何らかの媒体に固定した上で間接的に伝達する行為も含まれる[137]。演奏・上演権が問われた判例としては、ホテルの有料のテレビ・ラジオの事件が複数存在する[138](#判例にて詳細後述)。
- 追及権
- 著作財産権3つのうち、追及権 (droit de suite) だけは独占性が問われないため、利用権とは定義されていない (L122-1条)[31]。つまり、美術作品の著作者は、その作品を手放したあとに作品の購入者がどのように利用するかを拘束することはできない。また、追及権は複製権や演奏・上演権とは異なり、譲渡不能と定義されている (L122-8条)[31][65]。EU指令によって、追及権はEU加盟国で広域に認められていることから、EU加盟国民が美術作品の著作者であった場合でも、追及権は適用される (L122-8条)。ここでの「美術作品」であるが、絵画や彫刻などの一点物だけでなく、リトグラフ、版画、写真のように複製可能な作品であっても、シリアルナンバーが付されているなど、著作者がオリジナルだと何らかの方法で認めている場合は、EU指令で定めた追及権の対象となる (EU追及権指令第2条第2項)[139]。フランス国内の著作権法でも同様の考え方が適用されると解されている[140]。イギリスでは追及権にかかる業務を著作権者から著作権管理団体に委託することが義務付けられているが、フランスでは任意である[141]。しかしフランスにおける徴収の実務は、多くが美術品の著作権管理団体であるADAGPを仲介しているのが実態と言われている[141][142]。
- 頒布権、消尽論、貸与権と用途指定権
- 一般的には著作財産権のひとつとして「頒布権」を規定する国が多いが、フランスでは頒布権、およびこれとセットで議論される「消尽論」が否定されてきた。頒布権とは、著作者が著作物を販売するなどして、社会に流通させることができる独占的な権利である。消尽論とは、複製・頒布された著作物の購入者は、その著作物を自由に売却処分 (再販) できるとする考え方であり、換言すると著作者に認められた独占的な権利は、購入者のその先の使用行動にまではおよばず、消え尽きてしまう[143]。たとえば、作詞・作曲家は楽曲の著作権を有しているが、その楽曲が音楽CDとして一度販売されたら、その音楽CDの購入者は作詞・作曲家に無断で中古店に売却しても、著作権侵害にはならない[144]。
- ところがフランスでは、この消尽論を認めておらず、代わりにフランスでは「用途指定権」(droit de destination) の考え方を判例上で用いてきた。用途指定権とは、複製された著作物の購入者が再販するのを禁じる、あるいは事前許諾を求める権利である[143][145][146][注 28]。しかし、デジタル著作物への対応強化を目的とするWIPO著作権条約に基づき、2001年に施行されたEU指令のひとつである情報社会指令 (2001/29/EC) で、頒布権を規定している (第4条第1項) [147][146]。フランスもこのEU指令に対応すべく、2006年に通称DADVSI (Loi sur le Droit d'Auteur et les Droits Voisins dans la Société de l'Information、情報社会における著作権・著作隣接権法、法令番号: 2006-961)を[148]、2009年には通称HADOPI 1法 (法令番号: 2009-669)[15][149]とHADOPI 2法 (法令番号: 2009-1311)[15]を成立させ、特にインターネットを介した頒布権に関し、フランス著作権法の条文上で明文化するようになった (詳細は#情報社会指令と国内法化の遅延で後述)。
- 他国では「貸与権」と呼ばれる著作物のレンタルに関する権利については、EUが2006年に貸与権指令 (2006/115/EC) を出しているものの、フランスでは貸与権の名称で著作権法上、成文化していない。代わりに用途指定権の概念を用いて、実質的に貸与権を認める判決が2004年に破毀院から出されており (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 27 avril 2004, 99-18.464)、貸与権指令の国内法化は不要と判断されているためである[150]。たとえば、音楽CDを購入した者がそのCDを第三者に貸与する際には、音楽の著作権者に対してライセンス料を追加で支払う必要が出てくる。この法的根拠として用途指定権の概念が用いられている[151]。
- 著作財産権の譲渡
- 著作者は第三者に有償または無償で利用権を譲渡することができる (L122-7条)[31]。しかし、著作財産権の譲渡契約には以下の厳格な要件が求められ、これを満たさない譲渡契約は無効と判断される (L131-1条、L131-3条)[152]。
- 譲渡対象 -- 「すべての権利を譲渡」の文言は無効であり、譲渡の対象が複製権と演奏・上演権の両方におよぶ場合であっても、それぞれの権利を契約書内で明記しなければならない。
- 利用媒体 -- 例えば紙媒体に限るのか、インターネットサイトへの転載も含めるのかといった利用媒体を明確化する必要がある。
- 利用用途 -- 商用目的にも利用可能なのか、また当初目的とは異なる派生的な著作物の転用 (例: 広告目的でない著作物を広告に用いること) を認めるのかなどを明確化する必要がある。
- 利用期間 -- 「法定の権利存続期間のすべて」という文言を譲渡契約に盛り込むことは可能だが、単に「期間無制限」は無効。
- 利用地域 -- どの地域での利用を認めるのかを明確化する必要があるが、「全世界」の条項は有効。
- 譲渡契約成立の条件に関連する判例としては、2006年の破毀院判決が知られている。本事件ではミネラルウォーターのヴィッテルを販売するネスレ社が使用した写真が当初の撮影目的と異なる利用であったことから、訴訟へと発展した (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 12 juillet 2006, 05-15.472)[153](#判例にて詳細後述)。
著作隣接権
[編集]一般的に著作隣接権とは、著作物を社会に伝達する者の権利である。直接著作物を創作はしていないものの、準創作的に寄与しているため、権利保護されている[154]。具体的にフランスにおける著作隣接権者とは、歌手・俳優・朗読者といった実演家や (L212-1条)、レコード製作者 (L213-1条)、映画を含む視聴覚著作物の製作者 (L215-1条)、および放送事業者 (L216-1条) の計4者が1985年から著作権法上で定義されており[34]、さらに2019年7月24日法 (法令番号:2019-775)、通称「プレス隣接権法」によってプレス通信およびプレス出版社 (通信社や新聞社などの報道メディア) にも著作隣接権の権利者が拡大した (L218-1からL218-5条)[155]。
- 実演家の権利
- 実演家には著作者本人と同様に尊重権が認められており、相続は可能だが、譲渡は不可能であり、時効はない (L212-2条)。また実演家の財産権の保護は1961年採択・1964年発効のローマ条約 (実演家等保護条約) に準拠している[33]。具体的には、複製権や頒布権が実演家にも認められており、たとえばレコード製作者が歌手や演奏者に無断で音楽CDなどを販売できないことから、書面での契約を必要とする (L212-3条)。同様に、映画製作者が俳優に無断で映画の配給やDVD販売を行うことはできず、やはり書面契約が必要となる (L212-4条)。これらは、実演家の報酬を保護する労働法典のL7121-2条ほかにて詳細が規定されている (著作権法L212-3条)[156][注 29]。
- 実演家の定義・範囲について問われた判例には、歌手スティングのミュージックビデオ出演者に関する1999年の破毀院判決がある (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1999, 97-40.572)[157](#判例にて詳細後述)。
- 実演家や映画製作者への報酬支払については、著作権管理団体が徴収・分配業務を代行すると規定されている (L214-5条)。具体的には、対実演家の窓口としてADAMIとSPEDIDAMの2団体が[注 30]、また対映画製作者の主たる窓口としてはSCPPとSPPFの2団体がフランスには存在する[33](#著作権管理団体にて詳細後述)。
- レコードおよび視聴覚著作物の製作者、ならびに放送事業者の権利
- レコード製作者 (L213-1条)、視聴覚著作物の製作者 (L215-1条)、および放送事業者 (L216-1条) の3者には、財産権として複製権や頒布権以外に貸与権 (第三者が無断で作品をレンタル貸出できない権利) が認められている[34]。
- プレス隣接権
- 通信社や新聞社といった報道機関の報道著作物を、営利企業・団体が複製ないしオンラインで伝達する際には事前許諾が必要とされる (L218-2条)[159]。ただし、著作物の合法的な利用 (制限・例外規定) で認められている範囲内での私的な複製や引用などは、プレス隣接権にも適用される[160]。どこまで短ければ合法的な引用なのかは曖昧だが、部分的な引用・利用によって、大元の報道記事へのアクセス数が減じるなど、大元を代替するような影響をおよぼす利用は認められていない[160]。Google検索画面に表示されるスニペット程度であれば、合法であろうとの識者見解もある[161]。
- 他社の報道著作物を利用して利益が生まれる場合は、報道元への比例報酬 (つまり著作物の利用によって得られた利益の一定率を継続的に著作権者に支払う方式) が原則となっている (L218-4条)[162]。金額の決定にあたっては、合理的な金額算出と支払先への適切な情報開示が求められる[162]。フランスの競争委員会 (日本の公正取引委員会に相当する独立行政機関) は報道機関への報酬を適切に支払っていないとして、Googleに対して多額の制裁金を2021年、2024年の2度に亘って科している[163][164][165](#事件例にて詳細後述)。
歴史的に著作隣接権を見てみると、フランスでは著作者本人よりも著作隣接権者に特権を与える形で発達してきた (#歴史節で後述)。しかし現代の著作権法では、著作隣接権が著作者本人の権利を害してはならないと明記されており (L211-1条)、保護の優先度が逆転している。
どこまでが著作者本人の権利 (droits d'auteur) で、どこからが著作隣接権 (droits voisins) なのか。社会が技術的に発展するに伴い、この棲み分けに問題が生じた。たとえば、写真は創作者の創造性というよりは、機械による創作品だとみなせるかもしれない。また映画は著作者個人の創作物ではなく、企業・団体の創作物とみなせる。これらを伝統的な droits d'auteur で同様に保護すべきなのか検討した結果、フランスをはじめとする大陸法諸国では、写真も映画も著作物として認めて著作者本人の権利で保護する一方、実演家やレコード製作者、放送事業者は著作隣接権で保護する棲み分けとした[166]。これは、英米法圏の米国著作権法とは異なり、米国ではレコード製作者は共同著作者として著作者本人の権利で保護されている[167]。ただし1990年代に採択されたTRIPS協定やWIPO実演・レコード条約により、著作隣接権者の保護水準が高まったことから、このような棲み分け論の意義は大きく後退しているとの指摘もある[168]。
スイ・ジェネリス権
[編集]EUでは1996年にデータベース指令 (96/9/EC指令) が成立してデータベースの著作権保護を規定している[39][36]。その2年前には、知的財産権の重要な国際条約であるTRIPS協定が作成されており、EUデータベース指令はTRIPS協定 第10条第2項の義務履行を目的としたものである[169]。さらに当EU指令に従い、フランスでも1998年7月1日法 (法令番号: 98-536) を成立させ、著作権法のL341-1条以降を追加する形で国内法化している[39][36]。
EUではデータベースを「内容物」(コンテンツ) と「データ構造」に分類の上、前者はスイ・ジェネリス権で、後者は狭義の著作権でそれぞれ別個に保護すると定めている[38][39]。スイ・ジェネリス権で保護されるデータベースには、電子媒体だけでなく紙媒体も含まれる[170]。また、スイ・ジェネリス権は他者への権利譲渡やライセンス供与が可能である[171]。さらに一定の要件を満たせば、データベースは著作権のスイ・ジェネリス権だけでなく、不正競争防止の法制度でも二重保護されうる[172]。
データベースが狭義の著作権で保護されるには、知的な「創作性」(英: originality) が要件として求められる一方[注 7]、スイ・ジェネリス・データベース権は保護に値するだけの「実質的投資」(英: substantial investment) があるかが問われる[39]。
創作性 | 実質的投資 | 狭義の著作権 で保護 |
スイ・ジェネリス権 で保護 |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
あり | あり | |||||||
なし | ||||||||
なし | あり | |||||||
なし | ||||||||
|
ここでの「実質的投資」であるが、データベース自体の構築に投下された資本に限定される。つまり、データベースのコンテンツを構成する個々の素材を「既存から見つけ出し」、「収録」する費用は含むが、素材の「新たな創作」に費やされた投資は含まない。この解釈は、欧州司法裁判所が2004年、英国の競馬データベースに係る事件 (British Horseracing Board v. William Hill Organization Ltd., Case C-203/02) で判示している[174][175][176](#判例にて詳細後述)。フランス国内ではこれを踏襲する形で、2009年のフランス破毀院「プレコム判決」(Précom, Ouest France Multimedia c. Direct Annonces, Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 5 mars 2009, 07-19.734 07-19.735) が出ている[177][178](#判例にて詳細後述)。
著作物の定義と保護対象
[編集]著作物のジャンル
[編集]14ジャンルの著作物が著作権法上で定義されている (L112-2条)。ただしこれら14ジャンルに限定されない[3][69]。
- 言語著作物 -- 書籍、小冊子その他の文芸、芸術および学術の文書
- 口述著作物 -- 講演、演説、説教、口頭弁論など
- 演劇著作物 -- 演劇やミュージカル作品
- 舞踊・パフォーマンス著作物 -- 舞踊、サーカスの出し物、芸当、無言劇作品 (ただし演出が文書その他の方法で媒体に固定されている必要あり)
- 音楽著作物 -- 楽曲およびその歌詞[注 31]
- 視聴覚著作物 -- 映画やテレビ番組などの動画 (楽曲などの音声を伴う場合も含むが、ゲームは「視聴覚著作物」の分類には含まれない[180])[注 32]
- 純粋美術・建築著作物 -- スケッチ、絵画、建築、彫刻、版画、石版画など[注 33]
- 図形・組版著作物 -- グラフィック・デザイン、プリント・デザイン
- 写真著作物 -- 写真に類似の技術を用いた著作物を含む[注 34]
- 応用美術著作物 -- 著作者の人格を反映し、かつ新規性があれば著作権法で保護される[注 35]
- イラスト著作物 -- イラスト、地図など
- 図面等著作物 -- 地理学、地形学、建築学および科学に関する設計書、スケッチ、立体造形作品[注 36]
- ソフトウェア -- 開発計画段階の設計文書を含む[注 37]
- ファッション -- 流行に左右される季節産業の創作物 (婦人服、下着、刺繍、帽子、靴、革製品など)
他に髪型やフラワーアレンジメント、演出方法、エッフェル塔のライトアップ、架空の人物像などを著作物として認めた判例も存在する[69][注 15]。
なお、狭義の著作権とは別個のスイ・ジェネリス権として捉えられているデータベースの保護については、上記のL112-2条の14項目に記載はない。1998年7月1日法 (法令番号: 98-536) が成立して著作権法にL341-1条以降が追加され、データベース製作者の権利が別途規定されている[175]。
著作物の保護要件
[編集]著作権はジャンル、表現形式、価値または用途を問わず、あらゆる精神的な著作物を保護すると規定されている (L112-1条)[1]。また著作物が未公表や未完成であったとしても、著作者の構想の実現という事実だけをもって、著作物は創作されたと見なされる (L111-2条)。さらに、著作物を当局に登録する、あるいは著作権マーク「©」(マルC、Copyrightの意) や「℗」(マルP、レコードのPhonogramの意) などを表示するといった手続も任意であり、これらを怠ったとしても著作権保護される[3]。つまり、著作者による知的な創作活動によって (創作性[注 7])、何らかの表現がなされていること (表現性) が、著作権保護の要件として挙げられる[186]。
- アイディア・表現二分論
- したがって、単なるアイディアや事実の発見は創作性や表現性の要件を満たさないため、著作権の保護外となる[3](これを一般的な著作権法上では「アイディア・表現二分論」と呼ぶ)。ただし、どこまでが法的なアイディアで、どこからがその表現なのか、境界線が曖昧な創作物も存在する。たとえば、フランス人芸術家マルセル・デュシャンの『L.H.O.O.Q.』は、名画『モナリザ』に鉛筆で髭をつけ加えた作品である。また、男性用の小便器に署名だけを施した『泉』という作品もある。髭や署名をつけ加えること自体はアイディアに過ぎないが、このような現代美術のコンセプチュアル・アートに著作性が認められるのか、フランス国内外で議論がなされている[185][186]。
- なお、データベースのコンテンツに限っては、アイディア・表現二分論と相反する概念である「額に汗の法理」(別称: 額の汗の法理) に類似の基準をEUでは適用しているとの指摘もある[187]。額に汗の法理とは、額に汗したその労力の賜物を保護するのが著作権法の目的であると考えられ、たとえそこに個人の視座やスキルが欠如し、創作性の要件が満たされていなくとも、著作者は利益保護されるべきだとする概念である[188]。上述のとおり、データベースの「コンテンツ」は狭義の著作権ではなくスイ・ジェネリス権で保護しており、実質的投資 (つまり額に汗したその労力の賜物) の有無が保護要件となっている[187]。一方、狭義の著作権で保護されるデータベースの「構造」については、創作性が求められる[39]。
- 応用美術・実用品デザイン
- イアリングやおもちゃ、椅子やランプなどの応用美術・実用品デザインについては、以下のとおり各国で法的保護のアプローチが異なる[189]。
- コンピュータ・プログラム
- コンピュータ・プログラムはL112-1条が定義する「精神的な著作物」とは厳密には言い難いものの、1986年の破毀院判決 (通称「パショ事件」、Babolat Maillot Witt c. J. Pachot, Cour de cassation, Assemblée Plénière, du 7 mars 1986, 83-10.477) では「著作者による知的な創作活動が創作性の要件を満たす」と判示され、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている[191][192][193](#判例にて詳細後述)。また1991年の破毀院判決 (通称「Isermatic France事件」、Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 avril 1991, 89-21.071) では「著作者個人の寄与の賜物としての創作性」がコンピュータ・プログラムの著作権保護の要件として挙げられた[193](#判例にて詳細後述)。これらの要件解釈は2012年の破毀院判決 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 17 octobre 2012, 11-21.641) でも踏襲されており、コンピュータ・プログラムの有用性は著作権保護の可否とは関係しない旨を付言している[193]。
- しかし他の著作物と異なり、コンピュータ・プログラムの著作権保護は、その水準は低く設定されているとも言われている[194]。
- 題名 (題号)
- 著作物が著作者の人格を投映しており、創作性が認められれば、その著作物の題名も著作権保護が与えられる (L112-4条)[194]。しかし、その題名が汎用的で一般的な用語の場合、判例では著作権保護の対象外と判示されており、題名における創作性の具体的な線引きは司法判断に任されている[36]。また、題名は商標登録できる場合があり、このようなケースでは商標権と著作権で二重保護される[36][注 40]。
- ストリート・アート
- 所有者の許可なく行われる壁への落書きアートなど、不法行為によって創作された著作物は著作権保護の対象となりえるか。ストリート・アートで有名なイギリスのバンクシーによる皮肉を込めた発言 "Copyright is for Losers©™" (訳: 著作権は敗者のためのもの) を例に、著作権保護と刑法の器物損壊の観点から検証した論考がある[196][注 41]。これによると、ストリート・アートは他者の所有物の上に無断で描いていることに加え、「いつか誰かに破壊・撤去されるかもしれない」「広告など別の用途で無断利用されるかもしれない」と分かりながら創作しており、かつ作品を通じて経済的利益を得ようとの動機にも欠くという点で、一般的な著作権法の範疇で語るのが難しい。ストリート・アートや壁への落書きなどはフランス刑法典の第322-1条が規定する器物損壊罪に該当する可能性がある。しかしながら、ストリート・アートや落書きが元に戻せる性質のものであれば、罪を減軽する判例もフランスでは存在する (Lower criminal court of Paris, SNCF v. Monsieur Chat (October 13, 2016) 参照)[196]。
- 公的著作物
- 法律の条文や裁判所の判決文など、公的機関の作成した著作物は、著作権保護の対象外となる[3]。
保護される権利者
[編集]フランスの著作権法では「精神の著作物の著作者」と謳われていることから (L111-1条)[49]、原則は個人 (自然人) のみ著作者として認められる (L113-1条)[198]。しかし、1993年の判例でこの原則が覆され、法人も著作者として認める判決が出ている[198]。狭義の著作権を有する著作者は以下に分類される[199]。
- 原始的帰属 (原則ルール) -- 著作物を創作した個人が著作権を有する (L113-1条)[80]
- 職務著作 -- 著作物の創作を指示した雇用主あるいは発注主が著作権を有するには、個別の譲渡契約が必要となる (L111条-3、L131条-3)[199][80][注 18]
- 共同著作物 -- 複数の著作者によって創作された場合、共同著作者が権利を共有する (L113-2条、L113-3条)[200]
- 集合著作物 -- 複数の著作者によって創作された個々の著作物をまとめ直した場合、集合著作物の創作を発意・指示し、氏名表示して公表された者が著作権を有する (L113-2条-3)[18]
- 二次的著作物 -- 原著作物を活用して、翻訳・編曲などの手段で新たな著作物が創作された場合、原著作物と二次的著作物は別々の著作権が発生する (L112-3条)[194]。以下の2種類のサブカテゴリに分類される[18]。
また、著作権者が誰なのか不明な著作物 (いわゆる孤児著作物) も法的保護の対象であるが[201]、特別規定が存在する (#著作物の合法的な利用 §拡大集中許諾制度と孤児著作物にて詳細後述)。
職務著作
[編集]職務著作をどのような条件下で認めるか、各国の著作権法で異なっており、フランスの場合は雇用契約に基づいて著作物を創作しただけでは、その著作権は雇用主が有することはできない。したがって、雇用契約とは別に、従業員から雇用主に著作財産権を譲渡する契約を締結しなければならない[199][80][注 18]。
職務著作をめぐっては、医療現場で用いられる頭蓋計測分析のソフトウェア裁判などがある。このソフトウェア企業はコンピュータ・エンジニアと医学者の2名で設立されたが、のちに医学者がこの会社の支配権を増したことから、開発されたソフトウェアの著作権が個人ではなく、会社に帰属するとして提訴した裁判である。2015年1月、破毀院は原告である医学者の主張を棄却して、ソフトウェアの職務著作を認めなかった[202]。
ただし職務の一環で公務員の創作した著作物に限っては、自動的に職務著作が認められ、使用者たる行政府が著作権者となる。この文脈での「著作権」には著作財産権だけでなく著作者人格権も含まれる。公益のために創作された著作物が、公務員個人の利益のために独占されたり、個人の都合で公表・伝達を阻まれてはならないと考えられているためである[203]。ただし大学教員については、口頭の講義内容のみが「公務」とみなされるため、文書化された著作物は大学教員個人が著作権を有すると解されている[204]。
共同著作物
[編集]共同著作物については、特に映画などの視聴覚著作物に関し、個別規定が存在する (L113-7条)[205]。多くの関係者が映画製作に携わるのが一般的であることから、誰を共同著作者として認め、著作権を与えるかの線引きが必要になる。条文上では、シナリオの著作者 (たとえば映画化の原作小説を執筆した小説家)、翻案および台詞の著作者 (原作を元にした脚本の執筆者など)、楽曲の作詞・作曲家 (その映画用に創作された楽曲に限る)、監督・ディレクターが具体的に例示されている。ただし、これら以外でも共同参画を立証できれば、共同著作者として法的に認められる場合がある[206]。映画の場合、著作財産権だけでなく、著作者人格権も重要な要素となる。先述のとおり、映画の共同著作者以外の者が、完成版を無断で改変したり、また途中で製作を離脱した者が、自分の寄与分を除去するよう求めることができない (L121-5条、L121-6条)[205]。日本の著作権法とは異なり、フランスでは個々の著作者の寄与分を分離可能な場合であっても、共同著作物として認められている[200][207]。
集合著作物
[編集]集合著作物の例として定期刊行物、選集、百科事典などが挙げられている国 (米国著作権法など) もあるが[208]、共同著作物と同様に複数名によって創作される集合著作物は、フランスにおいてその定義や共同著作物との境界線が曖昧である[209]。集合著作物と、その素材となる各著作物との間に上下関係があり、集合著作物の創作をある特定の者が指示した場合には、共同著作物ではなく集合著作物だとされる。この指示者には法人も含まれることから、集合著作物の場合は原則として職務著作が認められていると考えられる[210]。映画などの視聴覚著作物に関しては、判例で集合著作物ではなく共同著作物で扱われる[211]。
またジャーナリストが創作した記事や写真、挿絵などについては、2009年6月12日法によってジャーナリスト個人と出版社間の権利関係が詳細かつ複雑に明文化された (L132条-35からL132条-45)。これは、個々のジャーナリストの寄稿を集めた新聞や雑誌は集合著作物であり、個々の寄稿とは別に集合著作物として著作権が発生するためである[212]。
集合著作物に関する判例としては、1993年の破毀院判決 (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 24 mars 1993, 91-16.543、通称「アレオ判決」) が知られている[213][214][215]。アレオ社が委託編纂した地域情報ガイド誌上に、他社販売の絵葉書と同一の写真が複数使われていた事件であるが、この絵葉書の販売企業が集合著作物の著作権者として認められるかが問われた (#判例で詳細後述)[216][217]。
著作権の保護期間
[編集]先述のとおり、著作人格権は著作者の没後も権利保護が永続し、時効はない (L121-1条-2、L121-1条-3)[61][1]。一方、著作者本人の著作財産権、著作隣接権およびスイ・ジェネリス権としてのデータベース権には、以下のとおり一定の保護期間が設定されている。換言すると、この保護期間を過ぎた著作物はパブリック・ドメイン (公有) に帰し、著作者人格権を侵害しない限りにおいて、第三者が自由に利用することができる[218]。
- 著作者本人の著作財産権の保護期間
1997年3月27日制定の改正法以前は、著作権の保護期間は著作者の存命中、および没後50年間が著作者の相続人に対して認められていたが、これが当改正により70年間に延伸した (L123-1条-2)[219]。「70年間」の計算法であるが、没した当年は含まれず、没した翌年1月1日から起算する (L123-2条)。
- 例外 (1) 戦時加算
- 第二次世界大戦で国家のために命を落とした著作者に対しては、通常の保護70年間に加えて戦時加算 (prorogations de guerre) の30年間が適用されることから、著作権の保護期間は計100年間となる (L123-10条)[220]。ただし、著作物が戦争勃発前に公表されている場合は、1997年法改正以前に認められていた50年間 + 14年272日間 (すなわち計64年272日間) に保護期間は短縮される (第一次世界大戦に適用されるL123-8条、第二次世界大戦に適用されるL123-9条)[221][220]。
- 関連判例としては、2007年破毀院判決 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 27 février 2007, 04-12.138) が知られている[220]。本件では画家クロード・モネ (1840年11月14日 - 1926年12月5日) の作品に戦時加算が認められるかが問われた[222][220][223](#判例で詳細後述)。
- 例外 (2) 変名・無名・集合著作物・共同著作物・未公表の遺作など
- 変名、あるいは無名 (匿名) 著作物で実際の著作者が一般には判明しない場合、または集合著作物の場合は、著作者の「死亡日」を起点にするのが困難なことから、原則は著作物の「発行」から70年間が著作権の保護期間として認められている (L123-3条)[224]。
- 共同著作物も通常の没後70年間が適用されるが、共同著作者でもっとも長く存命した者の没日を起点として算出する。映画やテレビ番組といった視聴覚著作物は、多くの共同著作者によって制作されるのが常であるが、視聴覚著作物における「共同著作者」の定義は法的に限定されている。シナリオおよびセリフの脚本家、視聴覚著作物用に創作された楽曲の作詞・作曲家、ないし主なプロデューサーやディレクターのみが共同著作者として規定されている (L123-2条)。
- 没後に公表された遺作の場合、没年翌年から70年間を基本とするが、延伸が認められるケースもある (L123-4条)。遺作が70年間公表されずに保護期間が消滅したあとに公表された場合は、公表日の翌年1月1日から起算して25年間に保護期間が延伸する (L123条-4)。たとえば著作者が1980年7月1日に没したと仮定して、その遺作が2000年に公表されようが2020年に公表されようが、保護期間は2050年12月31日までである。しかし同遺作が70年保護期間満了後の2060年3月1日に公表された場合は、2085年12月31日までの25年間が保護される。
- 著作隣接権者の著作財産権の保護期間
実演家の著作財産権は、実演の翌年1月1日を起点にして、原則50年間を保護期間としている (L211-4条-I)[225]。例外としてレコードに実演が固定されている場合は70年間が (L211-4条-I-2(2))、またプレス出版社・通信社の権利は2年間が認められている (L211-4条-V)[161][注 42]。
フランスでは著作隣接権は著作者本人の権利 (狭義の著作権) より短い保護期間が設定されているが、これは国際条約で要求される保護期間の差と整合性をとるためである[34]。著作隣接権は1985年7月3日法で初めて成文化されており[227][228][33]、また著作隣接権の国際基本条約たるローマ条約をフランスが批准・国内施行したのは1987年である[99]。しかし、1935年から1985年の間に伝達・実演された作品であっても、遡及的に (法律制定前の過去に遡って) 著作隣接権の法的保護が認められている[229]。
- スイ・ジェネリス・データベース権の保護期間
EUデータベース指令の第10条でも[38][39][230]、またフランス著作権法のL342-5条でも、スイ・ジェネリス・データベース権の保護期間は15年間に設定されている。ここでの「15年」であるが、データベースの完成日ないし一般公開日から起算するのではなく、これらの日付の翌年1月1日を起点に15年間となる (L342-5条)。特にオンライン・データベースは初版リリース後も増補などの変更が加えられ、追加投資が発生する場合がある。このようなケースでは、初版にかかった投資と比較して相当の追加投資があったならば、新版のデータベースに対して新たに15年間の保護が適用される[231][232]。
著作物の合法的な利用
[編集]仮に著作権の保護期間中であっても、公表済の著作物を著作権者に無断で利用しても、以下の条件 (いわゆる例外・制限規定) を満たす場合は著作権侵害にあたらない (L122-5条)。また一部条件 (※印) については、2006年2月28日の破毀院判決でも合法と認められている[33]。
- 私的な実演 -- 私的な空間内で、私用かつ非営利で行われる実演 (※)
- 私的な複製 -- 私的用途に限定され、かつ集団に配布・展示するなどを意図しない場合に限る (※)
- 利用に際して著作者の氏名および出所を明示する必要がある場合:
- 要約・短い引用 -- 著作物の批評、論評、教育、学術、報道を目的とした場合に限る (※)
- プレスレビュー
- 演説の報道 -- 立法・行政・司法機関の各種会議や学会、政治的儀式といった公共性の高い場における演説内容を、報道機関やテレビ放送がニュースとして報道する行為 (報道する発言が全量であっても構わない)
- オークション -- グラフィックアートや造形美術作品の全部または一部複製し、公的競売に用いられるカタログに収録して、競売前に公衆に頒布する行為
- 教育・研究 -- 教育・研究目的の例示のために行う、著作物の複製や演奏・上演 (※)。ただし教育現場であっても娯楽活動の目的は不可。想定対象者は学生、教員および研究者など教育・研究活動に直接関与する主体に限る。また、演奏・上演や複製によって収益が発生してはならない。第三者による著作物の利用に際し、複製権の譲渡に不利益を生じることなく、また利用料が著作者に支払われなければならない。ただしこの支払条件は教育目的の著作物、言語著作物のデジタル版、ないし楽譜には適用されない
- パロディ等 -- 著作物を活用したパロディ、作風の模倣、風刺人物画の創作 (ただし当該分野の決まりに基づく)(※)[注 43]
- データベース -- 契約に基づき、データベースの中身にアクセスが必要な場合
- 技術プロセス -- 技術的な目的で、一時的に著作物の複製が必要な場合 (インターネット・ブラウザのキャッシュなど[236])
- 障害者福祉 -- 一定の条件に基づく、図書館、公文書館、資料館、マルチメディア文化施設などによる著作物の複製ないし演奏・上演
- 保存・閲覧 -- 美術館や公文書館が著作物の保存、あるいは私的な調査・研究のため施設内での閲覧または専用端末での閲覧目的であり、その行為に営利性が認められない限りにおいて行われる複製
- 直接報道 -- グラフィックアート、造形美術ないし建築作品の一部または全部を使った文書化・映像化・デジタル化による報道 (ただし利用量・質や目的妥当性が考慮される)
上記の例外・制限規定はフランスでは極めて厳格に解釈されており、原則として条文に列記されていない例外・制限規定を裁判所が独自解釈で追加することを認めていない[237]。
フェアユース導入論
[編集]フランスを含む欧州各国では、米国著作権法のようなフェアユースの法理による、一般的な著作権制限の条項に対して否定的な立場をとっている[238]。したがって、上記の例外・制限規定はフランスでは極めて厳格に解釈されており、原則として条文に列記されている例外・制限以外を裁判所が独自解釈で追加することを認めていない[237][238]。この方針は、2001年のEU情報社会指令に起因する。情報社会指令では、制限条項を21条件に限定しているだけでなく[194]、EU加盟国の国内法でこの21条件以外を追加規定することを禁じている[239]。さらに2012年の孤児著作物指令 (2012/28/EU) で1条件[194]、2019年のDSM著作権指令 (2019/790/EU) で制限条項を3条件追加した[240]。またフランス破毀院は2006年2月28日、過度な制限・例外規定の追加を抑制する通称「スリーステップテスト」に基づき、著作者に本来認められている諸権利の不当な侵害を抑止する判決を下している[33]。
フェアユースの法理を採用するかは、法的な安定性と柔軟性のどちらを重視するかに依存する。フランスのように限定列挙すれば、著作権者にとっては著作財産権の価値が高まると同時に、著作物の創作のための投資と回収の見通しが立ちやすくなる。一方で米国のように一般的な基準を設け、個別判断は裁判所に任せることで、著作物の内容や流通経路といった社会的・技術的な変化にも対応しやすくなるメリットが考えられる[241]。実際、フェアユースを導入している米国よりも、導入していない欧州の方が、インターネットを通じた著作権侵害の件数が多いとの指摘がなされている (2013年時点での比較)[238]。
たとえば、Googleサジェスト機能 (オートコンプリート機能) が著作権法上の複製権侵害に該当するかについて、欧州各国の司法判断は分かれている[242]。楽曲を例にとると、一般ユーザがGoogle検索で「(楽曲のタイトルの名前)、.mp3、.rar」などとキーワード入力すると、違法なデジタル楽曲シェアサイトが検索ヒットすることから、Googleが著作権侵害サイトにユーザを誘導してしまうおそれがある。これに対し、フランスではパリ大審裁がGoogle有利の判決を2011年5月に出している。これは、サジェストされた検索結果が必ずしも違法サイトに限らないとの理由からである[243]。
拡大集中許諾制度と孤児著作物
[編集]拡大集中許諾制度 (別称: 拡大集中ライセンス制度、英: extended collective licensing、略称: ECL) とは、従来型の著作権管理団体 (集中管理機関) への権利委託スキームを発展させたものである[244][245]。基本的には、著作権者と著作物の利用者の間で利用許諾 (ライセンス) を1対1で契約締結する。しかしこれでは利用料の徴収業務などが煩雑化してしまうため、両者の間に著作権管理団体が窓口として介在し、複数の利用許諾を N対1対N で締結する[246][247]。このような複数の著作権者が著作権管理団体に権利委託して集中しているスキームが従来型の集中許諾制度である[244][245]。これを援用した拡大集中許諾制度では、著作権者と著作権管理団体間で直接の権利委託関係がなくとも、著作権管理団体が利用許諾を利用者に対して出せる仕組みである[244][245]。特に図書館や美術館といったデジタル・アーカイブ事業を展開する機関のほか、放送事業者といった著作物の大量利用者にとって、許諾取得 (権利処理) を円滑に行えるメリットがある[248]。
フランスでは、2012年3月1日法 (法令番号: 2012-287) を成立させてフランス著作権法を改正しており、20世紀以前の絶版書籍をデジタル再頒布する規定を追加している (L134条-1からL134条-9)[249][250]。これは一種の拡大集中許諾制度と見なされている[251][252]。2001年1月1日より前 (2000年12月31日以前) にフランスで発行された書籍のうち、紙印刷・デジタル媒体いずれの形式でも出版社が既に絶版扱いにしているものがデジタル再頒布の対象となる[249][250]。当制度の運用の流れは以下の通りである[249][250]。
- フランス国立図書館 (BnF) が対象となる絶版書籍の一覧をデータベース化してオンラインで一般公開する。
- 当データベースに登録後、絶版書籍の著作権者や出版社がオプトアウト (デジタル化拒否) を選択できる猶予期間として6か月間が設けられており、
- この期間が過ぎると文化省大臣から認可・指定された著作権管理団体によって絶版書籍はデジタル複製され、一般に頒布される。
当制度は、米国発の無料書籍デジタルスキャン・閲覧サービス「Google ブックス」を念頭にした対抗措置で立法化したと言われている[249]。
当制度が絶版書籍の著作権者の権利侵害に当たるとの懸念から、憲法院 (違憲審査権を有する司法機関で、最高裁から独立) で審理された結果、2014年に合憲の判断が下されている[249] (#判例にて詳細後述)。
また拡大集中許諾制度の文脈で語られることの多い孤児著作物 (著作権者が誰なのか不明な著作物) に関しては、2012年10月に孤児著作物に関するEU指令 (2012/28/EU) が成立し、一定条件を満たせば孤児著作物の著作者から許諾を得ずとも、第三者が著作物を利用できるようになった (ただし写真の著作物は除く)[253][254]。欧州連合知的財産庁 (EUIPO) が孤児著作物の検索データベースを一般公開している[255]。これに対応する形で、フランス著作権法ではL135条-1から-L135条-7(第5節 孤児著作物の一定の使用に関する特別規定) にて規定されている。孤児著作物が公表される際には、DR (droits réservés、権利留保の意で英語の "all rights reserved" に相当) の文字が表記される慣行がある[256]。
さらに2019年成立のDSM著作権指令 (2019/790/EU) を受け、拡大集中許諾制度がフランスでも本格導入されている (L324条-8-1からL324条-8-5)。これは上述の20世紀以前の絶版書籍デジタル再頒布をさらに修正して、一般化する法対応である。対象著作物のジャンルをビジュアル・アートにも拡大適用する一方、利用目的に高等教育や研究活動といった文言を加えて定義を厳格化するなどの配慮が見られる[257]。
著作権侵害と救済
[編集]著作権侵害とは具体的に、他者による著作物の演奏・上演、複製、翻訳、翻案、変形、編曲などが挙げられている (L122-4条)。権利侵害された者は、民事あるいは刑事手続によって救済される[258]。民事訴訟の場合、侵害行為を「認識」してから5年以内の出訴が認められている、また刑事手続の場合は、侵害行為が「発生」してから6年以内とされている[3]。
刑事事件の場合、文書・楽曲・スケッチ・絵画などを印刷出版すると、偽造の罪に問われ、3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金が科される (L335-2条)[3]。また、著作隣接権者に無断で実演、複製、公衆伝達、利用の提供を行うと、同様に3年以下の禁固または30万ユーロ以下の罰金となる (L335-4条)[3]。ただし著作権侵害者が組織犯罪の場合は、それぞれ7年以下の禁固または75万ユーロ以下の罰金に上限が引き上げられる。さらに再犯の場合、初版の刑罰の上限が2倍に引き上げられる[3]。これらの罰則は、2006年のDADVSIを受けて追加された条項である[259]。禁固や罰金以外にも、偽造品の差押や破棄、侵害行為の差止、企業活動の停止、インターネットへのアクセスなど著作権侵害の手段利用を最大1年間禁止といった刑事上の措置も取られる。海賊版などの輸出入が発見された場合は、税関がその物品を差し押さえる権利を有している[3]。
民事訴訟の場合、提訴できるのは著作権者 (著作者本人だけでなく、著作財産権を譲渡・相続した者を含む)、あるいは著作権者に代わって利用料を徴収する著作権管理団体のみである。独占ライセンスあるいは非独占ライセンス先は提訴できないものの、著作権侵害が認められた場合、損害賠償の受取人になることができる。2015年4月より、事前に著作権者が侵害者に対して警告を発したり、和解などを試みることが、民事訴訟の事前要件として定められた。ただしその後の判例により、これらの友好的な事前対応を怠った場合でも、著作権侵害の訴訟を認めるケースが存在している[3]。
インターネット上の二次侵害と免責
[編集]著作権法における「二次侵害」ないし「間接侵害」とは、他者の著作物を不法に利用した一般利用者 (つまり「直接」の権利侵害者) に対し、権利侵害の場や手段を提供した者に「間接」的に発生する権利侵害の責任である[260]。
インターネット経由の権利侵害に対してEUでは2000年、電子商取引指令 (2000/31/EC) を制定した。当指令の第12.3条などを国内法化する形でフランスでは2004年にデジタル経済法 (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)[261]を制定しており、インターネット上の不法コンテンツのアクセスブロックや除去制度の根幹を成している (特にLCEN第6.I条参照)[262][注 44]。LCENに基づき、不法コンテンツの通信環境を提供したISP (インターネット・サービス・プロバイダー) やホスティングサービス事業者などに対しては、原則として著作権侵害の免責規定が適用されるが (いわゆるセーフハーバー条項)、著作権者からの通報を無視して不法コンテンツを掲載し続けた場合には、二次侵害の責が問われる。また裁判所はこれら事業者に差止命令を出す権限を有する[264]。
さらにEUでは2019年、DSM著作権指令 (2019/790/EU) を成立させている。これを受けてフランスでは2021年5月12日のオルドナンス (法令番号: 2021-580) を通じて、同指令の第17条から21条を国内法化している[265][257]。特にDSM著作権指令の第17条は批判的な文脈で「アップロード・フィルター条項」[266][267]とも呼ばれており、YouTubeなどのオンライン・コンテンツ共有サービス上に一般利用者が権利侵害コンテンツを投稿した際に、そのサービスのプロバイダー (つまりYouTubeなど) が負う責務と免責条件がフランスでも明文化されている[257]。
前提として、ここで責務が問われるコンテンツ共有のサービスプロバイダーであるが、営利目的の大規模プラットフォーム事業者を指す (著作権法 L137-1条-1)[257]。つまり、非営利のWikipediaや教育・科学振興目的のレポジトリ、オープンソースのコンテンツ開発・共有プラットフォーム、起業3年以内で年商1000万ユーロ未満の新興企業などは除外される[265]。その上で、営利目的で運営されるプラットフォーム上での不正コンテンツ共有は、著作財産権の上演・演奏権に (L137-2条-I)、また著作隣接権の公衆伝達権またはテレビ放送権に抵触するおそれがあるため (L219-2条-I)、コンテンツの著作権者から事前に利用許諾を得る必要がある[257]。
以下の義務3点のいずれかを怠って、許諾のないコンテンツを共有したサービスプロバイダーは著作権侵害と判定される (換言すれば、これら3点を遵守すれば二次侵害を免責される)[257][265]。
- (1) 著作権者・隣接権者などからの許諾取得に際し、最善の努力を尽くすこと
- (2) 業界の慣行に照らし合わせた高度な善管注意義務のもと、不正コンテンツを利用できないよう対処すること
- (3) 著作権者・隣接権者などからの通知を受領した後、速やかにコンテンツへのアクセスブロックや削除を行うだけでなく、同一コンテンツの再アップロード防止策を講じること
ただし、コンテンツ共有サービス全体の常時監視といった能動的な対応まで求められておらず、あくまでコンテンツの著作権者・隣接権者などからの通知を受けてから適切に対応することが定められている (L137-2条-III、L219-2条-III(4))[257]。
一方で、コンテンツ共有サービスの利用者側に認められている表現の自由にも配慮してバランスをとっており、「利用者の権利」と題する条文の節も著作権法内で設けられている。具体的には以下が規定されている[257]。
- (1) サービスプロバイダーはサービス利用規約内で、著作物の合法的な利用 (例外・制限規定) に関する情報を記載し、利用者側に情報周知すること
- (2) コンテンツへのアクセスブロックや削除に対し、利用者側が不服申立できること
- (3) 利用者側の不服申立に対し、権利者側がブロックや削除を継続要求する場合は、正当な理由に基づくこと
- (4) サービスプロバイダーの対応が紛争に発展した際には、利用者・権利者ともに裁判所への提訴のほか、Arcomへの通報も可能
管理・取締機関
[編集]視聴覚・デジタル伝達規制局 (Arcom)
[編集]特にインターネット経由での著作権侵害に対しては、政府系独立機関である視聴覚・デジタル伝達規制局 (L'Autorité de régulation de la communication audiovisuelle et numérique、略称: Arcom) がフランス国内で取り締まりの重要な役割を担っている[注 45]。以前はフランス文化省傘下の著作権監視機関であるHADOPIが取り締まってきたが[82]、電気通信事業者や放送事業者などを監督・規制する視聴覚最高評議会 (略称: CSA) と2022年1月1日に合併し、Arcomに組織再編された[272][270]。
前身のHADOPIの設立経緯であるが、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的とした2009年制定のHADOPI法[注 19]に基づき、インターネットを介した著作権侵害に対し、文化省に属する組織であるHADOPIが設立された[3]。HADOPIがインターネット上で著作権侵害を認識すると、被疑者に対して警告・改善通知を発信できるようになった (L335-7-1条)[3][15]。HADOPI法上は具体的な制限はないものの、HADOPIの取締対象はPeer-to-peer (P2P) での違法コンテンツのアップロードおよびダウンロードに限定されると解されている[273]。ただしHADOPIは行政機関であることから、司法機関である裁判所のように侵害行為の差止命令を出すことはできず[3]、あくまでインターネット利用者、著作権者、ISPおよび刑事裁判所の間を仲介する組織として位置づけられている[274]。いわゆる「三振法」をHADOPIは採用しており、三度の警告後、著作権侵害を検察に通達し、刑事手続に進む流れとなっている[3][275]。なお、インターネット上のコンテンツ侵害に対する刑罰を規定しているL335-7-1条[15]は2024年現在、HADOPIから改称・組織改編したArcom (視聴覚・デジタル伝達規制局) に警告通知の実施主体が移っている[注 46]。
2014年のHADOPI公式データによると、2014年5月の1か月間に発信した警告通知件数は、一度目が149,357件となっている。一度目の警告後、6か月以内に著作権侵害コンテンツにアクセスし続けて二度目の警告を受けた割合は約1/10となっている。さらに最終三度目の警告を受けた件数は月間71件であった[277]。また、HADOPIを含む公共機関がインターネット経由の著作権侵害の取締に費やした金額は年間2,330万ユーロから2,600万ユーロに上るとの試算もある (2012年調査報告、取締だけでなく合法的なコンテンツ利用への誘導・啓蒙活動費用も含む)[278]。
著作権管理団体
[編集]著作権管理団体 (集中管理機関) とは、個々の著作権者や著作隣接権者から委託を受けて管理を行う組織であり、利用許諾の締結やライセンス料の徴収・分配のほか、利益団体として対外的な交渉力や政治的圧力を有する側面も持つ[279][280]。日本では著作権法とは別に著作権等管理事業法が定められているが[281]、フランスでは著作権法の一部に著作権管理団体に関する規定を内包している (L321条以降[282])。
2012年時点の統計データによると、フランスの著作権管理団体が徴収・分配した総額は1,470,980,000ユーロ (14億ユーロ超、日本円換算で1,510億円相当) に達しており、その内訳は狭義の著作権 (著作者本人の権利) 関連が1,203,466,000ユーロ (81.8%、1,235億円相当)、著作隣接権関連が266,921,000ユーロ (18.1%、274億円相当) となっている。狭義の著作権を管理する最大の団体は音楽系のSACEMであり、802,600,000ユーロ (54.6%、824億円相当) を占めている。一方、著作隣接権を管理する最大の団体は映画製作者を束ねるSCPPで、73,438,000ユーロ (5.0%、75億円相当) である[283][注 47]。
著作権は著作者および著作隣接権者に独占的な権利を与えるものであるから、原則として欧州連合競争法 (特に欧州連合の機能に関する条約 第101条および第102条) の適用対象外となる。ただし、著作権を預かる著作権管理団体が、その地位を濫用して市場に大きな影響をおよぼしている場合には、不正競争行為の取り締まり対象となる[3]。フランスでは競争法 (日本の不正競争防止法に相当) が商法典の第4編 (L410-1条からL470-14条) に収録されている[285][286]。著作権管理団体への規制の文脈においては、カルテル (談合) を禁じる商法典L420-1条と、支配的地位の濫用を禁じる商法典L420-2条が特に重要となってくる[287]。ドイツのように主要な著作権管理団体が6組織に限定される国もあったり[288]、国によっては1ジャンルあたり1団体しか著作権管理団体の存在を法律上認めていない場合もあるが[289]、フランスでは少なくとも25団体が著作権を監督する文化省の認知下にあり、著作物のジャンルや権利者の特性に応じた多様な運営がなされている[288]。
フランスにおける著作権管理団体の歴史は古く、世界初の著作権管理団体と言われる[290][280]演劇法立法促進事務局 (Bureau de législation dramatique) は1777年にフランスで設立されている[291][280]。また、フランスのSACEMは音楽業界では世界最古の著作権管理団体であり[292][293]、19世紀に音楽著作権の団体が立ち上がったのはフランスに続き、イタリア、オーストリア、スペインの3か国のみである[294]。
著作権法の成立と改正の歴史
[編集]ここからは、フランス著作権法がどのような歴史的変遷を経て現行法に至ったのか、時代背景とともに解説していく。フランスの法制史は一般的に、フランス革命以前を指す「古法時代」、1789年に勃発したフランス革命から1804年制定のナポレオン法典 (民法典) までの「中間法時代」、民法典以降の「近代法時代」に三分類される[227]。
古法時代
[編集]フランスにおいて、著作権の概念の前身とも呼べる「特権許可状」[注 48]を国王が初めて発行したのは、ルイ12世治世下の1500年頃である[注 49][注 50]。この特権許可状は劇場運営者、文芸業界団体の側面もある王立アカデミー (例: アカデミー・フランセーズ)、大学、印刷業者[299]、書籍商、コメディアン (俳優)[300] といった著作隣接権者に対して与えられるものであった。その一方で、検閲に基づき、不適切と判断された著作物は国王の名の下で出版が禁じられている[297][注 51]。したがって当初の特権許可状は、著作者本人の保護を目的としたものではなく[297]、むしろ著作者を搾取する側面があった[299][注 52]。1723年には出版法典 (通称:Code de la librairie) が制定されており、著作物の著作者は神から知識という贈り物を授かったにすぎず、著作者の所有権が否定される一方、神の代弁者としての国王が著作物の出版を検閲・管理すると規定されていた[303]。その後、徐々に特権許可状の発行対象が広がっていき、1777年の王令によって、言語著作物の著作者とその相続人に対し、永久著作権 (無期限の著作権) が認められることとなった[300][227][298]。1777年の王令は、書籍業者の支配権を弱める一方、著作者個々人の思想を流通促進する文化政策の一環として位置づけられている。ただし、国王が神に代わって出版の権利を与えるという大前提は不変のままであった[304]。以下、著作物のジャンル別に古法時代を見ていく。
- 書籍
フランスでは13世紀に入ると、識字率の向上にともなって、手書きの写本の需要が高まった。13世紀前半にはパリ大学が公的な存在となり、大学が書物の修正、監督、価格決定の役割を担うようになっている[注 53]。一方で当時の著作者たちは、著作物の販売だけでは生計を立てられなかったことから、もっぱら王家や貴族などパトロンの庇護を受けていた[305][306]。
1445年頃のグーテンベルグによる活版印刷術の発明により、1500年にはパリ市内の印刷業者は50軒以上に達し、当時のパリは欧州で2番目に印刷業が盛んな都市であった[注 54]。この印刷業者の急増に加え、海賊版印刷が横行した結果、特権がなければ出版業界が経営上成り立たなくなってしまったことが、1500年頃に初めて特権許可状がフランスで発行された背景にある[307]。しかしまだ、著作者本人には特権許可状は与えられていない[308]。当時の印刷出版の対象はギリシャやローマの著作物、あるいは聖書などパブリックドメインに帰属する古い作品が主体だったため、新作を執筆する著作者を権利保護する必要性がなかったからである[308][302]。
著作者本人に特権許可状が徐々に与えられるようになったのは、17世紀に入ってからである[308]。書籍商の中でもパリが特権許可状を独占していたことから、都市と地方の書籍商との間で対立が起きた[227][309]。その結果、著作者たちは地方の書籍商から擁護されるようになる[309]。したがって、著作者本人の権利保護は著作者自らが求めたものではなく、都市と地方の書籍商の抗争の副産物とも言える[310]。この抗争を解決すべく、ルイ16世治世下の1777年8月30日に「特権許可状に関する裁定」が出され[227][298]、初めて著作者本人の文学的所有権が認められ、書籍商と著作者の権利を分けて捉えられるようになった[311]。また、この裁定 (王令) は、書籍商の永久著作権を10年間に短縮する一方で、著作者とその相続人に永久著作権を認めている[311][227][注 55]。
- 戯曲
フランスでは、アンリ4世 (在位: 1589年 - 1610年) による国家統治の結果、観劇を楽しむ余裕と社会秩序を回復したことから、17世紀にはフランスで劇場文化が興隆する[313]。当時は有名な劇作家であっても、戯曲の台本を俳優に売却する1回限りの取引が主流であったが[313]、17世紀中頃には、現代で言うところの「ロイヤルティー」に該当する「台本使用料」の考え方を取り入れているケースもあった[注 56]。1757年になるとようやく、王立劇団であるコメディ・フランセーズと著作者との間で、台本使用料の名目で劇場「利益」の一定割合が著作者にシェアされる協定が結ばれるようになった[注 57]。
しかし実態は、著作者 (つまり劇作家や伴奏の作曲者) の弱い立場が続いていた。コメディ・フランセーズと著作者間の対立が激化したことから[注 58]、1777年には演劇法立法促進事務局 (Bureau de législation dramatique) が設立された[291][280]。当組織は世界初の著作権集中管理団体と言われており[290][280]、著作者の待遇改善をコメディ・フランセーズに求め、最終的には権利保護の立法を目指すことを目的とし、終身会長には『セビリアの理髪師』などで有名なボーマルシェが就任している[注 59]。なお、この組織は後の劇作家作曲家協会 (SACD) として継承されることになる[291][280]。1780年には、凡庸とも言われるルイ16世 (在位: 1774年 - 1792年) への直接陳情が行われ、国王顧問会議がコメディ・フランセーズへの新たな規制を公布したが、むしろ改悪だと批判された[317]。
- 音楽
音楽に関しても同様で、著作者である作詞・作曲家に対してではなく、楽譜を出版する印刷業者や書籍商に対して特権許可状が与えられていた[318][319][注 60]。初の音楽特権許可状は、イタリアのベネチアで聖歌集を対象に発行されており、フランスでは1551年にアンリ2世がリュート演奏者のギヨーム・モルレに与えている[319]。しかしモルレ自身は出版できず、楽譜の特権許可状を持つ書籍商に権利放棄せざるをえなかった[319]。作曲者自らが楽譜を出版・販売できる特権許可状が発行されるようになったのは、1723年のことである[321]。そして1786年、特権許可状が司法機関たる国王評議会 (別称: 高等法院、パルルマン) でも明確に認められた[320]。
その後、大規模な印刷装置が必要だった活版印刷ではなく、美術業界で使用されていた彫版印刷が楽譜に用いられるようになった。彫版印刷によって、特権許可状も設備投資の余力も有しない中小業者にも楽譜の印刷が可能となったことから、18世紀に入ると楽譜印刷の海賊版が出回るようになり、特権許可状の効力が弱まることになった。そこで、楽譜の著作者本人を法的に保護し、版権を著作者から出版業者に譲渡させることで、出版業者を間接的に保護するスキームへの転換が必要認識されるようになった[318]。
- 美術
絵画、版画、彫刻などの美術品については、(楽譜を含む) 言語著作物とは歴史が異なる。美術作品にも著作権が認められるようになったのはフランス革命以降であり、古法時代には著作権が成立していない[322]。
14世紀から16世紀にイタリアのルネサンスがフランスにも流入し、フランス美術業界が質・量ともに向上した[322]。画家や版画家、彫刻家は王室や貴族などのパトロンから直接の庇護を受ける者と、それ以外は業界ごとに設立された組合に属せざるをえない者に二分された[322][注 61]。前者は「特権享受者」と呼ばれていたものの、後者の組合は1623年に初めて団体として特権享受者として認められるようになる[322]。しかし、アンリ3世 (在位: - 1589年) の頃には、才能のない芸術家を組合から除名するよう命じたり、フランス王朝の最盛期を築いたルイ14世 (在位: - 1715年) の頃には、組合における特権享受者の削減を要求している。フロンドの乱 (1648年 - 1653年) の最中、組合はアカデミー・ロワヤル (Académie Royale de Peinture et de Sculpture) とアカデミー・ド・サンリュック (Académie de Saint-Luc) に二分され、対立と和解を繰り返すようになる。1654年にアカデミー・ロワヤルがデッサン教育の特権許可状を取得し、プロの芸術家のみを会員に限定することとなったが、アカデミー・ド・サンリュックはアマチュア芸術家、住宅の装飾家、配管工にも会員資格の門戸を広げていた。1777年にはアカデミー・ド・サンリュックが職人組合として認定される宣言が出された[322]。
中間法時代
[編集]国王の権威を否定するフランス革命が1789年に勃発し、同年8月4日の憲法制定会議によって、特権許可状の制度も廃止されていくこととなる[323]。代替となる制度が用意されず、著作物が何ら保護されない空白期間が一時的に生じ[324]、さらに革命がもたらした自由の雰囲気を逆手にとってか、海賊版や名誉毀損的な表現を含む著作物を出版する事業者が多数出現した[325]。
その後、1791年1月13日 - 19日法、および1793年7月19日 - 24日法の2本の法律制定により、現代のフランス著作権法の原点となる制度が開始された[326][327]。当時、本格的な著作権法としてはイギリスで制定された1710年のアン法が存在したが[328]、フランスもアン法を一部取り入れる形で著作権法を整備したことになる[注 62]。1791年法は演劇著作物に限った上演権・演奏権を、1793年法は著作物の範囲を広げた上で出版権・複製権を、それぞれ著作者に認めるものであった[326]。しかし1777年の王令によって書籍に永久著作権が認められていたにもかかわらず、1791年法と1793年法によって、権利保護期間はそれぞれ著作者の没後5年および10年にそれぞれ短縮されている[331]。この2本の法律は、1957年3月11日法まで160年以上もの間、抜本的改正なしで運用され続けた[332][227][326]。
- 1791年1月13日 - 19日法
- 5か条から構成されている。劇場を通じた表現の自由、および劇場著作物の権利保護を保障する内容であった[333]。フランス革命以前は国王からの特許付与なしでは劇場は開設できず、また上演される題目も劇場ごとに指定されていた。これが1791年法により、政府当局に申請すれば誰でも劇場は開設できるようになり、上演の題目も自由に選べるようになった (第1条)[333]。劇場で上演するには、その著作物の著作権者から正式な文章で許諾をとる必要があり、違反した場合は上演の収益すべてが著作権者に損害賠償された (第3条)[333][注 63]。著作者の没後は相続人ないし譲受人に著作権は移転したのち、没後5年で劇場著作物はパブリック・ドメイン (公有) に帰し (第5条)、それ以降は劇場で無差別に上演できると定められた (第2条)[333][324]。
- 当法律は、労働者の団結権などを禁じる1791年ル・シャプリエ法 (Loi Le Chapelier)[336]の提唱者としても知られる政治家イザク・ルネ・ギ・ル・シャプリエの報告書に基づいている[324][337]。報告書の中でル・シャプリエは、著作権を最も聖なる所有権と定義し、著作物とは著作者の思想の果実だとみなした[324][337]。
- 1793年7月19日 - 24日法
- 7か条から構成されている。著作物の保護対象として、あらゆる文章、作曲、絵画および図案に拡大規定された[注 64]。また販売による頒布権 (出版権) が「排他的権利」であると謳われ、所有権は一部または全部を譲渡可能とも規定された (第1条)。海賊版を偽造した者は、出版物3000部相当の価値を著作権者に賠償し、また海賊版を流通させた小売業者は、500部相当の賠償が義務付けられた (第4・第5条)。著作者は告訴の前提として、国立図書館あるいは国立図書館版画室に複製2部を納本し、登録を済ませておく必要があった (第6条)。著作権保護期間は、著作者の没後10年であり、本人および相続人・譲受人が権利を有する (第2・第7条)[338]。
- フランス人権宣言との関係
- 1791年法と1793年法は、1789年に出されたフランス人権宣言を法源としていると言われる。同宣言の第17条では、「不可侵かつ神聖な権利である」として所有権全般を規定していることから、現代のフランス著作権法が人格権として著作者本人の権利を尊重する根拠となっている[339]。特に1793年法の前提となったラカナルの報告書では、フランス人権宣言で述べられた権利を著作者本人の権利にも援用する内容であった。ラカナルの報告書では、著作者の経済的な権利だけでなく、現代で言うところの著作者人格権にまで踏み込んだ構成となっている[340]。
- しかし当時、著作権に対するラカナルの立場は決して多数派ではなかった。特に1793年のジロンド憲法草案作成にも従事した啓蒙思想家のニコラ・ド・コンドルセ[341]は、(著作権を含む) 知的財産権を個人に帰属させるべきではない、との立場をとっていた[47]。コンドルセは著作者の思想と財産を別個に捉えており、他者の思想を反映した著作物は誰もが利用できる、自由な情報流通を念頭に置いていた[342]。そして著作権法は著作者個人に経済的なインセンティブを与えることで、社会利用という公益に資するべきだと主張した[343]。したがってフランス革命以降、著作権が一般的な所有権と同一であり、自然権の概念から導かれる不可侵で絶対的な概念なのか、それとも一般的な所有権とは別個の形態の所有権なのか、論戦が繰り広げられた時代であった[344]。
- このような、著作者本人の人格権や所有権と社会利用や表現の自由の利害対立は、1948年に国際連合で採択された世界人権宣言の第2章 第27条との間にも見られ、同条では文芸・科学の成果を社会が共有する権利が謳われている。実際の法整備にあたっては、フランスに限らず世界全般的に、著作権の人格的側面と利用者の表現の自由に優劣をつけるのではなく、バランスをとっているのが実情である[339]。
- ナポレオン帝政期
- 1791年法により自由が保障された劇場であるが、1800年にナポレオン・ボナパルト (ナポレオン1世) と各県知事たちは、劇場の組織見直しと取り締まり強化に転じている。その結果、県知事のもとには著作者から多くの陳情書が届き、また法務大臣が各地の訴追官、判事などに著作物の剽窃や所有権の偽造を取り締まるよう、多数の通達を出している[345]。さらに1806年6月8日法によって、ナポレオンは再び劇場を特権許可状制度に戻し、上演の題目も制限し、検閲制度も復活させている。これによって閉鎖された劇場もあった。ただし、著作者と劇場の自由契約や金額交渉などの自由は保障されており、観客動員も満員であった。1812年10月15日には、遠征中の地から「モスクワの勅令」をナポレオンが発し、コメディ・フランセーズに対する国の管理体制が強化された[346]。
- 1810年には、いわゆるナポレオン五法典の一つを構成する刑法典 (Code pénal) が制定され、著作物の無断複製を禁じたほか、フランス国外で製造された海賊版の輸入取締の根拠となった。偽造品の没収だけでなく、偽造者への罰金や著作権者への損害賠償なども定められた[347]。
- また、ワーテルローの戦いのあった1815年6月は、経済不況のあおりを受け、劇作家の著作権徴収代行手数料も下がり、同年1月の徴収総額の1/3以下に落ち込んでいる[348]。1829年には、劇作家の著作権管理団体である二つの事務所を再編する形で、劇作家作曲家協会 (SACD) が立ち上がっている。これにより、SACDの協会員 (劇作家・作曲家) は劇場に直接台本を送ったり、対立する劇場と直接交渉することが禁じられ、違反者には罰金が科された[349]。
近代法時代
[編集]19世紀のフランスはナポレオン帝政後に王政、共和制、帝政、共和制と体制が目まぐるしく変化していたが、欧州で最も中央集権化が進んでいた国でもあった。また欧州で最も使用頻度が高い言語がフランス語であった。したがって、フランス語の著作物は欧州に広く流通し、その結果、フランス国外で海賊版が大量に複製され、それがフランスに逆輸入する事態も発生した[350]。また、フランス国内における外国人著作物の保護もなされていなかった[注 65]。
- 著作権保護期間の延伸
- フランス国内における19世紀の著作権法は、総合的な著作権法の制定には至らず、保護期間の延長が改正議論の中心であった[352]。1791年法により演劇著作物の上演権は没後5年、1793年法によりその他著作物の出版権は没後10年と定められていたが、判例法によって演劇著作物にも1793年法が適用され、上演権も没後10年とされた。しかし19世紀に入り、権利保護期間が問題となった。なぜならばこの当時、文盲率が大幅に改善されたことにより、書籍商は過去の名著を重版出版するようになった結果、1793年法で定めた死後10年という期間では権利保護が短すぎたからである[353]。
- 1830年に7月革命が起こり、シャルル10世 (在位: 1824年 - 1830年) が言論統制のために検閲制度を復活させたものの、市民蜂起の結果、シャルル10世からルイ・フィリップ (在位: 1830年 - 1848年) に代わった。ルイ・フィリップの治世の下、著作権改正法案策定のための委員会が1832年から立ち上がっている。この委員会では原則、永久著作権を認めたかったものの、実社会での適用に難があった。出版社が恒久的に著作権料を払わざるを得なくなると、書籍の末端販売価格が上がり、これを回避しようとして国外で海賊版を誘発する副作用が懸念されたためである[354][注 66]。1837年には文豪のバルザック、デュマ・ペール、ユーゴーら集まり、文芸作家の業界団体SGDLが立ち上がり、作家の権利保護向上に務めた[357][注 67]。
- こうした議論を経て1844年8月3日法が制定され、演劇著作物の複製・上演にかかる著作権の保護期間は没後20年に延伸した[358]。さらに1854年4月8日 - 19日法により、著作権の保護期間は没後30年に延伸した。条文上の対象には著作者、作曲家、美術家と書かれていることから、演劇著作物以外にも保護期間の延伸が認められている[359]。続いて1866年7月14日法によって、著作権の保護期間が著作者の没後50年に延長している[360][361]。これら一連の延伸に関する法改正は、当時大衆から人気の高かった作家たちが、政治家として国政に進出しており、彼らの尽力が大きかったとされる[注 68]。しかし、土地・建物のように著作権についても所有権を永久に認めるべきとの考え方も根強く残っていた[360]。
- 二国間条約とベルヌ条約
- フランス国外に目を向けると、第二帝政の1852年、ルイ・ナポレオン (ナポレオン3世) 勅令により、フランス国立博物館に複製2部を寄託すれば、外国著作物もフランス国内で保護を与えるとした。ここでの外国著作物であるが、たとえその国がフランス著作物を保護していないケースであっても、フランス側では保護対象とした。ルイ・ナポレオンのこの方針は、著作権が自然権であり、国籍や政治的な壁を乗り越えるとのフランス著作権法の哲学に立脚していた[8]。
- 本格的な多国間条約であるベルヌ条約の締結以前、19世紀当時のフランスは二国間条約を通じて自国の著作物の保護に努めていた[注 69]。しかし二国間条約の場合、保護水準の低い国、すなわち文化の輸入国に合わせて締結内容が定められるため、保護水準が高く、文化の輸出国であったフランスは、国内と比較して国外でのフランス著作物の保護が十分ではなかった[364]。
- 具体的には、自国民が外国で著作物を発行した場合、内国民としての保護を排除する国や、翻訳権や小説の劇化といった翻案権を認めていない国、翻訳権の保護期間が著作物登録から3か月で失効する国もあった[365]。このような状況下で、フランスの著作物が国外で無断翻訳され、損害を被っていたのである[365][8]。そもそも、各国の権利保護期間にもバラつきがあり、国際的な統一の必要性があった[365]。
- こうした国際状況を背景に、まずは民間レベルで動きが始まる。1858年9月、著作権の国際的な保護を協議すべく「文学的美術的所有権会議」がブラッセルで非公式に開催された[注 70]。さらに、1878年のパリ万国博覧会を契機に、フランス政府の呼びかけによって各国の学者・美術家・文学者・出版業界の代表者が集まり、著作権に関する会合が持たれた。この会合の結果、フランスの文豪であり政治家でもあったヴィクトル・ユーゴーを名誉会長とした国際文芸協会 (後の国際著作権法学会 (略称: ALAI)) が創設された[10][注 71]。当会合からフランス政府に対し、多国間条約の起草・締結を要請することとなった[10]。
- これ以降は、各国政府による公式な外交協議へと移った。第1回ベルヌ公式会議 (1884年9月)[注 72]、および第2回ベルヌ公式会議 (1885年9月)[注 73]を経て、第3回ベルヌ公式会議 (1886年9月) でベルヌ条約の条文が固まり、10か国が調印し、翌年1887年12月7日にベルヌ条約は発効した[88][注 74][注 75]。
- レコード録音権
- 20世紀に入ると初頭に蓄音機とレコードが一般に商品化されているが[注 76]、それ以前はオルゴールが音楽再生の唯一の手段であり、19世紀に入ってオルゴールは上流階級だけでなく、一般庶民にも広まっていた[374]。オルゴール生産主力国であるスイスの国策圧力により、フランスでは1866年5月16日法を成立させ、音楽の著作権者に無断でオルゴールに楽曲を利用・複製することを合法化している[375]。1886年署名のベルヌ条約でもその第3条で、オルゴールの製造・販売は音楽の偽造とみなさない旨が規定されている[376]。しかし、レコード録音権を巡る訴訟がフランスで相次いだことから[注 77]、オルゴールの楽曲無断利用合法化の対象からレコードを切り離すこととなり、レコード録音使用料の支払が義務化された[375]。1908年のベルヌ条約ベルリン改正でも、オルゴールの免責を改定し、オルゴールを含む全ての音楽複製権が著作者にあると規定した[379]。これを受け、世界初の録音権協会である機械的複製権協会 (SDRM) が1935年に設立され、録音使用料の徴収・分配を権利者に代わって行うようになった[375][注 78]。
- 応用美術・建築物と追及権
- 1902年3月11日法では、著作物の価値や用途不問で法的保護を与える原則を宣言している。これにより、審美的な価値を有する純粋な美術品だけでなく、建築や彫刻、装飾用のイラストといった応用美術にまで著作権保護が拡大している[380]。
- 1920年5月20日法により、世界初の追及権が美術作品に認められた[注 79]。追及権とは、絵画や彫刻などの美術品が転売されるたびに、その売買価格の一定割合を著作者が継続して得ることができる仕組みであり、著作者が作品を安値で手放しても、後に価値が高騰した時に金銭的に報いられるようになっている。この追及権は、著作物が著作者から離れても、著作者の支配権は残るという大陸法の著作者人格権思想に基づいている[383][注 80]。制定当初の追及権は著作者本人の死後、50年間有効であった[384][注 81]。
第二次世界大戦後から知的財産法典化にかけて
[編集]- 1957年3月11日法
- 5章・計82条で構成される1957年3月11日法 (法令番号: 57-298) によって著作権法は大幅改正され[385]、フランス革命期の1791年法と1793年法以降、約160年の間に蓄積されたさまざまな判例法や最新の学説を1957年法に取り込んでいる[227][385]。フランス革命以降、写真や映画、ラジオ放送、レコード、テレビ放送といった著作物の伝達媒体が技術的に多様化した結果、簡素な条文の1791年法と1793年法だけでは対応しきれなくなったためである[384]。1957年法ではさらに、著作者人格権も初めて成文化している[52]。現行著作権法とは異なり、1957年3月11日法では著作者人格権を4つの支分権で分類している。すなわち、公表権 (droit de divulgation)、修正・撤回権 (droit de retrait (ou derepentir))、氏名表示権 (droit a lapatemite)、および同一性保持権 (droit a l'intégrité) である[21][注 82]。1957年法以前も数々の判例上では著作者人格権が尊重されてきたものの、「1957年法では著作者人格権が最高の位置を占めている」と起草委員が述べており[385]、司法だけでなく立法の場でも著作者人格権が強く意識されることとなった[52]。また、集合著作物を初めてフランスで明文化したのも1957年法である[386][注 83]。
- 1985年7月3日法
- しかしその後も、人工衛星による通信や有線放送の出現に見られるように、著作物の伝達手段がネットワーク化して技術的に進展を続け、1957年法だけでは対応しきれない状況に陥った。著作物を創作した本人と、著作物を伝達するいわゆる著作隣接権者 (放送事業者などを含む概念) との間で、利害の不均衡が生じたのである[387]。そこで1985年7月3日法 (法令番号: 85-704) によって、これまで判例上でしか認められていなかった著作隣接権を新たに明文化した[227][388][33]。特に、人工衛星通信や有線放送に関しては、従前から適用していた映画の著作物に関する諸制度をより広範な視聴覚著作物に援用することで対応した[228]。1985年法の起草段階では、(狭義の) 著作権が著作隣接権に優先する旨を盛り込むか踏み込んで議論されたものの、国会で否決されている。これは著作者本人と著作隣接権者の間に序列をつけることになり、協調関係を損なうと懸念されたからである[389]。
- 同様に、1985年法ではコンピュータ・プログラムが著作権保護の対象として追加されている[227][228]。また、音楽著作物に関しては著作権の保護期間が50年から70年に延伸している[219][390]。
- 1992年7月1日法
- 1992年7月1日法 (法令番号: 92-597) によって過去の法令を全面改廃し、現在の知的財産法典 (略称: CPI) の第1部に著作権法が収録された[227][326]。これ以前に執筆された文書では旧法の条数で記されており、CPIの条数とズレが生じているため注意されたい。例えば旧法 (1985年7月3日法による改正時点ベース) では第19条で著作者人格権の一つである公表権を定めている[391]。しかしCPIベースの現行法では公表権はL121条-2で定められている[19]。
EU指令とフランス国内法改正
[編集]フランスは欧州連合 (EU) 加盟国として、EUの各種著作権指令に基づき、必要に応じて国内法化を行っている。EU指令の国内法化とは、既存の国内法ではEU指令の求める結果・水準を満たせない場合、国内法を改正あるいは新たに立法する手続を指し[392]、既に国内法で満たしている場合は、特に国内法化は発生しない。EU指令が発効してから、各国が国内法化を完了させるまでの導入期限は、指令ごとに個別設定されている[393]。以下、代表的なEU著作権指令 (左、前身のEC含む) とフランス国内法化 (右) を対比してまとめる。
- 1993年の欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令 (93/98/EEC指令) -- 1997年3月27日法を成立させて、フランスでもすべての著作物の著作財産権保護期間を70年に延伸させた。音楽著作物のみは、1985年7月3日法ですでに70年に延伸していたが、1997年3月27日法によって音楽以外も70年に合わせている[219]。なお、93/98/EEC指令はその後2006/116/EC指令により改廃され、さらに2011/77/EU指令で改正されている[394]。2011/77/EU指令に伴い、フランスでは2015年に国内法化の改正を行っているが、国内法化の期限である2013年1月11日から2年以上遅延したことになる[395]。
- 1996年のデータベース指令 (96/9/EC指令) -- EUではデータベースを「内容物」(コンテンツ) と「データ構造」に分類の上、前者はスイ・ジェネリス権で、後者は狭義の著作権でそれぞれ別個に保護すると定めている[38][39]。フランスでは1998年7月1日法を成立させて国内法化しているが[39]、国内法化の期限は1998年1月1日であり、フランスやルクセンブルクなど複数のEU加盟国が遅延した[396]。
- 2000年の電子商取引指令 (2000/31/EC指令) -- インターネット・サービスを提供したISPなどに対して、侵害コンテンツを削除するよう求めるデジタル経済法 (通称: LCEN、法令番号: 2004-575)[261]が2004年6月21日に成立している[397]。またデジタル経済法以外にデクレ (政令) 1本とオルドナンス (大統領による委任立法) 1本が発せられている。電子商取引指令はEU加盟各国で国内法化の期限日が個別に設定されており、フランスは2002年1月17日であったことから、2年以上遅延した[398]。
- 2001年の情報社会指令 (2001/29/EC指令) -- WIPO著作権条約を具現化するために成立した、EU著作権指令の根幹を成す指令である[240]。フランスでは2006年8月1日法、通称: DADVSI[399][400]で情報社会指令を国内法化し、さらに2009年制定のHADOPI法[注 19]で強化・補完した[3]。詳細は後述する。
- 2001年の追及権指令(2001/84/EC指令[注 84]) -- フランスは世界で初めて追及権を認めた国であり、追及権指令が出る前に基礎的な法制度は整っていた。2006年8月1日法により、部分的に改正している[401]。
- 2004年の知的財産権の執行に関する指令 (2004/48/EC指令) -- 当指令を受けて、フランスでも著作権侵害の救済に関して国内法化を行っている。2007年10月29日法 (法令番号: 2007-1544) および2008年6月27日法 (法令番号: 2008-624) により、民事訴訟手続上、著作権侵害者の個人情報を得ることを合法化したほか、金銭賠償に関しフランス著作権法が改正されている[399]。当指令の国内法化期限は2006年4月29日に設定されており、1年以上遅延した[402]。
- 2014年の著作権集中管理指令 (2014/26/EU指令) -- フランスは世界初の著作権管理団体発祥の地であり[注 85]、既に2000年から著作権管理団体を統制するために監督委員会が設けられていた。2014年のEU指令を受け、監督委員会の役割を拡大させる法改正を2016年7月7日に成立させている[403][404][405]。
- 2019年のDSM著作権指令 (2019/790/EU指令) -- DSM著作権指令は2001年の情報社会指令以来の大型改革である[240]。国内法化は3度に亘って段階的に進められた。(1) 2019年7月24日法 (法令番号: 2019-775、通称「プレス隣接権法」) でプレス通信社およびプレス出版社の著作隣接権を新規に認めた[155]。(2) 2021年5月12日のオルドナンス (法令番号: 2021-580) で俗称「アップロード・フィルター条項[266][267]」(指令第17条) に対応してオンラインコンテンツ共有サービスに対するセーフハーバー条項をフランスでも追加した[257]。(3) 2021年11月24日のオルドナンス (法令番号: 2021-1518) は同年5月21日のオルドナンスの内容を補完するものである[406][257]。国内法化の期限は2021年6月7日であり[407]、若干遅延したものの、EU加盟国の中で最も早く国内法化を完了させたのがフランスである[406]。
- 情報社会指令と国内法化の遅延
インターネットを介した著作物の流通における技術的保護 (いわゆるデジタル著作権管理、DRM) を定めた情報社会指令 (2001/29/EC指令) は、フランス国内でも著作権法の改正が複数回発生している。2006年制定のDADVSIでは、個人による違法ファイルの共有を初めて刑事罰として規定した[399][400]。しかしDADVSIが成立する過程で紛糾し、法案は修正・削除が繰り返された結果、国内法化の期限である2002年12月から3年半以上も遅延した[408]。その結果、2004年2月に欧州委員会はフランスを欧州司法裁判所に提訴し[409][410][411]、2005年1月にフランスへ制裁金を科す判決が下っている[412]。なお、情報社会指令の国内法化に苦戦したのはフランスだけではない。国内法化の期限に間に合ったのはギリシャとデンマークの2か国のみであり、特に遅延が著しかった国々 (ベルギー、スペイン、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、フィンランド、スウェーデン) はフランス同様に提訴されている[413]。
国内法化がフランスで大幅に遅れた要因は複合的であるが、もともとフランスは著作権に限らず、EU指令全般で国内法化の遅延比率が他国よりも高いことが欧州委員会から指摘されている[注 86]。その文化・政治的背景として、自国で決めていない指令を導入することへの抵抗感、政治的圧力団体によるロビイングによって立法過程が複雑化していること、そして国会提出法案の入念なチェック手続の3点が挙げられる[415]。
DADVSIを巡っては、フランスで紛糾の種となったのが法案の第1条に盛り込まれていた「グローバル・ライセンス」(licence globale) である。これはインターネットユーザが毎月一定額を著作権者に支払うことで、音楽や映画などのデジタルファイルを合法的にPeer-to-peer (P2P) で共有できるようにする制度であった。フランス政府は反対したものの、著作権管理団体や消費者団体などからの強い支持を背景に、中道左派の社会党や、後の大統領を務めたニコラ・サルコジを擁する保守系の国民運動連合などが賛成に回り、2005年12月にフランス国民議会 (下院) はグローバル・ライセンス条項を含む法案を可決した[409][410]。しかしながら政府が多数派党に法案反対を働きかけた結果、最終的にグローバル・ライセンスは廃案に追い込まれている。対案として一般ユーザではなくISPに対して賦課金を課す提案が提出されるも、こちらも廃案となった[410]。
また、DADVSI法案の第7条は欧米メディアから「iPod法」と呼ばれて批判を受けた[416][417]。この条項では、楽曲ファイルをダウンロードした一般ユーザが他社製の再生機器を使って鑑賞できるよう、アクセスコントロール技術に互換性を持たせることを義務化する内容であった。そのため、iTunesで楽曲配信し、iPodで楽曲再生するビジネスモデルを展開していたAppleなどに打撃を与えると懸念されていた[417]。しかし、相応の金銭的補償なしに楽曲配信事業者に互換性の義務を負わせてはならないとして、フランスの司法機関である憲法院が当条項の違憲性を指摘して、大幅な修正に至っている[416][259]。
さらにDADVSIを補完する形で、違法ダウンロードに対するインターネット・アクセス制限を目的としたHADOP I法[注 19]が2009年に制定されている[3]。しかしこれらの改正法の内容を巡って、利害関係者や世論の間で激しい論争が起こった[418][419]。とりわけ、不正コンテンツにアクセスしたユーザのインターネット通信を遮断する刑事措置が物議を醸した[419]。取締機関のHADOPIは司法機関ではなく行政機関であり、表現の自由を制限しうるインターネットの遮断は裁判所のみが命じることができるとの理由から[420]、HADOPI 1法は2009年6月10日に憲法院にて違憲と判示され、これに修正対応したHADOPI 2法が追加成立した経緯がある[15]。
主な判例・事件例
[編集]フランスの裁判所、ないし欧州連合 (EU) や欧州評議会の裁判所が下したフランスに影響を与える判決のうち、法学者や著作権に精通する弁護士などの識者が取り上げた特筆性の高いものに絞って、以下に取り上げる。判決番号をクリックすると、レジフランスなどの判決文の原文掲載ページを閲覧できる。また、行政機関による制裁などの取締事件例も併せて取り扱う。
著作者人格権 - 公表権関連
[編集]- 通称「ウィスラー判決」
- 1900年の破毀院 (フランスの最高裁判所) による「ウィスラー判決」(William Eden c. Whistler, Cour de Cassation, 14 mars 1900; D.1900.1.497) は、アメリカ合衆国出身でイギリスで主に活躍した画家ジェームズ・マクニール・ウィスラー (ホイッスラーとも綴る) が、完成した肖像画を依頼主のイーデン準男爵に対して引き渡し拒否した事例である[19][110]。破毀院は、ウィスラーに対して肖像画の製作代金の返金は命じたものの、著作権法上の公表権をウィスラーに認め、作品の引き渡し要求は棄却した[19][422]。ウィスラーは当初、イーデンの前払金に不満を持っていたとされていたが、法廷上では自らの作品の出来映えに満足できなかったと証言している。いったんはサロンに作品を展示するも、ウィスラーは描かれていたイーデン夫人を別人に描き変えてしまった事件である[111]。
- 通称「カモワン判決」
- 1931年のパリ控訴院「カモワン判決」(Carco et autres c. Camoin et Syndicat de la propriété artistique, Cour D'Appel de Paris 6 mars 1931; DP.1931.2.88) は、出来栄えに不満を持った画家シャルル・カモワンが自身の作品を切り刻んでゴミ箱に捨てたが、ゴミ漁り人がそれをアート収集家に売却して復元されてしまい、11年後の1925年にフランシス・カルコが所有していることが判明した事件である。復元された作品は差し押さえられ、5,000フランを損害賠償として原告カモワンに支払うよう命じられた[423][112][113]。被告側は、作品が販売カタログ上に掲載されていたことから、公表済の作品であると法廷で抗弁していた[114]。
著作者人格権 - 尊重権関連
[編集]- サミュエル・ベケット著『ゴドーを待ちながら』
- 尊重権の解釈や保護水準が国によって異なる判例として、サミュエル・ベケット (1906-1989年) 著『ゴドーを待ちながら』(1952年出版) が知られている[424][120]。ベケットが男性主人公を想定していたにもかかわらず、演劇の演出家が女性に変更しようとしたことから、ベケットの死後に著作権相続人がこの演劇の差し止めを求めてフランスで提訴している[124]。これに対し、パリ大審裁は1992年、尊重権侵害を認めている[124]。
- しかし他国では著作者人格権侵害の訴えが棄却されている。生前の1988年にオランダの劇場を相手にベケット本人が提訴しており、やはり本件でも同作品の登場人物を全員女性に変更する演出が問題となった。セリフ回しや演出が原作に忠実であることを理由に、オランダのハールレム裁判所は同一性保持権侵害の訴えを棄却している[121]。さらにオーストラリアでも、同作の上演に際して無許可の楽曲を挿入しようとしたことから、ベケットの甥が法的措置に踏み切る姿勢を見せたことがある[121]。著作者人格権の保護水準が大陸法諸国と比べて低いとされる英米法のオーストラリアでは、2000年に著作者人格権のうち氏名表示権と名誉声望保持権のみを明文化する法改正を行ったばかりであり、フランスの司法判断と同水準の権利保護はオーストラリアでは難しいとの識者見解もある[121]。イタリアでも同作の登場人物2名を男性から女性演者に変更して上演を続け、ベケットの著作権相続人は差止を求めて提訴するも、ローマ地方裁判所は2006年に合法との判決を下している (Fondazione Pontedera Teatro v SIAE (Società Italiana Autori ed Editori and Ditta Paola D'Arborio Sirovich di Paola Perilli), Tribunale di Roma, 2 December 2005)。イタリアのケースでは演者は女性ではあるものの、人物設定は男性のままだとして、1992年のパリ判決とは状況が異なると被告側が主張していた[119][120]。
- ジョン・ヒューストン監督映画『アスファルト・ジャングル』のカラー化
- 国際的な同一性保持を巡る類似の判例としては、米国出身の映画監督ジョン・ヒューストン作『アスファルト・ジャングル』(原題: "The Asphalt Jungle") に係る事件も知られている (Turner Entertainment Company c. Huston または Huston c. la Cinq, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 28 mai 1991, 89-19.522 89-19.725)[14][122][425]。本事件は、白黒映画をカラー化しようとして尊重権侵害が問われた[14]。原告はヒューストンの遺族、およびヒューストンと脚本を共著したベン・マドーであり、被告は米国ターナー・エンターテインメント (後にタイム・ワーナーと合併したターナー・ブロードキャスティング・システム傘下)、およびターナー社からフランスでの放送ライセンスを取得した公共放送テレビ局のフランス5 (La Cinquième) である[122]。本事件ではアメリカ著作権法と比較してフランス著作権法が著作人格権を手厚く保護している点が識者から指摘されている[426]。仮に米国法で本事件が裁かれた場合、職務著作の観点から映画製作に参画したクリエイター (すなわちヒューストン本人) は著作者として認められないことから、ヒューストンの遺族に著作者人格権を相続されえないと解されている[427]。パリ控訴院は1990年、著作物の製作地が米国であることを理由に、フランス法ではなく米国法の基準で著作者人格権侵害は認められないとの判決を下したが、多方面から批判を受けた[428]。フランス破毀院はパリ控訴院の判決を破毀し、フランス法に則って尊重権侵害を認めた[429][14]。
- 冷蔵庫に絵を描いたベルナール・ビュッフェの作品
- 画家ベルナール・ビュッフェは6台の冷蔵庫に絵を描いて "Nature morte aux fruits" と題し、児童福祉のチャリティ・オークションにかけた。その作品の購入者がビュッフェの意に反して冷蔵庫を解体して絵だけを切り売りしようとした事件では、破毀院が1965年にビュッフェの意思を尊重する判決を下している (Bernard Buffet c. Fersing, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1965 1965.2.126.)[123][124][125]。
- ルノー社によるデュビュッフェのモニュメント破壊
- 同一性保持 (改変禁止) 以外でも、尊重権侵害が認められたケースがある。自動車メーカー大手ルノーが彫刻家・画家のジャン・デュビュッフェにブローニュ工場内に設置するモニュメントの製作を発注した。デュビュッフェは "Salon d'été" (「夏のラウンジ」の意) と題した作品を製作中であったが、ルノーがこの事業を白紙にしただけでなく、デュビュッフェへの事前通告もなく建造中のモニュメントを破壊した。こうしてデュビュッフェの尊重権侵害が問われるも、発注契約上の2条項が争点となった。第一に、ルノー側がモニュメントを建造しない場合にデュビュッフェが相応の対価を得る旨が盛り込まれていた点にある。換言すると、ルノー側に製造中止権が留保されていると解することができる。第二に、モニュメントの色や材質などの選定にあたっては、発注者に意見を仰ぐ条項である。これらを勘案し、一審と控訴審ではデュビュッフェの著作権はモニュメントの模型にしかおよばず、実物の著作権は有していないと判断した。しかし破毀院は原審の判決を破毀し、デュビュッフェは模型と実物両方の著作権を有しているとして差し戻した (Régie Renault c. J.-Philippe Dubuffet, Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 mars 1983, 81-14.454; 117 RIDA July 1983, p.80)[126]。ベルサイユ控訴院は原審 (Dubuffet c. Régie Nationales des Usines Renault TGI de Paris, Cour d'appel de Versailles, 8 July 1981, 110 RIDA October 1981) を覆して尊重権侵害と判定した[430][124]。
著作者人格権 - 修正・撤回権関連
[編集]- 画家ルオーの未完807作品
- 修正・撤回権関連の判例としては、画家ジョルジュ・ルオーと美術商アンブロワーズ・ヴォラールの遺族間で作品の所有権を巡って争った事件が知られている(Cons. Vollard c. Rouault, Cour de Paris, 19 mars 1947; D.1949.20. Appeal from Roualt c. Cons. Vollard, Trib.Civ.de la Seine, 10 juillet 1946; D.1947.2.98; S.1947.2.3.)[129]。ルオー作品を独占的に扱っていたヴォラールは、生前にルオーと807点の作品の契約を締結していた。しかし作品が完成する前にヴォラールが死去したことから、ルオー側が譲渡契約の未成立を訴えたのである。完成した絵画に入れられる署名がないことなどを理由に、これらの作品群は未完成と判定されて撤回権の行使が原審、控訴審ともに認められた[431]。
著作財産権 - 演奏・上演権関連
[編集]- ホテルの有料テレビ
- 演奏・上演権が問われた判例としては、ホテルの有料のテレビ・ラジオの事件が複数存在する[138]。音楽著作権管理団体のSACEMとホテル・ルテシア[注 87]で争われた事件 (SACEM c. Société Hôtel Lutetia. Tribunal de grande instance de la Seine. 3' chambre. 22 mars 1961 (J)) では、有料コイン式であったことから、ホテル側は受信機としてのテレビを個室に設置してホテル利用客に貸与しているだけに過ぎず、上映・放送をホテルが無断で行ったとは見なされなかった[432][138]。また別の事件では、ホテルがいったん受信したコンテンツを各部屋に伝達するシステムを導入しており、ホテルが伝達行為者と見なされたために演奏・上演権が問われることとなった[138]。
著作物性関連
[編集]- 通称「パショ事件」
- 本事件 (Babolat Maillot Witt c. J. Pachot, Cour de cassation, Assemblée Plénière, du 7 mars 1986, 83-10.477) は、コンピュータ・プログラムにも著作物性を認めた画期的な判決として知られている[191][192]。本事件は、コンピュータ・プログラムを開発したパショが、その後に勤務先のBabolat Maillot Witt (BMW) 社から解雇されたため不当解雇で提訴した事件である[192]。さらに、当該プログラムの著作権がパショ個人に帰属するのかも併せて問われることとなった[433]。コンピュータ・プログラムはL112-1条が定義する「精神的な著作物」とは厳密には言い難いものの、破毀院は1986年、「著作者による知的な創作活動が創作性の要件を満たす」と判示している[193][注 7]。
- 通称「Isermatic France事件」
- 本事件 (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 16 avril 1991, 89-21.071) では「著作者個人の寄与の賜物としての創作性」がコンピュータ・プログラムの著作権保護の要件として挙げられた[193]。"Graphix" と呼ばれるシステムには電子署名のカットや調整といったグラフィック・デザイン機能 (モジュール) が実装されており、原告のGerber Scientific Products社は被告のIsermatic France社をこれらモジュールの偽造および競争法違反で提訴した。しかしIsermatic側はモジュールは「アイディア・表現二分論」でいうところのアイディアでしかなく、著作権保護の対象外であると抗弁した。このモジュール群は創作的な選択のもとに構築されており、著作者個人の創作性が発揮されていると判示された[434]。
集合著作物関連
[編集]集合著作物の成立要件には「デボワ説」(不分割) と「広義説」の2つが過去に存在し、1980年代までは司法の場でも判断が割れていた。しかし1990年以降はデボワ説に収束したと見られた[435]。法学者アンリ・デボワ (Henri Desbois, 1902-1985年) によると、「個々の作品の創作に寄与した者同士が相互に無関係であり、それらを集合した著作物全体の創作には関与していない場合」を集合著作物と定め、この要件を「不分割」(indivis) と呼んでいる[436]。さらに時代が下がると、集合著作物に企業が関与する事案について、法廷では「集合著作物の推定」法理が一部で採られるようになった[437]。この法理は、集合著作物の創作を発意・主導した者が、自らの名でその集合著作物を販売等していれば、この者が集合著作物の著作権を有していると推定できる、という判断基準である。したがってこの「集合著作物の推定」に則れば、集合著作物の著作権を主張する者は「不分割」の要件を法廷で立証する必要はない[438]。
- 通称「アレオ判決」
- 集合著作物に関する判例としては、1993年の破毀院判決 (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 24 mars 1993, 91-16.543、通称「アレオ判決」) が知られている[213][214][215]。プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏の都市ヴィルヌーヴ=ルベの観光局が、地域情報ガイド誌の編纂をアレオ社 (Aréo) に委託した。このガイド誌に収録された写真14点が、出版・広告業SMD社の販売していた絵葉書と同一であるとして、SMD社がアレオ社や観光局などを著作権侵害で提訴した事件である[216][217]。SMD社の従業員が個々の写真を創作していたものの、写真のネガは「不分割」の要件を満たしておらず、SMD社は法人として集合著作物の著作権を有していないとアレオ社は主張して控訴した。しかし破毀院は「集合著作物の推定」に則り、SMD社を集合著作物の著作者として認めている[216][217]。以降、複数の破毀院判決がアレオ判決に追随したことから、アレオ判決は判例上の実質的な転換点と見做されている[439]。しかしながら、アレオ判決の「集合著作物の推定」は有識者から強く批判されているとの見解もある[440]。
- 複数国にまたがる事件
- 2012年の破毀院判決 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 28 novembre 2012, 11-20.531) は、集合著作物の著作権と商標権侵害がマダガスカルとフランスの両国にまたがって問われた事件に関するものである。マダガスカルの企業Maki社が同国の産業財産権庁に商品デザインを商標登録した後に、Serisud社がMaki社の商標をフランスで登録したとして、MakiがSerisudを商標権侵害と不正競争防止法違反で提訴した。これに対抗して、Serisud側は著作権侵害と不正競争防止法違反で反訴した。問題となったデザインは "poissons jaunes" (黄色い魚) などと題した9点である。集合著作物の権利を定めた著作権法 L113-5条の解釈に関連し、フランス国外の裁判所に提訴済の事件であっても、フランス国内での裁判に影響を与えるものではないとした[441][214]。
データベース関連
[編集]- 英国競馬データベースに係る欧州司法裁判所判決
- データベースをスイ・ジェネリス権で保護する際の成立要件として挙げられる「実質的投資」について、欧州司法裁判所は2004年、英国競馬公社 (BHB) 対ウィリアムヒル事件 (British Horseracing Board v. William Hill Organization Ltd., Case C-203/02) で判示している[174][175][176](#判例にて詳述)。本事件であるが、原告BHBが出走馬やジョッキーといった競馬レースに関する詳細情報をデータベース化していた。被告のウィリアムヒルは大手ブックメーカー (賭け屋) であり、BHBのデータベースの情報を一部用いてオンラインの勝馬投票サービスを立ち上げたことから、権利侵害で提訴された[442][443]。競馬レースごとの出走馬をリスト化し、形式チェックしただけではスイ・ジェネリス権は認められないと判断された。データベースに掲載されるデータの信憑性まで踏み込んで担保し、その正確性をデータベース運用中にモニタリングしているかどうかが「実質的投資」の判断軸となる[175]。
- 通称「プレコム判決」
- 2004年の競馬データベース判決が出た後も、フランスの各裁判所ではデータベースの構築と、データベースのコンテンツ (個々の素材データ)を区別しない状況が続いたものの、2009年のフランス破毀院「プレコム判決」(Précom, Ouest France Multimedia c. Direct Annonces, Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 5 mars 2009, 07-19.734 07-19.735) でようやく欧州司法裁判所と同様の定義が支持されるようになった[177]。本事件は、不動産物件広告を掲載したデータベースをめぐる事案である[444]。原告プレコム社 (Précom) は新聞向けの不動産広告を取り扱っており、またウェスト・フランス社 (Ouest-France Multimédia) はオンライン新聞メディア企業である[178]。ウェスト・フランス社を始めとする他社ウェブサイトから不動産広告が抜粋され、不動産業者向けの掲示板サービス Direct Annonces 上に無断転載されたことから事件に発展した[178]。しかしプレコムはデータベースの「コンテンツ」(個々の素材) たる不動産広告の創作に投資したすぎず、スイ・ジェネリス権での保護対象に当たらないと破毀院は判示したことから、欧州司法裁判所の競馬データベース判決を踏襲したとみなされている[177][178]。
パロディ関連
[編集]保護期間関連
[編集]- 画家モネに対する戦時加算
- 著作権の保護期間を延長する戦時加算の規定に関する判例としては、2007年破毀院判決 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 27 février 2007, 04-12.138) が知られている[220]。本件では画家クロード・モネ (1840年11月14日 - 1926年12月5日) の作品を巡る複製権侵害の訴えであり、原告はモネの作品を管理するADAGP (美術品の著作権管理団体) である[220][223]。保護期間50年を満了してモネの作品はフランス国内ではいったんパブリックドメイン (公有) に帰していたものの、保護期間を50年から70年に延伸した1997年法によって権利復活している[222]。ここに戦時加算がさらに適用されるのかが問われることとなった[222]。フランスの1997年法は1993年のEU著作権指令 (93/98/EEC) に基づいており、当指令の条文には「1995年7月1日の時点で70年より長い保護期間がすでに起算されていた場合には、当該期間が唯一適用される」とある[222][220]。破毀院は、が1995年7月1日時点で70年より長い保護期間の権利を有していなかったとして、戦時加算申立を棄却している[222][220][223]。
権利譲渡関連
[編集]- ネスレのミネラルウォーター「ヴィッテル」の写真
- 著作財産権の譲渡契約の不備が著作権侵害に発展した事件としては、2006年の破毀院判決が知られている (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 12 juillet 2006, 05-15.472)[153]。本事件は、フランスの小都市で名水の地として知られるヴィッテルを撮影したフリーランスの写真家が、その写真の権利を市に譲渡したことに端を発する。その譲渡契約上で「時間、地域、利用方法・形式に一切の制限を設けない」とする包括的で曖昧な文言が用いられていたことが問題となった。市はこの写真を広告代理店に提供し、広告代理店がミネラルウォーターの「ヴィッテル」にこの写真を採用した。「ヴィッテル」ブランドを有していたペリエ社はその後、食品・飲料大手ネスレ社に買収されたことから、写真家がネスレによる写真利用を著作権侵害で提訴している。上述の通り、フランス著作権法では著作財産権の譲渡にあたって利用目的などを明確化することを求めており、写真家と市の間で締結された譲渡契約は無効と破毀院で判断された[153]。
著作隣接権関連
[編集]- 実演家の定義解釈を巡る事件
- 著作隣接権で権利保護される実演家から「補助的な実演家は除く」(exclusion de l'artiste de complément) とL212-1条で定義されていることから、「補助的な」の文言解釈を巡って法廷で争われた (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1999, 97-40.572)[446][157]。本事件では、イギリスの歌手スティングの楽曲『ラシアンズ』(原題: "Russians"、アルバム『ブルー・タートルの夢』収録曲) のミュージックビデオ出演者に著作者隣接権があるのかが問われた。破毀院は1999年、原審を破毀して原告に著作者隣接権を認めている。破毀院の示した解釈によると、条文上での "complément" の文言は「言われなければ気づかないような軽微な」(仏: subtilité、英: subtle) の意味であり、本事件の出演者は「軽微」な演者ではないと判定された[157]。「補助的な実演家」は著作隣接権が初めて条文上で明文化された1985年法の時代から存在する文言だが、当時より「端役」を包含するとの識者解釈がある[447]。労働法典 L762-1条では実演家との労働契約および報酬について規定しており、補助的な実演家も含めて権利を認めていることから、著作権法L212-1条との間で定義の法的矛盾が指摘されてきた[447]。
- 同日1999年7月6日には破毀院で類似の判決がもう1件下されている (Cour de Cassation, Chambre civile 1, du 6 juillet 1999, 96-43.749)。本事件では、広告映像の出演者に関する著作者隣接権が問われた。助演であっても作品に対して創作性を発揮して個人の人格が反映された寄与があれば、たとえ出演時間が短かったとしても実演家としての著作隣接権が認められると判示された[157]。
- 一方、アメリカのテレビ番組『Temptation Island』のフランス版『L'Île de la tentation』に出演した53名による訴訟事件 (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 24 avril 2013, 11-19.091 等)[注 88] では、出演者に著作隣接権が認められなかった。当テレビ番組は4人の未婚カップルが楽園の島に隔離されて12日間を過ごし、貞操観念が試されるリアリティ番組である。破毀院は2013年、脚本 (著作権が認められる著作物) があって、それを演技で実演しているわけではない事実に加え、出演時に「雇用契約」を締結していることから、原告53名を実演家ではなく従業員と判断した[157]。
拡大集中許諾制度関連
[編集]- 絶版書籍のデジタル再頒布制度
- 絶版書籍は有料市場向けに新規発行されていないだけで、著作権を放棄したわけではない。20世紀以前の絶版書籍のデジタル再頒布を半ば強制する2012年3月1日法は、フランス人権宣言で保障された所有権の侵害ではないかとして、憲法院 (違憲審査権を有する司法機関で、最高裁から独立) で審理されることとなった[249]。しかし、憲法院は2014年2月28日、合憲の判断を下している (Constitutional Court, 28 February 2014, No. 2013-370 QPC)[249]。識者からは、世界で一般的な拡大集中許諾制度を超えてフランスでは著作権管理団体に管轄権を与えすぎているとの懸念も示されており、特にオプトアウトの実効性が疑問視されている[251]。オプトアウトの仕組み自体は提供されているものの、フランス国立図書館が一覧化した20世紀以前の絶版書籍が約99,000冊なのに対し、実際にオプトアウトを行使したのは約2,500件に留まっているとの統計データもある (2013年時点)[448]。また、EU著作権指令の一つである2001年の情報社会指令 (2001/29/EC) の条文解釈にも影響がおよぶ可能性があることから、欧州司法裁判所でも審理された (Marc Soulier and Sara Doke v. Premier ministre and Ministre de la Culture et de la Communication, Case C-301/15, ECLI:EU:C:2016:878)[449]。特に欧州司法裁判所で問われたのは情報社会指令の 2(a) 条 (著作者の複製権) および 3(1) 条 (著作者の公衆伝達権) であり、以下の2点が懸念材料であった。1点目は、オプトアプトが行使されない限り、絶版書籍の著作権者は再頒布を許諾したと見なされる点について、十分な事前周知がなされていないことにある。2点目は、オプトアウトの行使を試みる者は、他に著作権者がいないことを証明しなければならない点である[449]。ところが2019年成立のDSM著作権指令では、8(1) 条、8(4) 条、および10条で著作権管理団体への絶版著作物の利用許諾をより円滑に実現可能にする条項が含まれており、上記2点の懸念事項は払拭されている。[450]。
DSM著作権指令関連
[編集]- Googleに対する制裁
- フランスの競争委員会 (日本の公正取引委員会に相当する独立行政機関) は人工知能 (AI) のBard (現: Gemini) を開発・所有するGoogle社と親会社のアルファベット社などに対し、多額の制裁金を複数回に亘って科している[163][164][165]。
- 根拠となっているのは、2019年にEUで成立したDSM著作権指令である[163][164][165]。当指令では、いわゆるニュースアグリゲーターに対して公正な報酬を報道元に支払うよう規定している[451]。ニュースアグリゲーターとは、通信社や新聞社といった他社報道メディアが個々に発信したニュースを一か所のサイトにまとめて再発信するオンライン・サービスである[451]。ニュース記事閲覧ユーザの多くはニュースアグリゲーターの先の報道元に遡ってアクセスしないことから[452]、報道元やその先の記事執筆記者は利益を得る機会を逸しており、ニュースアグリゲーターによるタダ乗り状態が発生していたことが、DSM著作権指令による規制につながった。指令制定時、Google ニュースはYouTubeと並んで欧州議会から名指しで非難されている[453]。当EU指令を受けて、フランスでも2019年7月24日法 (法令番号:2019-775)、通称「プレス隣接権法」を成立させて国内法化しており、著作権法 L218-1からL218-5条を追加して、報道元への適正な報酬支払を義務付けている[155]。
- ところがGoogleの人工知能Bardは無断で他社報道メディアの記事を収集して学習に使用しており、かつこうした報道メディアに適切なオプトアウト (収集拒否) の選択肢を提示していなかったことから問題視された。これに基づき、競争委員会はGoogleに制裁金を科したのである[163][164][165]。時系列で辿ると、まずフランスのSEPM (雑誌出版社協会)、AIPG (新聞社協会全国連合) および世界三大通信社の一角AFPからの懸念表明を受け[454][455]、競争委員会は2020年4月に強制命令 (Decision 20-MC) を出した[454][164]。しかしこれにGoogle側が従わなかったことから2021年7月に5億ユーロ (約820億円) の制裁金を科している (Decision 21-D-17)[163][164][456]。2022年6月には競争委員会とGoogle間で和解に達し (Decision 22-D-13)、Googleが通信社や新聞社といった報道メディア各社と交渉の上、適正な報酬を支払う改善措置が盛り込まれていた。ところがその後もGoogle側に改善が見られなかったことから、2024年3月には2度目となる2億5,000万ユーロ (日本円で約410億円) の制裁金を競争委員会が科したのである[163][164]。
- なお、フランスでは1985年法で初めて著作隣接権を条文上で明文化しているが[389]、それ以前から不正競争の理論に基づいて著作隣接者の権利を保護する判例も存在した[457]。今回の競争委員会による制裁も、EU機能条約の第102条と、競争法を収めたフランス商法典のL420-2条 (支配的地位の濫用禁止) を根拠にしたものである[458]。Googleの検索市場におけるシェアは9割を超えて寡占状態であり、かつ他社の参入障壁も高いことを理由に、不正競争に該当すると判断された[458]。
準拠法関連
[編集]- ABCニュース
- 著作権の国際準拠法を巡る事件としては、2013年の破毀院判決が知られている (Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 10 avril 2013, 11-12.508)[459]。報道カメラマンとして米国メディアABCニュースに雇用されていた人物が、1993年より同社フランスオフィスに駐在となり、2004年に経営上の理由から解雇された。その後、自身のレポートやドキュメンタリー作品を不法に社に利用されたとして、著作財産権および著作者人格権侵害でフランスの労働裁判所に提訴した[460]。パリ控訴院は2010年12月10日、著作権法の基本条約であるベルヌ条約の第5条(2)を「著作物の創作された本国によって準拠法が決まる」と解したことから、米国著作権法で著作権者を定めた第201条 (a) および (b) 項が本件に適用されると判断した[460] (この考え方を「本源国法説」と呼ぶ[461])。米国著作権法 第201条 (a) および (b) 項では、当事者間で特段の取り決めがない限りは職務著作が認められると規定されている[460]。しかし2013年4月10日、破毀院はパリ控訴院の判決を破毀し、著作物を利用して利益を得る地域によって準拠法が決まると判示した[462] (この考え方を属地主義に基づく「保護国法説」と呼ぶ[463])。
関連項目
[編集]- 著作権 - 世界各国の総説
- 著作権法 (欧州連合)
- その他各国の著作権法
注釈
[編集]- ^ フランスの著作権は伝統的には La propriété littéraire et artistique (直訳: 文学的および芸術的所有権) と呼ばれていたが、著作物の対象が拡大したこと、また著作者本人だけでなく著作隣接権者にまで保護対象が拡大したことを受け、現在は使用頻度が下がり、Les droits d'auteur et les droits voisins du droit d'auteur en France (意訳:著作者および著作隣接権者に関する権利) が一般的である[2]。著作者本人の権利は1957年3月11日法、著作者隣接権は1985年7月3日法が著作権法として存在し、これらは産業財産権と共に1992年にCode de la propriété intellectuelle (知的財産法典) として法典化された[3]。
- ^ 2024年10月時点で170ヶ国以上が加盟[9]。
- ^ 条数の前に付された "L" の文字は "Législation" の略語で、立法府で成立した法律を表す。"R" の文字は "Règlement" (英語の"Regulation"に相当) の略語で、大臣または政府機関が発する「規則」を表す。また、立法府が政府に権限移譲して制定されるオルドナンス (Ordonnance、英語の "Ordinance" に相当) や、首相が規則の一部であるデクレ (Décret) をそれぞれ発することがある[16]。例えば2019年にEUで成立したデジタル単一市場における著作権に関する指令 (2019/790/EU) に基づき、フランスでは2021年5月12日にオルドナンス 第2021-580号が発せられて国内法化した[17]:はしがき。各種用語の日本語訳は、公益社団法人著作権情報センターの2023年2月発行・改訂版の表記[17]を一部参照している。
- ^ a b フランス著作権法に詳しい弁護士・井奈波はフランスの著作者人格権を4つに分類し、その1つを「尊重権」(le droit au respect de l'œuvre、英訳: the right of respect for the works) と呼んでいるが[18]、著作権法の米仏比較を行った法学者Peelerは「同一性保持権」(droit a l'intégrité、英訳: the right of integrity) と呼んでいる[21]。フランス経済・財務省のウェブサイト上でも「尊重権」の用語が用いた上で、respect de son intégrité (英訳: respect for integrity、同一性保持) とrespect de son esprit (英訳: respect for the author's spirit、著者の意思尊重) の2つを包含すると定義していることから[22]、本項では「尊重権」の表記を採用した。また、知的財産法典に収録前の旧法をベースに執筆されたフランスの著作権法学者Colombetは著作者人格権を「公表権」[23]、「氏名尊重権」[23]および「著作物尊重権」[24]と分類した上で、著作物尊重権は著作物が過度に変形されて公表されるのを著作者が阻むことができる権利であると位置づけている[24]。なお、日本の著作権法上では「同一性保持権」とは別に「名誉声望保持権」が著作者人格権の支分権の一つに挙げられており、たとえ無断で著作物を改変しなくとも、著作者の人格を傷つけるような著作物の利用方法 (例: 名画を風俗店の看板に利用する) を禁じている[25]。
- ^ a b 一方、日本の著作権法では第27条で翻案権が定められており、著作物をそのままの表現形態で利用する複製権とは別個の概念として捉えられている[30]。アメリカ合衆国連邦著作権法 第106条でも、複製権と翻案権は別個の権利として定義されている。
- ^ ラテン語のスイ・ジェネリス (Sui generis) とは、「他の分類に属しない、それ単体でユニークな」の意味であり、法学以外でも広く一般的に用いられる用語である[37]。著作権法においては、著作者本人の権利ないし著作隣接権に属しない権利として、スイ・ジェネリス権の表現が用いられ、特にEU著作権法においてはスイ・ジェネリス・データベース権 (英: Sui generis database right) を指すことが多い[36]。
- ^ a b c d e f g 英語: Originalityは一般的な日本語訳として「独創性」や「斬新さ」が充てられるが[40][41]、各国の法律では、発明といった新規性は特許法などで審査・保護されており、著作権法上では絶対的な新規性の有無は問われない。偶然にも著作物の表現が似通ってしまったとしても、Originalityはあるとして著作権保護される[42](詳細は「アイディア・表現二分論も参照」)。
- ^ 欧州連合 (EU) では、1996年にデータベース指令 (96/9/EC指令) が成立してデータベースの著作権保護を規定しており、これに基づいてフランスでも1998年7月1日法 (法令番号: 98-536) を成立させて国内法化している[39]。EUではデータベースを「内容物」(コンテンツ) と「データ構造」に分類の上、前者はスイ・ジェネリス権で、後者は著作権本体でそれぞれ別個に保護すると定めており、スイ・ジェネリス・データベース権の保護期間は15年である[38][39]。著作権本体で保護されるには、知的な「創作性」が要件として求められる一方[注 7]、スイ・ジェネリス・データベース権は保護に値するだけの「実質的投資」(英: substantial investment) があるかが問われる[39]。またフランスでは (著作権の文脈とはやや逸脱するが)、既に1978年には情報処理及び自由に関する国家委員会 (略称: CNIL) が独立行政機関として設立されており、データベースに収録されている個人情報の不正アクセスを取り締まる体制が整っていた[39][43]。
- ^ 二元論を採用する代表国としてフランスが、一元論としてドイツが挙げられる。両者の違いであるが、二元論に基づくフランスでは、著作財産権は譲渡が可能であり、また市場の現実に即して著作財産権の保護期間に上限を設けている。一方のドイツは、著作者人格権と著作財産権の差異が少なく、たとえば著作財産権も譲渡不可能であり、死後も永続すると考えられている[44]。
- ^ 著作者人格権の概念がフランス法廷で問われるようになったのは19世紀に入ってからであり[46]、18世紀後半のフランス革命を経て制定された当初のフランス著作権法は著作財産権の保護が中心であった[47]。したがって、当初から著作者人格権の重要性が意識されていたわけではない。
- ^ フランス共和国憲法に直接の規定はないものの、第14条で保障されている一般的な所有権の概念に知的財産権も含まれていると解されている[50]。
- ^ 人格理論についてはドイツの法哲学者ヘーゲルを、労働理論についてはイギリスの哲学者ロックの政府二論を下敷きにしている[51][52]。著作権を一般的な所有権と別概念だとする捉え方が古法時代にはあり[53]、また中間報時代以降も下級裁判所で同様の見解が示されていたが、最高裁にあたる破毀院はこれを覆し、著作権を自然権の一部と捉え、著作権は一般的な所有権と同等の重要性をもって保護されると示した[54]。また、著作者個人の権利・利益と著作物を利用する一般社会の公益との間でバランスをとりつつも、一定の条件下では著作者個人の権利が優先されるとも破毀院は示している[55]。
- ^ たとえば同じ大陸法系の日本では、著作者人格権を含む一般的な人格権は相続の対象にならず、すなわち本人死亡で消滅するとされている (b:民法第896条 但書)。
- ^ 2024年現在、世界80か国以上が追及権を法的に保障しているが[64]、これはフランスが1920年5月20日法を成立させて初導入したものである[62][65]。美術取引市場の大きいアメリカ合衆国の連邦法 (2024年現在[62]) や日本 (2018年現在[66]) では未導入である。ただし、米国著作権法には州法も一部存在しており、カリフォルニア州が民法典 第986条で追及権を認めている個別ケースがある[67]。しかし2018年、第9巡回区控訴裁判所は当該州法が連邦著作権法に違反しており、無効との判決を下している[68]。
- ^ a b c エッフェル塔のライトアップの著作物性を問う1992年の破毀院 (フランス最高裁) 判決は、Cour de cassation, Chambre civile 1, du 3 mars 1992, 90-18.081を原文参照のこと。判決文によると、エッフェル塔建造100周年記念行事でエッフェル塔がライトアップされ、その風景を写真に収めた者が絵葉書にして販売したことから、事件へと発展した。エッフェル塔の公式ホームページ上では、夜間撮影であっても私的目的であればSNS上でのシェアも問題ないとしている。その上で、プロによる撮影時はエッフェル塔管理者からの事前許諾取得が必要としている[70]。
- ^ 香水にも著作権を認めた判例があるとして、フランス著作権法の特徴として挙げられたことも過去にあったが[71]、21世紀に入ってからフランスの最高裁に当たる破毀院で香水の著作権保護を否定する判決が相次いでおり、有識者や下級裁判所から批判されている[72][73]。
- ^ たとえば米国著作権法は第106A条で著作者人格権の対象を視覚美術作品 (visual art) に限定しており[74]、第101条の定義によると、視覚美術作品の対象から応用美術が除外されている[75]。日本では、応用美術は意匠法で保護されるが、さらに著作権法でも二重に保護されるのかは司法判断が分かれている[76]。
- ^ a b c 下級裁判所では、労働契約のみをもって雇用主に著作権が譲渡されるとみなした判決が多数あり、これを「黙示の譲渡の理論」とも呼ぶ。しかし「黙示の譲渡の理論」は最高裁たる破毀院で否定され続けている[81]。
- ^ a b c d 通称HADOPI法とは、HADOPI 1法(法令番号: 2009-669)とHADOPI 2法(法令番号: 2009-1311) の総称。
- ^ DADVSIやHADOPI法の前提となった欧州連合の著作権法に関する指令のデジタル消尽に関する規定に関連し、欧州司法裁判所 (CJEU) はUsedSoft事件やTom Kabinet事件などの裁定を下している[83][84]。UsedSoft事件は2012年7月3日のCJEU判決「Case C-128/11 UsedSoft v Oracle」[85]を、Tom Kabinet事件は2019年12月19日のCJEU判決「Case C-263/18 Nederlands Uitgeversverbond and Groep Algemene Uitgevers v Tom Kabinet Internet BV and Others」[86]を参照のこと。
- ^ その後1971年に採択された第6回パリ改正版が最新[89]
- ^ 1971年のパリ改正版加盟国を記載[9]。
- ^ WTOに加盟すると自動的にTRIPS協定の遵守義務を負う[94]。
- ^ フランスは1999年に批准してから施行まで10年以上開いているが、EU加盟国の施行日が一律で2010年3月4日である[97]。
- ^ 著作財産権のうち、映画などの固定著作物については、複製権・頒布権・貸与権・公表権の4種を、ライブ実演などの未固定著作物については、公衆送信権、公表権、および著作物の固定化の3種を認めており、固定と未固定で対応が異なる[105]。
- ^ 公表権については、1928年のローマ改正の際に追加が提案されるも実現していない[109]。
- ^ 著作権法上で「利用」と「使用」の用語は異なる意味合いを持つ。著作物を使う行為のうち、著作権者に独占が許されており、つまり著作権者に利権が発生していることから、第三者が無断で使えない領域は「利用」である。一方の「使用」は、たとえば小説本や音楽CDの購入者が、これらを鑑賞する行為などが含まれる[132]。著作権者の独占はおよばないため、著作権者である小説家や作曲家が、購入者の「使用」方法を指図したり制限することはできない。
- ^ 用途指定権を認めた判例としては、1988年の破毀院判決 (Cass. civ. 1, 22 March 1988, 85-16063) が知られている。本件は、ナイトクラブが楽曲を無断複製したことから、音楽に関する著作権管理団体のSACEMが著作権侵害で訴えた事件である。破毀院は複製には事前の許諾が必要とされ、また追加ロイヤリティを支払うよう命じている[146]。
- ^ 著作権法 L212-3条は過去に労働法典L762-1条およびL762-2条を参照していたが、労働法典の改正によりこれらの条項は廃止 (abrogé) されている。2024年10月時点の著作権法 L212-3条では、労働法典 L7121-2条からL7121-4条、およびL7121-6条、 L7121-7条、L7121-8条を参照している。詳細はレジフランスのページ上部に掲載されている変更履歴を確認のこと。
- ^ ADAMI、SPEDIDAMともに音楽および映像関連の実演家の権利を対象としている。ADAMIは音楽産業で働くダンサーや歌手、指揮者などを対象としており、特に作品のクレジットに氏名表示される主役級が権利委託をしている。一方のSPEDIDAMは、ADAMIの主たる対象から外れる主役級以外の権利を管理している[158]。
- ^ L112条-2は著作者本人の権利対象物について規定している。音楽レコードについては、狭義の著作権ではなく、著作隣接権で別途保護されるため、L112条-2の対象外である[179]。
- ^ スポーツのテレビ中継も、例えば競馬の実況音声や映像などは創作性[注 7]が認められれば著作権保護の対象となると解されている。欧州司法裁判所の判決 (Tiercé Ladbroke SA v. Comm'n of the European Cmtys., Case T-504/93) も参照のこと[181]。
- ^ 建築物そのものだけでなく、建築の設計図やスケッチなども著作権保護の対象となるものの、これらの建築書類は「創作性」[注 7]の要件がより厳格に適用される傾向にある。最高裁にあたる破毀院では構造計算など、論理的に導き出される建築のグラフィック・デザインや都市計画の著作権保護を否定した判決も存在する[182]。
- ^ 撮影しているのは機械としてのカメラではあるが、フレーミングや明暗、カメラのスペック選定などが写真家の創作性[注 7]を反映しているため、写真著作物も著作権保護の対象となる[183]。
- ^ デザインが審美的な目的か実用的な目的かは問われない。しかし、他の著作物には要求されない「新規性」が応用美術著作物の保護には必要とされる点に注意が必要である[180]。
- ^ 科学・技術に関する文書については、著作者独自の言葉選びがあるかが法的保護の要件となっている[184]。
- ^ フランス語の "logiciel" は日本語では「ソフトウェア」と訳されるが、その概念は広い。コンピュータ・プログラムとその手順の総称であると解されていることから、設計文書も包含する[130]。
- ^ E.C. Design Protection Directive (1993年のデザイン保護指令) に基づき、イタリアは著作権法を改正しており、第2条 (4) を廃止している[189]。
- ^ イギリスについては米国に類似点もあるものの、ハイブリッド型のアプローチをとっている。デザインと機能性が物理的に分離可能であれば、米国同様に著作権保護の対象内としているが、米国と異なり、イギリスでは概念的に分離可能な場合は保護対象外としている[190]。
- ^ EUでは、加盟国すべてに通用する商標登録制度である欧州連合商標 (略称: EUTM、旧称: 欧州共同体商標 (CTM)) がある。登録先はスペインにある欧州連合知的財産庁 (略称: EUIPO、旧称: 共同体商標意匠庁 (OHIM)) である。したがって、フランスのみで通用する国内商標登録以外に、EU全域での一括商標登録の方法も選択できる[195]。
- ^ バンクシーの作品の一部をイギリスの絵葉書メーカー Full Colour Black社が無断使用したことから、バンクシーは商標権登録してこれを阻止しようと試みた。しかし欧州連合知的財産庁 (EUIPO) が登録申請を却下している。EUIPOは「自作であると正体を明かせば著作権法で保護されるが、それを回避すべく代わりに商標制度を用いることはできない」と述べている。これを受けてバンクシーは商標および著作権法を皮肉る意図で "Copyright is for Losers©™" と著作の中で語っている[197]。
- ^ プレス出版社・通信社の著作隣接権がフランスで定められる理由となった2019年のDSM著作権指令では、法案策定時には20年としていたが、成立した改正案で2年に大幅短縮されている[226]。フランス著作権法でも2年としている[161]。
- ^ 「当該分野の決まり」は一般的には (1) 元ネタ作品との混同のおそれの有無、および (2) 元ネタの著作者に対する中傷の有無の2点を要件として挙げられる (2010年時点の考察)[233]。ただし漫画『タンタンの冒険』シリーズに関する2011年パリ控訴院判決では、(1) ユーモアの有無、および (2) 混同のおそれの有無の2点を用いているなど[234]、定義が曖昧である。欧州司法裁判所の2014年「デックメイン判決」を受けて、フランス国内でもパロディの定義や法的保護の要件解釈に変化が生じたとの分析もある[235]。
- ^ 2004年のLCENはその後、2011年3月14日法 (法令番号: 2011-267、通称「LOPPSI 2法」)、2014年11月13日法 (法令番号: 2014-1353) および 2016年6月3日法 (法令番号: 2016-731) で部分改正されている[263]。
- ^ Arcomは「視聴覚・デジタル伝達規制局」[268]のほか、「視聴覚とデジタルコミュニケーション規制機関」[269][270]や「視聴覚・デジタル通信規制当局」[271]などの日本語訳が複数存在する。
- ^ レジフランスの条文変更履歴によると、著作権法 L335条-7-1はHADOPIからArcomへの組織改編を規定した2021年10月25日法 (法令番号: 2021-1382) によって改正されている[276]。
- ^ 2012年の平均為替レートは、1ユーロ=102.66円である[284]。このレートに基づき、日本円換算を併記した。
- ^ 原語のprivilègeは日本語で「特権許可状」のほか、「特権」、「特認」、「出版権」、「出版允許」などと訳され、学者や辞書の間で定訳はない[295]。
- ^ 世界初の特権許可状は、1495年にベネチア元老院によって発行されており[296]、その対象物はアリストテレスの出版物、特権許可状を与えた先は印刷業者のアルドス家である[297]。
- ^ フランス初の特権許可状の発行年は、1498年説[298]、1500年説[296]、および1507年説[2]がある。
- ^ 16世紀頃のイギリスでも同様に、国王によって書籍業者に出版免許が与えられ、書籍業者を通じて国王が検閲を行っていた[301]。
- ^ ただし『オード』の著者として知られる詩人のピエール・ド・ロンサール (1524年 - 1585年) など、著名な著作者に対しては特権許可状が与えられたケースも一部存在する[299]。この傾向は17世紀に入ってからも続き、著作者に対して特権許可状が与えられるのはごく一部の例外に限られていた[302]。
- ^ これに伴い、印刷業者や書籍商も、パリ大学構内に居住することが義務付けられていた[305]。
- ^ 当時、欧州で最も印刷業が盛んだったのはイタリアのベネチアである[307]。
- ^ しかし実態は、書籍商に特権許可状の権利を譲渡しなければ、著作者は書籍商との契約を打ち切られ、他の著作者に声がかかってしまう苦しい立場にあった[312]。
- ^ 1653年の喜劇『ライバル』を執筆したフィリップ・キノとコメディアン (俳優) の間で、劇場収入がレベニューシェアされていた記録が残っている[313]。
- ^ コメディ・フランセーズの協定は劇場「収入」ではなく「利益」の一部還元である。つまり、劇場チケット売上 (収入) が好調であっても、諸経費がかさんでしまえば、残った利益はわずかとなるため、著作者の元に入っている金額は少額となる。さらに計算の基礎となる劇場収入も窓口販売のみの金額であり、劇場総収入の多くを占めていたボックス席や、年間予約料は含まれていなかった[314]。
- ^ たとえば、人気劇作家であり、社会弱者を支援する活動を国をまたいで展開していたことでも知られるボーマルシェは、『セビリアの理髪師』の上演使用料の条件や算出方法が不当であるとして、1775年にコメディ・フランセーズに対して条件拒否と明細提示を求めて抗議している[315]。
- ^ またボーマルシェは、演劇法立法促進事務局創設の翌年1778年には『フィガロの結婚』を完成させ、3年後にコメディアンに納入したものの、ルイ16世によって上演が禁じられ、ボーマルシェは4日間バスティーユ牢獄に投獄されている。『フィガロの結婚』の上演が実現されたのは、6年後である[316]。
- ^ 楽譜を出版する印刷業者や書籍商「全般」ではなく、出版の独占権や上演する演目をコントロールしていた王立音楽アカデミーに当初は音楽の特権許可状が与えられていたとの記述もある[320]。
- ^ 一般的に美術分野で活躍するものは「職人」とみなされており、14世紀以降、直接の勅許を受けた者以外は組合への加入が求められるようになった[320]。
- ^ 1710年のイギリス・アン法が世界初の本格的な著作権法であり、この流れを組む形でアメリカ連邦著作権法が1790年に成立している[329]。さらにアン法と1790年の米国著作権法をモデルにして、フランスの1793年法が制定されたとの見解もある一方[330]、フランスはイギリスに次ぐ、世界2番目の著作権制度整備国であるとの見解もある[327]。
- ^ 当法律の制定された同年、著作者に代わって使用料を徴収する委託管理事務所 (現代の著作権管理団体) が劇作家のフラムリによって開設されたほか[334]、1798年にはフィエット・ロロがフラムリの事務所から独立しており、徴収手数料として2%を課金していた記録が残っている[335]。
- ^ 1791年法が劇場著作物を、1793年法が劇場著作物以外を保護規定する併存の関係にあり、1793年法は1791年法を改廃 (上書き) したわけではない[227]。
- ^ たとえば1801年にオペラ座で上演されたモーツァルトの『魔笛』は、題名も変えられ、台本もオリジナルから大幅に改変され、楽曲も組み換えられている[351]。
- ^ なお、19世紀中頃は欧州全体が経済不況と凶作にあえいだ時代である。参考までに、マルクスの『共産党宣言』が発表されたのが1848年2月である[355]。参考までに、同時期の米国でも1837年恐慌と連動して著作物の海賊版が横行したことから、米国内でも著作権保護の改正議論が展開されている[356]。
- ^ ただし、戯曲の分野では既にフランス革命前の1777年に現代の劇作家作曲家協会 (SACD) に相当する著作権管理団体が立ち上がって著作権管理業務を代行していたのに対し[291][280]、SGDLは文芸作家個人の集まりの側面が強かったと言われている[357]。
- ^ 貢献者として、文豪ヴィクトル・ユーゴー (大衆からの人気を背景に、1841年から1851年に第二共和政の議員、1871年からは国民議会議員を務めた)、サルバンディ (著作権法立法委員会で活躍し、文部大臣および文芸家協会会員)、ビルマン (文部大臣および文芸家協会初代会長)、ラ・マルチェーヌ (上院議員、『瞑想詩集』作者) などが挙げられる[362]。
- ^ サルジニア (1843年)、イギリス (1851年)、ポルトガル (1851, 1866年)、ハノーバー (1851年)、ベルギー (1852, 1861, 1880年)、スペイン (1853, 1880年)、オランダ (1855, 1858年)、ドイツ (1883年)、スイス (1864年)、オーストリア (1866, 1885年)、デンマーク (1858, 1866年)、イタリア (1862, 1869年) とそれぞれ二国間条約を締結している[363]。
- ^ フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、デンマーク、スペイン、米国、スイス、ベルギー、オランダ、イタリア、ロシア、ポルトガル、スウェーデン、ノルウェーの15ヶ国から出席している。81の学会、計441名とする資料と[366]、300名以上とする資料[367][368]がある。
- ^ 国際文芸協会は、1879年にロンドン、1880年にリスボン、1881年にウィーン、1882年にローマで会合を開いている[368]。当時のベルヌには、万国工業所有権保護同盟、万国郵便連盟、国際電気通信連合の事務所があったことから、著作権保護の同盟組織もベルヌに構えることが会合で協議された[366]。
- ^ 出席国はフランス、ドイツ、イギリス、イタリア、ルクセンブルク、エルサルバドル共和国、スウェーデン、ノルウェー、オーストリア、ハンガリー、ベルギー、コスタリカ、ハイチ、パラグアイ、オランダの15ヶ国である[369]
- ^ 第1回出席国からオーストリア、ハンガリー、エルサルバドルが脱落したが、代わりに米国、スペイン、ホンジュラス、チュニジアが第2回に出席している[370]。
- ^ 第3回は1886年9月6日から9日に開催され、フランス、ドイツ、ベルギー、スペイン、イギリス、アイルランド、ハイチ、イタリア、リベリア、スイス、チュニジアが出席した他、米国と日本も傍聴者として出席。21か条からなるベルヌ条約に日本、米国、アイルランドを除く10か国が調印した。さらに署名国のうち、リベリアとハイチ以外が批准したことから、翌年1887年12月7日に発効している[370]。
- ^ ロシアをベルヌ条約の枠組に取り入れようと何度も試みたが、失敗に終わっている。当時のロシアは、多国間条約であるベルヌ条約だけでなく、文学的所有権に関するすべての条約を排除していた[371]。
- ^ 蓄音機の概念は既に1855年に考案され、エジソンが蓄音機の実用化に成功し、1877年に初の蓄音機が誕生している。1898年にドイツのグラマフォン、1892年にアメリカのコロンビアとビクターが設立されている[372]。第一次世界大戦 (1914-18年) 後には、レコードのブームが到来した[373]。
- ^ 1905年2月1日、パリ控訴院の判決により、1866年法はレコードには適用されないことが判示され、レコード録音権を初めて認めた判例として知られる。オルゴールは楽曲だけだったのに対し、レコードは歌詞を伴った楽曲または楽曲を伴わない歌詞が多数録音されていたため、オルゴールとレコード (楽曲のみは除く) は異なるものだという区別をした[377]。なお、これに先立って1904年7月13日にはブラッセル第一審裁判所が、著作者にレコード複製権があると認める判決を出していることから、1905年パリ控訴院もこれを参照したと考えられている[378]。
- ^ 世界初の音楽演奏権協会であるSACEMが1851年創設され、SACEMが音楽録音権の協会であるSDRMを1935年に創設している[292]。
- ^ しかし美術家の不遇を嘆いていたのは、もっと前の時代のルイ16世である。1780年にルイ16世は、ある画家の死後に作品の売買価格が高騰したにもかかわらず、遺族に何ら還元されないことを憂いて、遺憾の意を表明したことから、ルイ16世を「追及権の父」と呼ぶ専門家もいる[381]。また、追及権の概念を最初に提唱したのは、フランス人弁護士のアルベール・ボノワであり、1893年2月15日に論文を発表している[382]。
- ^ 一般的に英米法の国では著作者人格権の保護水準が低く、著作物の財産的価値を中心とした保護を行っている。米国連邦著作権法でも追及権は認められていない。しかしカリフォルニア州民法典 第986条のように、連邦著作権法で保護されない権利を拡大保護し、美術品の追及権を認めているケースがある。同州で転売取引が行われるか、または売主が同州住民の場合、転売価格の5%が著作権者に還元されると規定されている[67]。
- ^ 2024年10月現在、追及権の保護期間は死後70年間であり (L123-7条)、制定当初から延伸している。
- ^ フランスでは著作者人格権の概念が法廷上で登場し始めたのは19世紀である。しかしながら、著作権法の条文上で別名ながら著作者人格権が明文化されたのは、1957年3月11日法の第6条が初である。そして現在の用語で記されるようになったのは、1992年法時である[52]。
- ^ もっとも1957年に成文化される前にも、歴史的人物の事典に関する通称「ディド事件」を通じ、19世紀半ばには判例法上で集合著作物の概念は既に定着化していた[386]。
- ^ 追及権はフランス語で Droit de Suite (英訳するとRight to Followの意) と呼ばれていることから、2001/84/EC指令を追及権指令と訳す専門家が多い。追及権に詳しい早稲田大学・小川明子[401]や、フランス著作権法全般に詳しい弁護士・井奈波朋子[227]などに使用例が認められる。一方、EU官報で公示された正式名称には英語で Resale Right が使われており[139]、これを直訳すると再販権指令となる。
- ^ 1777年に設立された演劇法立法促進事務局 (Bureau de législation dramatique) が世界初の著作権集中管理団体と言われており[290][280]、当組織は後の劇作家作曲家協会 (SACD) として継承されている[291][280]。
- ^ 2004年4月末時点で、国内法化の期限内導入完了率は旧EU15か国中、フランスが最下位となっている。また新たに10か国を加えた拡大25か国で見ても、2004年5月末時点でフランスは17位となっている[414]。
- ^ 当判例を紹介したColombetの1990年訳書では「リュトティア・ホテル」のカタカナ表記が使われているが[138]、観光業では「ホテル・ルテシア」が一般的である。
- ^ 訴訟事件の正式名は "Cour de cassation, civile, Chambre civile 1, 24 avril 2013, 11-19.091 11-19.092 11-19.096 11-19.097 11-19.099 11-19.100 11-19.101 11-19.109 11-19.110 11-19.111 11-19.112 11-19.113 11-19.114 11-19.115 11-19.123 11-19.124 11-19.128 11-19.129 11-19.130 11-19" である。53名の訴訟が破毀院で一括で扱われている。
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引用文献
[編集]- 主要文献 (50音・アルファベット順)
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- 井奈波朋子「フランス著作権制度の概要とコンテンツの法的保護」(PDF)一般社団法人 デジタルコンテンツ協会が2005年11月24日に開催したセミナー議事録の加筆版、龍村法律事務所、2006年。 -- 著者はフランス知的財産法専門弁護士、国際著作権法学会および日仏法学会会員
- 井奈波朋子「フランスにおける情報社会指令の国内法化について」(PDF)月刊『コピライト』(公益社団法人著作権情報センター出版) 541号 26-27頁への投稿論文、龍村法律事務所、2006年。 -- 国内法化が完了する4か月前時点のため、一部法案は可決時に修正となっている点に注意
- 長塚真琴 (一橋大学法学研究科教授 (執筆当時))「フランスの2019年7月24日プレス隣接権法と対Google競争法事件」(PDF)『一橋法学』第20巻第1号、一橋大学、2021年3月、60–82、doi:10.15057/71602。
- 文化庁「インターネット上の著作権侵害対策ハンドブック─ 欧州編 ─」(PDF)、文化庁、2010年。 -- [1]はリンク切れのため、[2]も参照のこと。イギリス、フランス、ドイツ、スペインの4か国の著作権法を調査し、EUの各種著作権指令と対比した資料。欧州以外にアジア発展途上国のハンドブックも文化庁ホームページで公開
- 宮澤溥明『著作権の誕生 フランス著作権史』(1998年出版からの改訂版)太田出版〈出版人・知的所有権叢書01〉、2017年。ISBN 978-4-7783-1570-2 。 -- 著者はJASRACにて国際部長、常勤監事など歴任
- Colombet, Claude (クロード・コロンベ)『著作権と隣接権』宮澤溥明 (訳)、第一書房、1990年5月25日(原著1988年)。ISBN 978-4-8042-0001-9。 -- 原著 "Propriété Littéraire et artistique et droits voisins" (1988年出版) の日本語訳。フランス著作権法は1992年に知的財産法典の第1部に収録されているが、原著はこれ以前の旧法を扱っているため、訳書内で紹介される条文の条数が現行法とずれている点に注意
- Goldstein, Paul; Hugenholtz, P. Bernt (2013) (英語). International copyright: principles, law, and practice [国際著作権法: 法理、実定法と実務] (3 ed.). Oxford University Press. ISBN 9780199794294
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- Hugenholtz, Bernt (2013). “Law and Technology | Fair Use in Europe [法と科学技術 | 欧州におけるフェアユース]” (英語) (PDF). Communications of the ACM (アムステルダム大学情報法研究センター) 56 (5). doi:10.1145/2447976.2447985 . -- 国際著作権法に通じたアムステルダム大学教授による執筆記事 (WIPOによる著者略歴紹介ページ)
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- Spitz, Brad (知的財産法・IT・メディア専門弁護士) (2014) (英語). Guide to Copyright in France: Business, Internet and Litigation. Wolters Kluwer. ISBN 9789041152879
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- 大林啓吾 (帝京大学法学部専任講師 (執筆当時))「表現の自由と著作権の制度的調整」『帝京法学』第27巻第2号、帝京大学法学会、2011年8月10日、269–356、CRID 1050001337976673664。
- 岡本薫『著作権の考え方』岩波書店〈岩波新書 (新赤版) 869〉、2003年。ISBN 4-00-430869-0 。
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外部リンク
[編集]- 知的財産法典 第1部 フランス著作権法の全文翻訳 (日本語) -- 公益社団法人 著作権情報センター発行 (PDF版)
- 著作権関連ページ (フランス語、英語、スペイン語) -- フランス文化省公式ページ
- 知的財産権の基礎情報 (フランス語) -- フランス産業財産庁 (INPI) 公式ページ
- 知的財産法典の原文 (フランス語) -- レジフランス公式運営サイト
- 知的財産法典の全文翻訳 (英語) - 2003年9月15日最終更新、2006年施行
- 2006年制定DADVSIの条文 (フランス語) -- 法律名の日本語訳: 情報社会における著作権および著作隣接権に関する2006年8月1日法 (法令番号No. 2006-96)
- 視聴覚・デジタル通信規制局 (略称: Arcom) (フランス語) - インターネット著作権侵害の公的監督機関 (2009年に設立されたHADOPIと電気通信事業者や放送事業者などを監督する視聴覚最高評議会 (略称: CSA) が2022年1月1日に合併)
- 書籍流通ポータル (フランス語) -- フランス国立図書館 (BnF) 運営のポータルサイトにて、著作権関連の情報や論点を収集・発信
- フランスの法制度の概要 (日本語) -- 法令の全体構成など、フランス法と日本法の相違点などを解説