英雄の生涯
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Ein Heldenleben, Op. 40 - アラン・ギルバート指揮ニューヨーク・フィルハーモニック、The Orchard Enterprises提供YouTubeアートトラック。 | |
映像 | |
Strauss: Ein Heldenleben - アンドレス・オロスコ=エストラーダ指揮Hr交響楽団、同楽団公式YouTube。 |
『英雄の生涯』(えいゆうのしょうがい、Ein Heldenleben)作品40は、リヒャルト・シュトラウスが作曲した交響詩。『ドン・ファン』から始まるリヒャルト・シュトラウスの交響詩の最後の作品である。
概要
[編集]副題に “Tondichtung für großes Orchester” (大管弦楽のための交響詩)とあるように、演奏するには105名から成る4管編成のオーケストラが必要となる。またオーケストレーションが頂点に達している曲とも言われ、技術的にもオーケストラにとって演奏困難な曲の一つに数えられており、オーケストラの実力が試される曲としても知られている。
この曲の「英雄」とはリヒャルト・シュトラウス自身を指すと言われているが、作曲者本人は「それを知る必要はない」としており、この曲にプログラムがあることを言明していない。
この曲はベートーヴェンの交響曲第3番『英雄』(エロイカ)と同じ変ホ長調を主調としている。シュトラウスは日記に作曲の進捗を記しているが、そこでは最終的なタイトルを "Ein Heldenleben" と決めるまで、この曲のことを "Eroica" と呼んでいた[1]。友人に宛てた手紙でも「近頃ベートーヴェンの英雄交響曲は人気がなく、演奏されることも少ない」と冗談を言い、「そこで今、代わりとなる交響詩を作曲している」と述べている[2]。またこの曲では、シュトラウスの他の作品からの引用(後述)とともに、ベートーヴェンの『英雄』のフレーズも断片的に引用されている[3]。
1898年の8月2日から12月27日にわたって作曲された。ウィレム・メンゲルベルクとアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団に献呈されている。
1899年3月3日、作曲者自身の指揮、フランクフルト・ムゼウム管弦楽団により初演された。
構成
[編集]ソナタ形式を基本として作曲されているが、形式的にはかなり自由な形態によっている。曲は6つの部分から成り、切れ目なく演奏される。通常下記のように分けられているが、スコア上には分類及び副題は記されていない。その為、発売されている演奏のCDでのトラックの分け方や副題の表記等も統一されていない。演奏時間は約45分。
- Der Held (英雄)
- Des Helden Widersacher (英雄の敵)
- Des Helden Gefährtin (英雄の伴侶)
- Des Helden Walstatt (英雄の戦場)
- Des Helden Friedenswerke (英雄の業績)
- Des Helden Weltflucht und Vollendung der Wissenschaft (英雄の隠遁と完成)
なお、曲の最後の部分は、ヴァイオリンとホルンのソロが静かに消え入るように終わる第1稿と、一度金管群の和音で雄大に盛り上がってから終わる第2稿がある。第1稿による演奏は珍しく、ほとんどが第2稿によって演奏されるが、サヴァリッシュ、ハイダー、ファビオ・ルイージは第1稿による録音を残している。
木管 | 金管 | 打 | 弦 | ||||
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Fl. | 3, ピッコロ 1 | Hr. | 8 | Timp. | 1人 | Vn.1 | 16 |
Ob. | 4 (イングリッシュホルン持ち替え 1) | Trp. | 5 (Es管 2, B管 3) | 他 | バスドラム、シンバル、スネアドラム、テナードラム、タムタム | Vn.2 | 16 |
Cl. | B管 2, Es cl 1, バスクラリネット 1 | Trb. | 3 | Va. | 12 | ||
Fg. | 3, コントラファゴット 1 | Tub. | テノールチューバ 1, バスチューバ 1 | Vc. | 12 | ||
他 | 他 | Cb. | 8 | ||||
その他 | ハープ2台 |
英雄
[編集]- 以下、練習番号はロイカルト社のスコアによる。
前奏はなく、いきなり低弦とホルンの強奏で雄渾な英雄のテーマが提示される。これは英雄の情熱・行動力を表す重要なテーマである。英雄のテーマは力を増していき、その頂点で突如休止する。
英雄の敵
[編集]- 練習番号13 - 9小節目
スケルツォに相当する。木管群により嘲笑するような動機が提示される。これは作曲者シュトラウスに対する先輩・同輩・後輩、さらには評論家や無理解な聴衆からの非難を表している。敵の非難は勢いを増し、英雄は一時落胆するが、やがて力強く再起する。
英雄の伴侶
[編集]- 練習番号22 - 2小節目
緩徐楽章に相当する。独奏ヴァイオリンが伴侶のテーマを提示する。愛する女性の出現にもかかわらず英雄は行動を続けようとするが、次第に彼女に心惹かれていく。伴侶のテーマも英雄に惹かれたり、英雄を拒否するようなそぶりを見せたりする。やがて2人の心は一つになり、壮大な愛の情景が描かれる。敵のテーマが回帰し英雄を嘲笑するが、愛を得た英雄は動じない。
英雄の戦場
[編集]- 練習番号42
展開部に相当する。突如舞台裏からトランペットが鳴り響き、敵との戦いが始まる。敵を表す強力無比な金管群・木管群が舌鋒鋭く英雄を非難するが、英雄(低弦とホルン)は雄々しく戦う。伴侶(ヴァイオリン)も英雄を支えている。これまでのテーマ、動機が存分に扱われ、展開される。ティンパニ、バスドラム、テナードラムの乱打も加わり、すさまじい戦いのシーンが繰り広げられる。英雄の自信に満ちた行動に敵は圧倒され、英雄の一撃で敵は総崩れになる。英雄の華々しい勝利が歌い上げられ、英雄と伴侶は手を携えて登場する。
英雄の業績
[編集]- 練習番号80
再現部とコーダの前半部分に相当する。ホルンにより交響詩『ドン・ファン』のテーマが、弦により交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』のテーマが奏され、引き続いて『死と変容』『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』『マクベス』『ドン・キホーテ』など、それまでのシュトラウスの作品が次々と回想される。次第にテンポがゆっくりになり、英雄は自己の内部を見つめるようになる。
英雄の隠遁と完成
[編集]- 練習番号98
イングリッシュホルンによる牧童の笛が鳴り響き、田園の情景が描かれる。『ドン・キホーテ』終曲のテーマが引用され、年老いた英雄の諦念が表される。英雄は田舎に隠棲し、自らの来し方を振り返っている。過去の戦いを苦々しく振り返ったりもする。英雄はさらに自己の内部に沈潜していく。やがて英雄は年老いた伴侶に看取られながら、静かに世を去る。
出版
[編集]ロイカルト社(Verlag von F.E.C.Leucart München)
その他
[編集]- リヒャルト・シュトラウス自身による指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるこの曲のライヴ録音が残されている(1944年6月15日のシュトラウス生誕80周年記念演奏会の録音)。
- 「英雄の伴侶」の部分を中心に、技巧的なヴァイオリン・ソロが活躍するが、これは通常コンサートマスターによって演奏される。
脚注
[編集]- ^ Willi Schuh (translated by Mary Whittall), Richard Strauss : A Chronicle of the Early Years 1864-1898, Cambridge University Press, 1982, ISBN 0-521-24104-9, p.477
- ^ Willi Schuh (translated by Mary Whittall), p.478
- ^ ロイカルト社のスコアで練習番号102の3小節目。ベートーヴェンの『英雄』の第4楽章92小節目、100小節目、389小節目などに繰り返し現れる特徴的な音型が引用されている。