興俊尼

興俊尼（こうしゅんに、天文20年〈1551年〉 - 元和8年12月8日〈1623年1月8日〉）は、戦国時代から江戸時代初期にかけての女性で、奈良興福院の住持。豊臣秀長の側室とされるが、異説もある。俗名はお藤。法名は光秀尼ともいう。

生涯

父は大和の国人・秋篠伝左衛門、母は同じく大和の国人である鷹山頼円の娘。

『奈良名所八重桜』（延宝6年〈1678年〉の作）によると、興福院の元祖とされる興俊尼は元は法華寺の比丘尼で、法華寺を訪ねた秀長に見初められて城へと連れていかれ、一夜を過ごした後、寺に帰されたという。不犯の戒律を破った興俊尼は、母方の伯母で弘文院（興福院）の住職である心慶尼のもとに身を寄せ、懐妊の兆しが現れると、縁家の菊岡宗政の屋敷に移され、そこで娘・おきくを出産。事情を知った秀長により郡山城へと迎えられ、還俗した興俊尼はお藤と呼ばれたとされる。郡山城に入った時期は、おきくが天正19年（1591年）1月に4、5歳とされることから、天正15年（1587年）頃とみられる。

なお、『奈良名所八重桜』の記述に懐疑的な見方もあり、興俊尼を秀長の側室とする話は真偽不明ともいう。この場合、おきくの生母が誰であるかも不明となり、秀長の正室・智雲院の子である可能性も考えられる。

おきくは、天正19年（1591年）1月13日に秀長の養子・秀保と仮祝言を挙げ、その後本祝言を挙げた。おきくは後の大善院ともみられ、大善院は文禄3年（1594年）9月、または文禄4年（1595年）2月に、秀長の兄・秀吉の養女として毛利秀元に嫁ぎ、慶長14年（1609年）に死去。『毛利家乗』によると享年は22で、『多聞院日記』の仮祝言時の年齢に従えば、享年23または24となる。

おきく以外の縁者では、秀長が天正19年（1591年）1月22日に死去し、その養子・秀保も文禄4年（1595年）4月に病死した。秀長の側近衆となっていた父・伝左衛門は天正20年（1592年）に75歳で没している。

興俊尼が住持を務めた興福院は元々廃寺となっていたが、心慶尼と光秀尼、一説では興俊尼と興秀尼が、豊臣秀長（または秀吉）から寺領200石を寄進を受けて再興したとされる。興福院はこの後衰微したが、寛永13年（1636年）、3代住職・光心尼の尽力により、3代将軍・徳川家光から寺領200石を与えられ復興した。光心尼は興俊尼の従姪（母方の伯父・窪庄藤宗〈鷹山頼円の子〉の孫）に当たるという。この後、寛文5年（1665年）に4代将軍・家綱から寺地を与えられ、興福院は尼辻（現在の奈良市尼辻町）から法蓮村（奈良市法蓮町）へと移転した。

元和8年12月8日（1623年1月8日）、興俊尼は死去。興福院旧地に五輪墓碑が残り、藤誉光秀大姉の法号が記される。

参考文献

• 新人物往来社 編『豊臣秀長のすべて』新人物往来社、1996年。ISBN 4-404-02334-0。 
  • 池内昭一「豊臣秀長とその時代」（9–34頁）
  • 瀧喜義「秀長は誰の子か」（35–64頁）
  • 桑原恭子「秀長をめぐる女たち」（181–206頁）
  • 川口素生「豊臣秀長関係人名事典」（216–234頁）
• 橋本聖圓; 山岸常人『法華寺と佐保佐紀の寺』保育社〈日本の古寺美術17〉、1987年。ISBN 4-586-72017-4。