穴釣り
穴釣り(あなづり、やづり)とは、穴の中に餌を垂らし魚を釣り上げる漁法の一種である。古くは「やづり」と読み、ミミズなどの餌を竹先につけてウナギを釣り上げる手法を指した[1]が、近年では「あなづり」と読み、凍った湖面に穴を開けてワカサギを釣る漁法や、消波ブロックなどの隙間に糸を垂らして根魚を狙う釣りなどを指す[1][2]。根魚狙いの穴釣りと区別するため、前者を氷上穴釣りやワカサギ釣りなどと呼称する場合もある[3]。
種別
[編集]ウナギの穴釣り
[編集]ウナギの穴釣りは、河川湖沼の浅瀬にある石垣や柵の中にミミズ、ドジョウ、タニシ、アユなどの餌を付けた竹先を突っ込んで釣り上げる漁法である[4]。近年は護岸工事などにより河川の堤防がコンクリート化したことや、ウナギ自体の数の減少による漁獲効率の悪化などの要因により、ほとんど行われなくなった[4]。
ワカサギの穴釣り
[編集]遡河回遊性の魚であるワカサギは本来、島根県以北の日本海側、千葉県以北で北海道を除く太平洋側といった広い範囲に生息していたが、冬季の漁獲が期待でき、環境変動に強く、食用に適していることなどを理由に、1909年に茨城県涸沼のワカサギを福島県松川浦に放流したのを契機とし、内陸を含む100を超える全国各地の湖沼に移入された[5][6][7]。こうした湖沼のうち、冬季に水面が氷結する地域では、氷上に穴を開けて仕掛けを垂らしてワカサギを釣る穴釣りが楽しまれていた[8][9]。1936年に山中湖にワカサギの穴釣りを持ち込んだ西垣晋作は『ワカサギ(公魚)の穴釣』(1966年)の中で榛名湖で見た氷上の穴釣りの手法を村民に伝え、喜ばれた旨を記している[10]。同様に榛名湖で教わった寒さを避けるためのボックス釣り(穴の周囲を風除けで囲う応用的な漁法)を山中湖に導入した旨について『ワカサギの穴釣り』(1940年)の中で記している[11]。ワカサギの穴釣りは数釣りが体験できることで人気が高く、数時間で1,000匹を超えるような釣果を上げることができる場合も報告されている[3]。近年では大型のビニール製のハウスの中で釣りができるものや、湖面の氷結が無くても釣行が可能なドーム船タイプのワカサギ釣りも提供されている[12]。
根魚の穴釣り
[編集]防波堤などからテトラポッドやケーソンといった消波ブロックなどの隙間に糸を垂らして根魚を狙う漁法は「ブラクリ釣り」と呼ばれ、1970年代には既に行われていたようで、横浜が発祥の地とされている[2]。ブラクリとは錘と針が一体となった釣り用の仕掛けを指し、消波ブロックが各地に設置される前は、磯などの天然の岩礁地帯やカジメの中などをポイントにして魚を狙っていた[2]。場所によって違いはあるが、釣れる魚種はカサゴ、メバル、アイナメ、ソイなどの根魚が多く、グレなども釣れる場合がある[2][13]。消波ブロックが各地に設置されるようになると、その隙間をポイントに定めたブラクリが販売されるようになり、穴釣りと呼称されるようになった[2]。単純に隙間に仕掛けを落として待つ漁法で、遠投などのテクニックを必要としないことから敷居が低く、季節を問わず手軽にできることや初心者でもある程度の釣果が見込めることから人気が高まっている[2]。反面、手軽さゆえの落水事故なども増えてきており、立ち入り禁止や釣り禁止場所に指定されることも少なくない[2]。
日本国外の穴釣り
[編集]穴釣りの対訳としてIce fishingが充てられる場合があるが、日本国外においても氷上に穴をあけて釣りを行う文化は存在している。
北欧のフィンランドではパイエンネ湖やサイマー湖など、多くの湖が氷結するため、氷上穴釣りのツアーなどが組まれる[14][15]。フィンランドでの穴釣りは、ノーザンパイクやヨーロピアンパーチといった大型の魚種を狙って、大き目の穴をあけて行われる[16]。 アメリカ合衆国ミネソタ州のガル湖で毎年1月に開催されるBrainerd Ice Fishing Extravaganzaは、世界最大規模の穴釣りの大会と言われている[17]。およそ1万人が参加するこの大会では、氷結した湖の上に2万個以上の穴があけられる[18]。トラウトやニシンなどの冷水魚が豊富なカナダのシムコー湖では多数の大規模な穴釣り大会が開催されている[19]。韓国の華川郡では100万人近い観光客が訪れるアイスフェスティバルが毎年1月に開催されているが、その中で数千人規模の参加者が氷結した漢江支流での穴釣りを楽しんでいる[20][21]。世界最深を誇るロシアのバイカル湖も毎年1,000人以上が集まり、凍った湖の上で穴釣りが冬のアクティビティとして楽しまれている[22]。
脚注
[編集]- ^ a b 「穴釣」『小学館 デジタル大辞泉』 。コトバンクより2022年6月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g “これから始める穴釣り入門!仕掛け作りから釣果に繋がる釣りテクニックまで大公開!”. point. 株式会社タカミヤ (2021年12月29日). 2022年6月23日閲覧。
- ^ a b “網走湖のワカサギ、氷上穴釣りの美技”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). (2020年1月20日) 2022年6月23日閲覧。
- ^ a b 宮城県水産試験場『宮城県の伝統的漁具漁法 V 内水面』(PDF)宮城県水産試験場、1992年3月、37-38頁。全国書誌番号:93011395 。2022年10月10日閲覧。
- ^ 鳥澤 2000, p. 3
- ^ 久下 2011, pp. 1–2
- ^ 久下 2011, p. 5
- ^ 齊藤 2019, p. 36
- ^ 久下 2011, p. 8
- ^ 齊藤 2019, p. 39
- ^ 齊藤 2019, p. 40
- ^ “話題のドーム船も氷上釣り場も。人気のワカサギ釣り場10選”. Honda釣り倶楽部. 本田技研工業株式会社 (2020年1月21日). 2022年6月23日閲覧。
- ^ “晩秋~冬の最強釣法『波止の穴釣り』攻略法 効率良い釣り方を伝授”. TSURINEWS (株式会社週刊つりニュース). (2019年11月29日) 2022年6月23日閲覧。
- ^ “サイマー湖でスノーアクティビティー”. Visit Finland. 2022年6月23日閲覧。
- ^ “レーモンカルキの湖でアイスフィッシング世界大会!?”. トラベルWatch (2016年4月12日). 2022年6月23日閲覧。
- ^ “【森と湖の国フィンランド】 凍った湖での人々の過ごし方から学ぶ、寒い冬の楽しみ方”. Be-Pal (2016年9月14日). 2022年6月23日閲覧。
- ^ “THE BRAINERD JAYCEES ICE FISHING EXTRAVAGANZA”. icefishing.org. 2022年6月23日閲覧。
- ^ This is what the Super Bowl of ice fishing looks like. Vice. February 11, 2018.
- ^ “Ice Fishing Lake Simcoe | Ice Fishing Lake Simcoe”. icefishinglakesimcoe.com. 2022年2月7日閲覧。
- ^ “South Korea's Ice Fishing Festival”. BBC News 2008年1月14日閲覧。
- ^ “BBC News In pictures South Korea ice fishing,”. BBC News 2008年1月14日閲覧。
- ^ “凍ったバイカル湖で穴釣り大会、今年は1400人が参加 シベリア”. AFP BBNews (2019年3月31日). 2022年6月23日閲覧。
参考文献
[編集]- 鳥澤雅『網走湖産ワカサギの生態と資源』北海道立網走水産試験場〈技術資料〉、2000年、1-47頁。 NCID BB21476021。全国書誌番号:20100727 。
- 久下敏宏「群馬県におけるワカサギの増殖に関する研究」『群馬県水産試験場研究報告 : 附業務報告 : 附水産試験場のあゆみ』第12号、群馬県水産試験場、2006年3月、1-128頁、ISSN 1342-1085。
- 久下敏宏『群馬県におけるワカサギの増殖に関する研究』 東京水産大学〈博士 (水産学) 甲第410号〉、2006年。 NAID 500000345625。
- 齋藤暖生「山中湖のワカサギと東京帝国大学」『演習林』第61巻、東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林、2019年3月、35-43頁、doi:10.15083/00076483、ISSN 04934326。