コンテンツにスキップ

石膏

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

石膏(せっこう[1])とは、硫酸カルシウム(CaSO4)を主成分とする鉱物である。硫酸カルシウムの1/2水和物がバサニ石(CaSO4・0.5H2O)、2水和物が石膏(CaSO4・2H2O)、無水物が硬石膏(CaSO4)。これら硫酸カルシウムの各水和物および無水物を一纏めに「石膏」という場合もあるので注意を要する。

半水石膏(バサニ石)

[編集]
バサニ石
分類 硫酸塩鉱物
化学式 CaSO4・0.5H2O
結晶系 単斜晶系
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
テンプレートを表示

硫酸カルシウム・1/2水和物(CaSO4・1/2H2O)を半水石膏焼石膏またはバサニ石(bassanite)という。

土壌中及び溶岩内から発見されている[2][3]

半水石膏は、と化学反応し二水石膏に変化する。骨折時の治療用具としてのギプスや型取り用の石膏は粉末状の半水石膏を水と反応させ二水石膏(単に「石膏」ともいう)として硬化させたものである。

日本薬局方では「焼石膏」として記載されている。

二水石膏(石膏)

[編集]
石膏
石膏
分類 硫酸塩鉱物
化学式 CaSO4・2H2O
結晶系 単斜晶系
へき開 一方向に完全
モース硬度 2
光沢 亜ガラス光沢
無色
条痕 白色
比重 2.3
プロジェクト:鉱物Portal:地球科学
テンプレートを表示

硫酸カルシウム・2水和物(CaSO4・2H2O)を二水石膏軟石膏、または単に石膏(gypsum、狭義の「石膏」)という。比重2.23の無色の結晶。硬度1.5 - 2。水に難溶。単斜晶系に属する。

二水石膏は加熱(160 - 170℃)により水分を失い、半水石膏に変化する。

天然には、温泉作用や蒸発岩の一種として生じる。蒸発岩としては陸地に閉じ込められた海水が干上がることによって、溶解度の関係から炭酸カルシウム(石灰岩)、硫酸カルシウム(石膏)、塩化ナトリウム(岩塩)の順で沈殿し、それぞれの地層をつくる。石膏は難溶ではあるが、0.2g/100cc程度の溶解度を有するため、石膏の地層が広く露出した地域では長年月の間に雨水による溶解が進行し、石膏カルストが発達する。

天然には単結晶のほかに結晶集合体が生じ、透明のものを透明石膏セレナイト、selenite)、繊維状のものを繊維石膏(satinspar)、細かい粒状のものを雪花石膏アラバスター、alabaster)と呼ぶ。セレナイトは巨大な結晶として産出される[4]ことから窓用として、アラバスターは彫刻の素材として古くから用いられてきた。また排気ガスの脱硫過程、燐酸化学肥料の製造工程、製塩でも生じるためこれらは回収される。

豆腐凝固剤としても用いられており中華人民共和国南部や台湾などでは「豆腐花」など、日本では絹ごし豆腐といった柔らかい豆腐の製造に適する。これは溶解してイオン化塩析効果を発揮する速度がにがりよりも遅いため、濃厚な豆乳の全体を均質に凝固させやすいからである。[5]

また、生薬として漢方薬に配合されたり、防火用の石膏ボード、彫刻などに使われる。

石膏ボード

[編集]

石膏ボード建築材料として幅広く用いられる材料であり防火性、遮音性に優れている。石膏ボードの防火性は、その不燃性と熱伝導性の低さのほか、結晶水からの寄与によるものが大きい。石膏ボードには約21%に相当する結晶水が含まれており、結晶水を失う吸熱反応により炎のエネルギーは失われる。加えて、生じた液体の水が気体の水になる際には、1molあたり144kJの気化熱が奪われる。

近年、建築物の建て替えに伴い発生する廃石膏ボードが廃棄物処理場の地下水に生息する硫酸塩還元細菌に代謝されて硫化水素を発生し環境上の問題となっており、リサイクルなど廃棄物化させない処理方法が研究されている。

ラスボードとは、塗壁の下地に使用される孔あき石膏ボードのことである。左官材の付着をよくするためにがあけられている。施工性、耐火性、遮音性に優れている。

石膏プラスター

[編集]

水硬性で、凝縮も速く、乾燥における収縮が少ないため亀裂が生じにくく、仕上がりが白く美しいと言う特徴がある。居室の湿度をコントロールする優れた調湿性能があり、結露防止効果、シックハウス症候群の原因となっているホルムアルデヒド濃度を低減(吸収分解)する効果もある[6] 。単にプラスターといったときは石膏プラスターを指し、焼セッコウ(硫酸カルシウム0.5水和物)に硬化を遅らせるための凝結遅延剤として、フノリゼラチンデンプンホウ砂などを添加したもので、上塗り用として使われ、砂を混合して下塗り用ともする[7]。さらに無水セッコウ(硫酸カルシウム)に硬化を速めるための凝結促進剤として、石灰ミョウバンポルトランドセメントなどを添加しても用いられる[7]

プラスターとは、鉱物質の粉末と水を練り合わせた塗装原料で、建築の壁面塗装(プラスター塗壁)や装飾物の仕上げに用いられる。最も古い建築技術の一つで,エジプトのピラミッド、ギリシアの建築などにも用いられた[8]。石膏を主材にした「石膏プラスター」と、白雲母を焼いて水和熟成させた「ドロマイトプラスター」、消石灰(水酸化カルシウム)にフノリ、ツノマタなどを添加し、繊維質を混合した「石灰プラスター(漆喰)」がある。

生薬

[編集]
生薬として用いられる石膏

天然の二水石膏は、日本薬局方に医薬品名「石膏」として記載されている生薬である。天然物であるから純粋の硫酸カルシウム・2水和物ではなくケイ素アルミニウムなどの化合物が少量含まれる。

生薬としての石膏は、解熱作用や止渇作用などがあるとされる。石膏を含む漢方方剤は竹葉石膏湯防風通聖散麻杏甘石湯桔梗石膏など多数ある。

無水石膏(硬石膏)

[編集]
硬石膏

無水硫酸カルシウム(CaSO4)を無水石膏または硬石膏(anhydrite)という。無水石膏は結晶系の異なる以下の三種が知られる。

I型(高温型無水石膏)
立方晶。II型無水石膏を1200℃以上に加熱した際、三酸化硫黄と酸化カルシウムに分解する過程で見られる準安定相。
II型(不溶性無水石膏)
斜方晶。III型無水石膏を330℃以上に加熱すると得られる。非常に水和しにくく、天然にも硬石膏として産出される。
III型(可溶性無水石膏)
六方晶。半水石膏を180℃以上に加熱すると得られる。非常に水和しやすく大気中の水分でも速やかに半水石膏に戻る。

脚注

[編集]
  1. ^ 中央アジアの彩色に利用される彩色材料一覧”. 国立歴史民俗博物館. 2018年1月8日閲覧。
  2. ^ Bassanite(mindat.org)
  3. ^ Bassanite Mineral Data(webmineral.com)
  4. ^ “最大で長さ12m、超巨大結晶が埋め尽くす「クリスタルの洞窟」 古代微生物の発見も”. 産経新聞. (2014年9月6日). https://web.archive.org/web/20140906055200/http://sankei.jp.msn.com/wired/news/140906/wir14090613110001-n1.htm 2014年9月6日閲覧。 
  5. ^ 豆腐の添加物を知る|豆腐のことなら全豆連”. www.zentoren.jp. 2022年2月11日閲覧。
  6. ^ 壁材(塗り壁材)- 仕上げ材(ケンコート) - 吉野石膏
  7. ^ a b 世界大百科事典 第2版
  8. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

参考文献

[編集]
  • 松原聰『日本の鉱物』学習研究社〈フィールドベスト図鑑〉、2003年、113-115頁頁。ISBN 4-05-402013-5 
  • 国立天文台編『理科年表 平成20年』丸善、2007年、642頁頁。ISBN 978-4-621-07902-7https://web.archive.org/web/20060703125140/http://www.rikanenpyo.jp/ 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]