白沢ナベ
しらさわ ナベ 白沢 ナベ | |
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生誕 |
1905年 北海道ウサクマイ村 |
死没 |
1993年10月21日(87歳没) 北海道千歳市 |
死因 | 急性心不全 |
住居 | 北海道千歳市[1] |
国籍 | 日本 |
民族 | アイヌ |
時代 | 昭和 - 平成 |
著名な実績 | ユカㇻの伝承、日本各地の公演への参加など |
影響を与えたもの | 中本ムツ子 |
栄誉 | 北海道文化財保護功労者(1988年) |
白沢 ナベ(しらさわ ナベ、1905年〈明治38年〉 - 1993年〈平成5年〉10月21日[2])は、日本のアイヌ口承文芸伝承者[2]。ユカㇻ(アイヌの口承文芸)の北海道千歳市における第一人者とされる[3]。アイヌの古老の女性に対する敬称「フチ」をつけて「白沢ナベフチ」の名でも呼ばれる[4][5]。
経歴
[編集]北海道のウサクマイ村(後の千歳市蘭越)で誕生した[6]。ユカㇻの名人を父に持ち、幼少時よりユカㇻを聞かされて育った[7]。17歳で結婚したが、23歳のとき夫と死別し、幼い子供2人を抱えて懸命に働いた。やがて父が死去し、死に際に「アイヌ民族の言葉を必ず伝えてくれ」と繰り返し言われたことが、後年に影響を及ぼすこととなった[8]。
植林作業などで働いていたが、70歳で膝を傷めたことを機に仕事を辞め、ユカㇻの伝承に打ち込んだ[7]。1978年(昭和53年)より、自宅近くの蘭越生活館や北海道内各地で、伝承活動を続けた[6]。記憶力に優れ[9]、幼少時より家族から伝え聞いたユカㇻやウエペケㇾ(昔話)は300以上に昇った[6]。アイヌ文化を後世に伝えるため、ユカㇻ研究者、千歳市教育委員会[10]、絵本や辞典の出版活動などにも協力し[9]、後進の指導にも尽力した[10]。中本ムツ子もまた、アイヌの思想や、数多くのカムイユカㇻ(叙事詩)を教わった[11]。
1988年(昭和63年)、北海道文化財保護功労者として表彰を受けた[2][4]。1991年(平成3年)には、アイヌ民族の復権とアイヌ文化の理解を目的とした、アイヌ語教室の講師を務めた[3]。
伝承活動を始めたときはすでに高齢であったが、活動には積極的であり、依頼があれば、どこにでも出かけた[9]。1989年(平成元年)11月には東京で「アイヌ民族の新法制定を考える集い」の集会で、500人の聴衆を前にユカㇻを語り、さらにアイヌ語でその内容説明を語った[5]。アイヌ解放研究会の一員である社会運動家の斎藤信明は[12][13]、このことを「あんなにも堂々と落ち着いて自信をもって語りかけた80歳をこえた女性を私は他に見たことはない」と述べた[5]。1992年(平成4年)4月にも東京で、東京国立劇場の「文字のない伝承芸能を聞く会」で、アイヌ語でユカㇻを演じ、700人の観客からの拍手を浴びた[8][14]。
1993年(平成5年)10月、千歳市内の病院で、急性心不全により87歳で死去した[15]。没後、ユカㇻの伝承者で各地の公演に参加、ウタリ協会の発展にも貢献したとして、日本政府により死亡叙勲として木杯一組が贈られた[16]。
著作
[編集]- 白沢ナベ(語り)『アイヌとして生きて』日本基督教団教育委員会、1993年10月1日。ISBN 978-4-931318-00-7。
- 白沢ナベ・中本ムツ子(謡い手)『カムイユカラ』片山言語文化研、1995年12月。ISBN 978-4-88024-331-3。
- 白沢ナベ文『めだまの神さま』千歳アイヌ語教室訳、千歳アイヌ文化伝承保存会、2019年8月。 NCID BC02455440。
脚注
[編集]- ^ 千歳市 2019, p. 1086
- ^ a b c 日外アソシエーツ 2004, p. 1313
- ^ a b 千歳市 2019, pp. 1080–1081
- ^ a b 千歳市 2019, p. 1072
- ^ a b c イフンケの会 1991, pp. 188–189
- ^ a b c 「「自然との共生」語る 故白沢ナベさん 先月の儀式では船頭役」『北海道新聞』北海道新聞社、1993年10月23日、札A朝刊、26面。
- ^ a b 「遺された言葉 白沢ナベさん ユーカラは人と自然へのやさしさを歌っている」『読売新聞』読売新聞社、1993年10月29日、東京夕刊、7面。
- ^ a b 太田和雄「生きる 白沢ナベさん(ユーカラ伝承者)亡き父の語り胸に刻み」『北海道新聞』1992年7月23日、全道夕刊、5面。
- ^ a b c 千歳市 2019, p. 1088
- ^ a b 「道文化財保護功労者にユーカラ伝承の白沢さんら4人と1団体決まる」『北海道新聞』1988年10月15日、全道朝刊、29面。
- ^ “平成16年度 アイヌ文化賞 中本ムツ子”. アイヌ民族文化財団. 2022年3月7日閲覧。
- ^ イフンケの会 1991, p. 15
- ^ イフンケの会 1991, p. 185
- ^ 白沢 1993, p. 29(君島洋三郎によるあとがき)
- ^ 「白沢ナベさん 死去 ユーカラ伝承者」『毎日新聞』毎日新聞社、1993年10月22日、東京夕刊、15面。
- ^ 「アイヌ文化伝承者 白沢さんに死亡叙勲」『北海道新聞』1993年11月19日、全道夕刊、19面。
参考文献
[編集]- イフンケの会 編『イフンケ〈子守歌〉あるアイヌの死』彩流社、1991年4月11日。ISBN 978-4-88202-195-7。
- 『新千歳市史』(PDF) 通史編 下巻、千歳市、2019年3月28日。 NCID BB01634196 。2022年3月7日閲覧。
- 『20世紀日本人名事典』 下、日外アソシエーツ、2004年7月26日。ISBN 978-4-8169-1853-7 。2022年3月7日閲覧。