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湘南ヘルスイノベーションパーク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
武田薬品工業 > 湘南ヘルスイノベーションパーク
湘南ヘルスイノベーションパーク
Shonan health innovation park
湘南ヘルスイノベーションパークの位置(神奈川県内)
湘南ヘルスイノベーションパーク
情報
旧名称 武田薬品工業湘南研究所
用途 医薬品研究所
設計者 基本設計:プランテック総合計画事務所
実施設計:竹中工務店[1]
施工 竹中工務店[2]
建築主 武田薬品工業
事業主体 武田薬品工業
構造形式 鉄骨構造
敷地面積 250,062.49 m² [3]
建築面積 72,732.33 m² [3]
延床面積 310,474.08 m² [3]
状態 完成
階数 地上10階建
高さ 41.7m[3]
着工 2009年6月[3]
竣工 2011年2月
開館開所 2011年10月
所在地 251-8555
神奈川県藤沢市村岡東2丁目26−1
座標 北緯35度20分30.7秒 東経139度30分41.5秒 / 北緯35.341861度 東経139.511528度 / 35.341861; 139.511528 (湘南ヘルスイノベーションパーク
Shonan health innovation park
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座標: 北緯35度20分30.7秒 東経139度30分41.5秒 / 北緯35.341861度 東経139.511528度 / 35.341861; 139.511528 (湘南ヘルスイノベーションパーク
Shonan health innovation park
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湘南ヘルスイノベーションパーク(しょうなんヘルスイノベーションパーク)は、神奈川県藤沢市[注釈 1]に所在する、日本最大の敷地面積を有する[4]創薬研究所である。愛称は、湘南アイパーク。2011年に、武田薬品工業湘南研究所として開業した。

歴史

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藤沢市では1956年より東海道本線沿いに工場を誘致する都市計画を実施[5]1963年1月に武田薬品工業(以下、武田)湘南工場が操業を開始し[6]2006年まで一般用医薬品を生産していた[注釈 2][7]。武田では1995年頃から新研究所の構想があり、医薬品の特許が切れる2010年問題を控えた2006年頃には計画が具体化し始めた。茨木市彩都への誘致を目指す大阪府神奈川県が200億円規模の助成措置を用意して誘致合戦を行ったが[8]、湘南工場跡地に大阪工場の研究部門とつくば市の研究所を統合した新研究所を開設することが決定した。2007年よりコンストラクション・マネジメント方式(CM方式)で事業が進められ、2009年6月に着工[3]。総工費1470億円を投じて2011年2月に竣工し[9]、同年10月に、大阪とつくばから、約1200人の研究者が武田湘南研究所に異動した[4]。各フロアは15のブロックで構成され、横軸に合成生化学動物、縦軸に疾患領域ごとにゾーンを設けたマトリックス型の配置とした[10]

2014年に、クリストフ・ウェバーが武田の社長に就任。2015年より、武田は研究開発を悪性腫瘍消化器疾患神経精神疾患の3領域に絞り込む方針を示す[11]。その中の悪性腫瘍や希少疾病用医薬品の開発は、アメリカのマサチューセッツ州ケンブリッジの同社研究所に開発の軸足を移し、湘南研究所での開発は神経科領域の新薬が中心となる[12]。2017年7月には、武田の100%出資によるアクセリード ドラッグディスカバリーパートナーズに創薬研究事業の一部を継承した[13][注釈 3]

2017年10月にパシフィコ横浜で開催されたBioJapan2017において、武田湘南研究所の空間や研究機器を社外の研究者やバイオベンチャーに開放する「湘南ヘルスイノベーションパーク構想」を発表[15]iPS細胞を利用した創薬などを行うケイファーマと、ノイルイミューン・バイオテックが同研究所で研究を行うことが公表された[16]。2018年4月13日には、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)の開所式が行われた[17]

1000人を越えていた武田湘南研究所の従業員は2018年3月末で522人まで減少したが、湘南アイパークでも武田の研究は継続され、オレキシン受容体に作用する睡眠障害治療薬などの開発が行われている[18]

2020年と2021年に産業ファンド投資法人が所有権を取得、武田は賃借する形となった。2023年4月からは、産業ファンド投資法人、武田、三菱商事の3社が出資するアイパークインスティチュート株式会社が運営している[19]

建築

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南東側の東海道線[注釈 4]の線路に沿い、約22万m2の敷地面積を持つ。南端にセンターステーション棟(CS棟)があり、線路から敷地内の池を挟んで研究棟が並ぶ。研究棟部分は最下階を連続した基壇とし、その上に5棟の10階建ての研究棟が載せられた構造を持つ。上部構造は、柱にコンクリート充填角形鋼管、梁にH形鋼を用い、奥行約170m、5棟を合わせた長手方向は約330mに及ぶ。当初はCS棟を含めた一体の免震構造とする計画であったが、機能と耐震性のバランスや、地震発生時の研究棟の振動性状を考慮し、研究棟を免震構造、CS棟は耐震構造とした[3]。大阪・十三の武田の旧工場に設計室を設け、設計事務所や建設会社の意思疎通を図り、設備のユニット化などの工夫により21か月半という短期間の工期での建設が実現した[1]。「森の中の研究所」のコンセプトがあり、敷地内の既存の緑地は可能な限り残されている[10]

研究棟を貫く「ブロードウェイ」と呼ばれる通路の結節点には「ノマド」と呼ばれるコミュニティスペースがあり、施設内にはコンビニエンスストアや保育施設、スポーツジム、バーなども設けられている[1]。武田湘南研究所から湘南アイパークに改めるに際し、畳敷きのラウンジやビリヤードコーナー、海辺のテラスのようなコミュニケーションスペースなど、研究者同士の交流を促進する場が設けられた[17]。実験室の上下には設備の保守を行いやすいよう1層分の空間が用意され、モジュール化された什器や机は、プロジェクトごとの人や機材の臨機応変な移動を容易にした[1]。本建物は、2013年に日本建設業連合会主催の第54回BCS賞[10]、第1回CM選奨[20]を受賞している。

線路沿いの道路には大船駅藤沢駅を結ぶ江ノ電バスが運行されており、湘南アイパークの正門前に停留所が設けられている。東海道貨物線にはかつてこの近くに湘南貨物駅があり、跡地を活用して東海道線の旅客駅(仮称 村岡新駅)の建設が予定されている[5]

脚注

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注釈

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  1. ^ 敷地の一部は鎌倉市にまたがる。
  2. ^ 湘南工場の屋上には、ビタミン剤「アリナミンA」の看板があった。
  3. ^ アクセリード ドラッグディスカバリーパートナーズ株式会社は2019年4月に創薬維新ファンドの傘下に入り、2020年4月1日にアクセリード株式会社を親会社とする持株会社体制に移行した[14]
  4. ^ 北側に東海道貨物線が並行する複々線区間である。

出典

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  1. ^ a b c d 武田薬品工業 湘南研究所(プロジェクト概要)”. 山下PMC. 2021年5月17日閲覧。
  2. ^ 武田薬品工業湘南ヘルスイノベーションパーク”. 竹中工務店. 2021年5月17日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 竹中工務店「免震建築紹介 武田薬品工業株式会社湘南研究所」(PDF)『MENSHIN』第75巻、日本免震構造協会、2012年2月、4-8頁、2021年5月23日閲覧 
  4. ^ a b “見えた長谷川改革の全貌 武田薬品、復活への格闘”. 会社四季報ONLINE. (2013年2月2日). https://shikiho.jp/news/0/24559 2021年5月23日閲覧。 
  5. ^ a b 村岡新駅周辺地区整備事業及び都市計画に関する説明会” (PDF). 藤沢市役所都市整備部 都市整備課・計画建築部 都市計画課. 2022年1月10日閲覧。
  6. ^ 年表検索「武田 長兵衞」”. 大阪企業家ミュージアム. 2021年2月23日閲覧。
  7. ^ 武田薬品工業湘南研究所プロジェクト 人と組織を動かす、意思決定のしくみ”. 山下PMC. p. 1. 2021年2月23日閲覧。
  8. ^ 武田薬品工業の研究所移転のプラス面を考える”. 大阪都市経済調査会 (2006年11月22日). 2021年5月23日閲覧。
  9. ^ 旧:武田薬品工業株式会社湘南研究所の概要について”. 湘南アイパーク. 2021年5月22日閲覧。
  10. ^ a b c 第54回受賞作品(2013年)武田薬品工業株式会社湘南研究所”. 日本建設業連合会. 2021年2月23日閲覧。
  11. ^ タケダの敷地に出現した「湘南アイパーク」とは何か?”. Beyond Health(日経BP) (2019年5月13日). 2021年5月23日閲覧。
  12. ^ “武田薬品、「苦節10年」湘南研究所の成果に託す次の成長”. 日経産業新聞. (2021年5月3日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC22E9Q0S1A420C2000000/ 2021年5月23日閲覧。 
  13. ^ “武田薬品、湘南研究所で事業開始 創薬研究承継の新会社”. 神奈川新聞カナロコ. (2017年7月12日). https://www.kanaloco.jp/news/economy/entry-15613.html 2021年5月23日閲覧。 
  14. ^ 持株会社体制への移行に関するお知らせ』(プレスリリース)Axcelead Drug Discovery Partners 株式会社、2020年4月1日https://www.axcelead.com/news-release/113/2021年5月23日閲覧 
  15. ^ 高橋厚妃 (2017年10月18日). “日経バイオテクONLINE Vol.2785 武田薬品湘南研究所の変革”. 日経バイオテク(日経BP). 2022年1月16日閲覧。
  16. ^ 高橋厚妃 (2017年10月13日). “慶應大岡野教授のベンチャー、武田湘南研究所スペースや機器など利用へ”. 日経バイオテク(日経BP). 2022年1月16日閲覧。
  17. ^ a b 高橋厚妃 (2018年4月25日). “日経バイオテクONLINE Vol.2911 武田薬品の旧湘南研究所内の変貌”. 日経バイオテク(日経BP). 2022年1月16日閲覧。
  18. ^ 武田薬品のリストラの舞台“湘南研”、再び革新の揺りかごに”. 日経ビジネス (2021年8月5日). 2022年1月16日閲覧。
  19. ^ IIF 湘南ヘルスイノベーションパーク | IIF 産業ファンド投資法人
  20. ^ “【CM】第1回CM選奨の優秀賞に「武田薬品湘南研究所プロジェクト」 CM協会”. 建設通信新聞. (2014年6月14日). http://kensetsunewspickup.blogspot.com/2013/06/cm1cmcm.html 2021年5月17日閲覧。 

外部リンク

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