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場の量子論 において、正規順序積 (せいきじゅんじょせき、英 : normal ordered product )とは場の演算子 の積において、消滅演算子 が生成演算子 の右側にくるように並べ替えた積のこと。正規積 (せいきせき、英 : normal product )とも呼ばれる。正規順序積であることを表すのには、先頭にN を付けるもしくは両脇を:で囲む記法が用いられる。正規順序積は真空期待値 が常にゼロとなる性質を持つ。古典場 のハミルトニアン 等の物理量を単純に量子化 した場合した場合、その真空期待値が発散することがあるが、正規順序積を考えることで物理的に意味をもつ量を取り出すことができる。また、時間成分の順序で並び変えた時間順序積 と正規順序積は演算子レベルのウィックの定理 で結び付けられる。
a α † をボーズ粒子 またはフェルミ粒子 の生成演算子、a α を対応する消滅演算子とする。このとき、a α † とa α からの積からなる単項式 について、生成演算子の右側に消滅演算子がくるように並べ替えた積を正規順序積と呼ぶ。但し、並べ替えにおいては、生成演算子同士、消滅演算子同士については順序を変えないものとする。また、フェルミ粒子の演算子同士の順序の入れ替えについては、その回数に応じて、符号を変えるものとし、それ以外の入れ替えについては、符号を変えないものとする。
例えば、a α † 、a α をボーズ粒子の生成消滅演算子とすると
N
[
a
α
a
β
†
]
=
a
β
†
a
α
{\displaystyle N[a_{\alpha }a_{\beta }^{\dagger }]=a_{\beta }^{\dagger }a_{\alpha }}
N
[
a
α
†
a
β
a
γ
†
]
=
a
α
†
a
γ
†
a
β
{\displaystyle N[a_{\alpha }^{\dagger }a_{\beta }a_{\gamma }^{\dagger }]=a_{\alpha }^{\dagger }a_{\gamma }^{\dagger }a_{\beta }}
となる。
一方、フェルミ粒子の生成消滅演算子とすると
N
[
a
α
a
β
†
]
=
−
a
β
†
a
α
{\displaystyle N[a_{\alpha }a_{\beta }^{\dagger }]=-a_{\beta }^{\dagger }a_{\alpha }}
N
[
a
α
†
a
β
a
γ
†
]
=
−
a
α
†
a
γ
†
a
β
{\displaystyle N[a_{\alpha }^{\dagger }a_{\beta }a_{\gamma }^{\dagger }]=-a_{\alpha }^{\dagger }a_{\gamma }^{\dagger }a_{\beta }}
である。
この単項式について定義された正規順序積は、線形性 と分配法則 を保つ形で生成消滅演算子の線形和や積に拡張される。
スピン0の中性ボーズ粒子は実スカラー場 φ(x) で記述される。
このとき、φ(x) は3次元運動量空間での積分
ϕ
(
x
)
=
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
0
(
a
(
k
)
e
i
k
x
+
a
†
(
k
)
e
−
i
k
x
)
{\displaystyle \phi (x)=\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}k_{0}(a(k)e^{ikx}+a^{\dagger }(k)e^{-ikx})}
で表現できる。但し、
k
0
=
k
2
+
m
2
,
k
x
=
k
0
t
−
k
⋅
x
{\displaystyle k_{0}={\sqrt {\mathbf {k} ^{2}+m^{2}}},\,kx=k_{0}t-\mathbf {k} \cdot \mathbf {x} }
である。このとき、
ϕ
(
x
)
=
ϕ
(
+
)
(
x
)
+
ϕ
(
−
)
(
x
)
{\displaystyle \phi (x)=\phi ^{(+)}(x)+\phi ^{(-)}(x)}
ϕ
(
+
)
(
x
)
=
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
0
a
(
k
)
e
i
k
x
,
ϕ
(
−
)
(
x
)
=
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
0
a
†
(
k
)
e
−
i
k
x
{\displaystyle \phi ^{(+)}(x)=\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}k_{0}a(k)e^{ikx},\,\phi ^{(-)}(x)=\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}k_{0}a^{\dagger }(k)e^{-ikx}}
と消滅演算子だけを含むφ(+) (x) と生成演算子だけを含むφ(-) (x) に分けると、
N
[
ϕ
(
+
)
(
x
)
ϕ
(
−
)
(
y
)
]
=
N
[
ϕ
(
−
)
(
y
)
ϕ
(
+
)
(
x
)
]
=
ϕ
(
−
)
(
x
)
ϕ
(
+
)
(
y
)
{\displaystyle N[\phi ^{(+)}(x)\phi ^{(-)}(y)]=N[\phi ^{(-)}(y)\phi ^{(+)}(x)]=\phi ^{(-)}(x)\phi ^{(+)}(y)}
N
[
ϕ
(
x
)
ϕ
(
y
)
]
=
N
[
(
ϕ
(
+
)
(
x
)
+
ϕ
(
−
)
(
x
)
)
(
ϕ
(
+
)
(
y
)
+
ϕ
(
−
)
(
y
)
)
]
=
ϕ
(
+
)
(
x
)
ϕ
(
+
)
(
y
)
+
ϕ
(
−
)
(
x
)
ϕ
(
+
)
(
y
)
+
ϕ
(
−
)
(
y
)
ϕ
(
+
)
(
x
)
+
ϕ
(
−
)
(
x
)
ϕ
(
−
)
(
y
)
{\displaystyle N[\phi (x)\phi (y)]=N[(\phi ^{(+)}(x)+\phi ^{(-)}(x))(\phi ^{(+)}(y)+\phi ^{(-)}(y))]=\phi ^{(+)}(x)\phi ^{(+)}(y)+\phi ^{(-)}(x)\phi ^{(+)}(y)+\phi ^{(-)}(y)\phi ^{(+)}(x)+\phi ^{(-)}(x)\phi ^{(-)}(y)}
が成り立つ。
消滅演算子が真空状態|0〉 に作用するとゼロになるともに、生成演算子が〈0| に作用するとゼロになる。したがって、生成消滅演算子から構成される演算子O の正規順序積は、恒等演算子やその定数倍である場合を除いて、その真空期待値〈0|N [O ]|0〉 は必ずゼロとなる。
場の古典論 における物理量を単純に正準量子化 した場合、その真空期待値は無限大に発散する量を含むことがある。この場合、正規順序積を考えることで、意味のある量を取り出すことができる。例えば、上述の実スカラー場において、古典量を単純に正準量子化したハミルトニアンと運動量は
H
=
1
2
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
0
(
a
†
(
k
)
a
(
k
)
+
a
(
k
)
a
(
k
)
†
)
{\displaystyle H={\frac {1}{2}}\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}k_{0}(a^{\dagger }(k)a(k)+a(k)a(k)^{\dagger })}
P
=
1
2
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
(
a
†
(
k
)
a
(
k
)
+
a
(
k
)
a
(
k
)
†
)
{\displaystyle \mathbf {P} ={\frac {1}{2}}\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}\mathbf {k} (a^{\dagger }(k)a(k)+a(k)a(k)^{\dagger })}
となるが、積分の第二項の真空期待値は発散する。ここで、
H
{\displaystyle H}
と
P
{\displaystyle \mathbf {P} }
を予め正規順序をとった
N
[
H
]
{\displaystyle N[H]}
と
N
[
P
]
{\displaystyle N[\mathbf {P} ]}
とすれば、
H
=
1
2
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
0
(
N
[
a
†
(
k
)
a
(
k
)
+
a
(
k
)
a
(
k
)
†
]
)
=
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
0
a
†
(
k
)
a
(
k
)
{\displaystyle H={\frac {1}{2}}\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}k_{0}(N[a^{\dagger }(k)a(k)+a(k)a(k)^{\dagger }])=\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}k_{0}a^{\dagger }(k)a(k)}
P
=
1
2
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
(
N
[
a
†
(
k
)
a
(
k
)
+
a
(
k
)
a
(
k
)
†
]
)
=
∫
d
3
k
(
2
π
)
3
2
k
0
k
a
†
(
k
)
a
(
k
)
{\displaystyle \mathbf {P} ={\frac {1}{2}}\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}\mathbf {k} (N[a^{\dagger }(k)a(k)+a(k)a(k)^{\dagger }])=\int {\frac {d^{3}\mathbf {k} }{(2\pi )^{3}2k_{0}}}\mathbf {k} a^{\dagger }(k)a(k)}
となり、真空期待値の発散量を取り除くことができる。
Michael E. Peskin and Daniel V. Schroeder , An Introduction To Quantum Field Theory , Addison-Wesley, Reading, 1995.