欧州横断輸送ネットワーク
欧州横断輸送ネットワーク (英: Trans-European Transport Network, TEN-T) は、欧州連合圏の道路、鉄道、空港、水路の各インフラによる輸送ネットワークである。TEN-Tネットワークは、通信ネットワーク(eTEN)とエネルギーネットワーク(TEN-E, Ten-Energy)を含む、広義の欧州横断ネットワーク(英: Trans-European Networks、TENs)の一部である。欧州委員会は、1990年に欧州横断ネットワークの最初の行動計画を採択した[1]。
TEN-Tは、統合し組み合わせることにより長距離の高速経路を提供する、主要道路、鉄道、運河、空港、海港、内陸港、交通管理システムの調整された改善を想定している。1996年7月に欧州議会と理事会によりTEN-Tの目的、優先順位、およびガイドラインが決定された[2]。EUは、リーダーシップ、調整、ガイドラインの発行、開発の資金調達の側面を組み合わせて、ネットワークの促進に取り組んでいる。
これらの計画は、2013年12月31日をもって欧州横断輸送ネットワーク実行局(英: Trans-European Transport Network Executive Agency:TEN-T EA)に代わりイノベーション・ネットワーク(英: Innovation and Networks Executive Agency:INEA)により技術的および財政的に管理されている。
歴史
[編集]TEN-Tの指針は、欧州横断輸送ネットワークの開発に関する欧州共同体の指針として、1996年7月23日に欧州議会および理事会により指令 No 1692/96/EC[2]とともに採択された。2001年5月に、欧州議会と理事会は、港、内陸港、インターモーダルターミナルに関するTEN-Tの指針を改正する指令 No 1346/2001/ECを採択した[3]。
2004年4月に、欧州議会と理事会は、欧州横断輸送ネットワークの開発に関する欧州共同体の指針No 1692/96/ECの決定を改正する指令 No 884/2004/ECを採択した[4]。この2004年4月の改正は、EU拡大とそれによる交通流の変化に対応することを目的としたTEN-Tの方針の根本的な変更であった[5]。
2017年には、欧州横断輸送ネットワークは東欧に拡張され、東欧加盟国を含むように決定された[6][7]。
- 優先軸および計画
2013年10月17日に、9件の計画が公表された[8][9]。 それらは以下である。
- バルト海=アドリア海回廊 (ポーランド - チェコ/スロバキア - オーストリア - イタリア)
- 北海=バルト海回廊 (フィンランド - エストニア - ラトヴィア - リトアニア - ポーランド - ドイツ - オランダ/ベルギー)
- 地中海回廊 (スペイン - フランス - 北イタリア - スロヴェニア - クロアチア - ハンガリー)
- 東部/東地中海回廊 (ドイツ - チェコ - ハンガリー - ルーマニア - ブルガリア - ギリシア - キプロス)
- スカンジナビア=地中海回廊 (フィンランド - スウェーデン - デンマーク - ドイツ - オーストリア - イタリア)
- ライン川=アルプス回廊 (オランダ/ベルギー - ドイツ - スイス - イタリア)
- 大西洋回廊 (ポルトガル - スペイン - フランス)
- 北海=地中海回廊 (アイルランド - 英国 - オランダ - ベルギー - ルクセンブルク - 南フランス)注:英国のEU脱退により、アイルランド - ベルギー - オランダおよびアイルランド - フランスに変更
- ライン川=ドナウ川回廊 (ドイツ - オーストリア - スロヴァキア - ハンガリー - ルーマニア 水路が主)
2021年7月、EU規則2021/1153(欧州接続ファシリティ2)により、9つのコアネットワーク回廊が部分的に(例:大西洋、北海=バルト海、スカンジナビア=地中海)大幅に拡大された。一方、ブレグジットの影響で、北海=地中海回廊はアイルランド – ベルギー・オランダおよびアイルランド – フランスに変更された。
2021年12月、欧州委員会は新しいTEN-Tガイドラインに関する規則案(COM 2021/821)を提出し、その中で、いくつかのコアネットワーク回廊(オリエント=東地中海、北海=地中海)の解消、それらを他の回廊(ライン=ドナウ、北海=アルプス)に統合すること、新たに整合された回廊(バルト海=黒海=エーゲ海、西バルカン)を創設することなどを提案している[10]。
- 近隣地域への接続
TEN-Tのバルカン地域(アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビア)における開発は、2017年に南東ヨーロッパ交通共同体(Southeast Europe Transport Community、単にTransport Communityとも)に委任された。
2017年には、TEN-Tが東ヨーロッパへさらに拡大され、東方パートナーシップの加盟国(アルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、ジョージア、モルドバ、ウクライナ)が含まれることが決定された[11][12]。TEN-Tの最東端への拡大は、2019年2月にアルメニアに到達した[13]。
2021年の提案では、TEN-Tの接続はイギリス、スイス、地中海南部、トルコ、西バルカン諸国にも拡大されることが予定されている。
2022年7月には、汎ヨーロッパ回廊の4回廊をモルドバおよびウクライナと結び、ロシアとベラルーシをTEN-Tの地図から除外することが合意された[14]。2023年8月の報告では、モルドバとウクライナをEUの鉄道網に統合するために標準軌(1435mm)の線路を拡張することが推奨され、一部の路線は建設中の混乱を避けるために1520mmの線路と並行して敷設されることが提案された[15]。
主要ネットワーク
[編集]これがTEN-T主要ネットワーク回廊の全リストである[16][17]。
回廊番号 | 名称[18] | 始点 | 経由地 | 終点 | 距離(km) |
---|---|---|---|---|---|
1 | バルト海=アドリア海回廊 | グディニャ | ウィーン | ラヴェンナ | 2,400 km[18] |
2 | 北海=バルト海回廊 | ヘルシンキ | ワルシャワ | アントワープ | 3,200 km[19] |
3 | 地中海回廊 | アルヘシラス | リヨン – ヴェネツィア | ミシュコルツ | ~ 3,000 km[18] |
4 | 東部=東地中海回廊 | ハンブルク | ブダペスト – ソフィア | ニコシア | ~ 3,700 km |
5 | スカンジナビア=地中海回廊 | ヘルシンキ | コペンハーゲン – ミュンヘン | バレッタ | 4,858 km |
6 | ライン川=アルプス回廊 | ジェノヴァ | ケルン | ロッテルダム | 1,300 km |
7 | 大西洋回廊 | リスボン | ビトリア=ガステイス | ストラスブール | 8,200 km[20] |
8 | 北海=地中海回廊 | ダブリン | コーク – ル・アーヴル | ブリュッセル | 933 km |
9 | ライン川=ドナウ川回廊 | ストラスブール | ブダペスト | コンスタンツァ | 2137km |
資金調達年表
[編集]TEN-T方針の実施に対する財政的支援は、以下の規則に由来している。
- EC規則 No 2236/95 1995年9月19日 欧州横断ネットワークの領域での欧州共同体の財政支援許可に関する一般規則[21]
- EC規則 No 1655/1999 1999年7月19日の欧州議会および理事会によるEC規則 No 2236/95の改定[22]
- EC規則 No 807/2004 2004年4月21日の欧州議会および理事会によるEC規則 No 2236/95の改定[23]
- EC規則 No 1316/2013 2013年12月11日のコネクティングヨーロッパファシリティ設立、および、EC規則 No 913/2010の修正、EC規則 No 680/2007 と EC規則 No 67/2010 の廃止[25][注釈 2]
- EC規則 No 2021/1153 2021年7月7日のコネクティングヨーロッパファシリティの設立、および、EC規則 No 1316/2013 と EC規則 No 283/2014 の廃止[26]
概して、TEN-T計画はほとんどが国家予算で賄われている。その他の財源は、欧州共同体基金(欧州地域開発基金, 結束基金, TEN-T財源)、国際金融機関(欧州投資銀行など)からの融資、および私的出資会社、などである。
輸送ネットワーク一覧
[編集]各輸送モードにはネットワークがある。そのネットワークは以下である[2]。
- 欧州横断道路ネットワーク
- 欧州横断鉄道ネットワーク(欧州横断高速鉄道ネットワークと欧州横断在来鉄道ネットワークを含む)
- 欧州横断内陸水路ネットワークおよび内陸港
- 欧州横断海港ネットワーク
- 海の高速道路 (No 884/2004/ECで追加された[4])
- 欧州横断空港ネットワーク
- 欧州横断複合輸送ネットワーク
- 欧州横断配送管理情報ネットワーク
- 欧州横断航空交通管理ネットワーク("欧州の空はひとつ"コンセプト、SESARコンセプトを含む)
- 欧州横断位置特定およびナビゲーションネットワーク(ガリレオを含む)
以前の優先事項
[編集]1994年のエッセン会議にて欧州理事会は当時の副委員長ヘニング・クリストファーゼンを頭とするグループにより計画された14のTEN-Tの特定の計画のリストを承認した[1]。ヴァン・ミエルトのTEN-T上位グループからの2003年の勧告に従い、委員会は2010年までに立ち上げられる30の優先計画のリストをまとめた[27]。
30の軸と優先計画は以下だった[28]。
- 鉄道軸: ベルリン - ヴェローナ/ミラノ - ボローニャ - ナポリ - メッシーナ - パレルモ
- 高速鉄道軸: パリ - ブリュッセル - ケルン - アムステルダム - ロンドン
- 高速鉄道軸(欧州南西部)
- 高速鉄道軸(欧州東部)
- ベートゥヴェルート
- 鉄道軸 リヨン - トリエステ - ディヴァーチャ/コペル - ディヴァーチャ - リュブリャナ - ブダペスト - ウクライナ国境[27]:34
- 高速道路軸 イグメニツァ/パトラス - アテネ - ソフィア - ブダペスト
- 複合モード軸 ポルトガル/スペイン - その他の欧州
- 鉄道軸 コーク - ダブリン - ベルファスト - ストランラー
- マルペンサ空港
- オーレスン・リンク
- ノルディック・トライアングル鉄道/道路軸
- UK/アイルランド/ベネルクス道路軸
- ウェスト・コースト本線
- ガリレオ
- 貨物鉄道軸 シーネス/アルヘシラス - マドリッド - パリ
- 鉄道軸 パリ - ストラスブール - シュトゥットガルト - ウィーン - ブラティスラヴァ
- ライン川/マース川 - マイン川 - ドナウ川 内陸水路軸
- イベリア半島高速鉄道相互運用
- フェーマルン・ベルトトンネル
- 海の高速道路
- 鉄道軸 アテネ - ソフィア - ブダペスト - ウィーン - プラハ - ニュルンベルク/ドレスデン
- 鉄道軸 グダンスク - ワルシャワ - ブルーノ/ブラティスラヴァ - ウィーン
- 鉄道軸 リヨン/ジェノヴァ - バーゼル - ドュイスブルク - ロッテルダム/アントワープ
- 高速道路軸 グダンスク - ブルーノ/ブラティスラヴァ - ウィーン
- 鉄道/道路軸 アイルランド/UK/欧州大陸
- バルト海鉄道軸 ワルシャワ - カウナス - リーガ - タリン - ヘルシンキ
- ユーロキャップ鉄道軸 ブリュッセル - ルクセンブルク - ストラスブール
- 鉄道軸 イオニア海/アドリア海複合モード回廊
- 内陸水路 セーヌ川 - スヘルデ川
2019時点で、2、5、11は完成している。また、12と17のように進行中のものもあり、20と27のように着手前のものもある。
関連ネットワーク
[編集]TENsのネットワークに加えて、10の汎ヨーロッパ回廊がある。これらは主要都市と港、主に東欧域で大規模な投資が必要とされている。
欧州内の主要道路ネットワークが、欧州自動車道路として定義されている。これは国際連合欧州経済委員会により決められている。これらには、"E"+番号の形(例"E1")で道路名がつけられている。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b “Ten-T PP Axes Projects”. December 29, 2021閲覧。
- ^ a b c “Decision No 1692/96/EC of the European Parliament and of the Council of 23 July 1996 on Community guidelines for the development of the trans-European transport network”. December 31, 2021閲覧。
- ^ “Decision No 1346/2001/EC”. April 30, 2022閲覧。
- ^ a b “Decision No 884/2004/EC”. April 30, 2022閲覧。
- ^ “Draft proposal for a DECISION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on Community gudelines for the development of the trans-European transport network”. April 30, 2022閲覧。
- ^ “Armenia's FM attends Eastern Partnership and Visegrad Four Foreign Ministers' meeting”. April 30, 2022閲覧。
- ^ “Ukraine joins Trans-European Transport Networks”. April 30, 2022閲覧。
- ^ “New EU transport infrastructure policy – background”. April30, 2022閲覧。
- ^ “Corridors”. April 30, 2022閲覧。
- ^ “Questions and Answers: The revision of the TEN-T Regulation” (14 December 2021). 2024年10月17日閲覧。
- ^ “Armenia's FM attends Eastern Partnership and Visegrad Four Foreign Ministers' meeting | ARMENPRESS Armenian News Agency”. 2024年10月17日閲覧。
- ^ Ukraine joins Trans-European Transport Networks, UNIAN (27 November 2017)
- ^ “EU reiterates its readiness to deepen political and economic relations with Armenia | ARMENPRESS Armenian News Agency”. 2024年10月17日閲覧。
- ^ “Commission amends TEN-T proposal to reflect impacts on infrastructure of Russia's war of aggression against Ukraine” (27 July 2022). 2024年10月17日閲覧。
- ^ “EIB study set out first steps for standard-gauge links to Ukraine and Moldova” (7 August 2023). 2024年10月17日閲覧。
- ^ “Trans-European Transport Network (TEN-T)”. April 30, 2022閲覧。
- ^ “TRANS-EUROPEAN TRANSPORT NETWORK”. April 30, 2022閲覧。
- ^ a b c “Corridor descriptions - European Commission - Europa EU”. ec.europa.eu. 15 February 2020閲覧。 “This 3200 km long corridor will connect the ports of the Eastern shore of the Baltic Sea with the ports of the North Sea.”
- ^ “North Sea-Baltic Corridor”. ec.europa.eu. 15 February 2020閲覧。
- ^ “The Atlantic Corridor” (英語). transport.ec.europa.eu. 2023年8月11日閲覧。
- ^ “Council Regulation (EC) No 2236/95 of 18 September 1995 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of trans-European networks”. May 20, 2022閲覧。
- ^ “Regulation (EC) No 1655/1999 of the European Parliament and of the Council of 19 July 1999 amending Regulation (EC) No 2236/95 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of trans-European networks”. May 20, 2022閲覧。
- ^ “Regulation (EC) No 807/2004 of the European Parliament and of the Council of 21 April 2004 amending Council Regulation (EC) No 2236/95 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of trans-European networks”. May 20, 2022閲覧。
- ^ “REGULATION (EC) No 680/2007 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 20 June 2007 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of the trans-European transport and energy networks”. May 20, 2022閲覧。
- ^ “REGULATION (EU) No 1316/2013 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 11 December 2013 establishing the Connecting Europe Facility, amending Regulation (EU) No 913/2010 and repealing Regulations (EC) No 680/2007 and (EC) No 67/2010”. May 20, 2022閲覧。
- ^ “REGULATION (EU) 2021/1153 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 7 July 2021 establishing the Connecting Europe Facility and repealing Regulations (EU) No 1316/2013 and (EU) No 283/2014”. May 20, 2022閲覧。
- ^ a b “Van Miert report”. May 21, 2022閲覧。
- ^ “INNOVATION AND NETWORKS EXECUTIVE AGENCY Priority Project 6”. May 21, 2022閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Trans-European Transport Network (TEN-T) at European Union official web site
- TEN-T Map (as of 2020)
- Plans as of October 2013