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欧州横断輸送ネットワーク

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
欧州横断輸送ネットワークの地図(2024年)
欧州横断輸送ネットワークの全体及びコアネットワークの地図(EU指令2019/154)

欧州横断輸送ネットワーク (: Trans-European Transport Network, TEN-T) は、欧州連合圏の道路、鉄道、空港、水路の各インフラによる輸送ネットワークである。TEN-Tネットワークは、通信ネットワーク(eTEN)とエネルギーネットワーク(TEN-E, Ten-Energy)を含む、広義の欧州横断ネットワーク(: Trans-European Networks、TENs)の一部である。欧州委員会は、1990年に欧州横断ネットワークの最初の行動計画を採択した[1]

TEN-Tは、統合し組み合わせることにより長距離の高速経路を提供する、主要道路、鉄道、運河、空港、海港、内陸港、交通管理システムの調整された改善を想定している。1996年7月に欧州議会と理事会によりTEN-Tの目的、優先順位、およびガイドラインが決定された[2]。EUは、リーダーシップ、調整、ガイドラインの発行、開発の資金調達の側面を組み合わせて、ネットワークの促進に取り組んでいる。

これらの計画は、2013年12月31日をもって欧州横断輸送ネットワーク実行局(: Trans-European Transport Network Executive Agency:TEN-T EA)に代わりイノベーション・ネットワーク(: Innovation and Networks Executive Agency:INEA)により技術的および財政的に管理されている。

歴史

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TEN-Tの指針は、欧州横断輸送ネットワークの開発に関する欧州共同体の指針として、1996年7月23日に欧州議会および理事会により指令 No 1692/96/EC[2]とともに採択された。2001年5月に、欧州議会と理事会は、港、内陸港、インターモーダルターミナルに関するTEN-Tの指針を改正する指令 No 1346/2001/ECを採択した[3]

2004年4月に、欧州議会と理事会は、欧州横断輸送ネットワークの開発に関する欧州共同体の指針No 1692/96/ECの決定を改正する指令 No 884/2004/ECを採択した[4]。この2004年4月の改正は、EU拡大とそれによる交通流の変化に対応することを目的としたTEN-Tの方針の根本的な変更であった[5]

2017年には、欧州横断輸送ネットワークは東欧に拡張され、東欧加盟国を含むように決定された[6][7]

優先軸および計画

2013年10月17日に、9件の計画が公表された[8][9]。 それらは以下である。

  1. バルト海=アドリア海回廊 (ポーランド - チェコ/スロバキア - オーストリア - イタリア)
  2. 北海=バルト海回廊 (フィンランド - エストニア - ラトヴィア - リトアニア - ポーランド - ドイツ - オランダ/ベルギー)
  3. 地中海回廊 (スペイン - フランス - 北イタリア - スロヴェニア - クロアチア - ハンガリー)
  4. 東部/東地中海回廊 (ドイツ - チェコ - ハンガリー - ルーマニア - ブルガリア - ギリシア - キプロス)
  5. スカンジナビア=地中海回廊 (フィンランド - スウェーデン - デンマーク - ドイツ - オーストリア - イタリア)
  6. ライン川=アルプス回廊 (オランダ/ベルギー - ドイツ - スイス - イタリア)
  7. 大西洋回廊 (ポルトガル - スペイン - フランス)
  8. 北海=地中海回廊 (アイルランド - 英国 - オランダ - ベルギー - ルクセンブルク - 南フランス)注:英国のEU脱退により、アイルランド - ベルギー - オランダおよびアイルランド - フランスに変更
  9. ライン川=ドナウ川回廊 (ドイツ - オーストリア - スロヴァキア - ハンガリー - ルーマニア 水路が主)

2021年7月、EU規則2021/1153(欧州接続ファシリティ2)により、9つのコアネットワーク回廊が部分的に(例:大西洋、北海=バルト海、スカンジナビア=地中海)大幅に拡大された。一方、ブレグジットの影響で、北海=地中海回廊はアイルランド – ベルギー・オランダおよびアイルランド – フランスに変更された。

2021年12月、欧州委員会は新しいTEN-Tガイドラインに関する規則案(COM 2021/821)を提出し、その中で、いくつかのコアネットワーク回廊(オリエント=東地中海、北海=地中海)の解消、それらを他の回廊(ライン=ドナウ、北海=アルプス)に統合すること、新たに整合された回廊(バルト海=黒海=エーゲ海、西バルカン)を創設することなどを提案している[10]

近隣地域への接続

TEN-Tのバルカン地域アルバニアボスニア・ヘルツェゴビナコソボモンテネグロ北マケドニアセルビア)における開発は、2017年に南東ヨーロッパ交通共同体(Southeast Europe Transport Community、単にTransport Communityとも)に委任された。

2017年には、TEN-Tが東ヨーロッパへさらに拡大され、東方パートナーシップの加盟国(アルメニアアゼルバイジャンベラルーシジョージアモルドバウクライナ)が含まれることが決定された[11][12]。TEN-Tの最東端への拡大は、2019年2月にアルメニアに到達した[13]

2021年の提案では、TEN-Tの接続はイギリス、スイス、地中海南部、トルコ、西バルカン諸国にも拡大されることが予定されている。

2022年7月には、汎ヨーロッパ回廊の4回廊をモルドバおよびウクライナと結び、ロシアベラルーシをTEN-Tの地図から除外することが合意された[14]。2023年8月の報告では、モルドバとウクライナをEUの鉄道網に統合するために標準軌(1435mm)の線路を拡張することが推奨され、一部の路線は建設中の混乱を避けるために1520mmの線路と並行して敷設されることが提案された[15]

主要ネットワーク

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これがTEN-T主要ネットワーク回廊の全リストである[16][17]

回廊番号 名称[18] 始点 経由地 終点 距離(km)
1 バルト海=アドリア海回廊 ポーランドの旗 グディニャ オーストリアの旗 ウィーン イタリアの旗 ラヴェンナ 2,400 km[18]
2 北海=バルト海回廊 フィンランドの旗 ヘルシンキ ポーランドの旗 ワルシャワ ベルギーの旗 アントワープ 3,200 km[19]
3 地中海回廊 スペインの旗 アルヘシラス フランスの旗 リヨンイタリアの旗 ヴェネツィア ハンガリーの旗 ミシュコルツ ~ 3,000 km[18]
4 東部=東地中海回廊 ドイツの旗 ハンブルク ハンガリーの旗 ブダペストブルガリアの旗 ソフィア キプロスの旗 ニコシア ~ 3,700 km
5 スカンジナビア=地中海回廊 フィンランドの旗 ヘルシンキ デンマークの旗 コペンハーゲンドイツの旗 ミュンヘン マルタの旗 バレッタ 4,858 km
6 ライン川=アルプス回廊 イタリアの旗 ジェノヴァ ドイツの旗 ケルン オランダの旗 ロッテルダム 1,300 km
7 大西洋回廊 ポルトガルの旗 リスボン スペインの旗 ビトリア=ガステイス フランスの旗 ストラスブール 8,200 km[20]
8 北海=地中海回廊 アイルランドの旗 ダブリン アイルランドの旗 コークフランスの旗 ル・アーヴル ベルギーの旗 ブリュッセル 933 km
9 ライン川=ドナウ川回廊 フランスの旗 ストラスブール ハンガリーの旗 ブダペスト ルーマニアの旗 コンスタンツァ 2137km

資金調達年表

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TEN-T方針の実施に対する財政的支援は、以下の規則に由来している。

  • EC規則 No 2236/95 1995年9月19日 欧州横断ネットワークの領域での欧州共同体の財政支援許可に関する一般規則[21]
  • EC規則 No 1655/1999 1999年7月19日の欧州議会および理事会によるEC規則 No 2236/95の改定[22]
  • EC規則 No 807/2004 2004年4月21日の欧州議会および理事会によるEC規則 No 2236/95の改定[23]
  • EC規則 No 680/2007 2007年6月20日の欧州議会および理事会による欧州横断輸送/エネルギーネットワークに対する欧州共同体の財政支援を許諾する一般規則[24][注釈 1]
  • EC規則 No 1316/2013 2013年12月11日のコネクティングヨーロッパファシリティ設立、および、EC規則 No 913/2010の修正、EC規則 No 680/2007 と EC規則 No 67/2010 の廃止[25][注釈 2]
  • EC規則 No 2021/1153 2021年7月7日のコネクティングヨーロッパファシリティの設立、および、EC規則 No 1316/2013 と EC規則 No 283/2014 の廃止[26]

概して、TEN-T計画はほとんどが国家予算で賄われている。その他の財源は、欧州共同体基金(欧州地域開発基金, 結束基金, TEN-T財源)、国際金融機関(欧州投資銀行など)からの融資、および私的出資会社、などである。

輸送ネットワーク一覧

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輸送モードにはネットワークがある。そのネットワークは以下である[2]

以前の優先事項

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1994年のエッセン会議にて欧州理事会は当時の副委員長ヘニング・クリストファーゼンを頭とするグループにより計画された14のTEN-Tの特定の計画のリストを承認した[1]ヴァン・ミエルトのTEN-T上位グループからの2003年の勧告に従い、委員会は2010年までに立ち上げられる30の優先計画のリストをまとめた[27]

30の軸と優先計画は以下だった[28]

  1. 鉄道軸: ベルリン - ヴェローナ/ミラノ - ボローニャ - ナポリ - メッシーナ - パレルモ
  2. 高速鉄道軸: パリ - ブリュッセル - ケルン - アムステルダム - ロンドン
  3. 高速鉄道軸(欧州南西部)
  4. 高速鉄道軸(欧州東部)
  5. ベートゥヴェルート
  6. 鉄道軸 リヨン - トリエステ - ディヴァーチャ/コペル - ディヴァーチャ - リュブリャナ - ブダペスト - ウクライナ国境[27]:34
  7. 高速道路軸 イグメニツァ/パトラス - アテネ - ソフィア - ブダペスト
  8. 複合モード軸 ポルトガル/スペイン - その他の欧州
  9. 鉄道軸 コーク - ダブリン - ベルファスト - ストランラー
  10. マルペンサ空港
  11. オーレスン・リンク
  12. ノルディック・トライアングル鉄道/道路軸
  13. UK/アイルランド/ベネルクス道路軸
  14. ウェスト・コースト本線
  15. ガリレオ
  16. 貨物鉄道軸 シーネス/アルヘシラス - マドリッド - パリ
  17. 鉄道軸 パリ - ストラスブール - シュトゥットガルト - ウィーン - ブラティスラヴァ
  18. ライン川/マース川 - マイン川 - ドナウ川 内陸水路軸
  19. イベリア半島高速鉄道相互運用
  20. フェーマルン・ベルトトンネル
  21. 海の高速道路
  22. 鉄道軸 アテネ - ソフィア - ブダペスト - ウィーン - プラハ - ニュルンベルク/ドレスデン
  23. 鉄道軸 グダンスク - ワルシャワ - ブルーノ/ブラティスラヴァ - ウィーン
  24. 鉄道軸 リヨン/ジェノヴァ - バーゼル - ドュイスブルク - ロッテルダム/アントワープ
  25. 高速道路軸 グダンスク - ブルーノ/ブラティスラヴァ - ウィーン
  26. 鉄道/道路軸 アイルランド/UK/欧州大陸
  27. バルト海鉄道軸 ワルシャワ - カウナス - リーガ - タリン - ヘルシンキ
  28. ユーロキャップ鉄道軸 ブリュッセル - ルクセンブルク - ストラスブール
  29. 鉄道軸 イオニア海/アドリア海複合モード回廊
  30. 内陸水路 セーヌ川 - スヘルデ川

2019時点で、2、5、11は完成している。また、12と17のように進行中のものもあり、20と27のように着手前のものもある。

関連ネットワーク

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TENsのネットワークに加えて、10の汎ヨーロッパ回廊がある。これらは主要都市と港、主に東欧域で大規模な投資が必要とされている。

欧州内の主要道路ネットワークが、欧州自動車道路として定義されている。これは国際連合欧州経済委員会により決められている。これらには、"E"+番号の形(例"E1")で道路名がつけられている。

脚注

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注釈

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  1. ^ この規則は2013年12月31日までの財政支援の規則であり、次に続くEC規則により廃止されている
  2. ^ この規則は2020年12月31日までの財政支援の規則であり、次に続くEC規則により廃止されている。

出典

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  1. ^ a b Ten-T PP Axes Projects”. December 29, 2021閲覧。
  2. ^ a b c Decision No 1692/96/EC of the European Parliament and of the Council of 23 July 1996 on Community guidelines for the development of the trans-European transport network”. December 31, 2021閲覧。
  3. ^ Decision No 1346/2001/EC”. April 30, 2022閲覧。
  4. ^ a b Decision No 884/2004/EC”. April 30, 2022閲覧。
  5. ^ Draft proposal for a DECISION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on Community gudelines for the development of the trans-European transport network”. April 30, 2022閲覧。
  6. ^ Armenia's FM attends Eastern Partnership and Visegrad Four Foreign Ministers' meeting”. April 30, 2022閲覧。
  7. ^ Ukraine joins Trans-European Transport Networks”. April 30, 2022閲覧。
  8. ^ New EU transport infrastructure policy – background”. April30, 2022閲覧。
  9. ^ Corridors”. April 30, 2022閲覧。
  10. ^ Questions and Answers: The revision of the TEN-T Regulation” (14 December 2021). 2024年10月17日閲覧。
  11. ^ Armenia's FM attends Eastern Partnership and Visegrad Four Foreign Ministers' meeting | ARMENPRESS Armenian News Agency”. 2024年10月17日閲覧。
  12. ^ Ukraine joins Trans-European Transport Networks, UNIAN (27 November 2017)
  13. ^ EU reiterates its readiness to deepen political and economic relations with Armenia | ARMENPRESS Armenian News Agency”. 2024年10月17日閲覧。
  14. ^ Commission amends TEN-T proposal to reflect impacts on infrastructure of Russia's war of aggression against Ukraine” (27 July 2022). 2024年10月17日閲覧。
  15. ^ EIB study set out first steps for standard-gauge links to Ukraine and Moldova” (7 August 2023). 2024年10月17日閲覧。
  16. ^ Trans-European Transport Network (TEN-T)”. April 30, 2022閲覧。
  17. ^ TRANS-EUROPEAN TRANSPORT NETWORK”. April 30, 2022閲覧。
  18. ^ a b c Corridor descriptions - European Commission - Europa EU”. ec.europa.eu. 15 February 2020閲覧。 “This 3200 km long corridor will connect the ports of the Eastern shore of the Baltic Sea with the ports of the North Sea.”
  19. ^ North Sea-Baltic Corridor”. ec.europa.eu. 15 February 2020閲覧。
  20. ^ The Atlantic Corridor” (英語). transport.ec.europa.eu. 2023年8月11日閲覧。
  21. ^ Council Regulation (EC) No 2236/95 of 18 September 1995 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of trans-European networks”. May 20, 2022閲覧。
  22. ^ Regulation (EC) No 1655/1999 of the European Parliament and of the Council of 19 July 1999 amending Regulation (EC) No 2236/95 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of trans-European networks”. May 20, 2022閲覧。
  23. ^ Regulation (EC) No 807/2004 of the European Parliament and of the Council of 21 April 2004 amending Council Regulation (EC) No 2236/95 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of trans-European networks”. May 20, 2022閲覧。
  24. ^ REGULATION (EC) No 680/2007 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 20 June 2007 laying down general rules for the granting of Community financial aid in the field of the trans-European transport and energy networks”. May 20, 2022閲覧。
  25. ^ REGULATION (EU) No 1316/2013 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 11 December 2013 establishing the Connecting Europe Facility, amending Regulation (EU) No 913/2010 and repealing Regulations (EC) No 680/2007 and (EC) No 67/2010”. May 20, 2022閲覧。
  26. ^ REGULATION (EU) 2021/1153 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 7 July 2021 establishing the Connecting Europe Facility and repealing Regulations (EU) No 1316/2013 and (EU) No 283/2014”. May 20, 2022閲覧。
  27. ^ a b Van Miert report”. May 21, 2022閲覧。
  28. ^ INNOVATION AND NETWORKS EXECUTIVE AGENCY Priority Project 6”. May 21, 2022閲覧。

関連項目

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外部リンク

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