コンテンツにスキップ

山口組外伝 九州進攻作戦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
山口組外伝 九州進攻作戦
The Tattooed Hitman
監督 山下耕作
脚本 高田宏治 ジャック・ショルダー(アメリカ公開版)
原作 飯干晃一
ナレーター 藤崎照彦
出演者 菅原文太
梅宮辰夫
伊吹吾郎
松方弘樹
渡瀬恒彦
渚まゆみ
音楽 八木正生
撮影 山岸長樹
編集 市田勇
製作会社 東映
配給 東映
公開 日本の旗 1974年4月27日
上映時間 106分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
配給収入 4億500万円[1]
テンプレートを表示

山口組外伝 九州進攻作戦』(やまぐちぐみがいでん きゅうしゅうしんこうさくせん)は、1974年日本映画。主演:菅原文太、監督:山下耕作東映京都撮影所製作、東映配給。併映『殺人拳2』(千葉真一主演、小沢茂弘監督)。アメリカ公開時のタイトルは『The Tattooed Hitman』で『ヒドゥン』や『エルム街の悪夢2 フレディの復讐』を監督したジャック・ショルダー脚本とポスターデザインを担当した。

概要

[編集]

1973年の『仁義なき戦い』の大ヒット以降、東映は実録ヤクザ路線と銘打ち[2]各地の暴力団抗争をモデルとした映画を製作した[3]。特に同年『山口組三代目』が大ヒットし、山口組の全国進攻は実録路線の元ネタとしては最適であったため[4]、これを題材とする映画を次々製作したが、このうち山口組の急先鋒として西日本を暴れまわった伝説の男・夜桜銀次(本名:平岡国人)をモデルとしてその一生を描いたものが本作である[5]

あらすじ

[編集]

全身に夜桜刺青をした実在のやくざ・夜桜銀次が関わった抗争事件、別府抗争明友会事件博多事件を軸に銀次の生涯を描く[6][7]

出演

[編集]

スタッフ

[編集]

製作

[編集]

企画・脚本

[編集]

原作は飯干晃一となっているが、飯干の原作本を映画化したのではなく、飯干が夜桜銀次を週刊誌に取り上げた記事をプロデューサーの日下部五朗が読み「夜桜銀次を主人公にしたら面白い」と映画化したもの[8]。ただ飯干には原作料を支払った[9]。当時はまだ夜桜銀次の名前は極道社会でもあまり知られていなかったという[8]。役名は微妙に書き換えられているが、内容はほぼ史実に基づく[5]

『山口組外伝 九州進攻作戦』というタイトルについて、田岡一雄山口組組長から「夜桜銀次の事件は山口組とは関係ない事件だから、組の名は使ってほしくない」とクレームを受けた[9][10]。しかし、岡田茂東映社長は「映画の題名は、人間でいえば顔や。顔は変えられん。顔が悪いとお客は来てくれん。山口組という名が題名に入ってるから、みんな興味をそそられて来てくれるんやぜ」と話し、徹底した商売人の姿勢を見せてタイトル変更をしなかった[10]。山口組という名をタイトルに入れるため、田岡満が社長を務めるジャパン・トレードに協力費500万円が支払われた[11]。しかし映画内の山口組は兵頭組という名前に変えた[10]。このような話は全部宣伝を狙った東映の戦略で、実は最初から田岡満が企画に参加していて、ネタを探しているとき、夜桜銀次が出て来て、映画化しようとなったという説もある[9]

興行成績

[編集]

タイトルに山口組が入り『山口組三代目』の続編的な臭いを含んだこと[12]、制作途上から数々の話題を呼んだこと[12]、併映『殺人拳2』も空手ブームに乗って強く大ヒットした[12]

逸話

[編集]
  • 日下部は、夜桜銀次が舎弟だった大分県別府市石井組山口組系)に挨拶にいった時、雪隠詰めにされた。「夜桜銀次みたいなチンピラをスター扱いしやがって書いた奴を連れて来い!」と怒鳴られ、日下部は二日後、東映本社からこのことを知らされた田岡一雄の"鶴の一声"で釈放されるまで、ホテルに軟禁された[8][13]
  • 脚本の高田宏治も取材で夜桜銀次を知っている人に何人か会ったが、銀次を褒める人は誰もいなかったという[7]賭場での行儀の悪いヤクネタ(暴れ者)で、理性なく向かってくるので、やくざたちでさえ当たらず障らずしていたのが真相で、チンピラの死が、九州と関西の大戦争の引き金を引いたことで、その名を大きくしたのだろうと述べている[7]
  • 安藤ふさ子役で出演した渚まゆみ1973年12月28日に、年齢差27歳の浜口庫之助と電撃結婚をして世間を驚かせた[14][15][16]。渚は本作直前に封切られた『仁義なき戦い 頂上作戦』では、長谷川明男にでオッパイを揉み上げられる濃厚なカーセックスを演じたが、浜口と結婚したことで「ハダカは先生だけのためよ」と吹き替えを要求[15][16]。このため本作での菅原文太との濡れ場は吹き替えである[15][16]。渚は本作を最後に27歳で引退している[14]

同時上映

[編集]

殺人拳2

山口組の全国進攻を描いた作品

[編集]

仁義なき戦いシリーズ」の第三部『仁義なき戦い 代理戦争』の作中、山口組(映画では明石組)の全国進攻を映像とテロップで駆け足で説明するシーンがあり[17]、「昭和37年5月九州博多事件」としてテロップで流れるものを映画化したのが本作[7][17]。このシーンで銃殺されるヤクザが夜桜銀次[17]。この他「昭和36年6月 義友会事件」とテロップで流れるのは明友会事件のことで、本作にも双竜会として登場し『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』(1975年)や『実録外伝 大阪電撃作戦』(1976年)、『やくざ戦争 日本の首領』(1977年)もこの明友会事件をモデルとしている。また「昭和36年7月 石川組組長刺殺事件」は、奈良県大和郡山市で起きた喜多久一刺殺事件で、殺害した柳川組は、先の『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』『実録外伝 大阪電撃作戦』の両映画にもモデルとして登場する[17]。東映が山口組を題材にした映画が量産できたのは山口組・田岡一雄組長の息子・田岡満をスタッフに入れていたためで[18]、『山口組三代目』(1973年)を製作する際に、岡田茂東映社長(当時)が田岡一雄に「田岡満さんをプロデューサーにして映画を一緒に作らせてほしい」と申し出ていた[19]。田岡一雄は息子の田岡満の仕事は何でもOKだったため[20]、田岡一雄ではなく、田岡満がすべての脚本をチェックすることで、映画に取り上げられた組関係者に、協力はしても反対はするなと指示を出していたといわれる[20][21][22]

関連映画

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ 『キネマ旬報ベスト・テン85回全史 1924-2011』(キネマ旬報社、2012年)322頁
  2. ^ 「『仁義なき戦い』製作発表」『キネマ旬報』1973年1月新年特別号、177頁。 キネマ旬報』1973年2月決算特別号、39頁。 
  3. ^ 東映実録路線中毒 ANARCHY & VIOLENCE/ラピュタ阿佐ケ谷
  4. ^ 高田宏治『東映実録路線 最後の真実』メディアックス、2014年、71頁。ISBN 978-4-86201-487-0 
  5. ^ a b 「実録やくざ映画大全」『映画秘宝』、洋泉社、2013年5月、120-121頁。 
  6. ^ 山口組外伝 九州進攻作戦 - 福岡市フィルムアーカイヴ
  7. ^ a b c d 「作品紹介:高田宏治」『東映実録路線 最後の真実』、78-79頁
  8. ^ a b c 「日下部五朗インタビュー」『実録やくざ映画大全』、126-129頁
  9. ^ a b c 「ウの目タカの目 『山口組』をめぐる仁義なき戦い」『週刊文春』、文藝春秋、1974年4月29日号、17頁。 
  10. ^ a b c 河原畑寧「邦画ジャーナル 『山口組三代目襲名』」『ロードショー』1974年9月号、集英社、231頁。 
  11. ^ 「ついに逮捕された山口組組長・長男田岡満も慶応ボーイ的日常生活」『週刊読売』、読売新聞社、1975年3月1日号、174-175頁。 
  12. ^ a b c “映画と各本面の動員は 九日間ジャンボ連休の総決算”. 週刊映画ニュース (全国映画館新聞社): p. 1. (1974年5月11日) 
  13. ^ 「高田宏治エッセイ」『東映実録路線 最後の真実』、202-203頁
  14. ^ a b 『日本映画俳優全集 女優編』キネマ旬報社、1980年、492頁。 
  15. ^ a b c 八田利男「噂の女の告白的セックス論 渚まゆみ」『週刊現代』1974年5月30日号、講談社、62-65頁。 
  16. ^ a b c 「最近おヤセになった原因は? 渚まゆみ"年齢差結婚"その後 主人以外にオッパイはダメよ」『週刊ポスト』1974年3月22日号、小学館、43頁。 
  17. ^ a b c d 『ヤクザが認めた任侠映画』宝島社〈別冊宝島922〉、2003年、22、27-30、133頁頁。ISBN 4-7966-3743-5 
  18. ^ 高橋賢『無法地帯:東映実録やくざ映画』太田出版、2003年、170-179頁。ISBN 4872337549 
  19. ^ 山平重樹『任侠映画が青春だった』徳間書店、2004年、248-253頁。ISBN 419861797X 
  20. ^ a b 「対談:日下部五朗vs高田宏治」『東映実録路線 最後の真実』、74-75頁
  21. ^ 『東映実録やくざ映画 無法地帯』、170-179、240頁
  22. ^ 『ヤクザが認めた任侠映画』宝島社〈別冊宝島922〉、2003年、134-141頁。ISBN 4-7966-3743-5 

外部リンク

[編集]