原始人
原始人(げんしじん)とは、初期人類(猿人から原人)や初期の新人を指す語で、英語の early man の訳語であるが、正式な学術用語ではなく、従って、定まった定義もない。
マスコミが差別語に関して規制をかけるようになる以前(1970年代半ば頃まで)は、現代において文明からかけ離れた生活様式を維持している部族・民族を表す言葉としてもしばしば用いられた。一般的には、第二次世界大戦前に西洋社会で広まったネアンデルタール人類像、すなわち、毛皮をまとい、石斧もしくは棍棒を武器として使用する狩猟民族であるとするイメージで代表される。
原始人像の由来
[編集]西洋社会においては、近代科学成立以前にも、ヨーロッパから遠く離れた未知の土地、或いは我々の住む地上の裏側(対蹠地)に、怪物のような異形の人間が住むと考えられていた。それらの形態や生活様式は様々に想像されたが、ブレムミュアエ人と呼ばれる、頭がなく胸の部分に目鼻が付いている人間は、手に棍棒を持った姿で描かれており、これが後のネアンデルタール人の発見に伴って、原始人のイメージ形成に影響したという意見もある[1]。
1856年のドイツ、デュッセルドルフでの発見以降、ヨーロッパ各地でネアンデルタール人類の化石が発掘され、まだ古人類学が未発達であった当時は、その正確な位置付けができず、20世紀に入って1909年に最初の復原画が発表されたが、正確なものではなかった。手に棍棒を持った類人猿のような外見であり、凶暴な性質であるとされ、これが原始人像として知られるようになった。第二次世界大戦後の1953年になっても、『ネアンデルタール』(アメリカ映画)と題する、凶暴な原始人を描いた映画が公開されている。一方で、現代人から見た原始人の低い文化水準や知的水準を笑いに結び付けた映画やコミックもあった。
様々な原始人像
[編集]こうした作品群に描かれた原始人像は多種多様である。第二次世界大戦前後に製作された映画では、恐竜と共存していたり、原始人ゆえの間抜けでコミカルな動作や行動を描いて観客を笑わせたが、無論それらは考古学的・古人類学的裏付けを欠いたものであった。
しかし、単に野蛮で遅れた人々というイメージではなく、現代人と共通する部分、例えば貨幣経済を持っているように描かれることもあったが、その場合、「流通する貨幣は石であり、大きいほど価値が高い」ということになっているなど(ヤップ島の石貨に関する知識の反映だと思われる)、やはり現代人との差異を強調してギャグの種にするようなことが多かった。実際には、貨幣経済は古代文明の成立後に初めて現れたもので、狩猟採取生活を送っていた原始人には貨幣は不必要なものであったが、現代人と似た生活様式を描くことでかえって彼らのこっけいな様子を強調する効果があった。
更に、アメリカのハンナ・バーベラ・プロダクション制作の『原始家族』では、原始人が石器を巧みに用いたり、恐竜を使役して現代人と同じ水準の生活をしている様子が、文明批判も織り交ぜてユーモラスに描かれた。
原始人を扱った作品
[編集]漫画
[編集]- 『ギャートルズ』:園山俊二(アニメ化) 1965年~1975年 - シリーズ第1作
- 『はじめ人間ゴン』科学と学習 1966年~1969年 - シリーズ第2作
- 『はじめ人間ギャートルズ』小学館の学年別学習雑誌 1974年~1976年 - シリーズ第3作
- 『くたばれギャートルズ』ビッグコミックオリジナル 1980年~1984年 - シリーズ第4作
- 『原人ビビ』:石川球太 週刊少年サンデー 1966年〜1967年
- 『ドカチン』:吉田竜夫(原作)、板井れんたろう(漫画) 週刊少年サンデー(アニメのコミカライズ) 1968年~1969年
- 『原始少年リュウ』:石森章太郎 週刊少年チャンピオン 1971年~1972年(アニメ化)
- 『ピクル』:板垣恵介 週刊少年チャンピオン 2007年
- 『グラシュロス』:金城宗幸(原作)、藤村緋二(漫画) ヤングマガジン 2017年[2]
- 『原始バカ一族』:蓮古田二郎 Web漫画アクション[3]
- 『荒野の花嫁』:村山慶 月刊アクション[4]
- 『原始人彼氏』:北福佳猫 LaLa DX[5]
アニメ
[編集]- 『Why They Love Cavemen!』:アメリカ 1921年[6]
- 『原始家族フリントストーン』(最初の放映時の題名は『恐妻天国』):アメリカ 1960年〜
- 『ドカチン』:日本 1968年~1969年
- 『原始少年リュウ』:日本 1971年~1972年
- 『はじめ人間ギャートルズ』(『ギャートルズ』のアニメ作品。後に『はじめ人間ゴン』でもリメイク):日本 『はじめ人間ギャートルズ』1974年~1975年/『はじめ人間ゴン』1996年
- 『わんぱく大昔クムクム』:日本 1975年~1976年
映画
[編集]- 『Brute Force』:アメリカ 1914年[7]
- 『アルコール先生原始時代の巻』:アメリカ 1914年[8]
- 『キートンの恋愛三代記』:アメリカ 1923年[9]
- 『Flying Elephants』:アメリカ 1928年
- 『紀元前百万年』:アメリカ 1940年
- 『恐竜100万年』(紀元前百万年のリメイク):イギリス 1966年
- 『最後の海底巨獣』:アメリカ 1960年
- 『フリントストーン/モダン石器時代』:アメリカ 1994年(『原始家族フリントストーン』の実写化)
- 『紀元前1万年』:アメリカ 2008年
小説
[編集]TV-CM
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脚注
[編集]- ^ クリストファー・ストリンガー、クライヴ・ギャンブル 著、河合信和 訳『ネアンデルタール人とは誰か』朝日新聞社〈朝日選書〉、1997年。ISBN 4-02-259676-7。
- ^ “『グラシュロス(1)』(金城 宗幸,藤村 緋二) 製品詳細 講談社コミックプラス”. 講談社コミックプラス. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “原始バカ一族 1”. ブックライブ. 株式会社BookLive. 2023年1月23日閲覧。
- ^ “荒野の花嫁 1巻 |無料試し読みなら漫画(マンガ)・電子書籍のコミックシーモア”. www.cmoa.jp. 2023年3月5日閲覧。
- ^ “原始人彼氏 1巻 |無料試し読みなら漫画(マンガ)・電子書籍のコミックシーモア”. www.cmoa.jp. 2023年3月5日閲覧。
- ^ Why They Love Cavemen!, Herbert M. Dawley Production, (1921-07-02) 2023年8月22日閲覧。
- ^ "Brute Force" (1914) director D. W. Griffith starring Robert Harron 2023年1月23日閲覧。
- ^ His Prehistoric Past, (1914) 2023年3月21日閲覧。
- ^ The Three Ages - Buster Keaton, (2006-12-10) 2023年1月23日閲覧。
- ^ Thomas, Elizabeth Marshall、深町, 真理子『トナカイ月 : 原始の女ヤーナンの物語』草思社、1992年 。
- ^ エリザベス・マーシャル, トーマス; Thomas, Elizabeth Marshall 真理子 深町訳 (1992-10-01) (Japanese). トナカイ月 上: 原始の女ヤーナンの物語. 草思社. ISBN 978-4-7942-0481-3
- ^ エリザベス・マーシャル, トーマス; Thomas, Elizabeth Marshall 真理子 深町訳 (1992-11-01). トナカイ月: 原始の女ヤ-ナンの物語. 草思社. ISBN 978-4-7942-0482-0
- ^ “トナカイ月 : 原始の女ヤーナンの物語 上 | NDLサーチ | 国立国会図書館”. 国立国会図書館サーチ(NDLサーチ). 2024年2月23日閲覧。
- ^ “カップヌードル「hungry?」CM 生みの親が明かす誕生秘話”. NEWSポストセブン. 小学館 ポスト・セブン編集局. 2023年1月23日閲覧。
参考文献
[編集]- 赤澤威編著『ネアンデルタール人の正体 : 彼らの「悩み」に迫る』朝日新聞社〈朝日選書〉、2005年。ISBN 4-02-259869-7。