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前立腺特異抗原

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
KLK3
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

2ZCH, 2ZCK, 2ZCL, 3QUM

識別子
記号KLK3, APS, KLK2A1, PSA, hK3, kallikrein related peptidase 3, Prostate Specific Antigen
外部IDOMIM: 176820 MGI: 891982 HomoloGene: 68141 GeneCards: KLK3
遺伝子の位置 (ヒト)
19番染色体 (ヒト)
染色体19番染色体 (ヒト)[1]
19番染色体 (ヒト)
KLK3遺伝子の位置
KLK3遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点50,854,915 bp[1]
終点50,860,764 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
7番染色体 (マウス)
染色体7番染色体 (マウス)[2]
7番染色体 (マウス)
KLK3遺伝子の位置
KLK3遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点43,786,191 bp[2]
終点43,791,034 bp[2]
RNA発現パターン


さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 ペプチダーゼ活性
serine-type peptidase activity
endopeptidase activity
hydrolase activity, acting on carbon-nitrogen (but not peptide) bonds, in linear amides
血漿タンパク結合
加水分解酵素活性
serine-type endopeptidase activity
細胞の構成要素 エキソソーム
細胞核
細胞外領域
細胞外空間
secretory granule
高分子複合体
生物学的プロセス negative regulation of angiogenesis
antibacterial peptide production
タンパク質分解
regulation of systemic arterial blood pressure
zymogen activation
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)
NM_001030047
NM_001030048
NM_001030049
NM_001030050
NM_001648

NM_145864

NM_008454

RefSeq
(タンパク質)

NP_001025218
NP_001025219
NP_001639

NP_032480

場所
(UCSC)
Chr 19: 50.85 – 50.86 MbChr 19: 43.79 – 43.79 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

前立腺特異抗原(ぜんりつせんとくいこうげん prostate specific antigen : PSA、PA)は、前立腺から分泌され精液中に含まれている酵素(生体物質)で抗原性を持つ物質。前立腺癌の腫瘍マーカーとして使用されるが、前立腺炎や前立腺肥大などでも上昇する[5]

概要

[編集]

分子量33-34kの単鎖状糖蛋白で、セリンプロテアーゼに分類されるタンパク質分解酵素の一種。どういう機能を担っているのかは未解明であるが、精漿の粘度を調整して精子の運動を助けているのではないかと考えられている。

前立腺癌のとき血清中の含有量が上昇するため、腫瘍マーカーとして用いられるが、炎症(前立腺炎)や、前立腺肥大症などでも上昇することがある。多くの検査用キットでは4ng/ml以下が正常とされているが、最近は2.5ng/ml以下とするほうが良いとの意見もある。

かつては前立腺腫瘍マーカーとしては前立腺酸性ホスファターゼ(prostatic acid phosphatase:PAP)が用いられてきたが、癌(特に早期癌)が存在するにもかかわらず正常値となる(偽陰性)例が多い、という欠点があった。

1970年代にはこれに代わる前立腺腫瘍マーカーの研究が進められ、その成果として1979年に初めてPSAが単離された。PSAは早期前立腺癌においても陽性率が高く、また、数値の変動が病勢と一致するなど腫瘍マーカーとして理想的な特性を備えていたため、臨床的に広く使用されることとなった。

グレイゾーン(PSA値4-10ng/ml)の範囲で30%前後の確率(前立腺研究財団編:前立腺がん検診テキスト)で前立腺癌が発見される。しかし、言い換えればグレイゾーンでも70%前後は前立腺癌ではないことになる。「PSA高値=前立腺癌」という盲信が、一般の人間に限らず医師の間にも常識になっているので注意が必要である。デュタステリド内服中だと、1/2程度の濃度に抑制されるので偽陰性が増加するため、デュタステリドを6か月以上内服している場合は、PSA値を2倍に乗算して評価する必要がある[6]

PAPよりも精度が上がったPSAといえども、前立腺肥大症・膀胱頚部硬化症・前立腺炎などの前立腺癌以外の病態の場合にも高値になるので、その判断には慎重を要する。

  • 前立腺肥大症では、前立腺体積31mL以上,PSA 1.6ng/mL以上の前立腺肥大症では,それ未満に比べ急性尿閉の発生率が有意に高いと報告されている[7]
  • PSAスクリーニングによる前立腺癌死亡のリスク減少が報告されている。スクリーニング群では、非スクリーニング群と比べて前立腺癌死亡率が21%低かった。両群での全死因死亡には差はなかった[8]
  • PSAには、ACTという蛋白と結合しているものと、どの蛋白とも結合していないfree PSAが存在する。前立腺肥大症ではfreePSAの比率(F/T比)が高く、F/T比が20%以上であると前立腺癌の可能性は低い。
  • PSAは肥大前立腺組織からも分泌されるため、前立腺癌でなくとも、前立腺肥大症ではPSA値は高くなる。PSA値を前立腺の体積で割ったPSA density(PSA密度)が0.15以上である場合、前立腺癌の可能性が高くなる[9]
  • PSA値の経時変化を追い、PSA値の上昇の速度(PSA velocity)を測ることにより、癌のリスクを評価する。1年間に0.8以上上昇する場合には精査を進める。

脚注

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  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000142515 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000038968 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ 岡部勉, 江藤耕作「前立腺特異抗原 (γ-Seminoproteinβ-Microseminoprotein) に関する臨床的研究」『日本泌尿器科學會雑誌』第74巻第8号、1983年、1313-1319頁、doi:10.5980/jpnjurol1928.74.8_1313 
  6. ^ アボルブ 添付文書 2019年12月5日閲覧
  7. ^ CrawfordE David, WilsonShandra S, McConnellJohn D, SlawinKevin M, LieberMichael C, SmithJoseph A, MeehanAlan G, BautistaOliver M, NobleWilliam R, KusekJohn W, others (2006). “Baseline factors as predictors of clinical progression of benign prostatic hyperplasia in men treated with placebo”. The Journal of urology (Wolters Kluwer PhiladelphiaPA) 175 (4): 1422-1427. doi:10.1016/S0022-5347(05)00708-1. https://doi.org/10.1016/S0022-5347(05)00708-1.  (Paid subscription required要購読契約)
  8. ^ Schröder Fritz H; Hugosson, Jonas; Roobol, Monique J; Tammela, Teuvo LJ; Ciatto, Stefano; Nelen, Vera; Kwiatkowski, Maciej; Lujan, Marcos; Lilja, Hans; Zappa, Marco; others (2012). “Prostate-cancer mortality at 11 years of follow-up”. New England Journal of Medicine (Mass Medical Soc) 366 (11): 981-990. doi:10.1056/NEJMoa1113135. https://doi.org/10.1056/NEJMoa1113135. 
  9. ^ 石塚修, 岩田研司, 井川靖彦, 西沢理「PSA densityの意義 : 前立腺特異抗原がGray zoneに在る症例での検討」『泌尿器科紀要』第47巻第9号、泌尿器科紀要刊行会、2001年9月、611-613頁、CRID 1050001202177228800hdl:2433/114612ISSN 0018-1994