内浦湾
座標: 北緯42度20分 東経140度35分 / 北緯42.333度 東経140.583度
内浦湾(うちうらわん)は、北海道の南西部と渡島半島によって、北と西と南の三方を囲まれた湾である。
名称
[編集]国土地理院による名称は「内浦湾」だが、北海道では「噴火湾」や「胆振湾」とも呼称される。前者には「噴火」という名称が使われているが、本湾の沿岸部には火山が多いものの[1]、実際に湾自体が噴火によって形成された海域ではないと考えられている[2]。内浦湾には陥没量に見合うだけの火山噴出物が周囲に分布しないので、カルデラに海水が進入してできた地形ではないと論じられている[3]。
「噴火湾」という呼称は、1796年(寛政8年)に当地を訪れた英国の調査スループプロビデンス号のブロートン海尉が、周囲を取り囲む北海道駒ヶ岳や有珠山など3つの火山を見て「Volcano Bay」と語ったことに由来するといわれる[2]。
地理
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内浦湾周辺の地図
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室蘭市のチキウ岬と茅部郡森町(旧砂原町)砂埼を結ぶ線及び渡島半島の基部東岸の陸岸に囲まれた円形の海域である[1]。面積は2485km2、湾内最大水深は107m、閉鎖度指標1.90である[4]。
春には北から冷たい水(親潮)が流入し、秋冬には南から温かい水(津軽暖流水や対馬暖流[1])が津軽海峡から流入するため[2]、夏と冬共に気温や気候が安定している[1]。また、冬には長流川、遊楽部川、貫気別川、長万部川などの川から、通常期の約3倍もの水が流入する[2]。底質は湾口部以外のほとんどシルト[1]。
湾口の長さは約30.2km[4]であり、ここをショートカットできると、現在湾の北側沿岸を通っている道央自動車道や室蘭本線などの道路・線路に比べ大幅に距離を短縮できる上に、有珠山・駒ヶ岳などの噴火の影響を回避しやすくなることから、札幌市など道央地域と函館市など道南地域の間の交流活性化につながるとして、一部の識者により沈埋トンネルまたは橋の建設について提案された[5]。
自然環境
[編集]同湾における水棲生物の生息状況や生息環境は、毎年の夏から秋に貧酸素状態になるとされる底層水に左右される。藻場は岩礁部に多く形成されている[1]。
亜寒帯性から暖海性までの多様な魚類が分布しており、本湾はオクカジカの分布の南限である[1]。漁業資源としてサケ、イカ、スケトウダラ、カレイなどがよく獲れるほか、ホタテガイやウバガイの養殖やウニやアワビの放流も盛んである[1]。また、稀にフグが水揚げされることもある。
一帯は多数の野鳥に利用されており、コクガン[1]やハヤブサやオジロワシなども見られるなどバードウォッチングに適した地域でもある[6][7]。
かつては「(湾に多数のクジラが遊泳する光景をして)まるで絵を見ているようだ」と言われた程に多数のクジラが湾内に回遊しており、古来にはアイヌによって沿岸部にて捕鯨や寄り鯨の利用が行われ[8]、近代でも室蘭では昭和時代まで商業捕鯨も行われており、室蘭八幡宮の建立や同市のマスコットの「くじらん」などもクジラに由来している[9]。
現在では古式捕鯨や商業捕鯨の主対象であった中・大型のヒゲクジラ類[注釈 2]はほとんど見れないが、カマイルカやイシイルカやネズミイルカがホエールウォッチングで度々目撃される他、ミンククジラやコビレゴンドウやシャチなどの中型種やキタオットセイなどが見られることもある[1][6][14][15]。一方で、ミンククジラなど近年ではホエールウォッチングにおいても見られなくなりつつある種類も複数が存在し、現在ではカマイルカのみが観察の中心対象となっている[15][16]。
また、考古学上の記録からニホンアシカも沿岸部に棲息していた可能性もあり[17]、現在でもトドやアザラシなどのキタオットセイ以外の鰭脚類が見られることもある[18][19]。
チキウ岬等の沿岸部には緑地や森林などが点在し、野鳥やキタキツネやエゾシカなどの哺乳類、エゾサンショウウオなどが生息している[7]。チキウ岬の一帯は「トッカリショ自然景観保護区」と「地球岬鳥獣保護区」に指定されている[1]。
自治体
[編集]湾岸部に位置する市町村を南から時計回りで列挙する。
湾岸部の交通
[編集]関連画像
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k “噴火湾”. 公益財団法人国際エメックスセンター. 2021年9月10日閲覧。
- ^ a b c d “ジオパーク通信第47号”. 洞爺湖有珠山ジオパーク推進協議会. 2022年4月2日閲覧。
- ^ 火山学者に聞いてみよう -トピック編- 噴火湾
- ^ a b 噴火湾 - 閉鎖性海域ネット
- ^ 第14回工業技術研究会 - 日本技術士会北海道支部
- ^ a b 室蘭市, ネイチャーウオッチング
- ^ a b “むろらんの森と散策路” (PDF). 室蘭市. 2024年2月10日閲覧。
- ^ 宇仁義和, 2012年, アイヌの鯨類認識と捕獲鯨種, 北海道民族学,8:16–26
- ^ 「学芸員とっておき秘話/10 市教育委員会・谷中聖治さん 室蘭の歴史にクジラあり/北海道」『』毎日新聞、2022年1月13日。2025年1月19日閲覧。
- ^ “SNH16037 [混獲 北海道茅部郡森町(噴火湾) セミクジラ]”. ストランディングデータベース北海道 (2016年10月17日). 2025年1月19日閲覧。
- ^ “科博登録ID:5522”. 国立科学博物館. 2025年1月19日閲覧。
- ^ 小池麻美, 桑原晃生, 笹森琴絵, 北夕紀, 2019年,『北海道室蘭市チキウ岬で発見されたザトウクジラ』, 東海大学紀要(生物学部), Vol.8, 27-29頁, 東海大学
- ^ 室蘭民報, 2014年6月24日, 室蘭の地球岬沖などで絶滅危惧種「ナガスクジラ」確認
- ^ 室蘭観光推進連絡会議, イルカウオッチング
- ^ a b FMくしろ, fm946 midori Various Corners, 2024年9月18日, 噴火湾の鯨類とアイヌ民族(笹森 琴絵編)
- ^ 笹森琴絵, 2024年8月30日, 「海からの伝言(75) - いにしえの噴火湾:鯨類と人 共にある未来を」, 北海道新聞
- ^ 直良信夫, 1939年, 『北海道室蘭本輪西貝塚發掘の獸類』, 人類學雜誌, 54巻, 10号, 451-458頁
- ^ 稚内水産試験場, 鰭脚類(アシカ科), 北海道立総合研究機構
- ^ 八雲町役場, 2010年11月24日, アザラシにも遭遇。遊楽部川に架かる橋巡り~八雲町は自然が一杯!