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井上信也 (生物学者)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

井上 信也(いのうえ しんや、ラテン文字: Shinya Inoué、1921年1月5日[1] - 2019年9月30日[2])は、日本出身の生物学者顕微鏡学者。アメリカ合衆国国籍[1]。駐ハンガリー公使井上庚二郎の長男。末妹はピアニストの井上二葉

細胞生物学における偏光顕微鏡ビデオ顕微鏡の開祖とされ[1]、著書「Video Microscopy」は、顕微鏡学者必携の名著である。井上以前には存在を疑問視すらされた紡錘体を直接観察することにより、その存在を最終的に証明し、長年にわたる論争に終止符を打った[1]。また、レクチファイ偏光光学系など、偏光顕微鏡をはじめ各種の顕微鏡の革命的な技術を発明・開発してきた[1]。井上が手がけた光学顕微鏡は敬意を込めて「シンヤスコープ」と呼ばれている[1]

略歴

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受賞・栄誉

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紡錘体の研究

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井上の研究以前は、紡錘体の存在は唱えられていたものの、標本固定によるアーチファクト(人工産物)ではないかという批判の声が大きかった。井上は、生物学では不可能と言われていた微弱複屈折(birefringence)の観察を実現する事により、紡錘体を直接に可視化することで、紡錘体の存在を証明し、紡錘体の形成・制御、細胞分裂時の染色体分離のメカニズムの解明に飛躍的な貢献をした[1]

また、定量的観察から、紡錘体の動的平衡という、今日の微小管形成に関する理解の重要な立脚点を提唱した。

エピソード

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  • 生物学者・海洋生物研究者である團勝磨(だん かつま)に師事した。
  • 息子のシオドア(テッド)・イノウエ(Theodore (Ted) Inoue)は、父の信也と共同で画像解析の伝説的ソフトである“Metamorph”を開発した(当時の名称は"Image-1")。
  • 戦後の物資欠乏の中、マシンガン大砲の砲身や茶筒の空き缶を利用して顕微鏡を自作した。
  • 井上の製作する偏光顕微鏡を、敬意を込めて「シンヤ・スコープ」と称することがある[1]。光学的超分解能までチューンアップされたシンヤ・スコープは、通常の光学的顕微鏡では観察できないものまで観察でき、ストラディバリヴァイオリンにも喩えられることがある。ヴァイオリンの調律師同様、専門の技術者による高度な調整を要する。
  • ウッズホール海洋生物学研究所の夏季顕微鏡講習会を創設した。

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 第19回国際生物学賞受賞者 井上信也博士”. 日本学術振興会. 2024年11月11日閲覧。
  2. ^ In Memoriam: Biophysicist, cell biologist Shinya Inoué, 98” (英語). アメリカ細胞生物学会(ASCB)HP (2019年10月1日). 2019年10月2日閲覧。
  3. ^ 平成22年春の叙勲 瑞宝中綬章受章者” (PDF). 内閣府. p. 3 (2010年4月29日). 2010年9月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月20日閲覧。