二元数
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数学における二元数(にげんすう、英: binarion)とは、2次元の多元数、すなわち実数体上2次元の単位的結合多元環の元のことである。各二元数 x は適当な基底 {1, u} の実数係数の線型結合 x = a + bu (a, b ∈ R) の形に表される。
多元環における積は双線型であるから、2つの二元数 x = a + bu, y = c + du に対して
これが再び二元数となる(つまり乗法について閉じている)ためには、u の平方が再び {1, u} の線型結合に書けることが必要かつ十分である。
以下の3つは実二次元の単位的多元環である:
実は二元数は本質的にこの3種しかないことが示される。
二元数の分類定理
[編集]証明 — 実数体上二次元の単位的多元環を A とし、実数体上の基底 {1, u} をとれば、適当な実数 a, b を用いて
となる。平方完成を施して
と書くことができるから、右辺が実数値であることに注意すれば、その値に従って以下の三分律が成り立つ:
- 4a = −b2 のとき、従って ũ2 = 0。このとき、ũ ↦ ε は A と二重数環との同型を与える。
- 4a > −b2 のとき、正の実数 c := √a + b2⁄4 が取れて、v := 1/cũ は v2 = +1 を満たす。このとき、v ↦ j は A と分解型複素数環との同型である。
- 4a < −b2 のとき、正の実数 d := √b2⁄4 − a が取れて、w = 1/dũ は w2 = −1。このとき、A と複素数体との同型は w ↦ i によって定まる。
性質
[編集]- 複素数の全体は体を成す(同型を除いて)唯一の二元数代数である。
- 分解型複素数は実数とは異なる 1 の冪根を持ち、冪等元 1/2(1 ± j) および零因子 (1 + j)(1 − j) = 0 を持つ。ゆえに、その全体は多元体とはならないが、これらの性質は十分に意味のあるものである。例えば、特殊相対論のローレンツ変換を記述するために用いることができる。
Mathematics Magazine(2004年版)は二元数代数を「一般化された複素数」として扱う[4]。四複素数の成す複比の概念は二元数代数に対しても拡張することができる[5]。
参考文献
[編集]- ^ Isaak Yaglom (1968) Complex Numbers in Geometry, pages 10 to 14
- ^ John H. Ewing editor (1991) Numbers, page 237, Springer, ISBN 3-540-97497-0
- ^ Kantor, I.L., Solodownikow (1978), Hyperkomplexe Zahlen, BSB B.G. Teubner Verlagsgesellschaft, Leipzig
- ^ Anthony A. Harkin & Joseph B. Harkin (2004) Geometry of Generalized Complex Numbers, Mathematics Magazine 77(2):118–29
- ^ Sky Brewer (2013) "Projective Cross-ratio on Hypercomplex Numbers", Advances in Applied Clifford Algebras 23(1):1–14