三木那由他
人物情報 | |
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生誕 | 1985年11月13日(39歳)[1][2][3] |
国籍 | 日本 |
出身校 |
京都大学文学部 京都大学大学院文学研究科 |
学問 | |
研究分野 | 哲学 |
研究機関 |
日本大学 同志社大学 京都大学 大阪大学 |
博士課程指導教員 | 出口康夫[4] |
学位 | 博士(文学)[4] |
特筆すべき概念 | 「共同性基盤意味論」[5][6] |
主な業績 | ポール・グライスの「意図基盤意味論」の無限後退問題の研究[5][7] |
主要な作品 |
『話し手の意味の心理性と公共性』[5][6] 『言葉の展望台』[8][9][10] |
影響を受けた人物 | 飯田隆[11] |
学会 | 日本哲学会、日本科学哲学会[注 1]、科学基礎論学会、など |
脚注 |
三木 那由他(みき なゆた、1985年[1]〈昭和60年〉11月13日[3] - )は、言語やコミュニケーションを専門とする日本の哲学者[1]、トランスジェンダー[13][14][15]。京都大学博士(文学)[4]。ポール・グライスの「意図基盤意味論」の問題点を検証し、その代替として「共同性基盤意味論」を提唱した[5][6][16]。著書に『話し手の意味の心理性と公共性』[5][17]や『グライス 理性の哲学』[18]、『言葉の展望台』[8][9][10]、『会話を哲学する』[19][20]がある。2024年5月現在、大阪大学大学院人文学研究科講師[21][22][注 2]。
来歴・人物
[編集]学位取得まで
[編集]1985年(昭和60年)、神奈川県生まれ[1]。大学院時代に性別を移行[14]。京都大学で学士・修士を取得[24]した後、日本学術振興会特別研究員(DC1)[25]。2013年(平成25年)に京都大学大学院文学研究科博士課程を指導認定退学し[2]、2013年より日本大学で日本学術振興会特別研究員(PD)[26][11]。2015年(平成27年)には京都大学に学位論文「心理的であり公共的である意味について」を提出し、課程博士として博士(文学)を取得[4]。
研究員・助手・助教時代
[編集]2016年(平成28年)4月から翌年3月まで京都大学アジア研究・教育ユニットの研究員となり、同時に2016年(平成28年)4月から2018年(平成30年)3月まで同志社大学文化情報学部の実習助手として勤務[21]。同年4月から2020年(令和2年)3月にかけて大阪大学大学院文学研究科の助教を務め、4月から9月までは京都大学文学部で研究員を務めた[21]。この間、2019年(令和元年)には単著『話し手の意味の心理性と公共性』が勁草書房から出版されている[5][17][27]。
大阪大学講師時代
[編集]2020年(令和2年)10月に大阪大学大学院文学研究科の講師に着任[21][注 2]。2021年(令和3年)4月には『フィルカル』の編集委員に就任した[28][29]。講談社の『群像』では同年の5月号から「言葉の展望台」の連載を開始し[30]、10月号の記事ではトランスジェンダー当事者であることに触れ、自身が苦しんだ体験を記している[14]。2022年(令和4年)3月[31]には『グライス 理性の哲学』を刊行し、コミュニケーションや形而上学など広い範囲におけるポール・グライスの議論・哲学を取り上げた[18]。
2022年4月より大阪大学大学院人文学研究科講師[21][2][注 2]。同年7月[32]にはエッセー集『言葉の展望台』を刊行し、日常の会話やメディアで疑問に思った表現に対し、「意味の占有」やコミュニケーション暴力、マンスプレイニングといった観点から哲学的に扱っている[8][9][10]。同年8月[33]にも漫画作品を題材にコミュニケーションとマニピュレーションについて分析した『会話を哲学する』を刊行[19]。同書は翌2023年(令和5年)に中央公論新社の「新書大賞2023」で20位にランクインした[20]。
研究
[編集]ポール・グライスの「意図基盤意味論」には、言葉の意味に意図を補足する条件付加を幾重にも重ねないといけない無限後退問題が存在する。この問題に対しシファーらこれまでの研究者は解決策を提示していたが、三木はそれらの不備やその一般的な理由を指摘した[5]。さらにマーガレット・ギルバートの「共同的コミットメント」や「集合的信念」などを手掛かりとして、共同性の制約から無限後退問題が解消できるとする「共同性基盤意味論」を提唱した[5][6][10]。2019年に『科学哲学』に掲載された論文「意図の無限後退問題とは何だったのか」は、2020年度石本賞の最終選考にノミネートされている[7]。
なお、これらを扱った三木の著書『話し手の意味の心理性と公共性』は三木の博士論文を発展させたものであり[5][注 3]、山形大学の清塚邦彦は書評で「本書の論述は全巻を通じて明解であり、考慮すべき事項について遺漏なく丹念な検討を重ねていく手堅さには頭が下がる」と評価した[5]。また、「共同性基盤意味論」は早稲田大学の酒井智宏や東京大学の木下蒼一朗によって検証され[6][16]、酒井と木下は「コミットメントにコミットし過ぎている可能性」を指摘し[6]、木下は「意味の公共性」の成立が不必要であることを示唆している[16]。
- 2010-2012年度 - DC1「グライスの多層的アプローチに基づく、言語の心理的基盤研究」[25]
- 2013-2015年度 - PD「チャンネル構築ゲームとしての言語的/非言語的コミュニケーションの分析」[26]
といったテーマに取り組み[25][26]、科学研究費助成事業では研究代表者として以下のテーマに採択されている[34][35]。
見解
[編集]”Review of Analytic Philosophy”[注 4]において、エディトリアルボードにトランスジェンダー当事者への排除的な発言などで知られるキャスリーン・ストック教授を迎え入れたことに対して、三木は当該雑誌の体制が、「日本の分析哲学研究者のコミュニティ全体が性的マイノリティの方々への差別を許容する一律な傾向をもつというメッセージとして受け取られ、若手の哲学研究者や学生、当事者の方々への不安を広げることになりかねない」として、自身のFacebookで危惧の念を表明した[37]。
また、「本当は話し手と聞き手のあいだでの調整のはずなのに、話し手が抗議する余地もなく、話し手が意味した内容を聞き手側が決めてしまうことさえある」として「意味の占有」という概念を導入[10]。「女が、外国籍の者が、非異性愛者が、トランスジェンダーが、そうでない者たちの一部から「不合理なことを言っている」と責め立てられるとき、こうした意味の占有が背後にありはしないだろうか」と問題提起している[38]。
著書
[編集]単著
[編集]- 『話し手の意味の心理性と公共性 ― コミュニケーションの哲学へ ―』勁草書房、2019年12月、ISBN 978-4326102785。[5]
- 『グライス理性の哲学 ― コミュニケーションから形而上学まで ―』勁草書房、2022年3月、ISBN 978-4326103010。
- 『言葉の展望台』講談社、2022年7月、ISBN 978-4065283455。
- 『会話を哲学する ― コミュニケーションとマニピュレーション ―』光文社〈光文社新書〉、2022年8月、ISBN 978-4334046224。
- 『言葉の風景、哲学のレンズ』講談社、2023年11月、ISBN 978-4065336809。
共訳
[編集]- 『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか 上巻』勁草書房〈現代プラグマティズム叢書 第3巻〉、2020年10月、ISBN 978-4-326-19980-8。[注 5]
- 『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか 下巻』勁草書房〈現代プラグマティズム叢書 第4巻〉、2020年10月、ISBN 978-4-326-19981-5。[注 5]
分担執筆
[編集]- 「概念の構造とカテゴリー化」信原幸弘、太田紘史 編『シリーズ新・心の哲学 認知篇』勁草書房、2014年5月、ISBN 9784326199211。
その他著作
[編集]博士論文
[編集]- 『心理的であり公共的である意味について』京都大学〈博士論文(甲第19251号)〉、2015年、NAID 500001349178。
主な論文・紀要
[編集]- 「言われていることへの二つのアプローチ ― 折衷的ミニマリズムと文脈主義」『哲学論叢』第35巻、2008年、165-176頁、NAID 120001863194。[39]
- 「理性による意味の基礎づけ ― グライスにおける意味」『哲学論叢』第36号、2009年、68-79頁、NAID 120002426890。[40]
- 「意図の無限後退問題とは何だったのか」『科学哲学』第52巻第1号、2019年、47-65頁。- 2020年度石本賞の最終選考にノミネートされた論文[7]
- 「会話の格率の三つの破りかた —行為の理論としての会話的推意の理論—」『科学基礎論研究』第49巻第1号、2021年、33-48頁。
連載
[編集]解説
[編集]- “内輪向けでない哲学のために――哲学者・三木那由他氏が感じ取った『時間の解体新書』の重要性”. じんぶん堂 powered by 好書好日. 朝日新聞社. (2021年11月3日) 2022年6月19日(UTC)閲覧。
- “クィアなみんな、魔法の時間だ!『Ikenfell』は居場所のなかった私たちが待ち望んだRPG”. IGN Japan. 産経デジタル. (2022年2月27日) 2022年6月19日(UTC)閲覧。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 日本科学哲学会では2023年現在、第17期の理事や評議員、第55巻学会誌編集委員を務めている[12]。
- ^ a b c 大阪大学大学院文学研究科と大阪大学大学院言語文化学研究科が再編され、2022年4月から大阪大学大学院人文学研究科が発足している[23]。
- ^ 三木の博士論文では「信念証拠意味論」となっている[4]。
- ^ 『フィルカル』と同じ発行元であり、2021年(令和3年)に創刊された分析哲学系査読付き英文ジャーナル[36]。
- ^ a b ロバート・ブランダム 著、加藤隆文、田中凌、朱喜哲、三木那由他 共訳(NCID BC03476796、NCID BC03476956)。
- ^ “傷つく覚悟で「ここにいます」三木那由他さんがほどくカミングアウト”. Re:Ron連載「ことばをほどく」連載第1回. 朝日新聞デジタル. (2023年9月4日) 2023年12月31日(UTC)閲覧。“「押しつけ」なのは同性愛か、異性愛か 台東区議発言を逆から見ると”. Re:Ron連載「ことばをほどく」連載第2回. 朝日新聞デジタル. (2023年10月5日) 2023年12月31日(UTC)閲覧。“行きたいのに、行けなかった学校 フリースクールへの「懸念」よりも”. Re:Ron連載「ことばをほどく」連載第3回. 朝日新聞デジタル. (2023年11月6日) 2023年12月31日(UTC)閲覧。“性別変更は「容易」になりますか 不合理なレトリックで隠されるもの”. Re:Ron連載「ことばをほどく」連載第4回. 朝日新聞デジタル. (2023年12月6日) 2023年12月31日(UTC)閲覧。
出典
[編集]- ^ a b c d 三木 那由他 Nayuta Miki - 現代ビジネス 2022年3月12日閲覧
- ^ a b c 篠原 2022, お話を聞いた人.
- ^ a b “三木那由他さん(@nayuta_miki)のツイート”. Twitter. (2022年6月26日) 2023年2月12日(UTC)閲覧。
- ^ a b c d e 博士論文 2015.
- ^ a b c d e f g h i j k 清塚 2020.
- ^ a b c d e f 酒井・木下 2020.
- ^ a b c 岡本光弘「2020年度石本賞選考結果報告」『科学哲学』第53巻第2号、2021年、336-340頁。
- ^ a b c 板垣麻衣子 (2022年8月24日). “三木那由他「言葉の展望台」 日常のレジスタンスに効く哲学”. 好書好日. 朝日新聞社. 2022年9月17日(UTC)閲覧。
- ^ a b c 内田麻理香 (2022年9月17日). “内田麻理香・評 『言葉の展望台』=三木那由他・著”. 毎日新聞 (東京朝刊). 2022年9月17日(UTC)閲覧。
- ^ a b c d e 篠原 2022.
- ^ a b “PD・人文学 107名 平成25年度特別研究員採用者一覧”. 日本学術振興会. 2022年6月19日(UTC)閲覧。
- ^ 『科学哲学』第55巻第2号、2023年、140頁。
- ^ 奥野斐 (2022年3月5日). “高圧的に説教する男性、それって…女性を見下す「マンスプレイニング」とは”. 東京新聞. 2022年3月26日(UTC)閲覧。
- ^ a b c 三木那由他「言葉の展望台6 哲学と私のあいだで」『群像』第76巻第10号、2021年、449-454頁。
- ^ 三木那由他 (2021年11月3日). “内輪向けでない哲学のために――哲学者・三木那由他氏が感じ取った『時間の解体新書』の重要性”. 好書好日. 朝日新聞社. 2022年3月26日(UTC)閲覧。
- ^ a b c 木下 2020.
- ^ a b NCID BB29343473。
- ^ a b 「Book Clip」『中央公論』第136巻第7号(1664号)、2022年、235頁。
- ^ a b 馬場紀衣 (2022年9月12日). “語らないことで伝わることがある。名作が勢ぞろいのユニークな会話論|三木那由他『会話を哲学する』”. 本がすき。. 光文社. 2022年9月17日(UTC)閲覧。
- ^ a b “2023新書大賞 since 2008”. 中央公論.jp. 中央公論新社 2023年2月12日(UTC)閲覧。
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- ^ “三木 那由他 (40727088)”. KAKEN --- 研究者を探す. 国立情報学研究所. 2024年5月24日(UTC)閲覧。
- ^ “ごあいさつ”. 研究科紹介. 大阪大学大学院人文学研究科. 2023年6月10日(UTC)閲覧。
- ^ “2021/11/28 Sun 19:00- 佐倉智美×三木那由他「生きるための性別解体――哲学・社会学・サブカルをめぐって」『性別解体新書』(現代書館)刊行記念”. 本屋 B&B. 2022年3月26日(UTC)閲覧。
- ^ a b c “特別研究員奨励費 10J00734 グライスの多層的アプローチに基づく、言語の心理的基盤研究”. KAKEN. 国立情報学研究所. 2022年6月19日(UTC)閲覧。
- ^ a b c “特別研究員奨励費 13J00209 チャンネル構築ゲームとしての言語的/非言語的コミュニケーションの分析”. KAKEN. 国立情報学研究所. 2022年6月19日(UTC)閲覧。
- ^ 師岡淳也「コミュニケーション・コミュニティ・コモン再考——対立と分断が深まる社会における議論の可能性——」『日本コミュニケーション研究』第51巻Special号、2023年、39-49頁。
- ^ 編集委員フィルカル - researchmap 2022年3月12日閲覧
- ^ 編集部 - フィルカル 2022年3月12日閲覧
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- ^ 新・哲学英文ジャーナル - フィルカル 2022年3月12日閲覧
- ^ 今後の編集方針について - フィルカル 2022年3月12日閲覧
- ^ 清水 2022.
- ^ 長岡由記「大学生を対象とした語彙指導の実践的検討 ― 「意味論的潜在性」に注目して」『全国大学国語教育学会国語科教育研究大会研究発表要旨集』第122巻、2012年、305-308頁。
- ^ 三木俊介、松尾優成、久保田直行「ロボットパートナーを用いた健康づくり支援のための発話システム」『ロボティクス・メカトロニクス講演会講演概要集』1A1-S05、2015年。
- ^ 三木 2023
参考文献
[編集]- 木下蒼一朗「共同性基盤意味論は意図基盤意味論の代案となりうるか」『東京大学言語学論集』第42号、2020年9月、131-150頁。
- 清塚邦彦「書評 三木那由他『話し手意味の心理性と公共性』(勁草書房)」『図書新聞』第3466号、2020年、3頁。
- 酒井智宏、木下蒼一朗「「コミットすること」、「コミットしないこと」、または「コミットしないことにコミットすること」書評論文:三木那由他 (2019)『話し手の意味の心理性と公共性―コミュニケーションの哲学へ―』東京: 勁草書房」『東京大学言語学論集』第42号、2020年、195-222頁。 - 英語タイトル「To Commit, Not to Commit, or to Commit to Not Committing」(NAID 120006901876)。
- 篠原諄也 (2022年9月4日). “三木那由他さん「言葉の展望台」インタビュー マイノリティの言葉に触れて、差別思想に抗って”. 好書好日. 朝日新聞社. 2022年9月17日(UTC)閲覧。
- 清水有香 (2022年10月31日). “三木那由他さん(言語哲学者) 言葉の暴力を見つめ直す 分析と生身の苦悩、エッセー好評”. 毎日新聞. 2023年6月10日(UTC)閲覧。
外部リンク
[編集]- 三木 那由他 - 大阪大学研究者総覧
- 研究者情報(KAKEN、researchmap、J-GLOBAL)
- 文献情報(CiNii Research、IRDB)
(SNS)
- あれこれ日記(MikiNayuta) - はてなブログ
- 三木 那由他(she/her、they/themも可) (@nayuta_miki) - X(旧Twitter)
- 三木 那由他 (nayuta.miki) - Facebook