ワウフラッター
ワウフラッター(英語:wow and flutter)とは、レコード(ターンテーブル)の回転むらや磁気テープ(テープレコーダー類)の走行むらによる音高のブレ(ムラ)のこと[1]。
「ワウ(wow)」は周期の遅い場合のブレ、「フラッター(flutter)」は周期の速い場合のブレを指す。別の言い方をすると、「ワウ」のほうは変化がゆっくりに感じられるムラであり、「フラッター」のほうは変化の速いムラ、まるで「震え」のように聞こえるムラである[2]。2語を合わせた「ワウフラッター」は、レコードやテープレコーダーが使われていた時代では、オーディオ機器の性能評価のための重要な用語であった。数値は%で表される。
レトロな音響機器を使用する人はこの用語を、あなどったりせず、よく理解しておく必要がある。[注 1]
発生原因
[編集]主な原因を以下に挙げる
- レコードプレーヤーとテープレコーダー共通の原因
- 商用電源に同期したシンクロナスモーターを使っている機器には発生する。商用電源の周波数にブレがあるためである。その後に販売されるようになったクォーツロック制御のモーターではこれに起因するワウフラッターはほぼ無い。ただし、小型のテープレコーダーやラジオカセット、カーオーディオ、ヘッドホンステレオ等のカセットプレーヤー、更に近年の普及価格帯の据置型のカセットデッキなどでは駆動用としてDCサーボモーターやDCモーターが使用されているため、モーター駆動用に周波数を作り直す回路が用いられ、温度などによりしばしば回転の不安定さを生じることがある。
- レコードプレーヤーやテープレコーダの駆動系のゴムベルトが伸びたり劣化している
- ゴムベルトを新品に交換すると直る
- レコードプレーヤー特有の原因
- レコードの偏心
- ここでいう偏心とは回転の中心からズレているということ。2つの原因で起きる。
- ひとつめの原因はレコードをターンテーブルに置いた際のターンテーブルの中心からのズレである。ターンテーブルの中央には「スピンドル」と呼ばれる金属製の短い軸が立っているが、その直径に対して、レコードの円盤に空いている穴の直径が若干大きい[3]。スピンドル経は、JIS規格では7.05ミリ - 7.15ミリの範囲と定められているが、それに対してレコードの穴の経は7.24ミリ - 7.33ミリもある[3]。つまりスピンドルとレコードの穴の隙間が0.09から0.28ミリもあることが原因である[3]。偏心量はその半分と計算するので[3]、0.045から0.14ミリの偏心と計算される。
- もうひとつの原因は、レコードの音溝の中心に穴が空いていないことである[3]。IEC規格の「98A」の定めで、「穴の偏心は音溝の中心から0.2ミリ以下」と規定されているからである[3]。この偏心はレコード製造工場の製造工程で発生し、レコード購入者には打つ手は無い。
- そして上記の2つの偏心がたまたま最大値になり、しかも同じ方向に重なると最大で0.34ミリもの偏心が生じる[3]。こうなると音溝をトレースする針は、ターンテーブルが回転するたびに左右に振られるのでワウが生じてしまうのである[3]。つまりターンテーブルがいくら正確に一定の速さで回転していても、ワウフラッターが生じてしまうことがある[3]。
- テープレコーダー特有の原因
- テープレコーダーの定期的な清掃を怠っている
- ピンチローラーとキャプスタンは定期的に清掃しないと、いつのまにか汚れが付着し、ゴム製ローラーと磁気テープの間の摩擦が不規則に変化し、不規則に滑ってしまい、送り速度が安定せずワウフラッターが生じる。
余談
[編集]- デジタル制御機器の場合
最初の定義でワウフラッターはレコードや磁気テープに関する用語と説明したので、そもそもそれ以外の機器について説明することはバカバカしい限りだが、一応、雑学も説明しておく。
コンパクトディスクのプレーヤーでは回転をデジタル制御しており、回転ムラがあっても再生機器の水晶発振器の精度と同程度まで小さくできている[4]。
CD-DAやDAT等のデジタルオーディオでは読み出したデータを、一旦プレーヤー内蔵のキャッシュ用メモリー(音響データを一時的に保存するためのメモリー)に溜め込んでから、水晶発振器で一定速度で動作するようにコントロールされたデジタル回路が、データを規定の一定速度で音に変換しているので、ワウフラッターの大きさについて「測定限界以下」と表記することが一般的となった。
フラッシュメモリやハードディスク)式のデジタルオーディオプレーヤーでは、ワウフラッターは無縁なので、表記しなくなった。
出典
[編集]- ^ 年配のオーディオユーザには古くから馴染みの用語であり、常識なので、いまさら説明は不要、と感じられる用語のはずであるが、2010年代から若者の間で「昭和レトロ」がブームになっており、今頃になってラジカセやターンテーブルを初めて使う若者が増えてきているので、最近初めてレトロな機器を使用する若者は、レトロな音響機器にはデジタル音響機器の常識が全く通用しない、ということすら知らないので、虚心になってこの用語をしっかり理解する必要がある。
- ^ “ワウフラッター”. 2025年12月24日閲覧。
- ^ 用例でわかるカタカナ新語辞典. 学研辞典編集部. (2011). p. 776
- ^ a b c d e f g h i ステレオ時代 11号. ステレオ時代編集部. p. 101
- ^ 図解コンパクトディスク読本
参考文献
[編集]- 『図解コンパクトディスク読本』(改訂3版)オーム社、1996年、58,162-163頁。ISBN 4274034720。