ローズウッド (クスノキ科)
ローズウッド | |||||||||||||||||||||
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1. Aniba rosaeodora
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保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||
ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) ![]() | |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Aniba rosodora Ducke (1930)[2] | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
rosewood |
ローズウッド[3](rosewood、学名: Aniba rosodora)は、南米北部に自生するクスノキ科の樹木の1種であり、材から抽出される精油が香料などに利用される。パウローサやパウロサ、ボアドローズともよばれる。また、家具材などとして利用されるシタン(マメ科)なども、ローズウッドとよばれるが[4]、全く遠縁の植物である。学名の種小名が rosaeodora と表記されることがあるが、正式には rosodora である[5]。
材などを水蒸気蒸留することによって得られる精油はローズウッド油とよばれ、リナロールを主成分とし、香料やアロマテラピーに利用される[6]。香料としての需要のため大規模に伐採され[7]、2024年現在では国際自然保護連合レッドリストカテゴリーで絶滅危惧種に指定され、またワシントン条約の規制対象となっている。
名称
[編集]現地語であるポルトガル語の pau rosa[8] をもとに、パウローサ[9]あるいはパウロサ[要出典]ともよばれるが、この呼称はマメ科で木材として利用される Bobgunnia fistuloides(シノニム: Swartzia fistuloides)や B. madagascariensis(シノニム: S. madagascariensis)にも用いられる[10]。同じく現地語であるフランス語名の bois de rose[8] をもとに、ボアドローズともよばれる[3]。
特徴
[編集]大きなものは高さ30メートル (m)、幹の直径 2 m に達する常緑高木[11]。幹はまっすぐ、樹皮は黄褐色[11][12]。材は比重0.8–0.9、心材は黄褐色、辺材は黄色[12]。葉は半革質、幅4–5センチメートル、基部は狭いくさび形、先端は尖る[12]。花期は10–5月、円錐花序を形成する[11][12]。
材には1.8–3.4%、葉には1.6–3.1%の精油が含まれている[11]。いずれも主成分はリナロールであり、材で精油中の75–85%、葉で80–86%に達する[11]。そのほかに、材はα-テルピネオール、リナロールオキシド、ゲラニオールなどを、葉はカリオフィレンオキシド、リナロールオキシド、セリネン、スパツレノールなどを含む[11]。
分布
[編集]南米北部(コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ、ブラジル北部、ペルー)に分布する[2]。おもに高地の多雨林に生育する[12]。
保全状況評価
[編集]国際自然保護連合レッドリストカテゴリーでは、絶滅危惧種に指定されている[1]。また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)、通称ワシントン条約の規制の対象となる植物(附属書Ⅱ)のリストに記載されており[13]、輸出入には、輸出国の政府が発行する許可書が必要となる[14]。
分類
[編集]本種は仏領ギアナ産の標本をもとに1930年に記載された[11]。また、アマゾン川流域に分布するものは葉が小さいことで区別され、当初は変種(Aniba rosodora var. amazonica)として区別され、その後、別種(Aniba duckei)として扱うことが提唱された[11]。しかし、さまざまな標本の比較からは、両者は区別できないとされ、2024年時点ではふつう同種として扱われている[2][11]。
類似種である Aniba parviflora(= Aniba fragrans; 現地名 macacaporanga)からも精油が得られるが、精油中のリナロール含量が32–40%と低い(ローズウッドでは78–93%)[11]。
人間との関わり
[編集]利用
[編集]ローズウッドの木材などを水蒸気蒸留することで、精油が抽出される[6][15](図2)。この精油は、ローズウッド油(rosewood oil)やボアドローズ油(bois de rose oil)とよばれる[16]。主な精油成分はリナロールであり、ほかにα-テルピネオール、リナロールオキシド、ゲラニオールなどを含む[6][15](上記参照)。フローラルで甘い香りと、スパイシーさを併せもち、専ら香水用に生産されてきた[6][17]。精油は香料として利用され、医療には用いられなかったため、伝統医学における用法はない[17]。近年ではアロマテラピーでさかんに利用され、強壮、抗うつ、催淫、鎮静、殺虫、抗菌、鎮痛、免疫系の強化、防臭などの作用があるとされる[6][15]。皮膚感作性があるため、皮膚に問題のある人には有害となる可能性がある[17]。
歴史
[編集]ローズウッドの中で、最初に利用されたのはギアナに生育していたものである[18]。ギアナからの輸出はカイエンヌから行なわれたため、ローズウッドの精油はカイエンヌ油ともよばれていた[16]。ギアナ産ローズウッドの精油の主成分は l-リナロールとされ、9割近くを占めている[18]。l-リナロールの慣用名であるリカレオール (licareol)[19] は、ローズウッドをギアナで Licari Kanali とよんでいたことに由来するとされる[要出典]。ただし Licari Kanali はローズウッドとは別の植物 Licaria cannella としている分類もあり、誤解による命名である可能性もある。
20世紀になるとギアナ産ローズウッドが乱獲によって減少したため、ブラジル産のものが利用されるようになった[18]。ブラジル産のローズウッドの精油の主成分もリナロールではあるが、ラセミ体(l体とd体がほぼ等量)である点でギアナ産のものとは異なるともされる[18]。ただし、どちらの鏡像異性体が多いかは、木によって異なっていたとの報告もある[要出典]。
1960年代前半までは、ローズウッドの精油はリナロールの供給源として重要であった。最盛期には、ブラジルでの年間生産量が600トンに達していた[16]。しかし、他のリナロール含有精油や合成リナロールの増加によって、ローズウッド由来の精油生産は急激に減少した[16]。
2024年現在ではワシントン条約の規制の対象となる植物であるため、流通しているローズウッド精油は、おそらく違法品であるか、木ではなく葉から抽出した精油、または合成品である[17]。また、代替品として、化学組成が近い安価なホーリーフ(クスノキ科)の精油が増産されている[要出典]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b Barstow, M. (2021年). “Aniba rosodora”. The IUCN Red List of Threatened Species 2020. IUCN. 2024年2月11日閲覧。
- ^ a b c “Aniba rosodora”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2025年2月11日閲覧。
- ^ a b 大平辰朗 (1998). “熱帯樹木の成分と利用 (6) 精油”. 熱帯林業 43: 71-77.
- ^ 「ローズウッド」『デジタル大辞泉』 。コトバンクより2025年2月11日閲覧。
- ^ “Aniba rosodora Ducke”. Tropicos v3.4.2. Missouri Botanical Garden. 2025年2月11日閲覧。
- ^ a b c d e 渡邊聡子 (2010). “ローズウッド”. アロマテラピーのきほん事典. 西東社. p. 103. ISBN 9784791617012
- ^ 和田文緒 (2008). “絶滅危惧種: PALO DE ROSA”. アロマテラピーの教科書. 株式会社新星出版社. p. 20. ISBN 9784791617012
- ^ a b GBIF Secretariat (2023年). “Aniba rosodora Ducke”. GBIF Backbone Taxonomy. 2025年2月11日閲覧。
- ^ エイダン・ウォーカー 編 (2006).『世界木材図鑑』乙須敏紀 訳、産調出版。ISBN 4-88282-470-1(原書: The Encyclopedia of Wood, Quarto, 1989 & 2005.)
- ^ 熱帯植物研究会 編『熱帯植物要覧』(第4版)養賢堂、1996年、77、203頁。ISBN 4-924395-03-X。
- ^ a b c d e f g h i j Maia, J. G. S., Andrade, E. H. A., Couto, H. A. R., Silva, A. C. M. D., Marx, F., & Henke, C. (2007). “Plant sources of Amazon rosewood oil”. Química Nova 30: 1906-1910. doi:10.1590/S0100-40422007000800021.
- ^ a b c d e f Forest Resources Division, Agriculture Organization of the United Nations (1986). “Aniba duckei Kostermans”. Databook on endangered tree and shrub species and provenances (Vol. 77). Food & Agriculture Organization. pp. 60–68. ISBN 92-5-102522- 3
- ^ Appendices (CITES). 2019年4月9日閲覧。
- ^ The CITES Appendices (CITES). 2019年4月9日閲覧。
- ^ a b c 橋口玲子 (2018). “ローズウッド”. 新版 医師が教えるアロマ&ハーブセラピー. Mynavi Publishing Corporation. pp. 194
- ^ a b c d 諸江辰男 (1971). “熱帯産有用香料植物について”. 熱帯林業 20: 1–10. doi:10.32205/ttf.0.20_01.
- ^ a b c d マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年
- ^ a b c d 川口健夫 (2011). “ローズウッド”. 香りで難病対策. フレグランスジャーナル社. pp. 15–17
- ^ “(R)-リナロオール”. J-GLOBAL. 科学技術振興機構. 2025年2月14日閲覧。
外部リンク
[編集]- “Aniba rosodora”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2025年2月11日閲覧。(英語)