レギオン (悪霊)
レギオンは、新約聖書に登場する悪霊である。「ゲラサにおける悪霊祓い」に関する3つのバージョンの記述のうち2つに登場する。
聖書での記述
[編集]レギオンに関する記述で最も古いものは、『マルコによる福音書』におけるゲラサの国での出来事の記載である。イエスは悪霊に憑依された男に出会った。その男は墓場に住み、裸で歩き回って昼も夜も大声で叫びながら自分の体を石で切りつけ、鎖や足かせも引きちぎるほどの力を持っていた。イエスはその名前を知るために悪霊を呼び出した。これは悪霊祓いの重要な要素である[1]。イエスは、この男に多数の悪霊が憑依していることを知った。その悪霊は自分たちのことを「レギオン」と名乗り、それは自分たちが大勢であるためだと述べた。レギオンは、イエスが自分たちをこの世から地獄に追放することを恐れ、その代わりに豚の群れの中に送り込むようにイエスに懇願した。イエスがそのようにすると、レギオンは二千頭ほどの豚の群れに取りつき、豚は突進して断崖から落ち、溺れ死んでしまった(Mark 5:1–5:13)。
この話は、他の2つの共観福音書にも記されている。『ルカによる福音書』では、記述は縮められているが、登場する名前を含めて同じ話になっている(Luke 8:26–8:33)。『マタイによる福音書』では、ルカ福音書よりさらに短くなり、憑依される男が2人になり、場所もガダラの国に変更されている。これは、ゲラサが海から遠く離れていることに、マタイ福音書の作者が気づいたためと考えられる(ただし、ガダラでも海から10キロメートル程度離れている)。マタイ福音書では、悪霊の名前は記されていない[2][3] (Matthew 8:28–8:32)。
文化的背景
[編集]ハワード大学神学部の新約聖書言語文学教授のマイケル・ウィレット・ニューハートは、マルコ福音書の著者は、執筆された西暦70年ごろのユダヤ戦争の時期において、レギオンという名前から、この地域で活動していたローマ軍団を読者が連想することは容易に想像できただろうとしている[4]。これは、ローマの占領軍よりもイエスの方が強いということを示す意図があったものと見られる[5]。
それに対して、聖書学者のキム・セユンは、ラテン語のlegioという言葉は、ヘブライ語やアラム語からの借用語として、「大量」であることを示すのによく使われていたと指摘している[6]。
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ Keener 1999, p. 282.
- ^ Senior 1996, p. 84.
- ^ Boring 2006, p. 148-149.
- ^ Newheart 2004, p. 44-45.
- ^ Blount & Charles 2002, p. 77-78.
- ^ Kim 2008, p. 118-119.
出典
[編集]- Blount, Brian K.; Charles, Gary W. (2002). Preaching Mark in two voices (1st ed.). Louisville, Ky.: Westminster John Knox Press. pp. 77–78. ISBN 9780664223939
- Boring, M. Eugene (2006). Mark: A Commentary. Presbyterian Publishing Corp. ISBN 978-0-664-22107-2
- Keener, Craig S. (1999). A Commentary on the Gospel of Matthew. Wm. B. Eerdmans Publishing. ISBN 978-0-8028-3821-6
- Kim, Seyoon (7 October 2008). Christ and Caesar: The Gospel and the Roman Empire in the Writings of Paul and Luke. Wm. B. Eerdmans Publishing. ISBN 978-0-8028-6008-8
- Newheart, Michael Willett (2004). My name is Legion: the story and soul of the Gerasene demoniac. Collegeville, MN: Liturgical Press. ISBN 0-8146-5885-7. OCLC 55066538
- Senior, Donald (1996). What are They Saying about Matthew?. Paulist Press. ISBN 978-0-8091-3624-7
外部リンク
[編集]- EarlyChristianWritings.com Gospel of Mark, see discussion at bottom of page