レウキッペー
レウキッペー(古希: Λευκίππη , Leukippē)は、ギリシア神話の女神、あるいは女性である。長音を省略してレウキッペとも表記される。主に、
のほか数名が知られている。以下に説明する。
オーケアノスの娘
[編集]このレウキッペーは、大洋神オーケアノスとテーテュースの3000人いる娘たち(オーケアニデス)の1人である。『ホメーロス風讃歌』の第2歌「デーメーテール讃歌」によると、あるとき、レウキッペーは姉妹のパイノー、エーレクトラー、イアンテー、メリテー、イアケー、ロデイア、カリロエー、メーロボシス、テュケー、オーキュロエー、クリューセーイス、イアネイラ、アカステー、アドメーテー、ロドペー、プルートー、カリュプソー、ステュクス、ウーラニエー、ガラクサウレー、および女神アルテミスとともに、デーメーテールの娘ペルセポネーと花を摘んで遊んでいたが、突如、冥界の王ハーデースが現れてペルセポネーをさらった[1]。
レウキッペーは「デーメーテール讃歌」の同箇所でまず最初に名前が挙げられている[2]。また、ここで挙げられている姉妹たちの多くは、ヘーシオドスの『神統記』で言及されているが、レウキッペーをはじめ、パイノー、メリテー、イアケー、ロドペーの5人の名前はない[3]。
ミニュアデスの1人
[編集]このレウキッペーは、オルコメノスの王ミニュアースの娘たち(ミニュアデス)の1人である。ヒッパソスという息子がいた。彼女たちはディオニューソス神の崇拝を受け入れなかったために気が狂い、レウキッペーの息子を引き裂いて殺したと伝えられている[4][5][6][7]。オウィディウスも『変身物語』でミニュアデスの物語について述べているが、レウキッペーの名前は挙げていない[8]。
テストールの娘
[編集]このレウキッペーは、予言者テストールの娘で[9]、カルカース[9][10][11]、テオノエーと兄弟[9]。
姉妹のテオノエーが海賊にさらわれたとき、父テストールは娘を探す旅に出た。しかし船が難破し、カーリアの地で奴隷となった。レウキッペーは家族の行方が分からなくなったため、デルポイに伺いを立てると、アポローンの神官として諸国をめぐるよう命じられた。そこでレウキッペーは髪を剃って、男装し、諸国を旅するうちにカーリアにたどり着いた。
一方のテオノエーはカーリア王に妾として売られた後に、王妃となっていた。そしてカーリアを訪れたレウキッペーを男と勘違いして恋をした。レウキッペーは王妃が姉妹であることに気づかずに、女であることを明かして拒んだ。テオノエーは怒ってレウキッペーを幽閉し、年老いた奴隷に剣を渡してレウキッペーを殺すよう命じた。しかしその奴隷は実は父テストールであり、殺人の罪を犯さなければならないことを嘆きながら、自分の素性と奴隷になったいきさつを語った。レウキッペーはその言葉を聞いて、老人が父テストールであることに気づいた。そこで父から剣を奪い、一緒に女王を殺そうと説得した。またテオノエーも父の名前を聞いて、彼らが生き別れた家族であることに気づき、自らテオノエーであると打ち明けた。このようにして、レウキッペーは家族と再会した[9]。
エウエーノールの妻
[編集]このレウキッペーは、アトランティスの原初の住民の1人であるエウエーノールの妻で、一人娘クレイトーの母。クレイトーはポセイドーンとの間に、アトラースとエウメーロスをはじめとする5組の双子を生んだ[12]。
その他のレウキッペー
[編集]脚注
[編集]- ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」418行-431行。
- ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」418行。
- ^ 沓掛良彦による脚注、p.95。
- ^ “プルタルコス「ギリシアの諸問題」38。”. バルバロイ!. 2022年2月6日閲覧。
- ^ “Plutarch, Quaestiones Graecae 38.”. Perseus Digital Library. 2022年2月6日閲覧。
- ^ アイリアーノス、3巻42。
- ^ アントーニーヌス・リーベラーリス、10話。
- ^ オウィディウス『変身物語』4巻1行以降。
- ^ a b c d ヒュギーヌス、190話。
- ^ 『イーリアス』1巻68行。
- ^ ヒュギーヌス、128話。
- ^ プラトーン『クリティアス』113D以下。
- ^ ヒュギーヌス、14話。
- ^ ヒュギーヌス、250話。
- ^ アポロドーロス、3巻12・3。
参考文献
[編集]- アイリアノス『ギリシア奇談集』松平千秋・中務哲郎訳、岩波文庫(1989年)
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- アントーニーヌス・リーベラーリス『メタモルフォーシス』安村典子訳、講談社文芸文庫(2006年)
- オウィディウス『変身物語(上)』中村善也訳、岩波文庫(1981年・1984年)
- ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照夫訳、講談社学術文庫(2005年)
- 『プラトン全集12 ティマイオス クリティアス』「クリティアス」水地宗明訳、岩波書店(1975年)
- ホメロス『イリアス(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)