コンテンツにスキップ

ヤードバード組曲

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ヤードバード組曲」(ヤードバードくみきょく、Yardbird Suite)は、ジャズサクソフォーン奏者チャーリー・パーカー1946年に作曲したビバップスタンダード曲[1][2][3]。ビバップを代表する曲のひとつとされる[4]

曲名は、パーカーのニックネームだった「ヤードバード」(しばしば単に「バード (Bird)」とも)と、クラシック音楽の用語である組曲を本来の意味からやや離れて用いたものである(これはジャズの楽曲にしばしばあることで、レスター・ヤングの「ミッドナイト・シンフォニー (Midnight Symphony)」やデューク・エリントンの「エボニー・ラプソディ (Ebony Rhapsody)」などの例がある)。この作品は、32小節の AABA形式をとっている。「優美で、ヒップな旋律は、ビバッパーたちのアンセムのようなものとなった」と言われた[5]

チャーリー・パーカーによる3件の録音

[編集]

ボブ・ドロー英語版が、自身のアルバム『Yardbird Suite』の再発盤のライナーノーツに記しているように、ファンたちはパーカーの演奏する場所ならどこにでもついて行き、しばしばパーカーの演奏をテープに録音していたが[6]、パーカー自身がこの曲を演奏した商業的録音は3件しか知られていない。そのうち最初の2件は、セプテットの編成でハリウッドラジオ・レコーダーズ英語版において1946年3月28日に録音された。このセッションを監督し、プロデュースしたのはダイアル・レコード英語版ロス・ラッセル英語版であった。アルト・サクソフォーンのパーカー以外のメンバーは、トランペットマイルス・デイヴィス、テナー・サクソフォーンのラッキー・トンプソン、ピアノのドド・マーマローサ英語版、エレクトリック・ギターのアーヴィン・ギャリソン英語版、ベースのヴィック・マクミラン (Vic McMillan)、ドラムのロイ・ポーター英語版であった。4回のテイクのうち、最後のものがマスターとなり(テイク2と3は失われた)SPレコードのシングルがリリースされた (D 1003)[7][8]

この演奏は著作権登録されなかったため[9]、10インチEP盤シングルとして、また1950年代半ば以降は様々なレーベルのLP盤で、ダイアルに残された録音音源を集める形で、またマイルス・デイヴィス関係の音源を集めたアルバムとして再発売がなされた。

知られている3件目の録音は、1947年2月1日にハリウッドのチャック・コウプリー (Chuck Copely) 宅で行われたセッションで、こちらもダイアル・レコードのロス・ラッセルが録音したものである。この録音トラックは、不完全なもので、当日録音された「ララバイ・イン・リズム (Lullaby in Rhythm)」の2つのバージョンと同様に音質に問題があったが、それにもかかわらず、まず1972年に『Lullaby in Rhythm Featuring Charlie Parker』としてスポットライト・レコード英語版からリリースされた[10]

他にもパーカーがソロでライブ演奏しているものが2件、スリー・デューシズ (Three Deuces) におけるものとオニキス・クラブ英語版におけるものが、いずれもディーン・ベネデッティ英語版の録音で残されているが、こちらも価値はない。

チャーリー・パーカー・セプテットによる1946年のマスター録音は、2014年グラミーの殿堂入りを果たした。

他のおもな録音

[編集]

1947年、オリジナルの録音の翌年、ギル・エヴァンスがこの曲を編曲して、クロード・ソーンヒルと彼の楽団に提供し、アルト・サクソフォーンをリー・コニッツが演奏して同年中に録音がおこなわれた。ビバップ系のミュージシャンでは、アル・ヘイグバド・パウエルマックス・ローチジーン・アモンズがこの曲を演奏、録音した他、1958年にはジェリー・マリガンによるビッグ・バンド向けの編曲でジーン・クルーパが録音を残した。

この曲を取り上げた録音の多くは、チャーリー・パーカーへのトリビュート・アルバムか、1940年代のビバップ革命を讃えるものである(下記に例示したアルバムのタイトルを参照)。ほとんどの解釈は、ビバップやハード・バップのイディオムに従っている。その例外と言えるのは、例えばモダン・ジャズ・カルテットで、彼らはこの曲を室内楽の形式に書き直した(『At Music Inn, Vol 2』1958年)。ジュニア・クックはこの曲を非常に速く演奏し、最後にジョン・コルトレーンからの引用で演奏を締めくくっており、他方でジョー・ロヴァーノは12分にも及ぶ自由に流れるようなバラード風の即興演奏を展開した後、8分の6拍子で速度を上げる。アーチー・シェップアンソニー・ブラクストン英語版のようなフリー・ジャズ出身のミュージシャンたちも、彼ら以前の前衛を回顧しているが、「チャーリー・パーカーの精神と偶然性の取り込みに敬意を表しながらも、単に過去を再現するわけではない」[11]

リスト

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ Van Gelder, Lawrence (1999年10月13日). “Footlights”. New York Times. https://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9F07E3DB1430F930A25753C1A96F958260 2008年2月13日閲覧。 
  2. ^ “Dodo Marmarosa”. The Daily Telegraph. (2002年9月13日). https://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2002/09/24/db2403.xml 2008年2月13日閲覧。 
  3. ^ Zwerin, Mike (2006年1月11日). “Music to Pack Away for That Desert Island”. International Herald Tribune. http://www.iht.com/articles/2006/01/10/features/zwer11.php 2008年2月13日閲覧。 
  4. ^ ヤードバード組曲」『デジタル大辞泉プラス』https://kotobank.jp/word/%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%89%E7%B5%84%E6%9B%B2コトバンクより2021年6月28日閲覧 
  5. ^ Jack Chambers: Milestones: The Music and Times of Miles Davis. Da Capo Press. Boston, 1998. ISBN 978-0-306-80849-4. Pt. I, p. 48 - "...graceful, hip melody, became something of an anthem for beboppers."
  6. ^ Bob Dorough in the liner notes to the re-release of his album Yardbird Suite. Bethlehem Records, BCP-6023, 1976.
  7. ^ Dial Records numerical listing on 78discography.com.
  8. ^ Charlie Parker session index on Jazzdisco.org
  9. ^ Cf. Brian Priestley: Jazz on Record: A History. Elm Tree Books. London, 1988. ISBN 978-0241124406. P. 99?
  10. ^ Hollywood, February 1, 1947 session as listed on Jazzdisco.org
  11. ^ Anthony Braxton's Charlie Parker Project 1993 review by Scott Yanow - オールミュージック - "... pay tribute to the spirit and chance-taking of Charlie Parker rather than to merely recreate the past"
  12. ^ a b c d e f g h Gioia, Ted (2012). The Jazz Standards: A Guide to the Repertoire. New York City: Oxford University Press. pp. 463–464). ISBN 978-0-19-993739-4 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]