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ヤマアジサイ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤマアジサイ
ヤマアジサイ。岐阜県中津川市阿木。
分類APG III
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : キク類 Asterids
: ミズキ目 Cornales
: アジサイ科 Hydrangeaceae
: アジサイ属 Hydrangea
: アジサイ節 Hydrangea
亜節 : アジサイ亜節 Macrophyllae
: ヤマアジサイ H. serrata
学名
Hydrangea serrata (Thunb.) Ser. var. serrata (1830)[1]
シノニム
和名
ヤマアジサイ
サワアジサイ

ヤマアジサイ(山紫陽花[5]学名: Hydrangea serrata var. serrata)は、アジサイ科[注 1]アジサイ属の1種である。山中で沢によく見られることから、サワアジサイとも呼ばれる[6]

ただし、独立した種として認めず、アジサイ Hydrangea macrophylla(種としてのアジサイ、ガクアジサイ)の亜種 Hydrangea macrophylla subsp. serrata などとする説もある[7]

分布

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本州では福島県以南の主に太平洋側、また四国九州などの山地に分布する[5][8]千島列島台湾中国南部の山地にもみられる[9]。沢沿いの湿り気の多いところに生える[5]

特徴

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落葉広葉樹の低木で、高さは1メートル (m)ほどになる[5][8]。枝は細く[8]ガクアジサイ(学名: Hydrangea macrophylla f. normalis)と比べて小ぶりで繊細な印象を受け[5]、花の色が多様性に富む[6]樹皮は灰褐色で薄くはがれる[5]。葉質は薄く光沢がなく、小さく(6.5–13センチ[8])、長楕円形・楕円形・円形など形はさまざまである[6]

花序は直径7 – 18センチメートル (cm) 、装飾花は直径1.7 – 3 cm[8]。冬でも枝先の果序の装飾花がよく残る[5]

冬芽は、枝先の頂芽裸芽で大きく、はじめは芽鱗があるがすぐに落ちる[5]側芽は枝に対生し小さく、芽鱗が2枚つく[5]。葉痕は心形や三角形で、維管束痕が3個つく[5]

利用

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葉にフィロズルチンの配糖体を含むものがあり、甘茶として利用される[8][10]。「甘茶(アマチャ)」は分類上特定の品種を指す名称ではない[11]

亜種等

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ヤマアジサイは分布域が広く、いくつかの亜種がある。なお、ヤマアジサイを種として認めない場合、これらはアジサイ Hydrangea macrophylla の亜種となる。

アマギアマチャ
亜種 H. serrata subsp. angustata (Franch. & Savatier) Kitam.富士山天城山周辺[12]静岡市梅ヶ島、箱根[13]に自生する。花はすべて白く[12]、葉はヤマアジサイより細い[13]。生の葉は甘苦い[13]
エゾアジサイ
亜種 H. serrata subsp. yezoensis (Koidz.) Kitam.。ただし分子系統によると、ヤマアジサイよりアジサイ Hydrangea macrophylla に近縁である[14]東北地方北陸地方北海道、および朝鮮南部に分布する[8][15]。高さ1–1.5メートルで[8]、北海道のものは本州のものより大きい[15]。花序は直径10–17センチ[8]、普通青色や青紫色だが白・ピンク・ほとんど赤色のものもある[10][15]。葉はヤマアジサイよりも大きく(10–17センチ)、ふちの鋸刃も鋭い[8]。花期は5月中旬から6月中旬である[16]
シチダンカ
栽培品種 H. serrata 'Prolifera’。萼が星型で重なっている[17]。葉は卵形で、エゾアジサイに近い[13]
シチダンカは江戸時代から知られ、シーボルトが『フローラ・ヤポニカ』で報告していたが、文献に伝わるのみで発見例はなく絶滅した「幻のアジサイ」とされていた。1959年六甲山でシチダンカと考えられる品種が発見され[17][18]、その品種は H. serrata ‘Prolifera’ とされ、現在では「七段花」の名称で栽培、商品化もなされている。ただし、その後1993年滋賀県で花型がシチダンカにより近い[19]新品種が発見され、その品種は「東雲(しののめ)」と称して栽培、商品化がなされている。
ベニガク
変種 H. serrata f. rosalba (Van Houtte) Ohwi南日本の山地にみられる[12]江戸時代から栽培されている品種である[20]。装飾花は白色だが日光に当たると赤みを帯びる[20]。葉は厚く楕円形で[13]、秋に紅葉する[12]

脚注

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注釈

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  1. ^ 最新の植物分類体系であるAPG体系や、それ以前のクロンキスト体系ではアジサイ科(Hydrangeaceae)に分類されるが、古い新エングラー体系ではユキノシタ科(Saxifragaceae)に分類されている[1]

出典

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  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hydrangea serrata (Thunb.) Ser. var. serrata ヤマアジサイ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月23日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hydrangea macrophylla (Thunb.) Ser. subsp. serrata (Thunb.) Makino ヤマアジサイ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月23日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hydrangea macrophylla (Thunb.) Ser. var. acuminata sensu Makino ヤマアジサイ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月23日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Hortensia serrata (Thunb.) H.Ohba et S.Akiyama var. serrata ヤマアジサイ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月23日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 87
  6. ^ a b c 河原田、三上、若林 (2010)、88頁。
  7. ^ Sandra Reed; Timothy Rinehart. Hydrangea Macrophylla and Serrata - Should We Lump 'em Or Split 'em?
  8. ^ a b c d e f g h i j 北村、村田 (1979)、116頁。
  9. ^ マレー (2009)、61頁。
  10. ^ a b 山本 (1981)、18頁。
  11. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、91頁。
  12. ^ a b c d マレー (2009)、73頁。
  13. ^ a b c d e 北村、村田 (1979)、117頁。
  14. ^ Samain, Marie-Stéphanie; Wanke, Stefan; Goetghebeur, Paul (2010), “Unraveling Extensive Paraphyly in the Genus Hydrangea s. l. with Implications for the Systematics of Tribe Hydrangeeae”, Systematic Botany 35 (3), http://www.ingentaconnect.com/content/aspt/sb/2010/00000035/00000003/art00014 
  15. ^ a b c マレー (2009)、75頁。
  16. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、89頁。
  17. ^ a b 山本 (1981)、20頁。
  18. ^ 河原田、三上、若林 (2010)、98頁。
  19. ^ 川島 (2010)、106頁。
  20. ^ a b 河原田、三上、若林 (2010)、97頁。

参考文献

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  • コリン・マレー『アジサイ図鑑』大場秀章、太田哲英(訳)、アボック社、2009年6月15日。ISBN 978-2-84138-309-2 
  • 川島榮生『アジサイ百科―川島インデクス Hydrangea Kawashima Index』アボック社、2010年5月11日。ISBN 978-4-900358-67-6 
  • 河原田邦彦・三上常夫・若林芳樹『日本のアジサイ図鑑』柏書房、2010年5月25日。ISBN 978-4-7601-3819-7 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、87頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 山本武臣『アジサイの話』八坂書房〈植物と文化双書〉、1981年5月1日。ISBN 978-4-89694-314-6 

関連項目

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