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ムコール症

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ムーコル菌症から転送)
ムコール症
別称 接合菌症[1] black fungus[2]、ムーコル症、ムコール菌症、ムーコル菌症
ムコール症に感染した目
概要
種類 副鼻腔および胃および腸皮膚、播種性、その他[3]
診療科 感染症科
症状 感染部位による:鼻水、皮膚の黒色化、顔の腫れ、頭痛発熱、咳、目のかすみ[4][5]
発症時期 急速[6]
継続期間 約1週間[6]
原因 ケカビ目真菌[3]
危険因子 糖尿病鉄過剰白血球減少臓器移植腎臓の問題免疫抑制剤、長期ステロイド[7]
診断法 生検培養医用画像[4]
鑑別 眼窩蜂窩織炎海綿静脈洞血栓症アスペルギルス症[8]
合併症 失明、血栓症[7]
予防 マスクの着用、土壌や水害を受けた建物との接触を避ける、糖尿病のコントロール[7][9]
使用する医薬品 アムホテリシン Bイサブコナゾールポサコナゾール[3]
治療 抗真菌薬外科的デブリードマン、糖質コントロール[7]
予後 不良[8]
頻度 まれ[3]であるが、インドでは一般的(2020年)[10]
分類および外部参照情報
Patient UK ムコール症

ムコール症[11]: Mucormycosis)は、重度の真菌感染症であり、一般的には免疫力が低い人にみられる[1]。かつては接合菌症と呼ばれていた[12][13]。症状は感染した体の部位によって異なる[14][15]。最も一般的に感染する部位は副鼻腔であり、これにより鼻水、顔面の片側の腫れと痛み、頭痛発熱組織壊死がみられる[4][5]。その他の感染部位は、胃や腸皮膚があげられる[5]

感染経路は、一般的には、気道、汚染されている食品の摂食、ケカビ目カビの胞子が傷口に付着することによる[16]。人から人には感染しない[15]

危険因子には、頻繁に繰り返される高血糖を伴う糖尿病糖尿病性ケトアシドーシス白血球減少がん臓器移植鉄分過剰摂取腎臓の障害、長期間のステロイド免疫抑制剤の使用、程度は低いがHIV/AIDS、などがあげられる[7][8]

病原体は、かつて接合菌門(Zygomycota)と総称されていたもののうち、ヒトに対して病原性を発現するクモノスカビ属(Rhizopus)、ムーコル・シルシネロイデス(Mucor circinelloides)[12][11]リクテイミア属(Lichtheimia)、リゾムーコル属(Rhizomucor), など多様な侵襲性真菌である[11]

ワクチンは存在せず、生存率は低い[12][17]

病原体

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病原体は、常在菌として環境中に存在している接合菌の[18] Rhizopus oryzaeRhizopus microsporusRhizopus stolonifer(以上はクモノスカビ属) 、Mucor circinelloidesCunninghamella bertholletiae(クスダマカビ属)、Apophysomyces elagansSaksenaea vasiformisサクセネア属)、Absidia corymbifera(=リクテイミア・コリンビフェラ)、Rhizomucor pusillus など[12]

これらの菌類は、土壌、野菜や果物など腐った有機物厩肥に存在していることが多いが、通常は人に影響を与えない[19]

臨床像

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体内深部に生じる真菌症の中でアスペルギルス症カンジダ症クリプトコックス症に次いで4番目に多いと報告されている[20]

主な感染経路は、空気中に浮遊する病原体(カビの胞子)を吸い込んだ事による気道感染である。重度免疫低下時の日和見感染によりおこる。発症すると症状は急速に進行し悪化する[13]

発症の危険因子は[12]

  1. 長期間の好中球減少(白血病)[21]
  2. 高容量のステロイドを長期間投与
  3. リンパ球減少[22]
  4. 造血幹細胞移植(骨髄移植、臍帯血移植)[23]
  5. コントロール不良の糖尿病[24]
  6. 輸血後の鉄過剰に対する除鉄剤であるデフェロキサミンの投与中
  7. ボリコナゾール(アゾール)系薬投与中
  8. 広範囲熱傷[25]
  9. サイトメガロウイルス感染[13]

しかし、極まれに健康であっても発症する事がある[26]

症状

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特徴的な臨床症状は無い。いくつかの病型に分類される。最も発生頻度が高いのは、鼻脳型である[17]

  1. 鼻脳型(49%) - 高熱、黒い鼻汁、顔面壊死、意識障害、副鼻腔炎
  2. 皮膚型(16%) - 紅班、潰瘍、蜂窩織炎
  3. 肺型(11%) - 高熱、血痰、空洞形成。侵襲性アスペルギルス症に類似する[13][17]。血液疾患に多い病型[13]
  4. 消化管型(11%) - 腹痛、血便、穿孔性潰瘍
  5. その他

括弧内()はEspinel-Ingroff ら(1987)[27]による調査で報告された比率[28]

診断

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深在性真菌症の診断方法の有用性[29]
カンジダ症 アスペルギルス症 クリプトコックス症 ムコール症
培養検査 有用-非常に有用 病態により有用 有用 有用で無い
顕微鏡検査  有用 有用 非常に有用 非常に有用
病理組織学的検査 有用-非常に有用 有用 非常に有用 有用-非常に有用

※「近畿大学医学部附属病院 輸血細胞治療センター 第26回 血液学を学ぼう!」[29]より引用し改変。

血清診断は実用化されておらず、確定診断は病理組織学的検査・真菌学的検査による[12]。他の真菌感染との合併は確定診断を困難にするとの指摘がある[13]。特にアスペルギルス症で使用される薬剤は効果が無いため鑑別は重要である[30]


診断は生検培養により、医用画像によって感染の進行度が確認される[4]アスペルギルス症に似ている場合がある[4]。一般的な治療は、アムホテリシンBデブリードマンである[3]。予防対策には、埃っぽい場所でのマスクの装着、水害を受けた建物との接触を避けること、園芸や特定の屋外での作業の際に皮膚が土壌と接触しないように保護すること、などがあげられる[9]。副鼻腔の症例の約半分は進行が急速に進み致命的であり、ほとんどの症例は広範囲に広がる形態である[31][32]

治療

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  • 外科的療法

感染組織の除去(デブリードマン)。

  • 薬物療法

使用可能な薬剤は少なく、ポリエン系抗真菌薬(ポリエンマクロライド)が使用される[11][17][33]。日本ではアムホテリシンBのみが使用可能で[13]キャンディン系抗真菌薬は無効[12]。抗真菌薬の予防投与は行われない[34]

疫学と歴史

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ムコール症はまれであるが、おそらく報告されていない症例がある[1]サンフランシスコでは年間100万人に2人未満が罹患している[3]。しかし、インドでは80倍の人が罹患している[35]未熟児を含む全ての年齢の人に感染する可能性がある[3]。最初のムコール症の症例は、おそらく1855年にフリードリヒ・キュッヘンマイスタードイツ語版英語版によって説明された[6]2004年のスマトラ島沖地震2011年のミズリー州の竜巻英語版自然災害中に疾患の報告がされていた[36]。2020年から2021年の新型コロナウイルス感染症の世界的流行中には、ムコール症とCOVID-19の関係性が報告されている[2]。特にインドでの症例の増加は注目された[10]

脚注

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  1. ^ a b c Kontoyiannis, Dimitrios P. (2020). “320. Mucormycosis”. In Goldman, Lee; Schafer, Andrew I. (英語). Goldman-Cecil Medicine. 2 (26th ed.). Philadelphia: Elsevier. p. 2056-2058. ISBN 978-0-323-55087-1. オリジナルのMay 2, 2023時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20230502175618/https://books.google.com/books?id=7pKqDwAAQBAJ&pg=PA2056 May 26, 2022閲覧。 
  2. ^ a b Quarterly Current Affairs Vol. 4 - October to December 2020 for Competitive Exams. 4. Disha Publications. (2020). p. 173. ISBN 978-93-90486-29-8. オリジナルのMay 25, 2021時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210525204209/https://books.google.com/books?id=8_gQEAAAQBAJ&pg=PA173 May 16, 2021閲覧。 
  3. ^ a b c d e f g Mucormycosis”. NORD (National Organization for Rare Disorders). 26 May 2021時点のオリジナルよりアーカイブ。25 May 2021閲覧。
  4. ^ a b c d e Grossman, Marc E.; Fox, Lindy P.; Kovarik, Carrie; Rosenbach, Misha (2012). “1. Subcutaneous and deep mycoses: Zygomucosis/Mucormycosis” (English). Cutaneous Manifestations of Infection in the Immunocompromised Host (2nd ed.). Springer. pp. 51–58. ISBN 978-1-4419-1577-1. オリジナルのMay 25, 2021時点におけるアーカイブ。. https://books.google.com/books?id=mqB4A-M9NY0C&pg=PA51 May 16, 2021閲覧。 
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  6. ^ a b c Chander, Jagdish (2018). “26. Mucormycosis” (英語). Textbook of Medical Mycology (4th ed.). New Delhi: Jaypee Brothers Medical Publishers Ltd. pp. 534–596. ISBN 978-93-86261-83-0. オリジナルのMay 25, 2021時点におけるアーカイブ。. https://books.google.com/books?id=OLpEDwAAQBAJ&pg=PA554 May 22, 2021閲覧。 
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  9. ^ a b People at Risk For Mucormycosis and prevention” (英語). www.cdc.gov (2 February 2021). May 14, 2021時点のオリジナルよりアーカイブ25 May 2021閲覧。
  10. ^ a b Singh, Awadhesh Kumar; Singh, Ritu; Joshi, Shashank R.; Misra, Anoop (21 May 2021). “Mucormycosis in COVID-19: A systematic review of cases reported worldwide and in India”. Diabetes & Metabolic Syndrome. doi:10.1016/j.dsx.2021.05.019. ISSN 1871-4021. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8137376/ June 9, 2021閲覧。. 
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  29. ^ a b 第26回 血液学を学ぼう! 2017.9.25 (PDF) 近畿大学医学部附属病院 輸血細胞治療センター
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