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ホタルミミズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ホタルミミズ
分類
: 動物界 Animalia
: 環形動物門 Annelida
: 貧毛綱 Oligochaeta
: ナガミミズ目 Haplotaxida
: ムカシフトミミズ科 Acanthodrilidae
: Microscolex
: ホタルミミズ M. phosphoreus
学名
Microscolex phosphoreus (Ant. Dug.)
和名
ホタルミミズ

ホタルミミズ(蛍蚯蚓、学名: Microscolex phosphoreus)は、小型のミミズの1である。生物発光することで知られている。日本でも各地に産する。

特徴

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体長40 mm程度、体幅1-1.5 mm程度の小型種である[1][2]。体節数は74ないし76個で、ほぼ全体が淡黄白色を呈し、環帯以外の部分は半透明である。環帯は13節目から27節目までを占め、環状に全面を覆う。剛毛は各体節に4対あり、ほとんどの関節ではたがいに離れた位置にある。背孔はない。受精嚢は第8節と第9節の間で体表に開口し、雄性孔は1対のみで第17節にあり、また産卵孔は1対で第14節に存在する[1][3]

生態

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日本においては、寒い時期の降雨中(あるいは降雨の直後)における目撃例が多い[4][5]。夏期に見出されることはきわめて少なく、温暖な時期は卵の状態で越すか、あるいは異なった場所に移動して過ごす可能性が考えられている[6][7]。地表に排出した糞塊(earthworm cast)は粉質で粒径が小さく、同様の場所に生息する他のミミズのそれと異なるために、比較的容易に生息場所が特定できるが、この糞塊も、晩秋から冬(特に11月末から12月末ぐらいまでの期間)にかけて多く見られ、夏場はほとんど見出されないという[7]

主に有機物に富んだ黒ボク土や、花崗岩が風化してできた真砂土のようなシルト質の土壌を好み,畑や山林などさまざまな場所で確認されている。乾燥しすぎた場所や、逆に土壌含水率が過剰な場所には生息していない[7]。当初は珍しい種であると考えられていたが、現在では公園校庭などで見られる普通種であるとされる。

名古屋大学キャンパス内での調査によれば、発見された場所は建物の北側などで地面が湿っており、地表にコケが生え、草本は少なくて表土が露出していて、あまり人が歩き回らない場所であった。緑地環境が保護された場所では全く発見されなかったという[6]

生活史などの詳細は不明である[6]が、単為生殖で繁殖するのではないかと推定されている[2]

分布

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北半球の温帯地域(ヨーロッパ・南北アメリカおよび日本)に広く分布する[8][2][9]

日本では、神奈川県(大磯市)および鹿児島県において1934年に初めて発見され[10]、さらに下って1972年の段階では福島埼玉・神奈川・静岡香川福岡・鹿児島[4][11][12]の各県から知られていた。2005年には鳥取県下[13]で発見され、2003年[14]および2010年[3]には茨城県でも採集された。また、2004年から2009年にかけての奈良県下での調査で見出された[15]ほか、2012年には富山県下[16]からも採集され、現在では東北から九州まで分布が知られている。

なお、本種について、日本の在来種ではなく帰化したものではないかとする推測がある[17]

発光

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発光能力があることで知られるが、特別に分化した発光器は持たず、外界からの刺激(ピンセットや針などによる機械的な刺激やクロロホルムなどの化学的刺激、電気的刺激[2])を受けて、肛門または皮膚表面から体外に滲出した体腔液が光を発する[2]。体腔液が発する光を分光器測定した結果では、その波長は538 nm(黄色みがかった緑色)であったという[18]

本種が生息する地域を夜間に歩くと、地表面に点々とホタルのそれを思わせる光が観察される[1]。ピンセットによって機械的刺激を与えた例では、体の末端から体液が出て、約1分間にわたりぼんやりとした光を発したという[7]。富山県魚津市内での発見例でも、発光部位は体の後端であると報告されている[16]

発光の意義については確実な説明がなされていないが、ケラなどの外敵が、発光しているホタルミミズに対して忌避を示して摂餌しない例が観察されていることから、外敵に対する威嚇ではないかとする説がある[19]

類似種

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日本産の陸生環形動物のうち、発光能力を有する種としては、他にイソミミズPontodrilus litoralis:かつてはP. matsushimensis の学名があてられていたが、この名は現在では異名とされている[20])が知られる。本種より大型(体長 32-120 mm、体幅 2-4 mm程度[20])で、海岸付近の砂浜に生息する[4][2]。軽微な機械的刺激では発光は観察されず、イソミミズの虫体を激しく傷つけたりすりつぶしたりすることで得られる体液から発光が認められるという[2][21]

出典・脚注

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  1. ^ a b c 岡田要 著「ホタルミミズ Microscolex phosphoreus」、岡田要、内田清之助、内田亨 編『新日本動物図鑑(上)』北隆館、東京、1965年、548頁。ISBN 4832608126 
  2. ^ a b c d e f g Oba, Y., Branham, M. A., and T. Fukatsu (2011). “The Terrestrial Bioluminescent Animals of Japan”. ZOOLOGICAL SCIENCE 28: 771–789. http://www.bioone.org/doi/pdf/10.2108/zsj.28.771. 
  3. ^ a b 湯本勝洋、茅根重夫「ホタルミミズの常総市での捕獲記録」『茨城県自然博物館研究報告』第13巻、2010年、71-72頁。 
  4. ^ a b c 羽根田弥太『発光生物の話―よみもの動物記』北隆館、東京、1972年、225頁。ISBN 978-4832601147 
  5. ^ 以下も含め、羽根田(1972)の記述は、本種と同定されてはおらず、本種が属する属名のみを指定、これであろうとの推定で記されている。おそらく本種であることは間違いないと思われるので、ここに取り上げる。
  6. ^ a b c 大場裕一「名古屋大学東山キャンパス内の14地点でホタルミミズを確認」『名古屋大学博物館報告』第28巻、2012年、77-83頁。 
  7. ^ a b c d 大場裕一、柴田康平、吉田宏「名古屋大学キャンパス内で発見されたホタルミミズとそのDNAバーコード解析」『名古屋大学博物館報告』第27巻、2011年、13-16頁。 
  8. ^ Gates, G. E. (1972). Burmese earthworms. An introduction to the systematics and biology of megadrile oligochaetes with special reference to Southeast Asia. Transactions of the American Philosophical Society. 62. American Philosophical Society. pp. 1-326. ISBN 978-0871696274 
  9. ^ Talavera J. A.; D. I.Pérez (2009). “Occurrence of the Genus Microscolex (Oligochaeta, Acanthodrilidae) at Western Canary Islands”. Bonner zoologische Beiträge 56: 37–41. http://alt.zfmk.de/BZB/BzB_56_1_05_Talavera.pdf . 
  10. ^ Yamaguchi, H. (1935). “Occurrence of the luminous oligochaeta, Microscolex phosphoreus (Dug.) in Japan”. Annotationes Zoologicæ Japnonenses 15: 200-202. NAID 110003352317. 
  11. ^ 小林新二郎「四國, 中国, 近畿及中部諸地方の陸棲貧毛類に就て」『動物学雑誌(東京)』第53巻、1941年、258–266頁、NAID 110004722319 
  12. ^ Easton, E. G. (1981). “Japanese earthworms: a synopsis of the Megadrile species (Oligochaeta)”. Bulletin of the British Museum natural History (Zoology Series) 40: 33–65. https://archive.org/stream/bulletinofbritis40zoollond#page/44/mode/2up. 
  13. ^ 一澤圭「鳥取県湯梨浜町で得られた発光ミミズについて(予報)」『鳥取県立博物館研究報告』第42巻、2005年、31 - 32頁。 
  14. ^ 吾妻正樹「茨城県山方町でホタルミミズを確認」『茨城生物』第24巻、2004年、38-41頁。 
  15. ^ 南谷幸雄、田村芙美子、山中康彰、市川彩代子、花木佳代子、丸山健一郎、吉田宏、鳥居春己、前田喜四雄「奈良県における大型陸生ミミズ相」『奈良教育大学附属自然環境教育センター紀要』第11巻、2010年、1-7頁。 
  16. ^ a b 大場裕一、稲村修「魚津市内でホタルミミズを発見」『魚津博物館調査・研究報告』2012-2013。 
  17. ^ Blakemore, B. J. (2003). “Japanese earthworms (Annelida: Oligochaeta): a review and checklist of species”. Organisms Diversity and Evolution 3: 241–244. doi:10.1078/1439-6092-00082. 
  18. ^ Wampler, J. E. (1982). “The bioluminescence system of Microscolex phosphoreus and its similarities to those of other bioluminescent earthworms (Oligochaeta)”. Comparative Biochemistry and Physiology 71A: 599–604. 
  19. ^ Sivinski, J.; T. Forrest (1983). “Luminous defense in an earthworm”. Florida Entomology 66: 517. http://journals.fcla.edu/flaent/article/view/57860/55539. 
  20. ^ a b Easton, E. G. (1984). “Earthworms (Oligochaeta) from islands of the south-western Pacific, and a note on two species from Papua New Guinea”. New Zealand Journal of Zoology 11: 111–128. doi:10.1080/03014223.1984.10423750. 
  21. ^ 神田左京「イソミミズの発光」『理学界』第36巻、1938年、1-7頁。 

参考文献

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  • 石塚小太郎・皆越ようせい、『ミミズ図鑑』、(2014)、全国農村教育協会