ビタミンK欠乏性出血症
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ビタミンK欠乏性出血症(英: vitamin K dependent bleeding、VKDB)は、新生児から乳児期にみられる出血症の一種で、ビタミンKの欠乏が原因の出血症を指す。ビタミンKは血液凝固において重要な役割を果たす脂溶性ビタミンであり、新生児期に特に欠乏しやすいため、適切に補充されない場合は一定の確率で出血症を惹き起こす。
ほとんどの先進国で予防策が行われ、発症することは稀だが、発症すると死亡するなどの深刻な症状となる場合もある[1]。
分類
[編集]発症時期により臨床像が異なるため3種類に分類される。国際的には、出生後24時間以内に発症するものを早発型(early onset form)、生後24時間から7日後までに発症するものを古典型(classical form)、それ以降に発症するものを遅発型(late onset form)と呼んでいる[2][1]。
分類 | 発症時期 | 好発部位 | 原因 |
---|---|---|---|
早発型 | 出生後24時間以内 | 頭皮、皮膚、脳、胸部、腹部 | 母体への投薬・栄養状態など |
古典型 | 1-7日以内 | 腸、臍、皮膚、鼻など | 母乳育児など |
遅発型 | 8日以降 | 脳、皮膚、腸 | 母乳、胆汁うっ滞など |
症状
[編集]出生直後にみられる早発型では吐血や下血、頭蓋内出血で発症することが多い。古典型は第2~4生日に新生児メレナ(下血)で発症することが多い。一方遅発型ではその8割以上が頭蓋内出血で発症し、非常に予後は不良である。
原因
[編集]成人であれば腸内細菌叢によってビタミンKが合成されており、ビタミンK欠乏症に至ることは少ない。しかし新生児の腸内細菌叢は未熟であり、自力でビタミンKを補充することができない。そしてビタミンKは胎盤移行性が悪く、母乳中の含有量も少ない。また母乳中のビタミンKの含有量には個人差が大きく、ほとんどビタミンKを含有していない場合もある。以上の理由により、新生児から乳児にかけてビタミンKが欠乏しやすく、ビタミンK欠乏性出血症を発症する。
早発型では、母体の栄養状態、ビタミンKの吸収阻害作用がある薬物(抗けいれん薬、抗結核薬、ワルファリンなど)の投与などが原因とされる[2]。古典・後期では、母乳育児のみでビタミンK2シロップや粉ミルクの未投与、肝臓・胆道疾患なども原因となる[2]。また後期以降は、肝臓・胆道疾患、メチルテトラゾールチオール基(MTT基)を持つ薬剤(抗生物質など)によるビタミンK代謝障害、ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬の投与などが原因となる[2]。
予防
[編集]日本小児科学会らは合計13回内服させる方法(3か月法)による統一を提言している[3]。
出生後から生後3ヶ月まで、1週間おきにビタミンK2シロップ1mL(2mg)を経口投与する。なお、シロップは高浸透圧であるため、初回と2回目は滅菌水で10倍に希釈してもよい。
歴史
[編集]1894年にボストンの医師 Charles Townsend は、新生児における出血傾向の症例50件が似ていることから疾患として Haemorrhagic Disease of the Newborn (HDN)と命名した[1]。
1999年に、HDN から vitamin K dependent bleeding (VKDB)へ改名された。これは国際血栓止血学会の小児/周産期小委員会からの改名提案であり、ビタミンK欠乏症によるものと明確にして新生児溶血性疾患(HDN)との混同が避けられ、定義されていた新生児期の4週間を過ぎても VKDB とできることから改名された[1]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e Shearer, Martin J. (2009-03-01). “Vitamin K deficiency bleeding (VKDB) in early infancy”. Blood Reviews 23 (2): 49–59. doi:10.1016/j.blre.2008.06.001. ISSN 0268-960X .
- ^ a b c d “ビタミン K 欠乏症の診断と治療”. 日本血栓止血学会誌 29 (6): 727–730. (2018). doi:10.2491/jjsth.29.727. ISSN 0915-7441 .
- ^ “新生児と乳児のビタミンK欠乏性出血症発症予防に関する提言”. 日本小児科学会 (2021年11月30日). 2025年2月2日閲覧。
参考文献
[編集]- 「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン(修正版)」
- 小児科学レクチャー Vol3 No1 2013 「新生児医療 Q&A」
関連項目
[編集]- 山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故
- 粉ミルク - 粉ミルクで育てた場合には発症が見られなかった。最初期の治療として、母乳の量が少ないことから粉ミルクも併用することとされ乳児の症状改善につながった例がある。