コンテンツにスキップ

ビタミンK欠乏性出血症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ビタミンK欠乏性出血症: vitamin K dependent bleeding、VKDB)は、新生児から乳児期にみられる出血症の一種で、ビタミンK欠乏が原因の出血症を指す。ビタミンKは血液凝固において重要な役割を果たす脂溶性ビタミンであり、新生児期に特に欠乏しやすいため、適切に補充されない場合は一定の確率で出血症を惹き起こす。

ほとんどの先進国で予防策が行われ、発症することは稀だが、発症すると死亡するなどの深刻な症状となる場合もある[1]

分類

[編集]

発症時期により臨床像が異なるため3種類に分類される。国際的には、出生後24時間以内に発症するものを早発型(early onset form)、生後24時間から7日後までに発症するものを古典型(classical form)、それ以降に発症するものを遅発型(late onset form)と呼んでいる[2][1]

ビタミンK欠乏性出血症の分類 (VKDB)[1]
分類 発症時期 好発部位 原因
早発型 出生後24時間以内 頭皮、皮膚、脳、胸部、腹部 母体への投薬・栄養状態など
古典型 1-7日以内 腸、臍、皮膚、鼻など 母乳育児など
遅発型 8日以降 脳、皮膚、腸 母乳、胆汁うっ滞英語版など

症状

[編集]

出生直後にみられる早発型では吐血下血、頭蓋内出血で発症することが多い。古典型は第2~4生日に新生児メレナ(下血)で発症することが多い。一方遅発型ではその8割以上が頭蓋内出血で発症し、非常に予後は不良である。

原因

[編集]

成人であれば腸内細菌叢によってビタミンKが合成されており、ビタミンK欠乏症に至ることは少ない。しかし新生児の腸内細菌叢は未熟であり、自力でビタミンKを補充することができない。そしてビタミンKは胎盤移行性が悪く、母乳中の含有量も少ない。また母乳中のビタミンKの含有量には個人差が大きく、ほとんどビタミンKを含有していない場合もある。以上の理由により、新生児から乳児にかけてビタミンKが欠乏しやすく、ビタミンK欠乏性出血症を発症する。

早発型では、母体の栄養状態、ビタミンKの吸収阻害作用がある薬物(抗けいれん薬、抗結核薬、ワルファリンなど)の投与などが原因とされる[2]。古典・後期では、母乳育児のみでビタミンK2シロップや粉ミルクの未投与、肝臓・胆道疾患なども原因となる[2]。また後期以降は、肝臓・胆道疾患、メチルテトラゾールチオール基(MTT基)を持つ薬剤(抗生物質など)によるビタミンK代謝障害、ワルファリンなどのビタミンK拮抗薬の投与などが原因となる[2]

予防

[編集]

日本小児科学会らは合計13回内服させる方法(3か月法)による統一を提言している[3]

出生後から生後3ヶ月まで、1週間おきにビタミンK2シロップ1mL(2mg)を経口投与する。なお、シロップは高浸透圧であるため、初回と2回目は滅菌水で10倍に希釈してもよい。

歴史

[編集]

1894年にボストンの医師 Charles Townsend は、新生児における出血傾向の症例50件が似ていることから疾患として Haemorrhagic Disease of the Newborn (HDN)と命名した[1]

1999年に、HDN から vitamin K dependent bleeding (VKDB)へ改名された。これは国際血栓止血学会英語版の小児/周産期小委員会からの改名提案であり、ビタミンK欠乏症によるものと明確にして新生児溶血性疾患英語版(HDN)との混同が避けられ、定義されていた新生児期の4週間を過ぎても VKDB とできることから改名された[1]

脚注

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e Shearer, Martin J. (2009-03-01). “Vitamin K deficiency bleeding (VKDB) in early infancy”. Blood Reviews 23 (2): 49–59. doi:10.1016/j.blre.2008.06.001. ISSN 0268-960X. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0268960X08000520. 
  2. ^ a b c d “ビタミン K 欠乏症の診断と治療”. 日本血栓止血学会誌 29 (6): 727–730. (2018). doi:10.2491/jjsth.29.727. ISSN 0915-7441. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/29/6/29_2018_JJTH_29_6_727-730/_article/-char/ja/. 
  3. ^ 新生児と乳児のビタミンK欠乏性出血症発症予防に関する提言”. 日本小児科学会 (2021年11月30日). 2025年2月2日閲覧。

参考文献

[編集]
  • 「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン(修正版)」
  • 小児科学レクチャー Vol3 No1 2013 「新生児医療 Q&A」

関連項目

[編集]