ヒツジグサ
ヒツジグサ | |||||||||||||||||||||
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1. ヒツジグサ(群馬県尾瀬ヶ原、2002年8月)
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保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Nymphaea tetragona Georgi (1775) | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||
ヒツジグサ (未草[4])、カメバス (亀蓮[5])、カッパグサ[6]、コレンゲ[6] | |||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||
pygmy water-lily[2], pygmy waterlily[2], small white water-lily[2], northern small white water-lily[2] |
ヒツジグサ(未草、学名: Nymphaea tetragona)は、スイレン科スイレン属に属する多年生の水草の1種である。水底に根を張った地下茎から長い葉柄を伸ばし、水面に円形の葉を浮かべる (図1)。花期は6月から9月、長い花柄の先についた1個の花が水面上で咲く (図1)。花の大きさは直径3–7センチメートル (cm)、萼片が4枚、多数の白い花弁と黄色い雄しべがらせん状についている。
ヒツジグサの名の由来は、未の刻 (午後2時) 頃に花が咲くためとされることが多いが[7]、この頃に花が閉じ始めるためともされる[8][9]。中国名は睡蓮または子午蓮であるが、日本語での睡蓮 (スイレン) はスイレン属の総称として用いられる[10]。
特徴
[編集]ヒツジグサは多年生の浮葉植物 (水底に根を張り、葉を水面に浮かべる植物) である[7][11]。地下茎は太く短い塊状で直立し、無分枝、ここから葉が生じる[7][11][12][13][14]。地下茎で栄養繁殖することはない[13]。沈水葉 (葉身が水中にある葉) の葉身は矢じり形から楕円形、長さ15センチメートル (cm) 以下であり、薄い[11]。浮水葉の葉柄は長く、葉身が水面に浮かぶ[7]。浮水葉の葉身は卵円形から楕円形、8–19 × 5–12 cm、基部は深く切れ込み (切れ込みの幅はさまざま)、全体は無毛、裏面は赤紫色を帯びる[7][11][12][13][14] (上図1、下図2a, b)。
花期は6–9月、地下茎から長い花柄を生じ、水面上で直径 3–7 cm の花が単生する[7][11][14] (上図2a, c)。萼片は4枚、長さ 2–3.5 cm、外側 (背軸側) は緑色、内側 (向軸側) は緑白色、宿存性で果時にも残る[7][13][14] (上図2c)。萼片基部の花托は上から見て正方形[11][14]。花弁は8–17枚、長さ 2–2.5 cm、白色、らせん状につく[7][11][14] (上図2c)。雄蕊 (雄しべ) は多数、花弁から連続的にらせん状につき、外側の雄しべの花糸は扁平で花弁と中間的[11][13][14] (上図2c)。花の中央では多数の心皮が輪生し、合着して1個の雌蕊 (雌しべ) となり、柱頭盤には5–8条の柱頭が放射状に配列している[11][14]。柱頭盤の外側には、偽柱頭とよばれる突起が存在する[7][13][14]。花は2〜3日開閉を繰り返し、1日目は雌しべが成熟 (雌性期)、2日目に雄しべが成熟 (雄性期) する雌性先熟である[11][12][13]。雄性期には偽柱頭が内曲し、柱頭盤を覆う[7][13]。花後、花柄がらせん状に収縮して花は水中に没し、果実は水中で熟する[7][11][12]。果実は漿果、直径 2–2.5 cm、熟すと果皮が崩壊し、種子を放出する[12][13][14]。種子は仮種皮で覆われており、しばらく水面を浮遊するが、やがて水底に沈む[12][13]。種子は卵形で長さ2–3.5ミリメートル (mm)、暗黄褐色、細点紋が縦列している[13][14]。染色体数は 2n = 112[7][14]。
分布・生態
[編集]北米北西部、ヨーロッパ東北部、シベリア、東アジア、インド北部にかけて分布し、海抜0メートル (m) の地域から標高 4,000 m の高地まで報告されている[3][14]。日本では北海道から九州にかけて生育している[7][11][12]。
中性から弱酸性、貧栄養から中栄養、または腐植栄養 (植物遺骸など有機物が蓄積している) のため池や湖沼、水路などに生育する[11][12][13][15][16]。
保全状況評価
[編集]ヒツジグサは日本全体としては絶滅危惧等に指定されていないが、下記のように地域によっては絶滅危惧種に指定され、また既に絶滅した地域もある[17]。また変種とされるエゾベニヒツジグサ (下記) は絶滅危惧II類に指定されている[17]。絶滅・減少の要因としては、池沼の開発や水質の悪化等があげられる。以下は2020年現在の各都道府県におけるレッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を示している[17] (※埼玉県・東京都では、季節や地域によって指定カテゴリが異なるが、下表では埼玉県は全県のカテゴリ、東京都では最も危惧度の高いカテゴリを示している)。
- 絶滅種: 埼玉県※、千葉県、東京都※、神奈川県
- 絶滅危惧I類: 茨城県、山梨県、静岡県、徳島県、愛媛県、熊本県、宮崎県
- 絶滅危惧II類: 栃木県、新潟県、富山県、京都府、奈良県、香川県、鹿児島県
- 準絶滅危惧種: 石川県、福井県、岐阜県、滋賀県、大阪府、和歌山県、鳥取県、島根県、大分県
- 情報不足: 高知県
人間との関わり
[編集]ヒツジグサは観賞用に栽培されることがある[18][19][20]。一般的な観賞用スイレンにくらべると葉や花が小さく、花弁数が少ない[18]。またヒツジグサをもとに、さまざまな園芸品種が作出されている[20] (下図3)。花言葉は「清純な心、純潔、清浄、甘美、信仰、遠ざかった愛」[21]。
地下茎や葉柄を食用とする地域もある[19]。また花を生薬とし (生薬名は睡蓮)、暑気あたりや酒酔いに対して用いられる[23]。
系統と分類
[編集]北日本へ行くほど葉や花弁が大きい傾向があり、また葉の基部の湾入が比較的浅いものはエゾノヒツジグサ (エゾヒツジグサ)[24][25] として分けられることがあるが、変異は連続的で明確には分けられない[7]。また北海道北部・東部には、柱頭とその周辺の雄しべが黒紫色で浮水葉がやや大きい (15–30 × 10–22 cm) ものがおり、変種エゾベニヒツジグサ (Nymphaea tetragona var. erythrostigmatica Koji Ito) とされる[7][11]。
ヒツジグサは北半球に広く分布するが、葉や花の特徴に変異が大きい。北米やヨーロッパの個体は北緯40°以北の亜寒帯域に生育し、背軸側 (裏側) に隆起した葉脈をもつ薄い葉、明瞭に四角形の花托、花の中央部が紫色という特徴をもつ[14]。このような特徴はロシア、韓国、北海道の個体にも見られる (上記のエゾベニヒツジグサに相当する)[14]。一方、中国南部、日本、ベトナムの個体は葉脈部が陥没した厚い葉、四角形があまり明瞭ではない花托、花の中央部が黄色いという特徴をもつ[14]。北米やヨーロッパでは、このような個体は Nymphaea tetragona var. angusta とよばれ栽培されている[14]。しかしこのような個体は、1805年に William Kerr によって中国広東省から送られたものに由来しており、Castalia pygmaea (= Nymphaea pygmaea) とされていたものに相当する[14]。そのため、東アジア温帯域以南に生育するもの (北海道北東部を除く日本のヒツジグサを含む) は、Nymphaea pygmaea として分けるべきであることが示唆されている[14]。また予備的な分子系統学的研究からも、カナダやフィンランドの"ヒツジグサ" (Nymphaea tetragona) と東アジアのヒツジグサ ("Nymphaea pygmaea") が系統的に区別できることが示唆されている[26]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ “Nymphaea tetragona”. IUCN 2022. The IUCN Red List of Threatened Species. Version 2022-1. 2022年8月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y GBIF Secretariat (2021年). “Nymphaea tetragona Georgi”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年4月27日閲覧。
- ^ a b c “Nymphaea tetragona”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年4月20日閲覧。
- ^ 「未草」 。コトバンクより2022年4月5日閲覧。
- ^ 「亀蓮」 。コトバンクより2022年4月5日閲覧。
- ^ a b “ヒツジグサ”. 植物図鑑. 筑波実験植物園. 2022年4月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 志賀隆 (2015). “スイレン科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 46–48. ISBN 978-4582535310
- ^ 吉野政治 (2012). “ひつじ草 (睡蓮):「日花 (ゾンネブルーム)」について”. 同志社女子大学大学院文学研究科紀要 12: 1-12. NAID 120005651667.
- ^ “スイレンの別名も持つヒツジグサ”. [1]. 養命酒製造株式会社 (2017年7月). 2021年4月30日閲覧。
- ^ “エゾベニヒツジグサ”. 十勝の川の生き物たち. 帯広開発建設部 治水課
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 角野康郎 (1994). “ヒツジグサ”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. pp. 109–112. ISBN 978-4829930342
- ^ a b c d e f g h 浜島繁隆・須賀瑛文 (2005). “ヒツジグサ”. ため池と水田の生き物図鑑 植物編. トンボ出版. pp. 58–59. ISBN 978-4887161504
- ^ a b c d e f g h i j k l m 松岡成久 (2014年2月27日). “ヒツジグサ”. 西宮の湿生・水生植物. 2021年4月23日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Flora of China Editorial Committee (2018年). “Nymphaea tetragona”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年4月27日閲覧。
- ^ 角野康郎 (1982). “水草と pH (2)”. 水草研究会報 8: 8-10. NAID 10030093944.
- ^ 下田路子 & 橋本卓三 (1993). “ため池の水草の分布と水質”. 水草研会報 25: 13-15. NAID 10024286902.
- ^ a b c “ヒツジグサ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月20日閲覧。
- ^ a b kurumi (2020年2月2日). “ヒツジグサ(未草)とは?特徴やスイレンとの違い・見分け方をご紹介!”. BOTANICA. 2021年4月30日閲覧。
- ^ a b “Nymphaea tetragona Georgi”. Flora & Fauna Web. 2021年4月30日閲覧。
- ^ a b “Nymphaea tetragona - Pygmy Waterlily, Chinese Waterlily”. Water Garden Plants. 2021年4月30日閲覧。
- ^ “ヒツジグサ(羊草)の花言葉”. 花言葉の手帖|はなこと. 2021年4月30日閲覧。
- ^ “Nymphaea tetragona 'Joanne Pring'”. LONGWOOD GARDENS. 2021年4月30日閲覧。
- ^ “ヒツジグサ”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2021年4月30日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠. “植物和名ー学名インデックスYList”. 2021年6月30日閲覧。
- ^ 角野康郎 (2014). “ヒツジグサ”. 日本の水草. 文一総合出版. pp. 50–51. ISBN 978-4829984017
- ^ Borsch, T., Wiersema, J. H., Hellquist, C. B., Löhne, C. & Govers, K. (2014). “Speciation in North American water lilies: evidence for the hybrid origin of the newly discovered Canadian endemic Nymphaea loriana sp. nov.(Nymphaeaceae) in a past contact zone”. Botany 92 (12): 867-882. doi:10.1139/cjb-2014-0060.
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 松岡成久 (2014年2月27日). “ヒツジグサ”. 西宮の湿生・水生植物. 2021年4月23日閲覧。
- ヒツジグサ. 日本のレッドデータ検索システム. (2021年4月27日閲覧)
- “Nymphaea tetragona”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年4月20日閲覧。 (英語)
- GBIF Secretariat (2021年). “Nymphaea tetragona Georgi”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年4月27日閲覧。
- “Nymphaea tetragona Georgi”. Flora of China. 2021年4月27日閲覧。 (英語)
- “Nymphaea tetragona Georgi”. The Plant List. 2021年4月28日閲覧。 (英語)