バルカレス伯爵
バルカレス伯爵 兼クロフォード伯爵 | |
---|---|
Arms:Quarterly, 1st and 4th, Gules a Fess checky Argent and Azure; 2nd and 3rd, Or a Lion rampant Gules surmounted of a Cost Sable, all within a Bordure Azure powdered with fourteen Stars Or Crest:A Tent Azure fringed and powdered with Stars Or the top thereof a Vane Gules Supporters:On either side a Lion sejant guardant Gules gorged with a Collar Azure charged with three Stars Or
| |
創設時期 | 1650年/1年1月9日 |
創設者 | チャールズ1世 |
貴族 | スコットランド貴族 |
初代 | アレクサンダー・リンジー |
現所有者 | 12代伯ロバート・リンジー |
相続人 | ベルニール卿アンソニー・リンジー |
付随称号 | バルカレスのリンジー卿 リンジー=ベルニール卿 |
現況 | 存続 |
モットー | Astra, Castra, Numen, Lumen, Munimen (訳:仰げば星、神は我が希望にして我が守り) |
バルカレス伯爵(英: Earl of Balcarres)は、イギリスの伯爵位、スコットランド貴族爵位。第2代バルカレスのリンジー卿アレクサンダー・リンジーが1651年に叙爵されたことに始まる。
1848年以降は本家のクロフォード伯爵位を継承したため、二つの伯爵位はその継承権者を同じくする。また、爵位の保持者はリンジー氏族の氏族長を務めている。
歴史
[編集]リンジー氏族は11世紀にイングランドからスコットランドに移住してきた氏族である[1]。 その子孫は12世紀にクロフォードの封建領主として繁栄したのち、一族のデイヴィッド・リンジー (?-1407) が1398年にクロフォード伯爵に叙されるに至った[2]。また、その歴代当主はスコットランド史の中でも主導的な役割を果たしてきた[注釈 1][2]。
バルカレス伯爵家の祖ジョン・リンジー (?-1598) は本家である伯爵家当主第9代クロフォード伯爵の次男にあたる[3][4]。 彼はメンミュア卿としてスコットランド民事控訴院裁判官を務めた人物で、ファイフシャーのバルカレスに地所を購入している[注釈 2][2][4]。 その子のデイヴィッド・リンジー (1587–1642) は1633年にスコットランド貴族の「バルカレスのリンジー卿 (Lord Lindsay of Balcarres)」に叙された[2][3][7][8]。 初代卿の跡はその息子のアレグザンダーが爵位を襲った。
2代卿アレグザンダー (1618–1659) は熱心なカヴェナンターであったが、のちチャールズ1世支持に転じてマーストン・ムーアの戦いに参加した廷臣である[9][8]。 彼は1651年1月9日にスコットランド貴族として「バルカレス伯爵 (Earl of Balcarres)」を授けられて伯爵家の始祖となった[注釈 3][7][9][10][8]。 チャールズ1世が処刑されクロムウェルが統治を始めると、初代伯は王太子チャールズ王子を追って大陸に移った後にブレダで客死している[9]。初代伯の長男と次男はともに早世していたため、存命の三男チャールズが爵位を継承した。しかし、2代伯チャールズ (1650–1662) も11歳で夭折してしまう[7][10][11]。そのため、爵位は末弟コリンが相続した[10][11]。
3代伯コリン (1652–1722) はジェームズ2世に忠誠を示した人物である[12]。彼は名誉革命後に王位奪還を目論むジェームズ2世の亡命宮廷サン=ジェルマン=アン=レー城に馳せ参じた[12]。ゆえに年金を没収されたが、爵位を剥奪されることはなかった[13]。 アン女王即位後はスコットランドに帰還して赦されている[10][12][14]。
その子の4代伯アレグザンダー (1690頃-1736) が子のないまま死去すると、弟ジェイムズがその後を襲った[10][14]。
5代伯ジェームズ (1691–1768) は軍人として1715年ジャコバイト蜂起下のシェリフミュアの戦いやオーストリア継承戦争中のデッティンゲンの戦いに参戦した[10][14]。彼ののちはその長男アレグザンダー(6代伯)、その子ジェームズ(7代伯)の順に爵位を継承している[7][10][15]。
クロフォード伯爵位の継承
[編集]本家の当主第22代クロフォード伯爵が1808年に生涯未婚のまま没すると、クロフォード伯爵位を継承していた初代リンジー伯爵(兼17代伯)の男系子孫は途絶えた[注釈 4][17]。 7代伯ジェームズ(1783–1869)はこれに乗じて「クロフォード伯爵 (Earl of Crawford)」の継承を主張した結果、1848年8月11日に貴族院によって承認された[7][18][19][20]。 そのため、これ以降のバルカレス伯爵位とクロフォード伯爵位は継承権者を同じくすることとなった[10][17]。これに際して6代伯アレグザンダーは遡ってクロフォード伯爵位を継承していたとが認定された[18][17]。また、7代伯は併せて「モントローズ公爵 (Duke of Montrose)」の回復も求めていたが、こちらの請願は失敗に終わっている[注釈 5][19][20]。
その7代伯の直系子孫にあたる12代伯ロバート (1927-) が当代のバルカレス伯爵である[19]。また、彼は第29代クロフォード伯爵を兼ねている。
一族の邸宅は、ファイフシャー・イースト・ニューク地方の小村コリンズバラにあるバルカレス・ハウス (Balcarres House)[19]。伯爵家の祖メンミュア卿が建てさせたもので.[5]、現在はイギリス指定建造物として保護されている[22]。
爵位にかかるモットーは「仰げば星、神は我が希望にして我が守り (Astra, Castra, Numen, Lumen, Muimen)」[10][13][23]。
一覧
[編集]バルカレスのリンジー卿(1633年)
[編集]- 初代バルカレスのリンジー卿デイヴィッド・リンジー (1587–1642)
- 第2代バルカレスのリンジー卿アレクサンダー・リンジー (1618–1659)(1651年にバルカレス伯爵位創設)
バルカレス伯爵(1651年)
[編集]- 初代バルカレス伯爵アレグザンダー・リンジー (1618–1659) (Anna Mackenzie, Countess of Belcarres)
- 第2代バルカレス伯爵チャールズ・リンジー (1650–1662)
- 第3代バルカレス伯爵コリン・リンジー (1652–1722)
- 第4代バルカレス伯爵アレグザンダー・リンジー (d. 1736)
- 第5代バルカレス伯爵ジェームズ・リンジー (1691–1768)
- 第6代バルカレス伯爵アレグザンダー・リンジー (1752–1825)(死後に第23代クロフォード伯爵と追認)
- 第7代バルカレス伯爵(第24代クロフォード伯爵)ジェームズ・リンジー (1783–1869)(1848年に第24代クロフォード伯爵と認定)
これ以降の歴代伯爵は「クロフォード伯爵」を参照。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 『ブリタニカ百科事典』はクロフォード伯爵家に対して「スコットランドにはより由緒ある他家もあっただろうが、リンジー氏族ほど系譜学において重要な一族もいない。」との評価を与えている[2]。
- ^ メンミュア卿は地所を得て邸宅バルカレス・ハウスを建てた[5]。 なお、『バルカレス』とはゲール語で「荒地」あるいは「石の多い場所」の意[6]。
- ^ この際に「リンジー=ベルニール卿 (Lord Lindsay and Balniel)」の爵位も併せて得ている[10]。
- ^ リンジー氏族のうち、本来は「リンジー伯爵家」よりも「バルカレス伯爵家」の方が血縁的にクロフォード伯爵家本家に近かったが、第16代クロフォード伯爵は爵位を王冠に返上してきわめて遠縁の初代リンジー伯爵を後継者指名した[16]。ゆえに16代伯の死後、クロフォード伯爵位は傍系のリンジー伯爵家によって継承される事態が続いていた。
- ^ 第5代クロフォード伯爵は国王ジェームズ3世の寵臣であり、1488年にモントローズ公爵に叙されていた[21]。ただし、王が敗死した後にこの公爵位叙爵は取り消されている[21]。
出典
[編集]- ^ Way, George of Plean; Squire, Romilly of Rubislaw (1994). Collins Scottish Clan & Family Encyclopedia. Glasgow: HarperCollins (for the Standing Council of Scottish Chiefs). pp. 196–197. ISBN 0-00-470547-5
- ^ a b c d e Chisholm, Hugh, ed. (1911). . Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 7 (11th ed.). Cambridge University Press. pp. 384–386.
- ^ a b Heraldic Media Limited. “Lindsay of Balcarres, Lord (S, 1633)” (英語). www.cracroftspeerage.co.uk. Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage. 2021年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月5日閲覧。
- ^ a b Alan R. MacDonald. "Lindsay, John, of Balcarres, Lord Menmuir". Oxford Dictionary of National Biography (英語) (online ed.). Oxford University Press. doi:10.1093/ref:odnb/16705。 (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。)
- ^ a b Historic Environment Scotland. "BALCARRES (GDL00036)". 2019年3月5日閲覧。
- ^ Liddall, W. (1896). The Place Names of Fife and Kinross. Edinburgh: William Green & Sons. p. 4 12 May 2015閲覧。
- ^ a b c d e Arthur G.M. Hesilrige (1921). Debrett's peerage, and titles of courtesy, in which is included full information respecting the collateral branches of Peers, Privy Councillors, Lords of Session, etc. Wellesley College Library. London, Dean. p. 252
- ^ a b c Cokayne & Gibbs 1910, p. 376.
- ^ a b c Stevenson, David. "Lindsay, Alexander, first earl of Balcarres". Oxford Dictionary of National Biography (英語) (online ed.). Oxford University Press. doi:10.1093/ref:odnb/16682。 (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。)
- ^ a b c d e f g h i j Heraldic Media Limited. “Balcarres, Earl of (S, 1650/1)” (英語). www.cracroftspeerage.co.uk. Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage. 2021年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月5日閲覧。
- ^ a b Cokayne & Gibbs 1910, p. 377.
- ^ a b c Hopkins, Paul. "Lindsay, Colin, third earl of Balcarres". Oxford Dictionary of National Biography (英語) (online ed.). Oxford University Press. doi:10.1093/ref:odnb/16687。 (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。)
- ^ a b Balfour Paul, James (1904). The Scots Peerage: Vol. I. Edinburgh : D. Douglas. pp. 510-519 21 October 2017閲覧。
- ^ a b c Cokayne & Gibbs 1910, p. 378.
- ^ Cokayne, Gibbs & Doubleday 1913, p. 523-524.
- ^ Cokayne, Gibbs & Doubleday 1913, p. 517-520.
- ^ a b c Cokayne, Gibbs & Doubleday 1913, p. 523.
- ^ a b T. F. Henderson; revised by David P. Geggus. "Lindsay, Alexander, sixth earl of Balcarres and de jure twenty-third earl of Crawford". Oxford Dictionary of National Biography (英語) (online ed.). Oxford University Press. doi:10.1093/ref:odnb/16683。 (要購読、またはイギリス公立図書館への会員加入。)
- ^ a b c d Heraldic Media Limited. “Crawford, Earl of (S, 1398)” (英語). www.cracroftspeerage.co.uk. Cracroft's Peerage The Complete Guide to the British Peerage & Baronetage. 2021年1月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月7日閲覧。
- ^ a b Cokayne, Gibbs & Doubleday 1913, p. 524.
- ^ a b Cokayne & Doubleday 1913, p. 512.
- ^ Historic Environment Scotland. "BALCARRES HOUSE, INCLUDING OUTBUILDINGS DOWER HOUSE AND FRONT ENTRANCE GATES (Category A) (LB8625)". 2019年3月5日閲覧。
- ^ Lindsay, Alex Will Crawford (1849) (英語). Lives of the Lindsays; or, a Memoir of the Houses of Crawford and Balcares: In three volumes. John Murray. p. 56 21 October 2017閲覧。
参考文献
[編集]- Cokayne, George Edward; Gibbs, Vicary, eds (1910) (英語). Complete peerage of England, Scotland, Ireland, Great Britain and the United Kingdom, extant, extinct or dormant (Ab-Adam to Basing). 1 (2nd ed.). London: The St. Catherine Press, Ltd.
- Cokayne, George Edward; Gibbs, Vicary; Doubleday, H. Arthur, eds (1913) (英語). Complete peerage of England, Scotland, Ireland, Great Britain and the United Kingdom, extant, extinct or dormant (Canonteign to Cutts). 3 (2nd ed.). London: The St. Catherine Press, Ltd.